T. Rexの歴史とマーク・ボランの歩みは、こちらから!
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本文を読む前に、『ザ・スライダー』の気だるいグルーヴや、繰り返し聴くほど癖になる魅力をつかみたい方におすすめです。
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音声を先に聴くことで、『ザ・スライダー』のサウンド、歌詞の曖昧な魅力、そして第7位に選んだ理由をよりつかみやすくなります。
僕の勝手なBest10【T. Rex編】第7位『ザ・スライダー』
第7位に選んだのは、1972年の『ザ・スライダー(The Slider)』です。
『テレグラム・サム』や『メタル・グルー』のように、最初から強烈なフックで押してくる曲ではありません。しかし、少し重たいギターの響き、ゆったりとうねるリズム、そしてマーク・ボランの気だるい歌声を聴いていると、いつの間にかこの曲の中へ引き込まれていきます。

僕がT. Rexを聴き始めた頃にも感じたことですが、彼らの音楽には「一度聴いただけでは分からないのに、いつの間にか癖になっている」という不思議な魅力があります。
『ザ・スライダー』は、その感覚をとてもよく表している一曲です。
超訳
風のことなんて、僕には分からない。 愛だって、思いどおりにはならない。 それでも僕は、自分のやり方で進んでいく。 悲しくなったら、ただ滑るように身をまかせればいい。
まずは、YouTube動画で楽曲をお聴きください。
『ザ・スライダー』/T. Rex
クレジット
作詞・作曲:マーク・ボラン
プロデュース:トニー・ヴィスコンティ
マーク・ボラン:ヴォーカル、ギター
スティーヴ・カーリー:ベース
ミッキー・フィン:パーカッション、ヴォーカル
ビル・レジェンド:ドラム
ハワード・ケイラン:バッキング・ヴォーカル
マーク・ヴォルマン:バッキング・ヴォーカル
トニー・ヴィスコンティ:アレンジ
2行解説
1972年のアルバム『ザ・スライダー』のタイトル曲で、派手なシングル曲とは異なる、重く気だるいグルーヴが印象的な一曲。シンプルな構成と控えめなアレンジの中に、マーク・ボラン独特の歌声と反復の魔力が凝縮されています。
絶頂期のT. Rexが作った『ザ・スライダー』
アルバム『ザ・スライダー』は、1972年7月21日に発表されました。
前年の『エレクトリック・ウォリアー』によってT. Rexは英国を代表するスターとなり、その勢いの中で制作されたのがこのアルバムです。
収録曲には、全英1位を記録した『テレグラム・サム』と『メタル・グルー』があります。アルバム自体も全英4位、アメリカでもビルボードのアルバムチャートで17位まで上昇しました。

英国だけの現象ではなく、T. Rexが海外でも存在感を広げていた時期の作品だったのです。
アルバム4曲目に置かれたタイトル曲
『ザ・スライダー』は、アルバムの4曲目に置かれています。
1曲目の『メタル・グルー』から勢いよく始まるアルバムの中で、このタイトル曲は少し温度を下げます。
テンポを抑えたリズム、重たく粘るギター、そして力を抜いたようなボランの歌声。シングル向きの即効性ではなく、アルバムの流れの中でじっくり聴くほど味が出てくるタイプの曲です。
実際、この曲はシングルとして発売されていません。それでも後年、アルバムを代表する楽曲の一つとして支持され続けています。
フランスの古城で進められた制作
『ザ・スライダー』の制作で興味深いのが、録音環境です。
アルバムの制作はコペンハーゲン、フランス、ロサンゼルスなど複数の場所で進められましたが、主要なセッションの舞台となったのが、パリ郊外にあるシャトー・デルヴィルでした。
18世紀の城を利用したレコーディング施設で、のちにエルトン・ジョン、ピンク・フロイド、デヴィッド・ボウイなども使用する場所として知られるようになります。

タイトル曲『ザ・スライダー』のバッキング・トラックも、1972年3月のシャトー・デルヴィルでのセッションで録音されました。
ロンドンの通常のスタジオから離れ、メンバーとスタッフが滞在しながら制作する環境は、アルバム全体に独特のまとまりを与えています。
言葉とサウンドが作る『ザ・スライダー』の世界
「悲しいとき、僕はスライドする」
『ザ・スライダー』というタイトルだけを見ると、「スライダーとは何だろう」と考えたくなります。
しかし、この曲はタイトルに一つの明確な意味を当てはめるより、ボラン特有の言葉の感触をそのまま受け取った方が面白いと思います。
歌詞には、風、愛、悲しみといった言葉が現れます。そして曲の中心には、悲しいときには「スライドする」という印象的なイメージがあります。
何かから逃げるのか。気持ちを切り替えるのか。それとも、ただ流れに身を任せるのか。

ボランは答えを説明しません。
だからこそ「スライド」という一語が、聴く側の想像によってさまざまな意味に変わります。
意味を決めつけない方が面白い
マーク・ボランの歌詞には、物語を順序立てて説明するというより、言葉の響きやイメージを並べながら独自の空気を作る作品が数多くあります。
『ザ・スライダー』も、その一つです。
一つひとつの言葉を理屈で解読しようとすると、かえってボランらしさを失ってしまうかもしれません。
歌詞の意味、声の響き、ギター、リズムを一体として受け取る。その方が、この曲の妖しい感触が自然に伝わってきます。
単純なのに、なぜか耳から離れない
演奏そのものは、決して複雑ではありません。
むしろ、基本となるリズムとギターの反復を軸に、ボランのヴォーカルを前へ出した非常にシンプルな作りです。
曲の冒頭では、ビル・レジェンドのドラムが印象的に入り、そこからバンド全体がゆっくりとしたグルーヴへ滑り込んでいきます。

スティーヴ・カーリーのベースは重心を低く保ち、ギターは強く主張しすぎず、少し粘るような響きを残します。
トニー・ヴィスコンティのアレンジも、音を大量に加えるのではなく、必要なところに短いオーケストレーションを置き、曲の厚みを補っています。
そこへボランの甘く気だるい声が重なると、T. Rex以外にはなかなか出せない独特の空気が生まれます。
派手な展開がなくても、同じ場所を回りながら少しずつ深く入り込んでくる。
僕がこの曲を「癖になる」と感じる理由は、そこにあります。
アルバムの中で見えてくる、もう一つのT. Rex
二つの全英1位に挟まれたタイトル曲

アルバム『ザ・スライダー』を代表する曲として、まず名前が挙がるのは『テレグラム・サム』と『メタル・グルー』でしょう。
どちらも全英1位。T. Rexが英国のポップシーンを席巻していたことを象徴するシングルです。それに対して、タイトル曲『ザ・スライダー』は、瞬間的に耳をつかむタイプの作品ではありません。
しかし、アルバム全体を聴くと、この曲があることでT. Rexの別の顔が見えてきます。
キャッチーなメロディだけではない。強烈なギターリフだけでもない。
同じフレーズを反復しながら、独特の空気そのものを作り出す。
その方法で聴き手を引き込めることも、黄金期のT. Rexが持っていた大きな強みでした。
ジャケットを撮影したリンゴ・スター
アルバム『ザ・スライダー』には、音楽以外にも興味深いエピソードがあります。
ジャケットに使われたマーク・ボランの写真を撮影したのは、ビートルズのリンゴ・スターです。アルバムのクレジットにも、リンゴ・スターが写真撮影を担当したことが記されています。
黒いシルクハットをかぶり、顔の一部を影に隠したボランの姿は、当時のグラムロックの派手なイメージとは少し違います。

華やかというより妖しく、どこか近寄りがたい。その雰囲気は、タイトル曲『ザ・スライダー』が持つ気だるさともよく似合っています。
『ボーン・トゥ・ブギー』でもつながった二人
ボランとリンゴ・スターの関係は、ジャケット写真だけではありません。
同じ1972年には、T. Rexのライヴ映像などで構成された映画『ボーン・トゥ・ブギー』をリンゴが監督しています。
当時のT. Rexが単なる人気バンドではなく、ビートルズ世代のスターからも注目される存在だったことが、この交流からも伝わってきます。
僕が第7位に選んだ理由
T. Rexには、一度聴いただけで覚えてしまう曲がたくさんあります。
『ザ・スライダー』は、そのタイプではありません。
初めて聴いた瞬間の衝撃というより、何度も聴くうちに、少しずつ身体へ染み込んでくる曲です。
そして、ある時ふと気づきます。
あのギターの響きも、ゆったりしたリズムも、ボランの気だるい歌い方も、いつの間にか頭から離れなくなっている。

若い頃、T. Rexを聴きながら感じた「何だ、この音は?」という戸惑いが、いつの間にか「また聴きたい」に変わっていく感覚。
『ザ・スライダー』を聴くと、その感覚を今でも思い出します。全英1位のシングルでもなければ、T. Rexを初めて聴く人に真っ先に勧める曲でもないかもしれません。
それでも、何度も聴いてきた僕にとっては、こういう曲こそT. Rexの面白さをよく表しています。
第7位は、『ザ・スライダー』。
派手な一撃ではなく、繰り返し聴くほど深く入り込んでくる。T. Rexの「癖になる音」を最もよく味わえる一曲です。


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