T. Rexの歴史とマーク・ボランの歩みは、こちらから!
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本文を読む前に、『心はいつもロックン・ロール』の背景や、1977年のマーク・ボランの姿をつかみたい方におすすめです。
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音声を先に聴くことで、『心はいつもロックン・ロール』の切なさと、全盛期とは異なるマーク・ボランの魅力をよりつかみやすくなります。
僕の勝手なBest10【T. Rex編】第10位『心はいつもロックン・ロール』
第10位に選んだのは、1977年の『心はいつもロックン・ロール(The Soul of My Suit)』です。
全盛期の『ゲット・イット・オン』や『20センチュリー・ボーイ』のような圧倒的な勢いとは少し違います。しかし、この曲には晩年のマーク・ボランならではの繊細さと、失われかけた自信をもう一度取り戻そうとするような感触があります。
華やかなグラムロックの絶頂期だけでは、T. Rexというバンドのすべては見えてきません。人気の頂点を過ぎ、時代そのものが変わり始めたなかで、それでも新しい音を探し続けたボラン。その姿を知るうえでも、僕には外せない一曲です。
超訳
君は僕の心を傷つけ、愛を根こそぎ奪っていった。
それでも僕は君を憎めないし、君だって悪い女じゃない。
理屈なんて抜きに、ただロックンロールに身をまかせよう。
傷つけ合っても、結局のところ――僕は君を愛してる。
まずは、YouTube公式動画をご覧ください。
T.レックス「ザ・ソウル・オブ・マイ・スーツ」(1977) クレジット マーク・ボラン:ヴォーカル、ギター、プロデュース ディノ・ダインズ:キーボード ハービー・フラワーズ:ベース トニー・ニューマン:ドラムス アルファルファ:追加ヴォーカル マイク・スタヴルー、ジョン・ウォールズ:エンジニア 2行解説 1977年3月、マンチェスターのベル・ヴュー「ホール・オブ・ミラーズ」で撮影されたとされるプロモーション映像。 マーク・ボランが生前に撮影した最後のプロモーション・ビデオとして知られています。
1977年――復調期のT. Rexから生まれた一曲
『心はいつもロックン・ロール』は、1977年3月18日に英国でシングルとして発表されました。その1週間前に発売された、マーク・ボラン存命中最後のスタジオ・アルバム『ダンディ・イン・ザ・アンダーワールド』にも収録されています。
全英シングルチャートでの最高位は42位で、トップ50には3週間ランクインしました。全盛期のような大ヒットではありませんでしたが、ボランの死の前にチャート入りした最後のT. Rexシングルとなりました。

一方、アルバム『ダンディ・イン・ザ・アンダーワールド』は全英26位まで上昇しています。これはT. Rexにとって1974年の『ジンク・アロイと朝焼けの仮面ライダー』以来となる高いアルバム順位でした。
この時期のボランは、1976年の『アイ・ラヴ・トゥ・ブギー』のヒットを経て、再び存在感を取り戻しつつありました。パンク世代とも積極的に交流し、過去のスターとして立ち止まるのではなく、新しい時代へ接近しようとしていた時期です。
実は1975年から温められていた曲
興味深いのは、『心はいつもロックン・ロール』が1977年になって突然作られた曲ではないことです。
その原型は1975年まで遡り、当時すでにデモが録音されていました。さらに1976年にはテレビ番組でも演奏されており、ボランが時間をかけながら、この曲を育てていたことが分かります。
つまり、完成版だけを聴けば1977年の「復調期の一曲」ですが、その背景には、人気が下降していた時期から再び前を向き始めるまでのボランの時間が重なっています。
全盛期の再現ではなく、晩年のボランらしさ

この曲を聴いてまず感じるのは、全盛期T. Rexの荒々しい押し出しよりも、軽やかなポップ感と、どこか寂しさを含んだメロディです。
派手なギターリフだけで押し切るのではなく、歌を中心に据え、バックの演奏も比較的すっきりとまとめられています。ボランの声には独特の揺らぎが残りながら、全盛期とは違う落ち着きも感じられます。
だからといって、かつてのT. Rexらしさが消えたわけではありません。短いフレーズを耳に残る形へまとめる感覚や、複雑にしすぎず曲を前へ進めるリズムには、紛れもなくボランの個性があります。
タイトルの奥にあった、傷ついた感情
『The Soul of My Suit』という題名だけを見ると、「スーツの魂」という少し不思議な言葉に感じます。
しかし、この曲については、ボラン自身の発言から、もっと個人的な背景が見えてきます。
「自分のエゴを傷つけた女性」
ボランは1975年のインタビューで、この曲について、「自分のエゴを傷つけた女性」について書いたという趣旨を語っています。

一般には、1973年に別居した最初の妻ジューンとの関係が、この曲の背景の一つだったと考えられています。
さらにグロリア・ジョーンズは、ボランが当時、私生活だけでなく音楽業界からも傷つけられたと感じていたと振り返っています。
つまり、この曲は単純な恋愛歌というより、人間関係と仕事の両方で傷ついたボラン自身の心情が重なった作品として聴くことができます。
もともとのタイトルは、さらに直接的だった
この曲の初期段階では、『You Damaged the Soul of My Suit』という、より直接的なタイトルが使われていたとされています。
直訳すれば、「君は僕のスーツの魂を傷つけた」といった意味です。
最終的に『The Soul of My Suit』へ短縮されたことで、意味が少し曖昧になり、いかにもボランらしい不思議な余韻が残りました。
ここで重要なのは、「スーツ」を単純に衣服の比喩だと決めつけないことだと思います。ボランの言葉はもともと幻想的で、意味を一つに固定しにくいものが少なくありません。このタイトルにも、説明しすぎないからこそ残る魅力があります。

音楽面で感じる、ポップさと切なさ
この曲の魅力は、深刻な背景を持ちながら、音楽そのものは重くなりすぎていない点です。
冒頭のコーラスから耳を引きつけ、ボランらしいポップなメロディへ自然につながっていきます。ベースとドラムは曲を前へ運びながらも出しゃばらず、キーボードがサウンドに柔らかな広がりを与えています。
演奏には、ボランのほか、ベースのハービー・フラワーズ、ドラムのトニー・ニューマン、キーボードのディノ・ダインズらが参加しました。
この顔ぶれは、ミッキー・フィン、スティーヴ・カーリー、ビル・レジェンドとともに頂点を築いた1971年から1972年頃のT. Rexとは異なります。メンバーが変われば、当然バンドの呼吸も変わります。
それでもボランの声とギターが入った瞬間に、きちんとT. Rexになる。その一方で、新しい演奏陣が作る柔らかなサウンドによって、昔の焼き直しにはなっていません。
悲しさをそのまま悲しい音にせず、軽やかなポップソングへ変えている。そこに、この曲ならではの味があります。
1977年のボランだからこそ生まれた音
もしこの曲が1971年や1972年に作られていたら、もっと派手なギターと強いビートを前面に出した作品になっていたかもしれません。
しかし1977年のボランは、栄光だけでなく、人気の低下、私生活の変化、新しい世代の登場まで経験していました。
だからこそ、この曲には全盛期にはなかった少しの陰りがあります。その陰りが、かえってメロディの美しさを引き立てているように感じます。

しかも、この曲は当時のステージでも演奏されていました。1977年3月の『ダンディ・イン・ザ・アンダーワールド』ツアーでは、『ジープスター』『テレグラム・サム』『ホット・ラヴ』といった過去の代表曲とともに、この新曲もセットリストに組み込まれています。
つまりボラン自身も、この曲を単なるアルバムの一曲としてではなく、当時のT. Rexを示す作品として観客に届けようとしていたのでしょう。
最後のプロモーション映像に残ったマーク・ボラン
『心はいつもロックン・ロール』には、1977年3月にマンチェスターのベル・ヴューにあった「ホール・オブ・ミラーズ」で撮影されたとされるプロモーション映像があります。
この映像は当時放送されたことが確認されておらず、長く表舞台から離れていました。
そして結果的に、マーク・ボランが生前に撮影した最後のプロモーション映像となりました。
映像の中のボランを見ると、1977年9月に29歳で亡くなる人物とは思えないほど、まだ先へ進もうとするエネルギーを感じます。
しかも、この時期には『トップ・オブ・ザ・ポップス』などのテレビ番組にも出演して、この曲を披露しています。かつて英国中を熱狂させたスターが、過去だけを振り返るのではなく、新しい作品を携えて再びテレビやステージへ出ていたのです。
その姿を知ったうえで映像を見ると、「晩年」という言葉だけでは説明できないものがあります。29歳のボランにとって、1977年は人生を締めくくるための年ではなく、まだ次へ進もうとしていた時間だったはずです。

僕が第10位に選んだ理由
T. Rexには、もっと有名で、もっと強烈な曲が数多くあります。
それでも『心はいつもロックン・ロール』をBest10に入れたのは、全盛期とは違うマーク・ボランの魅力を感じられる一曲だからです。
このランキングを有名曲だけで固めるのであれば、おそらく別の選曲になるでしょう。しかし「僕の勝手なBest10」ですから、知名度の順位ではありません。
若い頃の僕がT. Rexに求めていたのは、まず「カッコよさ」でした。ところが長い年月を経て聴き直すと、華やかな時代を通り過ぎた後のボランにも、別の魅力があったことが分かります。
全英42位という数字だけを見れば、T. Rexの歴史の中では目立たない曲かもしれません。しかし、1975年から温められ、人気の浮き沈みを越えて1977年に完成し、新しいメンバーとともにステージでも演奏された。その背景まで知ると、この曲の見え方はずいぶん変わります。
傷つき、迷いながらも、音楽を作ることをやめなかった。その時期に生まれた『心はいつもロックン・ロール』には、1977年のマーク・ボランの姿が静かに刻まれています。

第10位は、『心はいつもロックン・ロール』。
派手さだけでは語れないT. Rexと、全盛期を越えてなお前へ進もうとしていたマーク・ボラン。その両方を聴くことができるからこそ、僕にとってBest10から外すことのできない一曲です。


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