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僕の勝手なminiBest7-第6位は『テイク・ア・チャンス・ウィズ・ミー』です。
1982年、『アヴァロン』に収められたもう一つの名曲
1982年5月28日、ロキシー・ミュージックは8枚目のスタジオアルバム『アヴァロン(Avalon)』を発表しました。今回紹介する『テイク・ア・チャンス・ウィズ・ミー(Take a Chance with Me)』は、その7曲目に収録された作品です。
同年にはシングルとしても発売され、全英チャートで最高26位を記録しました。『モア・ザン・ディス』や表題曲ほどのヒットには至りませんでしたが、アルバム後半を彩る印象的な一曲です。
僕にとって『アヴァロン』は、ブライアン・フェリーを知るきっかけとなった特別なアルバムです。なかでもこの曲は、最初の数十秒から耳を引きつけます。
神秘的なギターの響きが続いた後、軽快なビートが始まる。その意外な展開に、初めて聴いたときから惹かれてきました。
歌詞に目を向けると、そこには過去の恋愛で傷つきながらも、新しい関係を求める男の姿があります。音楽の明るさと、簡単には割り切れない心情。その取り合わせが、この作品を興味深いものにしています。

超訳
かつて愛しすぎた僕は、深く傷つき、長い孤独の夜を過ごしてきた。 周囲から愚かだと言われても、僕は自分の愛し方を信じている。 もう一度、誰かを愛することに希望を持ちたい。 だから、僕と一緒に新しい恋へ踏み出してくれないか。
まずは、YouTube公式音源でお聴きください。
クレジット
曲名:テイク・ア・チャンス・ウィズ・ミー(Take a Chance with Me)
アーティスト:ロキシー・ミュージック(Roxy Music)
収録アルバム:『アヴァロン』(Avalon/1982年)
作曲:ブライアン・フェリー、フィル・マンザネラ
プロデュース:ロキシー・ミュージック、レット・デイヴィス
ミキシング:ボブ・クリアマウンテン
音源提供:Universal Music Group
原盤表記:℗ 1999 Virgin Records Limited
動画形式:公式配信音源
2行解説
幻想的なギターの導入から心地よいビートへと展開する、後期ロキシー・ミュージックを代表する洗練されたポップソング。
ブライアン・フェリーの艶やかな歌声が、恋に踏み出す期待とためらいを優雅に描き出します。
静寂から躍動へ――予想を裏切るイントロ
ギターが描く幻想的な序章
この曲で最初に注目したいのは、冒頭のギターです。明確なビートを提示せず、伸びやかな音がゆっくりと重なり、独特の緊張感を生み出しています。
一つのフレーズが消えかけたところへ、次の音が現れる。どこへ向かうのか簡単には見通せない進行に、僕はいつも耳を澄ませてしまいます。

一般的なポップソングなら、冒頭から印象的なメロディーを提示することも多いでしょう。しかし、この作品はまず音色によって聴き手の想像力を刺激します。
リズムが始まる瞬間
やがてドラムとベースが加わると、それまでの雰囲気は一変します。ビートが明確になり、演奏全体が弾むように動き始めるのです。
ただし、勢いに任せて突き進むロックではありません。ドラムの歯切れのよさとベースの滑らかな動きが組み合わさり、自然に身体が反応するグルーヴを作り出しています。
そしてフェリーの歌声が入ると、複雑だった導入部が嘘のように、親しみやすいメロディーが広がります。

異なる二つの表情を一曲に収める
僕が面白いと思うのは、イントロと歌が始まってからの部分に、かなり異なる性格があることです。それでいて、途中で別の曲に切り替わったような不自然さはありません。
実験的な発想を残しながら、聴きやすいポップスとして成立させる。この構成には、ロキシー・ミュージックが長年培ってきた音楽的な柔軟さが表れています。
フィル・マンザネラと緻密なアンサンブル
ブライアン・フェリーとの共作
『テイク・ア・チャンス・ウィズ・ミー』は、ブライアン・フェリーとギタリストのフィル・マンザネラによる共作です。
マンザネラは1972年のデビューアルバムから参加し、バンドの変化を演奏面から支えてきました。初期には鋭く実験的な音を聴かせ、後年には楽曲全体の質感を巧みに作り出すなど、表現の幅を広げています。
今回の作品では、速弾きや派手な技巧を前面に押し出すのではなく、フレーズの組み立てと音色の選択によって存在感を示しています。ギターが単なる伴奏を超えて、曲の個性を決定づけているのです。

演奏を支える個性的なミュージシャン
録音にはマンザネラのほか、ギターのニール・ハバード、ベースのニール・ジェイソン、ドラムのアンディ・ニューマークらが参加しています。
さらに、アンディ・マッケイはオーボエを担当。ジミー・メーレンのパーカッション、フォンジー・ソーントンのバックヴォーカルも加わっています。
こうした顔ぶれを見ると、単純なバンド演奏だけで完成させた作品ではないことが分かります。複数の楽器と声を組み合わせながら、一つの流れを作り上げているのです。
レット・デイヴィスとボブ・クリアマウンテン
制作面では、ロキシー・ミュージックとレット・デイヴィスがプロデュースを担当し、ボブ・クリアマウンテンがミキシングを手がけています。
それぞれの楽器が明瞭に聞こえながら、全体として統一感がある。音の重なり方を丁寧に聴いていくと、録音とミキシングの重要性にも気づかされます。
個々の演奏の巧みさを、作品全体の完成度へ結びつける。そこに、この時期のロキシー・ミュージックの制作水準の高さがあるのでしょう。

『アヴァロン』の中で、この曲が担う役割
アルバム後半を引き締める7曲目
『アヴァロン』は全10曲で構成されています。『モア・ザン・ディス』から始まり、表題曲『アヴァロン』を経て、最後のインストゥルメンタル『タラ』へと続く流れには、一枚のアルバムとしての魅力があります。
今回の曲は、アナログ盤ではB面の2曲目に当たります。『ザ・メイン・シング』に続いて登場し、その後の『トゥ・ターン・ユー・オン』へとつながる位置です。
アルバムを通して聴くと、この配置がよく考えられているように思えます。リズムを前面に出した『ザ・メイン・シング』の後で、特徴的なギターの導入が現れ、聴き手の意識を改めて引き寄せます。
『モア・ザン・ディス』との違い
アルバムの冒頭を飾る『モア・ザン・ディス』は、流れるような旋律と切なさが印象的な作品です。一方、今回の曲はギターによる導入と明快なビートの対比が特徴になっています。
二曲を聴き比べると、同じアルバムに収録されていても、表現方法がかなり異なることに気づきます。
『アヴァロン』の素晴らしさは、美しい曲を集めたことだけではありません。性格の異なる作品を並べながら、最初から最後まで自然に聴き通せる構成にあると思います。

最後のスタジオアルバムに残された冒険心
結果的に『アヴァロン』は、ロキシー・ミュージック最後のスタジオアルバムとなりました。1972年のデビューから10年を経て、バンドは初期のアート・ロックとは異なる音楽へ到達しています。
しかし、親しみやすい作品を作るようになったからといって、意外な発想まで失われたわけではありません。
『テイク・ア・チャンス・ウィズ・ミー』は、そのことを示す好例でしょう。成熟したポップスの中にも、初期から続く探究心が感じられるのです。
「もう一度、恋をしてみないか」――傷ついた男の恋愛観
過去の恋愛が残したもの
『Take a Chance with Me』というタイトルは、「僕と一緒に思い切ってみないか」といった意味に受け取れます。
ただし、歌詞の主人公は恋愛に自信を持った男ではありません。かつて人を深く愛し、その結果として長い間、悲しみを抱えてきたことが語られています。
自分は周囲が見えなくなるほど恋に夢中だったのではないか。そんな過去への反省も感じられます。

それでも主人公は、愛そのものを否定していません。つらい経験を経ても、誰かを好きになる気持ちを手放そうとはしていないのです。
強がりの奥にある不確かさ
歌詞には、周囲から愚かだと思われても、自分なりの愛し方を信じようとする姿勢が表れています。
その一方で、相手の気持ちを確かめずにはいられない。自分の思いが強いからといって、恋愛が必ず成就するわけではないことも分かっているのでしょう。
この強気な態度と不安の組み合わせが、とても人間らしく感じられます。
恋愛では、自分の意志だけで決められることには限界があります。相手にも同じように踏み出してもらわなければ、新しい関係は始まりません。

だからこそ、相手への問いかけには期待だけでなく、返事を待つ心細さも含まれているのだと思います。
悲しみを明るく歌う意味
歌詞だけを読めば、主人公の過去は決して幸福なものではありません。しかし、曲の中心を流れるのは軽やかなリズムです。
僕には、この組み合わせが、悲しみを抱えたままでも前向きになろうとする人の姿に重なります。
失恋の痛みを知っているからこそ、次の恋に慎重になる。それでも、いつまでも過去にとどまっていたいわけではない。

この曲が描いているのは、恋愛に対する無邪気な楽観ではなく、傷つく可能性を知ったうえでの決意なのでしょう。
ブライアン・フェリーの歌声が伝える大人の恋愛
感情を語りすぎないヴォーカル
ブライアン・フェリーの魅力は、単に声が美しいことだけではありません。独特の節回しや語尾の揺らし方によって、同じ言葉にも微妙な表情を与えます。
この曲でも、感情をむき出しにして歌い上げる場面は多くありません。どこか気取った調子を保ちながら、相手への思いを伝えています。
それでいて、主人公の気持ちが薄く聞こえるわけではないのです。むしろ、言葉を強調しすぎないことで、聴き手がその心情を想像できるように感じます。
経験を重ねた男だから歌える言葉
若い頃には、好きだという気持ちだけで行動できる瞬間があります。しかし、人との関係を重ねるうちに、愛情だけでは解決できない問題があることも知っていきます。
過去の経験、相手の考え、これからの生活。そうした現実を理解していても、誰かに心を動かされることはあるものです。
僕は、この曲の主人公に、そんな大人ならではの複雑な気持ちを感じます。
フェリーの歌い方には、恋に夢中になる若者の勢いとは異なる魅力があります。少し慎重で、時には強がりながらも、自分の思いを相手に伝えようとする。

この人物像とフェリーのヴォーカルがよく似合っていることも、僕がこの曲を好きな理由の一つです。
終わりに――もう一度、恋に踏み出す勇気
『テイク・ア・チャンス・ウィズ・ミー』は、僕が『アヴァロン』に惹かれてきた理由を、改めて感じさせてくれる作品です。
独創的なギターの導入、緻密に組み立てられた演奏、そしてフェリーの個性的な歌声。そのすべてが自然につながっています。
しかし、今回歌詞を読み直してみて、僕はこの曲の別の魅力にも気づきました。
恋愛には、どれほど慎重になっても結果を予測できない部分があります。だからといって、何もしなければ新しい関係は生まれません。
主人公は、過去の悲しみを経験したうえで、相手に一緒に踏み出してほしいと願っています。その姿には、若さだけでは説明できない勇気があります。

『テイク・ア・チャンス・ウィズ・ミー』は、恋愛の成功を約束する歌ではありません。それでも誰かを信じてみたいという、人間の素直な願いを歌った作品です。
その思いを、これほど洒落たポップソングに仕上げてしまうところが、ブライアン・フェリー、そしてロキシー・ミュージックの素晴らしさなのでしょう。

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