ポール・マッカートニーの軌跡は、こちらから!
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第5位は『ヤング・ボーイ』です
第5位は、ポール・マッカートニーの『ヤング・ボーイ(Young Boy)』です。
1997年4月28日に英国でシングルとして発売され、同年5月5日発売のアルバム『フレイミング・パイ(Flaming Pie)』に収録されました。英国ではアルバムに先駆けて最初のシングルとして登場し、全英シングルチャートで19位を記録しています。
『フレイミング・パイ』は、ポールがビートルズの『アンソロジー』プロジェクトに深く関わった後に制作したアルバムです。かつて4人が曲に求めていた水準を改めて意識したと、ポール自身が当時語っています。

しかし、その入口となった『ヤング・ボーイ』に、大御所らしい重々しさはありません。
恋をしたい。でも、自分に合う相手とどうやって出会えばいいのか分からない。そんな若者の戸惑いを、軽快なポップソングに仕立てた一曲です。
超訳
恋を見つけたい。でも、その方法は誰にも教えてもらえない。 誰かに手を引かれるのではなく、自分で歩いて見つけるしかない。 焦らなくてもいい。進んでいれば、いつか愛のほうから近づいてくるかもしれない。 その日まで、自分の足で歩いていけばいい。
まずは、YouTube動画(公式)をお聴きください。
共通クレジット
曲名:Young Boy(ヤング・ボーイ)
アーティスト:Paul McCartney(ポール・マッカートニー)
作詞・作曲:Paul McCartney
収録アルバム:『Flaming Pie』(1997年)
プロモーション・ビデオ制作:1997年
公開:Paul McCartney公式YouTubeチャンネル
🎬 公式MV① Geoff Wonfor Version 監督:Geoff Wonfor(ジェフ・ウォンフォー) 撮影:1997年2月 主な撮影地:Hog Hill Mill/英国サセックス州ヘイスティングス周辺 📝 2行解説 ポールのスタジオとサセックス周辺で撮影された、最初の公式プロモーション・ビデオ。 『Flaming Pie』制作期のポールを身近な距離で捉え、当時の自然体の姿を伝えています。
🎬 公式MV② Alistair Donald Version 監督:Alistair Donald(アリステア・ドナルド) 制作:1997年 主な撮影地:イタリア・ムジェロ地方ほか 📝 2行解説 ポール一家がイタリアで休暇を過ごしていた時期の映像を取り入れた、2本目の公式プロモーション・ビデオ。 開放的な風景やサーフィンの場面が、『Young Boy』の若々しい躍動感とよく似合っています。
恋が始まる「前」を歌った曲
『ヤング・ボーイ』で描かれる主人公には、まだ恋人がいません。失恋したわけでも、好きな相手に思いを伝えようとしているわけでもない。そもそも「自分に合う誰かと、どうすれば出会えるのだろう」という地点に立っています。

ラヴ・ソングの多くは、すでに「君」がいるところから物語が始まります。しかし、この曲はその一歩前を題材にしました。恋愛そのものではなく、恋を探し始めた時期の心細さを歌っているところが面白いのです。
答えは、誰かに教えてもらうものではない
しかも、誰かが若者を助ければ問題が解決するという話にはなりません。
周囲から助言はもらえても、誰を好きになり、どんな関係を築くのかは本人にしか決められない。若者自身が経験しながら答えを見つけていくしかないという考え方が、この曲の芯にあります。
始まりは「Poor Boy」だった
『ヤング・ボーイ』が生まれたのは、1994年8月18日。ポールはニューヨーク州ロングアイランドにある料理家ピエール・フラニーの家を訪れていました。リンダが料理を作っている間、別室でギターを手にしたポールが曲を書き始めます。
このとき最初に浮かんだ言葉は「Young Boy」ではなく、「Poor Boy」でした。
ところがポールは、「Poor Boy」という言葉から古いエルヴィス・プレスリーの曲を連想し、さらにさまざまな意味を背負いすぎていると感じます。そこで「Poor」を「Young」に変更しました。

一語の変更で、主人公の見え方が変わった
この一語の違いは大きいと思います。「Poor Boy」なら、主人公には最初から「かわいそうな若者」という色が付きます。しかし「Young Boy」なら、彼はただ若く、まだ答えを知らないだけです。
恋が見つからない若者ではなく、これから恋を見つけていく若者。タイトルを変えたことで、曲全体の明るさにも自然につながりました。
ポール自身にも覚えのある戸惑い
ポールはこの曲について、周囲にいる若者たちを思い浮かべながら、自分自身の若い頃も思い出したと話しています。
世の中には数え切れないほど人がいる。その中から、自分に合う一人とどうやって出会えばいいのか。若い頃のポール自身も、そんな疑問を抱いたことがあったそうです。
だから『ヤング・ボーイ』には、若者を外から観察して作っただけではない実感があります。かつて自分も通った場所を振り返りながら書いているからこそ、主人公をからかったり、必要以上に心配したりしません。

スティーヴ・ミラーと作った、軽快なサウンド
1969年以来の縁が、再びつながる
録音は1995年2月22日、アメリカ・アイダホ州サン・ヴァレーにあるスティーヴ・ミラーのホームスタジオで始まりました。初期トラックをここで録音し、その後ポールのホッグ・ヒル・ミルでも作業を続けて完成させています。
ポールとミラーの付き合いは古く、最初の共演は1969年。ビートルズのセッションが中断した夜、ポールはミラーの録音に加わり、『マイ・ダーク・アワー』でドラム、ベース、ギターなどを演奏しました。
二人は1993年、ロサンゼルスのハリウッド・ボウルで開かれたアース・デイ・コンサートで再会します。そして『ヤング・ボーイ』ができると、ポールはミラーへ連絡し、一緒に録音しようと持ちかけました。
二人で作った、バンドのような音
録音では、ポールがリード・ヴォーカル、アコースティックギター、ベース、ドラム、ハモンドオルガンを担当。スティーヴ・ミラーはエレクトリックギター、リズムギター、バック・ヴォーカルを受け持っています。
人数だけを見れば小さな編成ですが、演奏には不足を感じません。ポールがリズムの土台を組み、そこへミラーのギターが入り込むことで、曲が生き生きと動き始めます。

ドラムが生む、前へ進む感覚
特にドラムは複雑なことをしているわけではありません。それでも一定の勢いを保ち、曲を前へ運んでいく。アコースティックギターの歯切れとベースの弾み方も加わり、「Young Boy」という題名に似合う若々しい推進力を作っています。
明るさの中にある、大人の視線
この曲を聴いて最初に印象へ残るのは、悩みよりも明るさでしょう。ギターは軽快に動き、ポールの歌声にも深刻さはありません。
恋を探しているのに見つからない。題材だけを取り出せば、もっと切実な曲にもできたはずです。しかしポールは、主人公を悲劇の中心には置きません。
まだ恋が見つからない。
けれど、それは失敗ではなく、始まっていないだけなのだ。
52歳のポールだから出せた距離感
録音された1995年、ポールは52歳でした。若者になりきって歌っているというより、自分にも同じ時期があったことを知る人物が、少し離れたところから眺めているように聞こえます。
恋は他人に代わってもらえない。時間がかかることもある。それを知っているからこそ、歌の調子は急かすようでも、悲観するようでもありません。

『フレイミング・パイ』の中で見える、ポールの現在地
『アンソロジー』の後に取り戻した感覚
『フレイミング・パイ』を語るうえで欠かせないのが、直前までポールが関わっていたビートルズの『アンソロジー』です。
ジョージ・ハリスン、リンゴ・スターとともに過去の録音を振り返り、『Free As A Bird』『Real Love』の制作にも参加する中で、ポールはビートルズ時代の曲作りが持っていた基準を再確認しました。
だからといって、『フレイミング・パイ』は過去の音を再現したアルバムではありません。公式サイトが紹介しているように、むしろ制作は自発的で、曲はさまざまな場所で自然に録音されていきました。
過去へ戻るのではなく、曲作りの感覚を取り戻す
『ヤング・ボーイ』もその好例でしょう。ロングアイランドで何気なくギターを弾いているときに曲が生まれ、数か月後にはアイダホへ飛び、旧知のスティーヴ・ミラーと録音する。
考え込みすぎる前に、面白いと思った曲を形にしていく。その自由な制作姿勢が、完成した音にも表れています。
僕が第5位に選んだ理由

『ヤング・ボーイ』は、ポールの代表曲を何曲か挙げてほしいと言われたとき、真っ先に名前が出る作品ではないでしょう。全英19位という成績も、彼の長いキャリアを考えれば突出した数字ではありません。
それでも僕は、この曲をここに置きました。
理由は、ポールがポップソングを作るときの身軽さが、そのまま音になっているように感じるからです。
3分54秒に収まった、ポールらしさ
題材は「恋を探している若者」。構成は簡潔で、メロディーはすぐ耳に入り、リズムはよく弾む。そこへスティーヴ・ミラーのギターが加わり、3分54秒の中で一つの世界が完成します。
しかも、何度か聴くうちに別の面が見えてきます。
明るいポップソングでありながら、その奥には「人との出会いは、自分自身で経験していくしかない」という考えがある。
その意味を必要以上に語らず、あくまで気持ちのよい一曲として聴かせてしまう。僕がこの曲を上位に選んだのは、そんなポールらしさが好きだからです。
終わりに――まだ誰とも出会っていない
『ヤング・ボーイ』で描かれる若者が、その後どんな人と出会ったのか、ポールは書いていません。
曲が終わる場所は、恋が成就した瞬間ではありません。まだ誰とも出会っていない。でも、誰かを探し始めている。その途中です。
だから、この歌には結末がなくても不足を感じません。主人公に必要なのは答えではなく、これから自分で経験していく時間だからです。

50代のポールは、そんな若者を深刻な人生訓で包まず、ギターの弾むポップソングにしました。
僕にとって『ヤング・ボーイ』は、若さそのものを歌った曲というより、若さを知っている大人が、その入口に立つ人を温かく見つめた一曲です。

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