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本文を読む前に、『アナザー・デイ・イン・パラダイス』の魅力や記事全体の流れをつかみたい方におすすめです。
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音声を先に聴くことで、『アナザー・デイ・イン・パラダイス』の世界観と記事の要点をよりつかみやすくなります。
今回の「僕の勝手なCover Selection」は、『アナザー・デイ・イン・パラダイス』です
今回取り上げるのは、フィル・コリンズが1989年に発表した『アナザー・デイ・イン・パラダイス(Another Day in Paradise)』です。
控えめなキーボード、淡々と刻まれるリズム、そして少し乾いた歌声。大きな起伏で押してくる曲ではありませんが、一度耳にすると忘れにくい存在感があります。

1989年、僕は社会人9年目の31歳でした。学生時代のようにレコードや音楽情報を追いかける生活ではなくなり、仕事が日常の中心になっていた頃です。
それでもフィル・コリンズはジェネシス時代から知っていましたし、ソロでも数多くのヒットを放っていました。『アナザー・デイ・イン・パラダイス』も、特別に探したというより、当時の生活の中へ自然に入ってきた一曲だったのだと思います。
『One More Night』を思い出させた歌声
僕が最初に惹かれたのは、社会的な題材を持つ歌詞よりも曲そのものでした。
1985年の『One More Night』に近いものも感じます。二曲の内容はまったく違いますが、声量や劇的な展開に頼らず、ゆったりしたテンポと抑えた歌唱で引き込んでいくところには、フィル・コリンズらしさがあります。
今回HSCCによるカバーを聴き、長く知っていたこの曲を別の角度から聴き直すことになりました。
歌詞:超訳
寒い街角で、ひとりの女性が助けを求めている。 けれど男は聞こえないふりをして、そのまま通り過ぎる。 僕たちは何事もなかったように、いつもの一日を過ごしていく。 その日常を、本当に当たり前だと思っていいのだろうか。 通り過ぎる前に、もう一度だけ考えてみよう。
まずはYouTube動画で、HSCC版をご覧ください
公式動画クレジット
『Another Day In Paradise』(Phil Collins)カバー
演奏:ザ・ヒンドリー・ストリート・カントリー・クラブ(The Hindley Street Country Club/HSCC)
フィーチャリング・ボーカル:ブラッド・ポレイン(Brad Polain)
原曲:Phil Collins『Another Day in Paradise』
公開:HSCC公式YouTubeチャンネル
2行解説
フィル・コリンズの代表曲を、ブラッド・ポレインの落ち着いた歌唱とHSCCの緻密な生演奏で再構築したカバーです。
原曲の抑制を保ちながら、生演奏ならではの温度を加えています。
「楽園」という言葉に込められた皮肉
『Another Day in Paradise』というタイトルだけなら、「楽園で過ごすもう一日」という穏やかな歌にも思えます。

しかし、冒頭に登場するのは寒い路上で眠る場所もなく、通行人に助けを求める女性です。男性は振り返らず、聞こえないふりをして歩き去ります。
「通り過ぎた男」だけの物語ではない
この男性だけを冷たい人物として批判するなら、歌は単純な物語で終わります。
しかしサビでは「Think twice」という言葉によって、視線が聴き手へ向けられます。
自分には当たり前の一日が、別の誰かには手に入らない「楽園」かもしれない。その落差が、このタイトルを強い皮肉に変えています。
「Think twice」が残す問い
フィル・コリンズは、大げさな理想や解決策を示してはいません。
困っている人を見たとき、自分には関係がないと決める前に、もう一度考えてほしい。その短い呼びかけによって、街角の出来事は聴き手自身に関わる問題へ変わります。
1989年、フィル・コリンズが取り上げたホームレス問題
『アナザー・デイ・イン・パラダイス』は、1989年のアルバム『…But Seriously』から最初のシングルとして発表されました。

それ以前にも『You Can’t Hurry Love』『Against All Odds』『Sussudio』『One More Night』など多数のヒットを持ち、フィル・コリンズはジェネシスとソロの双方で1980年代を代表する存在になっていました。
重い題材を、聴きやすいポップスにした
この曲が扱うのはホームレスと社会の無関心です。しかし、題材の重さをそのままサウンドへ持ち込んではいません。
柔らかなキーボードと一定のリズムの上を、ボーカルが感情を抑えながら進みます。
聴きやすい旋律の中に、目をそらしにくい現実が置かれている。その対照が、この曲を単なるメッセージソングとは違うものにしています。
世界的なヒットとグラミー賞
『アナザー・デイ・イン・パラダイス』はアメリカのBillboard Hot 100で第1位を獲得し、英国でも最高第2位を記録しました。

さらに1991年、第33回グラミー賞では「Record Of The Year」を受賞しています。
社会的なテーマを扱いながら、世界規模のポップヒットになったことも、この作品を語るうえで欠かせません。
フィル・コリンズの公式動画をご覧ください
公式動画クレジット
曲名:Another Day in Paradise(アナザー・デイ・イン・パラダイス)
アーティスト:フィル・コリンズ(Phil Collins)
収録アルバム:『...But Seriously』
発表:1989年
作詞・作曲:フィル・コリンズ
プロデュース:フィル・コリンズ、ヒュー・パジャム
公開:Phil Collins公式YouTubeチャンネル
2行解説
ホームレスの女性と彼女を避ける通行人を通して、人が他者の困窮から目をそらす心理を描いた代表曲です。
穏やかな旋律と抑えたボーカルが、歌詞の厳しい内容を際立たせています。
フィル・コリンズは、なぜ声を張り上げないのか
これほど重いテーマを扱いながら、フィル・コリンズは怒りを前面には出しません。
淡々と歌うことで、聴き手を逃がさない
強い調子で誰かを糾弾すれば、聴き手は「批判されているのは自分ではない」と距離を置くこともできます。
ところが、この曲では目の前の出来事を一つずつ差し出すように歌います。善悪を決めつけないからこそ、通行人の行動を自分とは無関係だと片づけにくくなるのです。
『One More Night』と重なるところ
僕が『One More Night』を思い出すのも、この歌い方です。
一方は恋愛、一方は社会問題と題材は異なります。それでも、感情を大きく見せず、メロディーと声の表情だけで少しずつ引き込んでいくところに、僕が感じるフィル・コリンズのバラードの魅力があります。
HSCCは原曲をどう受け継いだのか

HSCC版の特徴は、曲を大胆に作り替えていないことです。
高い演奏技術を持つメンバーがそろっていますが、このカバーでは個々の技巧を目立たせるより、歌を支えることが優先されています。
「変えすぎない」カバーの面白さ
テンポや構成を大きく変えて原曲とは別の世界を作るカバーもあります。しかし、HSCCが選んだのは別の方向です。
原曲のテンポ感と骨格を尊重しながら、生演奏の質感を加えています。その結果、聴き慣れた曲の姿を保ったまま、スタジオ録音とは異なる親密さが生まれました。
ブラッド・ポレインはフィル・コリンズを真似しない
ブラッド・ポレインのボーカルも、フィル・コリンズをそのまま再現しようとはしていません。
落ち着いた声を中心に、ドラム、ベース、キーボードなどが必要な場所を埋めていきます。演奏者同士の動きまで見える映像だからこそ、一つの歌をバンド全体で作っている感覚も伝わります。
「社会問題」から一人の人間へ
原曲には「ホームレス問題を歌った世界的ヒット」という大きな看板があります。

HSCCの演奏を映像とともに聴くと、その看板より先に、助けを求める一人の女性と、そこを通り過ぎる一人の男性の姿が浮かびます。
社会全体についての歌であると同時に、目の前にいる誰かをどう見るのかという、とても個人的な物語でもあることが分かります。
1989年に聴いた曲を、今もう一度聴く
1989年の僕は、この歌を現在のように細かく読み解いていたわけではありません。まず耳に残ったのは、フィル・コリンズらしいメロディーと歌声でした。
それから長い年月が過ぎ、HSCCのカバーをきっかけに原曲へ戻ると、以前とは違う部分に意識が向きます。
曲は同じでも、聴き手は変わる
1989年の録音そのものは変わりません。しかし、31歳だった頃と現在とでは、同じ曲から受け取るものまで同じとは限りません。
若い頃には旋律や声に惹かれた曲から、年月を経て歌詞や背景が強く聞こえてくることがあります。昔から知っている音楽が、聴く側の時間によって別の表情を見せる。今回の再会にも、そんな面白さがありました。
35年以上を経ても残る「Think twice」
『アナザー・デイ・イン・パラダイス』の発表から35年以上が経過しました。
それでも、「困っている人を目の前にしたとき、人はどうするのか」という問題は特定の時代だけのものではありません。

フィル・コリンズが残したのは、「Think twice」という呼びかけです。
目の前の出来事を自分とは無関係だと決める前に、もう一度考える。その言葉が現在も意味を失っていないことが、この作品が1989年のヒット曲だけでは終わらなかった理由なのでしょう。
まとめ──もう一度立ち止まって聴きたい『アナザー・デイ・イン・パラダイス』
フィル・コリンズは『アナザー・デイ・イン・パラダイス』で、助けを求める女性と、その声を避けて歩き去る男性を描きました。
穏やかなサウンドの中に置かれているのは、他者の困窮をどこまで自分に関わるものとして受け止められるのかという問いです。
HSCCは曲の骨格を大きく変えず、ブラッド・ポレインの歌声と生演奏によって、現代のカバーとして鳴らし直しました。
僕にとっては、31歳だった頃に自然と耳へ入ってきた一曲です。当時感じたフィル・コリンズらしいバラードの魅力はそのままに、今では歌詞が投げかけるものまで含めて聴いています。
「Think twice」――もう一度、考えてみよう。
その短い言葉は、1989年から今まで、この曲の中心に残り続けています。


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