僕の勝手なBest10【Chicago編】第5位『長い夜』──夜明け前を撃ち抜くブラスの閃光

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第5位は『長い夜(25 or 6 to 4)』です

第5位に選んだのは、Chicago初期の代表曲『長い夜(25 or 6 to 4)』です。

この曲は、1970年1月に発表されたセカンドアルバム『Chicago』、現在では通称『Chicago II』として知られる作品に収録され、同年6月にシングルとしてもリリースされました。
アメリカではBillboard Hot 100で4位まで上昇し、Chicagoが「ロック・バンドにブラスを加えたグループ」ではなく、ロックとブラスを一体化させた新しいバンドであることを、強く印象づけた一曲です。

この曲を聴くと、僕はいつも、Chicagoというバンドの説明が一気に短くなる気がします。
ロックの骨格があり、ブラスの切れ味があり、そこへテリー・キャスのギターが鋭く食い込んでくる。
その数秒だけで、Chicagoが普通のロック・バンドではなかったことが伝わってきます。

ただし、『長い夜』は単なる派手なロック・ナンバーではありません。

邦題が示す通り、この曲の中心には、眠れない夜があります。
夜明け前の部屋で、主人公は何かを言葉にしようとしています。
しかし、頭は冴えているようで、実は限界に近い。
眠りたいのか、考え続けたいのか、自分でもはっきりしない状態にいます。

この不安定な精神状態を、Chicagoは沈んだ独白にはしません。
ギター、ブラス、ドラムを総動員して、むしろ強烈な前進力へ変えてしまいます。

超訳

夜明けを待ちながら、何か言葉を探している。
眠ればいいのに眠れず、部屋の光と沈むような意識の中で、ただ時間だけが過ぎていく。
「25 or 6 to 4」――午前4時の25分前なのか、26分前なのか。
その曖昧な時刻の中で、限界寸前の頭が、まだ何かをつかもうとしている。

まずはYouTube公式音源でお聴きください

クレジット
Chicago「25 or 6 to 4」
作詞・作曲:Robert Lamm
プロデュース:James William Guercio
収録アルバム:『Chicago』(通称『Chicago II』/1970年)
公式音源:Chicago - 25 or 6 to 4 (Official Audio)

2行解説
夜明け前の「4時25、26分前」という曖昧な時間感覚を、鋭いブラスとテリー・キャスのギターが一気に覚醒させるシカゴ初期の代表曲です。
ロック・バンドとしての熱量と、ブラス・ロックの構築美が真正面からぶつかる、Chicago II期の決定的な一曲です。
クレジット
Chicago「25 or 6 to 4(Live in Chicago, IL, 1999)」
作詞・作曲:Robert Lamm
収録アルバム:『Chicago XXVI: Live in Concert』
音源提供:Rhino
著作権表記:℗ 1999 Warner Strategic Marketing
2行解説
1970年のスタジオ版が持つ緊張感を、1999年のライヴ演奏ではより厚みのあるブラスとロック的な推進力で再現しています。
「25 or 6 to 4」の鋭いリフと高揚感を、Chicagoの長いキャリアを経たステージ表現として味わえる公式ライヴ音源です。

『長い夜』を第5位に選んだ理由

Chicagoの魅力が一曲の中でぶつかり合っている

『長い夜』には、Chicagoの魅力が非常にわかりやすく詰まっています。

ロックとして聴けば、まずギターの強さがあります。
ブラス・ロックとして聴けば、ホーン・セクションの存在感が耳をつかみます。
リズムに注目すれば、曲全体を前へ押し出す力がはっきりわかります。

しかも、それぞれの要素が順番に並んでいるのではありません。
ギター、ブラス、ドラム、ヴォーカルが同じ場所でぶつかり合っています。
その重なりが、この曲の異様な熱を生んでいます。

Chicagoは、ブラスを飾りとして置いているバンドではありません。
この曲を聴けば、ホーン・セクションが曲の中心で鳴っていることがすぐにわかります。
ギターもブラスも、どちらかが主役でどちらかが脇役という関係ではありません。

勢いだけでは終わらない「夜」の感覚

『長い夜』が面白いのは、音だけなら非常に攻撃的なのに、歌詞の世界はかなり内向きであるところです。

主人公は、夜明け前に何かを探しています。
眠気に押されながら、意識を保とうとしている。
言葉を見つけたいのに、うまくつかめない。
その姿は、勝利の場面でも、恋愛の歓喜でもありません。

けれども、Chicagoはその状態を弱々しく描きません。

むしろ、眠れない頭の中で火花が散っているように、曲はどんどん加速していきます。
この曲には、疲れているのに止まれない人間の妙な強さがあります。
その強さが、ロックとブラスの音になって噴き出しているように聴こえます。

僕にとって『長い夜』は、ただの名リフの曲ではありません。
考えがまとまらず、身体も重く、それでも何かを形にしようとする時間の曲です。
その切迫感があるからこそ、曲の疾走がより鋭く感じられます。

原題「25 or 6 to 4」と邦題『長い夜』

数字だけの原題が示す、午前4時前の曖昧さ

原題の「25 or 6 to 4」は、初めて見ると意味がわかりにくい題名です。

一般的には、午前4時の25分前、または26分前を指す表現として語られています。
つまり、午前3時35分か、午前3時34分あたりです。
夜としては深すぎて、朝としてはまだ早すぎる時間です。

この「どちらとも言い切れない時間」が、曲の核心にあります。

眠るには遅すぎる。
しかし、朝を迎えるには早すぎる。
頭はぼんやりしているのに、なぜか神経だけは張っています。
その奇妙な時間帯を、数字だけの原題がそのまま表しています。

『長い夜』という邦題の見事さ

邦題の『長い夜』は、このわかりにくい原題を、かなり的確に日本語へ置き換えています。

原題を直訳的に説明しようとすると、どうしても理屈が先に立ちます。
しかし『長い夜』という邦題は、時刻の説明ではなく、曲全体の感覚をつかんでいます。
だから、日本語の聴き手にもすっと入ってきます。

『長い夜』という言葉には、単に夜が長いという意味だけではありません。

終わりそうで終わらない時間。
眠りたいのに眠れない身体。
考えをまとめたいのに、言葉が逃げていく焦り。
そうしたものが、この短い邦題の中に収まっています。

僕は、この邦題をかなり優れた日本語タイトルだと思います。

原題の不思議さを完全には消していません。
けれども、日本語としての入口はきちんと作っています。
そして何より、曲の鋭い音を丸めていないところが良いのです。

歌詞の世界は「眠れない夜」の中にある

主人公は何かを言葉にしようとしている

この曲の歌詞は、派手な物語を語っているわけではありません。

主人公は、夜明け前の部屋にいます。
眠気に耐えながら、何かを言おうとしている。
しかし、その言葉はすぐには出てきません。
ただ時間だけが過ぎていきます。

ここで大事なのは、主人公が完全に諦めていないことです。

もう眠ったほうがいい。
それは本人もわかっているはずです。
それでも、まだ何かを探している。
この「まだ終われない」という感覚が、曲の奥にあります。

言葉が出ない時間の苦しさ

僕たちは、誰でも似たような夜を経験します。

書きたいことがあるのに、文章にならない。
考えていることはあるのに、言葉として出てこない。
頭の中では何かが動いているのに、自分の手元には何も残らない。

この時間は、外から見ると静かです。
しかし、本人の内側ではかなり騒がしい。

『長い夜』は、その内側の騒がしさを、ロックとブラスの音で鳴らしているように聴こえます。

夜明け前だからこそ生まれる切迫感

午前4時前という時間は、独特です。

真夜中の勢いは、もう残っていません。
しかし、朝の落ち着きもまだありません。
頭は疲れているのに、心のどこかだけが眠らずに動いている。
『長い夜』の歌詞は、その中途半端な時間の危うさをとらえています。

だから、この曲は明るい曲ではありません。
けれども、暗いだけの曲でもありません。
疲労、焦り、執念、わずかなひらめきが、同じ場所でせめぎ合っています。

そしてChicagoは、そのせめぎ合いを、音の力で一気に外へ噴き出させます。
ここからは、そのサウンドの凄さ、とくにテリー・キャスのギターとブラスの関係を中心に見ていきます。

サウンドが描く、眠れない頭の中

テリー・キャスのギターが曲の輪郭を決める

『長い夜』を語るうえで、テリー・キャスのギターは欠かせません。

冒頭から鳴るギターのリフは、曲の空気を一気に決めます。
このリフがあるから、ブラスが入る前の段階で、すでに曲は強いロックとして立ち上がっています。
短いフレーズなのに、聴き手の耳をつかんで離さない力があります。

テリー・キャスのギターは、ただ荒々しいだけではありません。
音の太さ、間合い、ブラスとのぶつかり方に、バンド全体を前へ進める力があります。
ギターが火をつけ、ブラスが空気を切り、ドラムが全体を走らせる。
その三つの動きが重なることで、『長い夜』は夜明け前の混乱を、音の勢いへ変えています。

ブラスは飾りではなく、曲のエンジンである

Chicagoのブラスは、単に曲を華やかにするための音ではありません。

『長い夜』では、ホーン・セクションが曲の中心で鳴っています。
ギターと同じ強さで前に出て、リズムと噛み合いながら、曲の温度を一段ずつ上げていきます。

このブラスの入り方があるから、曲はただのロック・ナンバーでは終わりません。
ブラスが入るたびに、主人公の頭の中で考えがぶつかり、言葉にならないものが音として噴き出しているように聴こえます。
『長い夜』の緊張感は、このギターとブラスのせめぎ合いから生まれています。

『Chicago II』の中での『長い夜』

初期Chicagoの攻撃性を示す一曲

『長い夜』が収録された『Chicago』、通称『Chicago II』は、Chicago初期の野心が強く出たアルバムです。
ロック、ジャズ、ブラス・アレンジを大胆に結びつけ、バンドの方向性をはっきり示した作品でもあります。

その中で『長い夜』は、非常に入口のわかりやすい曲です。

アルバム全体には、組曲的な広がりや実験性があります。
一方で『長い夜』は、短い時間の中にChicagoらしさを凝縮しています。
ギターの切れ味、ブラスの力、ヴォーカルの張り、リズムの前進感。
それらが一曲の中で、かなり明確に伝わってきます。

ロック・バンドとしてのChicagoを証明している

Chicagoというと、後年の美しいバラードを思い浮かべる人も多いと思います。
しかし『長い夜』を聴くと、Chicagoがもともと非常に強いロック・バンドだったことがよくわかります。

この曲では、ブラスがロックを柔らかくしているのではありません。
むしろ、ブラスがロックの鋭さをさらに増幅しています。
だから『長い夜』は、Chicagoを語るときに外せない曲なのです。

1999年ライヴ版で見える、曲の生命力

時代を越えても崩れない骨格

今回、公式音源として1970年のスタジオ版に加え、1999年のライヴ版も取り上げました。

1999年のライヴ版を聴くと、『長い夜』という曲の骨格が、いかに強いかがよくわかります。
時代が変わり、演奏の質感が変わっても、曲の芯は簡単には揺らぎません。

リフが鳴る。
ブラスが入る。
リズムが走る。
その瞬間に、聴き手は「ああ、この曲だ」とわかります。
それほど、この曲には一発で空気を変える力があります。

ライヴで増す、肉体的な迫力

スタジオ版には、研ぎ澄まされた緊張があります。

一方、1999年のライヴ版には、ステージで鳴る曲ならではの肉体的な迫力があります。
音が大きく広がり、ブラスとギターのぶつかり方も、より直接的に響きます。

『長い夜』は、録音として完成された曲でありながら、ライヴでも十分に戦える曲です。
むしろ、ギターとブラスが正面からぶつかる曲だからこそ、ステージでの熱がよく似合います。

終わりに

第5位に『長い夜(25 or 6 to 4)』を選んだのは、この曲がChicago初期の魅力を非常に鮮やかに示しているからです。

ロックの荒々しさ。
ブラスの鋭さ。
夜明け前の焦り。
言葉を探す人間の切迫感。
それらが、短い時間の中で一気にぶつかっています。

『長い夜』は、Chicagoを代表するブラス・ロックの名曲です。
同時に、眠れない時間の中で、まだ何かを探している人間の曲でもあります。

午前4時前の曖昧な時間。
眠るには遅く、朝と呼ぶには早い時間。
そこで主人公は、言葉を探し続けています。

そしてChicagoは、その不安定な時間を、鋭いギターとブラスで撃ち抜きました。

だからこの曲は、ただ懐かしいだけではありません。
今聴いても、身体が反応します。
頭の中に火が入り、止まりかけた気持ちがもう一度動き出す。
それが、僕にとっての『長い夜』です。

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