五輪真弓の歴史は、こちらから!
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第10位は『恋しさは今』です。
『恋しさは今』は、1987年4月1日に発売されたシングル『そしてさよなら』のカップリング曲です。同年5月21日に発表されたオリジナルアルバム『Wind and Roses』にも収録されました。
表題曲『そしてさよなら』は、関西テレビ・フジテレビ系サスペンスドラマのテーマソングとして発表されました。発売時の中心を担ったのは表題曲であり、『恋しさは今』単独のチャート成績や具体的な反響は確認できません。
当時の五輪真弓は、『恋人よ』の大ヒットを経て、すでに独自の表現を確立していました。前年には『時の流れに~鳥になれ~』を発表し、NHK紅白歌合戦でも同曲を歌っています。
『恋しさは今』は、別れの瞬間を劇的に描く作品ではありません。夢から覚めた朝を起点に、会えなくなった人への情熱が消えていないことを、雲と風へ託して伝える歌です。

超訳
もう会えないと分かっていても、心はあの日のままあなたを探している。 空を流れる雲や吹き抜ける風に、この消えない想いを託したい。 遠く離れても、愛した記憶も恋しさも決して消えはしない。 時だけが過ぎても、この胸の情熱は今も生き続けている。
💡 あわせて読みたい: 公式の原曲歌詞はこちら (楽曲情報は、[mu-moの掲載ページ]をご覧ください。外部サイトへ移動します)
まずは、YouTube動画(公式)をお聴きください。
動画クレジット 🎵 公式音源 「恋しさは今」/五輪真弓 YouTubeチャンネル:Mayumi Itsuwa - Topic Provided to YouTube by Sony Music Direct (Japan) Inc. 2行解説 静かなピアノと五輪真弓の温かな歌声が、忘れられない恋への想いを繊細に描き出します。 雲や風に想いを託す情景が印象的な、大人の切なさに満ちた珠玉のラブバラードです。
夢から覚めた朝に始まる物語
鳥の声と「ひとりの冷たさ」
歌は、「あなた」の夢を見た朝から始まります。
窓辺では鳥がさえずり、外にはいつもの朝が訪れています。しかし主人公が感じるのは、新しい一日の明るさではありません。夢の中で会えた人が、目覚めた現実にはいない。その落差が、一人でいる冷たさとして伝わります。

五輪真弓は、主人公の孤独を詳しく説明しません。鳥の声と身体で感じる温度を並べることで、外の時間は動いているのに、心だけが過去へ引き戻された状態を描いています。
記憶をこじ開けた夢
主人公は、自分から昔の恋を振り返ったのではありません。眠っている間に現れた相手によって、普段は閉じていた記憶を不意に開かれました。
夢の中では自然に向き合えた人が、朝には再び遠い存在となる。その短い変化によって、表面上は落ち着いていた主人公の内部に、なお強い感情が残っていたことが分かります。
別れの事情を語らない歌詞
二人がなぜ離れたのか、歌詞は明かしません。別れを選んだのが誰なのかも、相手がどこにいるのかも分かりません。
示されるのは、かつて愛し合った事実と、現在は会えない日々が続いていることです。事情を限定しないため、聴き手は自分の経験に応じて、二人を隔てる時間と距離を想像できます。
求めているのは復縁ではない
主人公は、戻ってきてほしいとは歌いません。関係をやり直すための答えも求めていません。
彼女が伝えたいのは、遠く離れていても恋しさが生きているという事実です。相手の返事を求めるのではなく、消えなかった感情そのものを届けようとしています。

雲と風が担う、異なる役割
雲は情熱を運ぶ使者
主人公は、旅の空を流れる雲に呼びかけます。雲は、自分では行けない場所へ進む存在です。その動きに情熱を預け、愛した人のもとへ運んでほしいと願います。
したがって、雲を単に「過ぎ去る時間」の象徴と読むだけでは足りません。この歌で雲がまず担うのは、離れた二人の距離を越える使者の役割です。
「速く」の反復が示す焦り
雲への呼びかけでは、「速く」が繰り返されます。夢によって目覚めた思いを、一刻も早く届けたい。その切迫感が、短い言葉へ集約されています。
しかし、雲が相手のもとへ届く保証はありません。行き先を確かめられないからこそ、願いには希望と寂しさが同居します。
風は記憶を揺り起こす力
後半では、雲に代わって風が現れます。風が騒ぐと、懐かしさが涙となってあふれます。目には見えない動きが、長く閉じていた記憶へ触れたのです。

雲が思いを遠くへ運ぶなら、風は主人公の内面を揺さぶり、隠れていた感情を表へ導きます。同じ自然現象でも、二つの役割は重なっていません。
「強く」へ変わる願い
風に対して繰り返されるのは、「速く」ではなく「強く」です。
前半では、思いを早く届けることが願われました。後半では、現在も生きている恋しさを、より強く伝えることが求められます。願いが速度から強度へ移ることで、二番は一番の単純な反復ではなくなります。
反復が明らかにする歌の核心
過去の愛と現在の隔たり
歌詞では、愛し合った人と、もう会えない日々が繰り返し結びつけられます。
前者は二人の間に確かな愛があったことを示し、後者は今の隔たりを示します。この二つが並ぶことで、主人公は幸福だった記憶と、変えられない現実を同時に抱えていると分かります。
同じサビへ戻る意味
サビの反復は、同じ情報の言い換えではありません。
雲へ託しても、風へ託しても、会えない日々は変わらない。その地点へ戻ることで、主人公が抜け出せない時間の循環が表れます。

ただし後半には、恋しさが現在も生きているという認識が加わります。同じ場所へ戻りながら、主人公の理解だけが一段深くなる構成です。
題名に置かれた「今」
この曲が見つめるのは、過去にどれほど愛していたかだけではありません。その愛が現在にどのような形で残っているかです。
恋しさは思い出の中で眠っているのではなく、夢を見た朝の主人公を動かします。「今」という一語によって、時間を経ても失われなかったものが作品の中心に据えられています。
五輪真弓の歌唱と楽曲構成
静かな声が情景を近づける
五輪真弓は、冒頭から悲しみを強く押し出しません。夢、鳥の声、窓辺の冷たさを落ち着いた声でたどり、聴き手を主人公の朝へ導きます。
低い音域には温かさと深みがあり、高い音へ進んでも悲嘆を誇張しません。言葉の意味を崩さず、胸の内側にあるものを声へ移していく歌い方です。
呼びかけで増す声の力
雲や風に呼びかける場面では、歌声の力が明確に増します。ただし、声量だけで情熱を表すのではありません。

言葉の輪郭を強めることで、内側にとどめていた感情が外へ向かう瞬間を示します。静かな朝との対照があるため、主人公の情熱が鮮明に立ち上がります。
独白から呼びかけへ進む音楽
演奏は穏やかなピアノを軸に始まり、歌詞の動きに合わせて響きを広げます。伴奏が先に感情を決めるのではなく、主人公の言葉を中心に置いています。
前半は夢から覚めた孤独を映し、雲と風への呼びかけでは音楽も外へ開いていきます。急激な変化に頼らず、言葉の強さを少しずつ変えることで、終盤の密度を高めています。
1980年代後半に生まれた、もう一つの愛の歌
『恋人よ』とは異なる時間
『恋人よ』では、愛する人を失った痛みが、冷たい季節の情景とともに迫ります。喪失が起きた瞬間の衝撃が、歌の中心にあります。
『恋しさは今』が描くのは、その後の時間です。主人公は日常を送っていますが、夢と風をきっかけに、胸の奥に残っていた情熱を知ります。別れそのものではなく、別れを抱えて続く暮らしを歌っている点が異なります。

代表曲にはない私的な場面
『リバイバル』では、過去の愛をもう一度呼び戻したいという願いが前面に出ます。『心の友』では、遠く離れた相手との精神的な結びつきが大きな世界へ広がります。
それに対して『恋しさは今』は、一人の朝から離れません。夢を見て、目覚め、雲と風へ語りかける。その小さな出来事だけで、主人公の人生に残った愛を描き切ります。
カップリング曲に刻まれた表情
1987年の五輪真弓は、すでに多くの実績を持つ歌手でした。この曲では、大ヒット曲に求められる分かりやすい劇性よりも、日常の一場面から心の動きを掘り起こす書き方が前面に出ています。

表題曲ではない作品だからこそ、代表曲だけでは捉えきれない彼女の細やかな表現が、かえって鮮明に聞こえます。
年齢によって変わる「会えない日々」
距離の歌から、時間の歌へ
若い頃に聴けば、離れた恋人へ思いを届けたい歌として受け取るでしょう。雲や風への願いから、再会の可能性や恋の行方へ意識が向きます。
年齢を重ねると、「会えない日々」の意味は広がります。遠くへ移った人だけでなく、疎遠になった人や、二度と会えなくなった人も心に浮かびます。
重要になるのは再会できるかどうかではありません。その人と過ごした時間が、現在の自分に何を残したかです。
第10位に選んだ理由
五輪真弓の全体像を示す入口
五輪真弓のBest10には、『恋人よ』『リバイバル』『心の友』などの代表曲が欠かせません。しかし有名曲だけでは、日常の小さな場面から心の動きを描く、作家としての魅力が見えにくくなります。
『恋しさは今』には、大きな事件がありません。一つの夢から始まり、雲と風への呼びかけを経て、題名にある「今」へたどり着きます。

過去と現在、距離と記憶、静かな朝と強い呼びかけを、限られた情景の中で結びつけた構成は見事です。知名度だけでは測れない五輪真弓の世界を最初に示せるため、僕はこの曲を第10位に選びました。
終わりに
『恋しさは今』は、過去の愛を取り戻す方法を歌った作品ではありません。
雲には「速く」、風には「強く」と呼びかける。その二つの言葉によって、会えない人へ向かう情熱の動きが形になります。
五輪真弓は、夢から覚めた朝の冷たさと、遠くまで届けたい願いを、身近な風景の中で結びました。
僕にとって、この曲は昔の恋を飾る歌ではありません。時間を経ても自分の中に残ったものを、否定せずに見つめる歌です。
一人の朝から始まる小さな物語に、長い年月を越える感情が刻まれている。その奥深さがあるからこそ、五輪真弓Best10を『恋しさは今』から始めました。

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