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本文を読む前に、『煙が目にしみる』の魅力やブライアン・フェリー独特の歌声、記事全体の流れをつかみたい方におすすめです。
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音声を先に聴くことで、『煙が目にしみる』に込められた失恋の心理や、フェリーならではの表現をより深く味わえます。
僕の勝手なminiBest7-第4位は『煙が目にしみる』です。
1974年、往年の名曲をフェリー独自の世界へ
第4位は『煙が目にしみる(Smoke Gets in Your Eyes)』です。
1974年7月、ブライアン・フェリーは2枚目のソロアルバム『アナザー・タイム、アナザー・プレイス(Another Time, Another Place)』を発表しました。今回紹介する『煙が目にしみる』は、そのアルバムに収録されたカバー曲です。
アルバムは全英チャートで最高4位を記録。8月にシングルとして登場した『煙が目にしみる』も最高17位に入り、フェリーのソロ活動が着実に支持を広げていたことが分かります。

原曲は1933年のミュージカル『ロバータ』のために書かれた作品です。その後、多くの歌手に取り上げられ、1958年にはザ・プラターズが録音。翌1959年に全米・全英で1位を獲得しました。
フェリーは、すでに広く親しまれていた名曲を、独特の節回しと華やかな演奏によって自分の音楽に変えています。
甘く、どこか気だるく、それでいて妙に気品がある。失恋という普遍的な題材が、フェリーの声を通すことで、洒落た大人の物語に変わっていく。僕がこのバージョンに惹かれる理由は、そこにあります。
超訳
誰に何を言われても、僕は君の愛を信じていた。 恋は盲目だと笑われても、あの温もりだけは本物だった。 けれど今、君は去り、残されたのは消えない想いだけ。 涙を見せまいと、僕は静かに微笑む。 「愛の炎が消えれば、その煙が目にしみるんだ」と。
まずは、YouTube公式音源でお聴きください。
クレジット
曲名:煙が目にしみる(Smoke Gets in Your Eyes)
アーティスト:ブライアン・フェリー(Bryan Ferry)
収録アルバム:Another Time, Another Place(1974年)
作詞:オットー・ハーバック(Otto Harbach)
作曲:ジェローム・カーン(Jerome Kern)
音源提供:Universal Music Group
動画形式:公式配信音源
2行解説
1933年に生まれた不朽の名曲を、ブライアン・フェリーが1974年にカバー。
甘く気だるい歌声と華やかなアレンジが、失恋の切なさを優雅に描き出します。
愛を信じた男が、最後に選んだ言葉
周囲の忠告を笑い飛ばした、その結末
この曲の主人公は、恋人の愛情を少しも疑っていませんでした。周囲から恋愛の危うさを指摘されても、彼には自分の気持ちを裏づける確信があったのです。
忠告する人々を軽くあしらい、笑い飛ばすほどの自信。しかし、その恋は終わりを迎えます。今度は主人公自身が、周囲から笑われる立場になってしまいました。
ここには、単に恋人を失っただけではない苦しさがあります。自分が正しいと信じていたことを、現実によって否定されたのです。

それでも主人公は、涙の理由を率直には語りません。代わりに口にするのが、愛の炎が消えれば煙が目にしみるという、少し気取った言葉でした。
強がりの奥にある、傷ついた自尊心
人前で涙を見せたくないという気持ちは、誰にでも多少はあるでしょう。まして、自分の恋愛に絶対の自信を持っていた男なら、なおさらかもしれません。
主人公は、恋人を失った事実を変えることができません。しかし、その出来事を周囲にどう受け止めさせるかについては、まだ自分の意思を示せます。
自分が信じた愛まで、他人の笑い話にはされたくない。僕には、そんな気持ちが彼の言葉から伝わってきます。

微笑みが語る、もう一つの感情
主人公は、悲しみを克服したから笑っているわけではありません。むしろ、平静を保つことが難しいからこそ、意識して微笑んでいるのでしょう。
表情と本心が一致しない。そこに、この歌詞の皮肉と人間味があります。僕は、フェリーのどこか気取った歌い方が、この主人公の性格によく似合うと思います。
「煙が目にしみる」という比喩の巧みさ
煙が目に入れば、自然に涙が出ます。しかし、この作品に登場する煙は、燃え尽きた恋の象徴でもあります。
かつて激しく燃えていた愛情は、すでに失われてしまった。それでも、炎が消えたあとの煙は、主人公の目を刺激し続けています。
恋が終わったあとも、悲しみだけは簡単に消えてくれない。その心理を、日常的な現象に重ねているところが見事です。

この曲の面白さは、悲しみを直接説明しないところにもあります。主人公の遠回しな言葉を聞けば、聴き手にはかえって本心が伝わってくるのです。
僕は『煙が目にしみる』という邦題も好きです。英語のタイトルが持つ意味を自然な日本語で表現しながら、恋愛の苦さまで想像させてくれます。

1933年のミュージカルから世界的なスタンダードへ
ジェローム・カーンとオットー・ハーバック
『煙が目にしみる』は、作曲家ジェローム・カーンと作詞家オットー・ハーバックによって生み出されました。
1933年にブロードウェイで初演されたミュージカル『ロバータ(Roberta)』の挿入歌です。カーンはアメリカのミュージカル音楽の発展に大きく貢献し、数多くのスタンダード・ナンバーを残した作曲家でした。

この作品の旋律には、時代を超えて親しまれる理由が感じられます。音の流れは自然で覚えやすく、恋愛の幸福と喪失を一つのメロディーの中に収めています。
1930年代の舞台音楽でありながら、後年のポピュラー歌手たちが自分の表現として取り上げられるほど、楽曲そのものに柔軟性があったのでしょう。
ザ・プラターズが広めた名唱
この曲の歴史を語るうえで、ザ・プラターズの存在は欠かせません。1958年に発表された彼らの録音は、翌1959年に全米ビルボードHot 100で3週間にわたり1位を獲得。英国でも首位に立ちました。
リードヴォーカルのトニー・ウィリアムズによる、伸びやかで力強い歌唱が印象的です。高音へ向かうにつれて感情が高まり、失恋の痛みが聴き手に直接迫ってきます。
一方、フェリーは別の方向から、この名曲に取り組んでいます。
プラターズが声の力で悲しみを大きく描くなら、フェリーは独特の語り口によって、主人公の複雑な表情を浮かび上がらせる。僕には、両者の違いがそんなふうに感じられます。

ブライアン・フェリーの声が変えた楽曲の表情
滑らかな旋律に、わずかな揺らぎを加える
フェリーのヴォーカルは、一般的な美声という言葉だけでは説明しきれません。音程をまっすぐ保って堂々と歌い上げるより、言葉の端を揺らし、時にはささやくように旋律を進めます。
その独特の節回しは、聴く人によって好みが分かれるかもしれません。しかし、僕には彼の大きな個性として響きます。
声がふっと揺れる瞬間、整ったメロディーに人間らしい不安定さが生まれる。感情を大きく表現しなくても、声の微妙な変化によって人物の内面が見えてくるのです。
華やかな演奏と、物憂げなヴォーカル
フェリー版の特徴は、歌声だけではありません。原曲が持つロマンティックな旋律を生かしながら、1970年代らしい華やかなポップスとして仕上げられています。
伴奏は軽快で、曲全体には明るさもあります。しかし、フェリーのヴォーカルが加わると、単純に陽気な音楽には聴こえなくなります。

僕が興味深いと思うのは、演奏と歌声が必ずしも同じ感情を表現していないことです。華やかな音楽の中に、どこか落ち着かない声が聞こえる。その組み合わせによって、作品に独特の緊張感が生まれています。
歌い方から浮かぶ、一人の男の姿
フェリーの声を聴いていると、僕は身なりを整え、冗談を交えながら会話する男を想像します。人前では余裕のある態度を崩さないものの、ひとりになれば終わった恋を思い返してしまう。
もちろん、これは僕自身の聴き方です。しかし、歌詞に書かれていない人物の仕草まで想像させるところに、フェリーの表現力があると思います。

カバー曲に表れた、フェリーの音楽的な好奇心
ロキシー・ミュージックと並行したソロ活動
1970年代前半、ブライアン・フェリーはロキシー・ミュージックの中心人物として活動していました。バンドは実験的なロックや独特の視覚的演出によって、英国の音楽シーンで異彩を放っていました。
ところが、フェリーの初期ソロ作品では、往年のポピュラー音楽やロックンロールなど、幅広いジャンルのカバーが中心になっています。
1973年のソロデビューアルバム『愚かなり、わが恋(These Foolish Things)』では、ボブ・ディランやビートルズなどの楽曲を取り上げました。翌1974年の『アナザー・タイム、アナザー・プレイス』でも、そうした選曲への関心が続いています。
バンドでは新しい音楽を追求し、ソロでは過去の名曲を自分なりに歌い直す。一見すると対照的ですが、どちらにも既存の枠にとらわれないフェリーの好奇心が表れているように思います。
原曲を再現するのではなく、新しい魅力を見つける
フェリーのカバーを聴くと、昔の音楽をそのまま懐かしもうとしているわけではないことが分かります。
1930年代のミュージカル作品に、1970年代のロック歌手ならではの感覚を持ち込む。時代の異なる音楽を結びつけることで、原曲にはなかった聴き方が生まれています。

『煙が目にしみる』の場合、旋律や歌詞の基本的な魅力はそのままに、ヴォーカルと演奏の組み合わせによって別の個性が生まれました。
優れたカバーとは、原曲を上手に歌うことだけではなく、その作品に新しい魅力を見つけることなのかもしれません。
僕にとってフェリー版の『煙が目にしみる』は、まさにそのことを実感させてくれる録音です。
終わりに――涙の理由を、誰にも明かさずに
『煙が目にしみる』は、1933年の誕生から長い年月を経ても歌い継がれてきた名曲です。
ザ・プラターズによる力強い歌唱も素晴らしい。しかし、僕が今回第4位に選んだのは、ブライアン・フェリーが1974年に発表したバージョンです。
彼の歌声には、整った美しさだけでは語れない個性があります。どこか気取っていて、少し皮肉っぽく、それでいて聴く人の心に触れるものがある。

今回、改めて歌詞を読み返してみて、僕は主人公の最後の振る舞いが気になりました。
彼は本当に、周囲の人々を納得させられたのでしょうか。それとも、誰もが涙の理由を理解しながら、あえて何も言わなかったのでしょうか。
おそらく、その答えは重要ではありません。主人公にとって必要だったのは、自分の恋を他人に説明することではなく、終わってしまった愛と自分なりに向き合うことだったのだと思います。
涙の理由を正直に言えない夜もある。そんな夜には、「煙が目にしみる」という言葉が、少しだけ似合うのかもしれません。

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