🎙️僕の勝手なCover Selection:『What About Love』(ハート)─HSCCが甦らせる、愛を恐れる人への切実な問い

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音声を先に聴くことで、『What About Love』の世界観と記事の要点をよりつかみやすくなります。

今回の「僕の勝手なCover Selection」は、ハートの『What About Love』です

今回取り上げるのは、ハート(HEART)が1985年に発表した『What About Love』です。

アン・ウィルソンの圧倒的な歌唱と、シンセサイザー、ギター、重厚なドラムが一体となったこの曲は、ハートの再躍進を告げる重要な作品になりました。

そして今回紹介するのは、オーストラリアを拠点とするミュージシャン集団、ヒンドリー・ストリート・カントリー・クラブ(The Hindley Street Country Club/HSCC)によるカバーです。

ハート版とHSCC版は、同じ歌をどのように違って響かせているのでしょうか。まずは、HSCCの演奏から確かめてみます。

最初の30秒で、歌の力に捕まってしまう

まずは、何も考えずにHSCCの動画を30秒ほど見てください。

控えめなキーボードの響きに、輪郭のはっきりしたドラムが重なり、ギターが緊張を少しずつ高めていきます。そして、キャット・ジェイドが最初の一節を歌い始めた瞬間、演奏の中心が一気に彼女の声へ移ります。

彼女の声には、愛を求める切実さ、思いが届かないことへの苛立ち、それでも相手を諦めきれない弱さが含まれています。声量を抑えた序盤にも、今にも感情があふれ出しそうな危うさがあります。

HSCCの動画では演奏技術の高さに目を奪われることが少なくありません。しかし、この曲では、楽器の巧さを意識するより先に歌そのものが迫ってきます。

サビに入ると、それまで力をためていた演奏陣が一斉に動き出します。序盤の緊張が大きなうねりへ変わる瞬間こそ、このカバーの最初の見どころです。

歌詞:超訳

私はずっと、あなたが心を開くのを待っている。
けれど、私の思いはあなたの胸まで届かない。
何もかも自分で抑え込み、上だけを目指しているけれど、
大切なものを忘れたままで、本当にいいの?
愛を失ってから気づいても、もう遅いのだから。

まずはYoutube動画で、HSCC版をご覧ください

公式動画クレジット
『What About Love』(HEART)カバー
演奏:ヒンドリー・ストリート・カントリー・クラブ(The Hindley Street Country Club/HSCC)
フィーチャリング・ボーカル:キャット・ジェイド(Kat Jade)
ライブ録音:ジョーダン・レノン(Jordan Lennon)
原曲:HEART『What About Love』
公開:HSCC公式YouTubeチャンネル

2行解説
HSCCがハートの代表曲を、キャット・ジェイドの力強さと繊細さを併せ持つ歌唱によって再構築したライブ映像です。抑制された序盤から、演奏とコーラスが大きく広がるサビまで、曲の高まりを生演奏ならではの臨場感で描いています。

『What About Love』が投げかけるもの

タイトルの『What About Love』は、日本語にすれば「愛はどうするの?」という意味に近いでしょう。

ただし、歌の主人公は愛について静かに尋ねているわけではありません。自分の気持ちを隠し、人生の成功だけを追おうとする相手に、大切なものを忘れていないかと迫っています。

愛を後回しにする相手への訴え

主人公は、相手の心を完全に理解できるとは考えていません。望んでいないものを無理に与えることもできないと認めています。

それでも、相手の人生には何かが欠けていると感じています。この歌には恋愛の苦しさだけでなく、成功や自制を優先するあまり、人との関係を失いかけている相手への警告も含まれています。

ハートより先に録音されていた『What About Love』

『What About Love』はハートの代表曲として知られていますが、ハートのメンバーが作った作品ではありません。

曲を書いたのは、カナダのバンド、トロントに在籍していたブライアン・アレンとシェロン・アルトン、そしてブライアン・アダムスとの仕事でも知られるジム・ヴァランスです。3人は1982年に曲を完成させ、トロントがアルバム『Get It On Credit』の候補曲として録音しました。

しかし、この曲は収録曲から外され、録音も発表されないまま残されます。

未発表曲がハートへ届くまで

トロントの所属レーベルが倒産した後、楽曲カタログは音楽出版社ATVへ渡りました。ATVのマイケル・マッカーティがこの曲を見つけ、キャピトル・レコードのドン・グリアソンを通じて、ハートのプロデューサーだったロン・ネヴィソンへ届けます。

当初、アン・ウィルソンとナンシー・ウィルソンはデモ音源を気に入らなかったとされています。それでもロン・ネヴィソンは、録音の仕上がりではなく、曲そのものを聴くように勧めました。

ハートが自分たちの演奏として組み立て直すと、曲はまったく違う力を持ち始めます。こうして1985年のアルバム『Heart』から最初のシングルとして発表されました。なお、トロント版が正式に発売されたのは2002年です。

ハート復活の扉を開いた一曲

1970年代に成功を収めたハートは、1980年代前半になると商業的に苦しい時期を迎えていました。

キャピトル・レコードへの移籍後、ロン・ネヴィソンを迎えて制作したアルバム『Heart』では、従来のハードロックを基盤に、シンセサイザーや厚いコーラスを取り入れました。

その先陣を切った『What About Love』は、ビルボードHot 100で第10位、Album Rock Tracksで第3位を記録。HEARTにとって5年ぶりの全米トップ10ヒットとなり、アルバム『Heart』も全米第1位を獲得しました。

本家ハートの動画をご覧ください

動画クレジット
曲名:What About Love
アーティスト:ハート
収録アルバム:『Heart』
発表:1985年
作詞・作曲:ブライアン・アレン、シェロン・アルトン、ジム・ヴァランス
プロデュース:ロン・ネヴィソン

2行解説
1985年のハート再躍進を告げた代表曲であり、アン・ウィルソンの圧倒的な歌声と、シンセサイザーを取り入れた壮大なサウンドが特徴です。
愛を後回しにする相手への訴えを、大きく開けるサビによって、時代を象徴するロック・アンセムへと高めています。

アン・ウィルソンの声が原曲を支配する

ハート版を聴いて最初に感じるのは、アン・ウィルソンの歌声が持つ強い圧力です。

低い音域では言葉を一つずつ相手へ突きつけ、サビに入ると、それまで内側に封じていた力を一気に解放します。

問いかけが叫びへ変わる瞬間

冒頭の歌声には、まだ相手と話し合おうとする冷静さがあります。

しかし、サビの「What about love?」に入ると、言葉は単なる問いではなくなります。相手を思う気持ち、届かないことへの怒り、失いたくないという恐れが重なり、愛と向き合うことを求める叫びへ変わります。

声を包み込む1980年代の音像

ドラム、シンセサイザー、ギター、コーラスは、アン・ウィルソンの歌を取り囲む大きな壁のように配置されています。サビでは各楽器が同じ方向へ押し寄せ、ボーカルをさらに高い場所へ持ち上げます。

また、当時スターシップで活動していたグレイス・スリックとミッキー・トーマスがバックボーカルに参加しています。二人の声が加わることで、コーラスには一層の厚みが生まれました。

HSCCは原曲の何を変えたのか

ハート版が緻密なスタジオ制作によって築かれた大規模なロック作品だとすれば、HSCC版の中心にあるのは、演奏者同士の反応です。

キャット・ジェイドはアン・ウィルソンを追いかけない

アン・ウィルソンの歌唱は非常に強烈です。しかし、キャット・ジェイドはその発声や声量をそのまま再現しようとはしていません。

低音部では声を硬くせず、言葉の意味を確かめるように歌います。最初から力で押し切らないため、聴き手はサビへ到達する前に、主人公の心情へ引き込まれます。

強さの内側に見える傷つきやすさ

キャット・ジェイドの歌唱には力強さと同時に、感情が制御を破って表へ出そうとする危うさがあります。

アン・ウィルソンが相手を立ち止まらせるように歌うのに対し、キャット・ジェイドは、自分も傷つきながら訴えているように聞こえます。二人は、同じ曲の異なる側面を、それぞれの声で明らかにしています。

リズム隊がサビまでの道筋を作る

序盤のドラムとベースは必要以上に前へ出ず、歌の背後で一定の緊張を保ちます。サビへ近づくにつれて打音の強さと低域の存在感が増し、テンポが変わっていないのに曲全体が加速したように感じられます。

ハート版のドラムが録音技術によって圧倒的な規模を生み出しているのに対し、HSCC版では一打ごとの輪郭と演奏者の身体の動きが伝わります。

バンド全体で歌を押し上げる

ドラマーが次の展開へ向けて力をため、ギターとキーボードが歌の変化を受け取り、コーラスが言葉をさらに大きくしていく。各演奏者の反応が映像で確認できるため、曲がその場で組み上がっていく感覚を味わえます。

全員が、どこで抑え、どこで解放するのかを共有しているからこそ、整った演奏でありながら冷たく聞こえないのです。

約40年を経ても、この歌が古くならない理由

1985年の音色や映像には当時の特徴がはっきり表れています。それでも、『What About Love』が扱う問題は古くなっていません。

人は愛を求めながら、傷つくことを恐れます。仕事や成功を優先し、自分の気持ちから目をそらすこともあります。この曲は、そうした生き方に対して、大切なものを失う前に立ち止まるよう求めています。

過去の名曲を現在の出来事へ変える

HSCCは、曲の骨格を尊重しながら、現在の演奏者の声、身体、呼吸を通して鳴らし直します。そのため、懐かしい曲を聴いているはずなのに、古い記録を見ている感覚にはなりません。

僕がこの動画を繰り返し見てしまうのは、完成された演奏だけでなく、メンバーの反応によって歌が大きくなっていく過程まで見えるからです。

まとめ──もう一つの『What About Love』

ハートは1985年、『What About Love』を、アン・ウィルソンの圧倒的な歌唱と壮大なサウンドによって、時代を代表するロック・アンセムへ押し上げました。

一方、HSCC版は、キャット・ジェイドの傷つきやすさを含んだ歌声と、生演奏ならではの反応によって、原曲とは異なる切実さを引き出しています。

ハート版が相手を立ち止まらせる強い叫びだとすれば、HSCC版は、自分も傷つくことを覚悟したうえで差し出す訴えです。

単なる再現ではありません。これは、約40年を経た名曲が、新しい歌い手と演奏者によって獲得した、もう一つの『What About Love』です。

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