🎸僕の勝手なBest15【松山千春】編- 第6位『かざぐるま』をご紹介!

【松山千春の歴史】:—声で刻んだ半世紀~松山千春という名の風景——はこちらから!

【松山千春】編- 第6位『かざぐるま』―情念の原風景、その核心に迫る

読者の皆様、こんにちは。松山千春という稀代のシンガーソングライターの深淵を探る「僕の勝手なBest15」。
15位から始まったこの旅も、いよいよ佳境の第6位に到達しました。今回、光を当てるのは、1977年6月25日に彼のセカンドシングルとして世に放たれた一曲、『かざぐるま』です。アルバムとしては、デビューアルバムの「君のために作った歌」に収録されています。

『かざぐるま』はレコード盤の印象が強い楽曲ですが、当時はカセットテープ版でも発売されていました。海辺を背景に横顔を見せる松山千春の姿をあしらったジャケットは、レコードと同様に落ち着いた雰囲気を漂わせ、PONYレーベルの「松山千春ファースト」として代表曲「かざぐるま」をはじめ複数曲を収録。家庭用ステレオや車載オーディオなど、カセット全盛期ならではの環境で、多くのファンがこの情熱的な歌声を日常の中で堪能していました。

この曲は、単なる初期の代表曲という言葉では到底収まりきらない、松山千春というアーティストの「本質」と、その後の彼の音楽人生を決定づけた「情念の原風景」が凝縮された、記念碑的作品と言えるでしょう。

過去の記事では、時代背景や音楽スタイルといった側面から楽曲を解説してきましたが、今回は『かざぐるま』がなぜこれほどまでに聴き手の魂を揺さぶり、時代を超えて普遍的な力を持ち続けるのか、その構造を
「誕生の背景」「歌詞世界の深層」「サウンドプロダクション」「ライブでの昇華」
という4つの視点から、徹底的に解剖していきます。

🎥まずはいつものように、Youtubeの公式動画をご覧ください。

🎬 公式動画クレジット
提供:PONY CANYON
曲名:かざぐるま
アーティスト:松山千春
収録アルバム:松山千春ベスト32
作詞・作曲:松山千春
℗ Pony Canyon Inc.
リリース日:2007年9月26日(ベスト盤収録)

📖2行解説
松山千春が手掛けた「かざぐるま」は、穏やかなメロディと情感あふれる歌詞が魅力の一曲。ベスト盤『松山千春ベスト32』に収録され、長年にわたり多くのファンに愛され続けています。

時代の転換期に放たれた、異質な光芒

『かざぐるま』が生まれた1977年は、日本の音楽シーンが大きな転換点を迎えていた時代です。

音楽シーンの流れ

  • 70年代初頭を席巻したフォークソングブームは終焉
  • 洗練されたニューミュージックの台頭
  • さだまさし「雨やどり」、ハイ・ファイ・セット「フィーリング」のヒット
  • ピンク・レディーや沢田研二がチャートを席巻

音楽の多様化が一気に進んだ年でもありました。
そんな中、北海道のローカルラジオから彗星のごとく現れた21歳の青年が、デビューからわずか5ヶ月で提示したのが、この『かざぐるま』だったのです。


恩師・竹田健二の慧眼と「セカンドシングル」の戦略

デビュー曲『旅立ち』は、フレッシュな出発を歌った爽やかなフォークソング。
商業的成功を狙うなら、次はよりキャッチーな『銀の雨』(かざぐるまのB面)を選ぶのが定石でした。実際、千春本人もそう考えていた節があります。

竹田健二氏の選曲理由

「千春君、勘違いするな。君はフォークシンガーだぞ。一時だけ売れて、そしてもう”今は何をしてるんだろう”と言われる歌い手になりたいのか?
2枚目のシングルは『かざぐるま』でいく。そして『旅立ち』でデビューしたけど、松山千春はこういう大きな歌もしっかり歌えますよ、とみんなに知ってもらおう」

戦略的意図

  • 短期的なヒット狙いではなく、長く歌い続けるための「大きな歌」を提示
  • 松山千春のスケール感を世に示す
  • 一過性のフォークシンガーで終わらせないための布石

竹田氏の慧眼が、この一曲の価値を決定づけました。


創作の根源にあった焦燥と孤独

松山千春は自伝『足寄より』などで、この曲の創作背景を語っています。

創作を支えた感情

  • 全国フォーク音楽祭で落選した挫折感
  • 先の見えない日々の中で抱えた焦燥感
  • 何者にもなれない自分への苛立ち

これらの感情が、『かざぐるま』の根底に流れています。
恋愛歌の形を取りながらも、その深層には普遍的な人間の苦悩や実存的不安が横たわっており、聴く者の心の奥底にある孤独と共鳴する力を持つのです。

歌詞世界の徹底解剖 ― 依存と自己犠牲の果てに

『かざぐるま』の歌詞は、その一言一句が聴き手の心に突き刺さるような鋭さを持ちます。

第一部:絶対的依存と翻弄される「私」

歌詞抜粋(冒頭)
私の心は 貴方のうでの中
貴方の心は きままな風ね
貴方の言葉に 心乱れて
とまどう私は かざぐるま

解釈ポイント

  • 自我を完全に委ねた絶対的依存
  • 相手は掴みどころのない「きままな風」
  • 風(相手の言葉)によってのみ動く「かざぐるま」という比喩の妙

この比喩は、恋愛における自己喪失と翻弄される無力感を鮮明に描きます。


第二部:決別の恐怖と完全なる献身

歌詞抜粋(後半)
貴方にさよなら いわれたのなら
生きては行けない 私だから
いつでも貴方に きらわれぬよう
全てを捧げた 私だから

解釈ポイント

  • 「さよなら」=自己消滅という極端な等式
  • 生き延びるための手段としての自己犠牲
  • 根源的な承認欲求の表出

この献身の物語は、聴き手の奥深くにある「見捨てられたくない」という普遍的な感情を刺激します。


サウンドプロダクションの妙 ― 情念を増幅させる音の設計

この楽曲が持つドラマ性を最大限に引き出したのは、編曲家・松井忠重の卓越したサウンドデザインです。


松井忠重のアレンジが描く悲壮美

アレンジの特徴

  • 哀愁のフルート
    イントロの物悲しい旋律が、主人公の孤独と不安を象徴
  • 劇的なストリングス
    Aメロでは静かに寄り添い、サビで感情の波を一気に押し上げる構成

このダイナミクス設計が、歌詞の痛切さをさらに引き立てます。


日本最高峰のミュージシャンによる演奏

『君のために作った歌』収録バージョンの演奏陣は豪華でした。

主な参加ミュージシャン

  • 石川鷹彦(アコースティックギター):繊細かつ力強いストロークで楽曲の骨格を支える
  • 後藤次利(ベース):感情のうねりを反映したベースラインで深みを付与

こうした一流のプレイヤーが、一音一音に魂を込めた演奏は、作品に永遠の生命力を与えています。


ライブにおける深化と昇華 ― 魂の叫びへ

レコード音源が完成された「作品」としての『かざぐるま』だとすれば、ライブでのそれは、その時々の松山千春の感情がダイレクトに反映される、生々しい「魂の叫び」です。


弾き語りの凄み

アコースティックギター一本での弾き語りによる『かざぐるま』は、圧巻の一言に尽きます。

代表的なライブ例

  • 1986年・よみうりランドEAST(デビュー10周年記念)
    装飾をそぎ落とし、歌声とギターだけで表現
    しゃがれた声、絞り出すような発声、時に絶叫するような歌い方が、聴き手の胸を直撃

この形態では、歌詞の痛切さと主人公の心情がより鮮明に立ち上がります。


コンサートにおける特別な位置づけ

『かざぐるま』がコンサートでフルコーラス披露されることは、実はそれほど多くありません。
しかし、その希少性こそが演奏時のインパクトを何倍にも高めています。

意義と背景

  • アーティスト本人にとっても原点回帰の瞬間
  • 長年のファンにとっては感情を共有する特別な時間
  • 若き日の焦燥感だけでなく、人生経験を重ねた今だからこそ表現できる新たな響き

こうした要素が、ライブの『かざぐるま』を一期一会の体験にしています。


結論:原点にして、永遠のマスターピース

『かざぐるま』は、松山千春のキャリアにおける「原点」であると同時に、彼の音楽観や表現力がすでに完成された形で詰め込まれた作品です。


この曲が持つ3つの普遍的価値

  1. 情念の凝縮
    人間の弱さや孤独を真正面から描き切る力
  2. 普遍性
    恋愛だけでなく、人生のままならなさ全般に通じるテーマ
  3. 表現力
    若き日から現在まで一貫して響き続ける歌唱の力

恩師・竹田健二氏が見抜いた「大きな歌」の才能は、この『かざぐるま』で証明されました。
そして、その後の『長い夜』『人生の空から』など数々の名曲へと続く道筋を切り開きました。

風に吹かれて回り続けるしかない「かざぐるま」の姿に、私たちは恋愛のみならず、人生の様々な局面におけるままならなさを重ね合わせます。
だからこそ、この曲は時代や世代を超えて人々の心を捉え続ける――それが、『かざぐるま』が原点であり、同時に永遠のマスターピースである理由です。

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