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第5位は、BOØWYの「MEMORY」です。
1987年9月5日に発売されたBOØWYの6枚目にして最後のオリジナルアルバム『PSYCHOPATH』に収録されています。作詞は氷室京介、作曲は布袋寅泰。全12曲の11曲目に置かれ、最後の「季節が君だけを変える」へと続きます。
この年、BOØWYは人気の頂点へ向かう一方、12月24日の渋谷公会堂公演で解散を宣言します。「MEMORY」は、そんな1987年に残された一曲です。

この曲の魅力は、失恋の激しさではありません。
相手を責めず、争いもせず、最後は自分がいなくなることで恋を終わらせようとする。「別れるときにどう振る舞うか」という男の美意識が、この曲には通っています。
超訳
君を責めるつもりはない。 誰かを傷つけてまで、ここに残ろうとも思わない。 だったら僕がいなくなれば、それでいい。 言えなかった想いだけを胸にしまい、夜が明ける前にここを去ろう。
💡 あわせて読みたい: 歌ネット掲載の「MEMORY」の歌詞はこちら
まずはYouTubeの音源をお聴きください
🎬 クレジット
楽曲:BOØWY「MEMORY」
作詞:氷室京介
作曲:布袋寅泰
編曲:布袋寅泰
アーティスト:BOØWY
収録アルバム:『PSYCHOPATH』
アルバム発売:1987年9月5日
🎵 2行解説
恋の終わりを恨みや未練だけで描かず、自分が身を引くことで決着をつけようとする「MEMORY」。
布袋寅泰の切なさを帯びた旋律と氷室京介の抑制した歌唱が、言葉にしきれない痛みを伝えます。
なぜ、自分が消えるという結論にたどり着くのか
主人公は、愛する相手が別の男性のもとにいることを知っています。それでも奪い返そうとはせず、自分がその関係から離れる道を選びます。
ここが「MEMORY」の特徴です。相手への非難より先に、自分の身の置き方を決める。失恋した男の感情を描きながら、歌の焦点は「誰が悪かったのか」ではなく、「自分はどう終わらせるのか」へ向かっています。

「優しさはいらない」に潜む本心
主人公は、最後の場面で相手の優しささえ求めません。僕には、この態度が相手への気持ちを失った人間の言葉には聞こえません。
むしろ逆でしょう。まだ心が動くからこそ、慰められたくない。優しくされれば、決めたはずの別れが揺らぐかもしれない。だから気持ちが変わる前に荷物をまとめ、暗いうちにその場所を離れようとする。
愛情が残っているから、あえて優しさを拒む。この一見矛盾した態度が、主人公の痛みをかえって強く伝えています。
勝ち負けにしない別れ
もう一つ印象に残るのは、主人公が三角関係の勝者になろうとしないことです。相手を取り戻すために競うのでも、新しい男性への怒りをぶつけるのでもありません。
悔しさや嫉妬がまったくないとは思えません。それでも最後に選ぶのは、自分が身を引くこと。そこには自己犠牲という言葉だけでは説明しきれない、独特の潔さがあります。

負けたから立ち去るのではなく、自分の意思で終わり方を決める。
僕が「MEMORY」に格好よさを感じるのは、この部分です。
氷室京介が「男の美学」と呼んだもの
氷室京介は後に「MEMORY」について、自分にとっての「男の美学」を表した曲だという趣旨を語っています。
誰かの幸せのためなら、自分がきれいに身を引く。その考え方を知ると、主人公の行動にも一本の筋が見えてきます。
ここで重要なのは、主人公を理想化しすぎないことだと思います。彼は何も感じなくなったから立ち去るのではありません。むしろ、言えなかった想いを抱えたまま、それでも相手の人生を乱さない道を選びます。

格好よく見えるほど、実は不器用な別れ方
「男の美学」という言葉だけを取り出すと、どこか完成された格好よさを連想します。しかし「MEMORY」の主人公は、決して余裕のある男ではありません。
相手を祝福して笑って送り出せるほど達観しているわけでもなく、気持ちを完全に整理できているわけでもない。むしろ、心が追いつかないからこそ、先に行動を決めてしまう人間に見えます。
本当に強い人間なら、相手の前に残ったまま平静を保つこともできるでしょう。しかし主人公は、それができない。だから荷物をまとめ、自分からその場を離れる。つまり、この別れ方は強さの証明であると同時に、自分の弱さを知っている人間の選択でもあります。

相手に優しくされれば決心が鈍る。顔を見続ければ離れられなくなる。言葉を重ねれば、言わなくてよいことまで口にしてしまうかもしれない。
そんな自分を分かっているから、主人公は関係を長引かせず、終わらせるための距離を自分で作ろうとします。
この曲が単なる「潔い男の歌」に聞こえないのは、こうした不器用さが透けて見えるからでしょう。格好よく去ろうとしているのに、その行動の一つひとつから未練が見えてしまう。
強がりと弱さが同時に存在していることが、「MEMORY」を人間臭い一曲にしています。
タイトルが「MEMORY」である意味
そして、この曲には「MEMORY」というタイトルが付けられています。主人公は関係を終わらせようとしているのに、相手の姿はすでに自分の中に残り始めている。
写真の中の笑顔も、口にできなかった想いも、場所を離れたからといって消えるわけではありません。だから僕には、主人公が自分へ言い聞かせる「忘れる」という決意が、むしろ忘れられない気持ちを浮かび上がらせているように聞こえます。

忘れたいのに、記憶の中には生き続ける。この反対方向へ動く二つの感情が、タイトルと曲の内容を結びつけています。
『PSYCHOPATH』の11曲目という位置
「MEMORY」は『PSYCHOPATH』の11曲目。そして12曲目の「季節が君だけを変える」でアルバムは終わります。
前半から中盤には「ライアー・ガール」「マリオネット」「プラスティック・ボム」など、緊張感と勢いを持った楽曲が並びます。その流れを受けた終盤で、「MEMORY」は、それまでの熱を静かに鎮めるように、聴き手の意識を内側へと向けていきます。
しかも、発売から約3か月半後の12月24日にはBOØWYが解散を宣言しました。その後の歴史を知っている人たちが聴けば、アルバム終盤に置かれた「去る男の歌」に、別の感覚を覚えるのも自然でしょう。

もちろん、「MEMORY」をBOØWYの解散について書いた歌だと決めつけることはできません。歌われているのは男女の別れです。
ただ、1987年という時期と曲の佇まいが重なったとき、恋愛だけでは収まらない寂しさを感じることがあります。
第6位「わがままジュリエット」とは違う別れ
第6位の「わがままジュリエット」も、関係がうまくいかなくなった男女を描いた曲でした。しかし、二曲の主人公は同じ場所には立っていません。
「わがままジュリエット」では、二人の間に生まれた距離や、現実と思い出が入り混じる感覚が中心にあります。それに対して「MEMORY」の主人公は、心の整理を待たずに行動を起こします。
荷物をまとめ、その場所から離れる。未練が消えたからではなく、残っているからこそ決断する。感情を整理する歌と、整理できないまま自分で区切りをつける歌。僕にとって、この違いは大きなものです。

布袋寅泰の旋律と、感情を抑える氷室京介
作曲は布袋寅泰です。「MEMORY」の旋律にははっきりとした切なさがありますが、過度に感傷へ流れません。聴き手へ悲しみを押しつけるのではなく、主人公の言葉を運ぶ流れを作っています。
氷室京介の歌唱も同じです。最初から感情を爆発させるのではなく、決断した男として歌い始める。そのため曲が進み、本心が少しずつ見えてくるほど、声の表情が効いてきます。
抑えているからこそ伝わるもの
第7位「オンリー・ユー」では、僕は氷室の声が演奏の前へ迫ってくる瞬間に惹かれました。「MEMORY」は、その魅力とは方向が違います。
ここでは熱を外へ放つのではなく、自分の中へ閉じ込めようとする。それでも、歌が進むにつれて隠していた気持ちが声からにじんでくる。抑制と感情のせめぎ合いが、この曲のボーカルを印象深いものにしています。
布袋の旋律と氷室の詞が同じ方向を向き、その上にこの歌唱が乗る。「MEMORY」はBOØWYの強いビートや鋭いギターとは別の場所から、バンドの表現力を見せてくれる一曲だと思います。

終わりに――忘れようとするから、記憶が残る
「MEMORY」は失恋を描いた曲ですが、僕が第5位に選んだ理由は悲しさだけではありません。自分の気持ちより相手の人生を優先し、最後の決断を他人に委ねない。その姿勢に、氷室京介が語った「男の美学」が表れています。
そして、そこまで潔く振る舞おうとする主人公が、実際には忘れられないものを抱えている。その人間らしい矛盾があるから、「MEMORY」は単なる格好いい別れの歌では終わりません。
その場を去ることはできても、記憶の中から相手まで消すことはできない。だからこそ、この曲のタイトルは「MEMORY」なのだと僕は受け取っています。

強く振る舞うことと、傷ついていないことは同じではない。
「MEMORY」は、その違いを氷室京介の声で聴かせてくれる一曲です。

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