ポール・マッカートニーの軌跡は、こちらから!
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第10位は『明日への誓い(Hope of Deliverance)』です
第10位は『明日への誓い(Hope of Deliverance)』です。
1992年12月28日にシングルとして先行発売され、翌1993年2月2日に発表されたアルバム『オフ・ザ・グラウンド(Off the Ground)』に収録されました。
全英シングルチャートでは18位、ドイツでは3位を記録。さらにオーストリア、カナダ、イタリア、ノルウェー、スイスでもTop5入りし、とりわけヨーロッパで強い反響を得ました。

アメリカではBillboard Hot 100で83位でしたが、地域によって人気の度合いが大きく異なるのも興味深いところです。
アコースティックギターの軽快な刻みと、ラテンの香りを帯びたパーカッション。聴こえてくる音は明るいのに、歌われているのは「この先どうなるのか分からない」という状況です。
それでも人は、暗闇の向こうに何かがあると信じて生きていく。不確かさを消してしまうのではなく、不確かなまま前へ進もうとする。そこに、この曲の軽やかさとは少し異なる奥行きがあります。
超訳
暗闇に包まれて、明日がどうなるのか分からなくても、
いつか光が差し込む日が来ると、僕は信じていたい。
君がそばにいてくれるなら、その希望を手放すことはない。
僕たちは今日も、暗闇の向こうにある「明日」を信じて生きていく。
まずは、YouTube動画(公式)をお聴きください。
共通クレジット
Paul McCartney – “Hope of Deliverance”
作詞・作曲:Paul McCartney
ヴォーカル:Paul McCartney
収録アルバム:『Off the Ground』(1993年)
オリジナル・シングル発売:1992年12月28日
① Paul McCartney – Hope Of Deliverance【Official Music Video】
個別クレジット
監督:Andy Morahan
出演:Paul McCartney、Linda McCartney、Robbie McIntosh、Hamish Stuart、Paul Wickens、Blair Cunningham
撮影:1992年11月、Ashdown Forest/Black Island Studios(North London)
2行解説
アコースティックギターとラテン調のリズムが弾む、親しみやすさの中に強い願いを宿した一曲。
森や大勢の人々を用いた映像が、閉ざされた場所から光のある場所へ向かう楽曲のイメージを視覚的に広げています。
② Paul McCartney – Hope Of Deliverance【Live In New York】
個別クレジット
収録:1993年6月11日、Giants Stadium/East Rutherford, New Jersey
ツアー:The New World Tour
演奏:Paul McCartney、Linda McCartney、Robbie McIntosh、Hamish Stuart、Paul Wickens、Blair Cunningham
プロデュース:Paul McCartney
エンジニア:Geoff Emerick
収録アルバム:『Paul Is Live』(1993年)
2行解説
スタジオ版の軽快なリズムを保ちながら、バンド全体の動きがより鮮明になった1993年のライヴ版。
観客を前にした演奏ではコーラスとリズムの力が増し、この曲がステージでも映えることを実感できます。
屋根裏部屋で生まれた「Hope of Deliverance」
この曲の出発点には、いかにもポールらしいエピソードがあります。彼は自宅で静かな時間を得るため屋根裏部屋へ上がり、Martinの12弦ギターを持ち込みました。
そこでギターのネックの途中にカポを装着すると、12弦特有のきらめくような響きがさらに高くなります。その音から教会やクリスマスを連想し、やがて「hope(希望)」「deliverance(救出)」という言葉へ発想がつながっていったと、ポール自身が後に説明しています。

つまり最初から壮大なテーマを掲げて書き始めたのではなく、一人でギターを鳴らしている時間の中から、音の響きと言葉が結び付いていったわけです。この順序を知ると、曲の自然な明るさにも納得できます。
特定の一つだけを指さない歌
ポールは「deliverance」を、貧困、病気、住む場所を失うことなど、さまざまな困難から抜け出すことへ結び付けて語っています。一方で、恋人に向けた歌としても、より大きな存在に向けた歌としても受け取れるよう、意味を限定しませんでした。
ここが重要です。『明日への誓い』には具体的な物語の主人公も、明確な事件もありません。そのため聴き手は、自分が抱えている問題を曲の中へ重ねることができます。
何から救われたいのかは、人によって違う。
だから「希望」という言葉も、一つの意味には固定されません。
邦題『明日への誓い』と原題の間にあるもの
日本で付けられた『明日への誓い』は、原題をそのまま訳したものではありません。「Hope of Deliverance」は、直訳すれば「救いへの希望」「困難から抜け出すことへの希望」に近い表現です。
原題には、現在置かれている苦境の存在が感じられます。対して邦題は「明日」という言葉を使い、視線を未来へ向けています。
僕は、この違いがなかなか面白いと思います。原題からは「今いる場所」が見え、邦題からは「これから向かう場所」が見える。二つを合わせて考えると、この曲が描く方向がより分かりやすくなります。
アコースティックギターを走らせるラテンのリズム
『明日への誓い』の音を特徴づけるのは、まずアコースティックギターです。重いロックのリフではなく、細かなストロークが一定の速さで曲を運んでいきます。
しかし、ギターだけならここまで独特な感触にはならなかったでしょう。耳を引くもう一つの要素が、曲の各所を細かく動き回るパーカッションです。

1992年7月17日、三人のパーカッショニストが参加
1992年7月17日、英国ライにあるポールのホッグ・ヒル・スタジオで、この曲のオーバーダビングが行われました。参加したのは、ダヴィデ・ジョヴァンニ、デイヴ・パットマン、マウリツィオ・ラヴァリコの3人です。
その時点で楽曲はすでにかなり完成していましたが、制作側が求めたのはラテン系の感触でした。三人はさまざまな打楽器を持ち込み、曲へ細かなリズムを加えていきます。
この追加録音は、単に音数を増やしただけではありません。ギターが一定の流れを作る中で、打楽器が細かなアクセントを置く。その組み合わせが、曲を最後まで軽快に保っています。
スパニッシュギターも音の表情を変えている
ポールはヴォーカルとベースだけでなく、アコースティックギター、エレクトリックギター、スパニッシュギターも担当しました。ロビー・マッキントッシュも複数のギターを演奏しています。
さらに、リンダ・マッカートニーのオートハープ、ポール・ウィッケンズのピアノやパーカッション、ブレア・カニンガムのドラムなどが加わります。一見すると親しみやすいポップソングですが、その音の内側では多彩な楽器が緻密に組み合わされています。

『オフ・ザ・グラウンド』を支えたツアー・バンド
『オフ・ザ・グラウンド』は、ポールにとって1990年代最初のスタジオ・アルバムです。前作『フラワーズ・イン・ザ・ダート』から約4年を経て制作されました。
大きな特徴は、1989〜90年のワールドツアーを経験したメンバーが、そのまま録音の中核を担っていることです。ロビー・マッキントッシュ、ヘイミッシュ・スチュアート、ポール・“ウィックス”・ウィッケンズ、ブレア・カニンガム、リンダ・マッカートニー。ツアーで演奏を重ねた顔ぶれが、新しい作品でも息の合った演奏を聴かせています。
『明日への誓い』ではドラム・プログラミングも使用されていますが、機械的な印象は前面に出ません。生のドラム、ギター、打楽器、複数のコーラスが重なり、1990年代初頭の作品でありながら、特定の電子音だけに依存しないサウンドになっています。
スタジオ版とライヴ版で見える設計の違い
上に掲載した2本を続けて聴くと、この曲の作りがよく分かります。公式ミュージックビデオで使われているスタジオ版では、アコースティックギターとパーカッションの細かな絡みが明瞭です。

コーラスも整然と配置され、楽器同士の距離が分かりやすい。一方、『Paul Is Live』に収録された1993年6月11日の演奏では、ドラムとバンド全体の存在感が強まり、リズムがより直接的に伝わってきます。
同じアレンジの骨格を持ちながら、スタジオでは細部へ耳が向き、ステージでは曲全体の勢いへ意識が向く。この違いが、2本を並べて掲載する面白さでもあります。
繰り返されるタイトルが、ライヴで生きる
後半では「Hope of Deliverance」というタイトル部分が繰り返されます。歌詞として読めば非常に簡潔ですが、音楽の中ではコーラスとリズムが重なるたびに力を増していきます。
特にライヴでは、ポール一人の言葉だったフレーズが、バンドと観客の間で共有される言葉へ変わっていく。複雑な説明を加えなくても、同じ短い言葉を繰り返すことで曲の中心が伝わります。
英国18位、ドイツ3位――地域で異なった反響
チャート成績を見ると、この曲の受け止められ方にはかなり地域差があります。英国では18位、アメリカのBillboard Hot 100では83位。一方、ドイツでは3位まで上昇しました。
さらにオーストリア、カナダ、イタリア、ノルウェー、スイスでもTop5入りしています。ポールの母国やアメリカ以上に、ヨーロッパ各地で広く支持された作品だったことが分かります。

もちろんチャート順位だけで楽曲の価値は決まりません。しかし、同じ一曲でも国によって反応が大きく違うという事実は、ポップミュージックの面白さの一つです。『明日への誓い』は、その違いが特にはっきり表れた曲でした。
終わりに――答えを知らない人のための希望
『明日への誓い』には、「こうすればすべてうまくいく」という答えは書かれていません。いつ状況が変わるのかも、明日がどんな姿になるのかも分からない。
けれどポールは、その不確かさを悲観へ向かわせません。12弦ギターの明るい響きから生まれた旋律に、スパニッシュギターとラテン系の打楽器を重ね、身体が自然に動くポップソングへ仕上げました。
希望とは、答えを先に知っていることではない。答えが見えない時にも、その先があると考えられることなのだ。

『明日への誓い』を聴くと、僕はそんなことを思います。深刻な言葉を並べなくても、アコースティックギターを一度鳴らせば、人は前を向けることがある。ポール・マッカートニーは、その感覚を3分余りのポップソングにしてみせました。

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