「さだまさし」の歴史はこちら➡【語り続けて50年――さだまさしという生き方】
さだまさし:僕の勝手なBest15ー第12位は『つゆのあとさき』です。
第12位は『つゆのあとさき』です。優しくて美しい曲です。卒業シーズンに良く聴かれるということは、今日初めて知りましたが、歌詞を読み返すと納得です。
「ひとこと」という言葉が、こんなにきれいに聞こえることに驚きです。
♪まずはいつものように公式動画からご覧ください。
🎵 さだまさし「つゆのあとさき」―クレジット:
作詞・作曲:さだまさし/編曲:渡辺俊幸
配信元:Space Shower FUGA(YouTube自動生成)
収録アルバム:『さだまさし ベスト2』(2008年6月25日リリース) © 2004 U-CAN, Inc.
2行解説:
しとしとと雨が残る梅雨明けの情景を背景に、別れた恋人への未練と静かな哀しみを描いたバラードです。 さだまさし特有の語り口とメロディの美しさが融合した、心に染み入る名曲のひとつです。
🎵 さだまさし「つゆのあとさき」《1000回記念コンサート・ライヴ ver.》―クレジット:
作詞・作曲:さだまさし
アルバム:『1000回記念コンサート・ライヴ Vol.3』
発売日:1985年9月25日 © 1985 UCAN
配信元:Space Shower FUGA(YouTube自動生成)
2行解説:
コンサート通算1000回を記念して収録されたライブ音源。
円熟した語り口と歌声が、原曲の静謐な情感を一層深めています。
雨上がりに響く別れの抒情─さだまさし「つゆのあとさき」と1977年の情景
さだまさしの「つゆのあとさき」は、1977年7月25日にリリースされたアルバム『風見鶏』に収録された楽曲です。シングルとしては発売されませんでしたが、その静かな旋律と深い歌詞により、長く聴き継がれている名曲です。

本稿では、この楽曲が生まれた時代背景、音楽的な構造と表現、歌詞に込められた感情、さらには現代における再評価の動きまでを、多面的に掘り下げてご紹介します。
雨上がりに響く別れの抒情──さだまさし「つゆのあとさき」と1977年の情景
さだまさしの「つゆのあとさき」は、1977年7月25日にリリースされたアルバム『風見鶏』に収録された楽曲です。シングルとしては発売されませんでしたが、その静かな旋律と深い歌詞により、長く聴き継がれている名曲です。
本稿では、この楽曲が生まれた時代背景、音楽的な構造と表現、歌詞に込められた感情、さらには現代における再評価の動きまでを、多面的に掘り下げてご紹介します。
1977年──時代と向き合う旋律
内省と緊張が共存した日本社会
1977年の日本は、高度経済成長から安定成長期へと移行する中で、経済的には成熟しつつも社会的な不安が広がりつつありました。6月には三里塚闘争が激化し、成田空港建設を巡る問題が国民的な議論を呼びました。一方で、都市化が進み、地方と都市の感情的な乖離も目立ち始めていました。
政治や経済の分野では効率化が叫ばれた一方、人々の心の中では、より個人的で静かな感情の表現が求められるようになっていたのです。音楽においても、派手な演出や商業主義から距離を置いたフォークやアコースティックな楽曲が、深夜ラジオやFM放送を通じて、静かにリスナーの共感を集めていきました。

派手な時代の中で響く静けさ
同年の音楽シーンでは、ピンク・レディーの「UFO」や西城秀樹、沢田研二といったスターがテレビを賑わせる一方、井上陽水、松任谷由実、チューリップ、アリスといったアーティストが、より繊細な歌詞世界で確かな人気を築いていました。山口百恵が歌い、語るようなスタイルも共感を呼び、音楽の“聴かれ方”自体が多様になっていた時期です。
その中で「つゆのあとさき」は、メディアにあまり登場しないながらも、確かな存在感をもって浸透していきました。さだまさしの持つ語りの力は、映像よりも“言葉”を重視するFM文化にぴったりとはまり、静かに、しかし確実に耳と心を打ったのです。
音に込められた心象風景
雨のあとの静寂と透明感
「つゆのあとさき」は、イントロのアコースティック・ギターからしてすでに静謐な空気に包まれています。まるで雨が止んだ直後の、街の音が一瞬だけ消えるような瞬間を音で再現したかのようです。
旋律はゆったりとしたテンポで進み、音数を抑えた伴奏が、余白の美しさを際立たせます。どこか懐かしく、そして儚い響きは、耳に心地よく染み込んでいきます。渡辺俊幸によるアレンジは、さだの歌声を邪魔することなく、むしろその繊細なニュアンスをそっと持ち上げるように支えており、ストリングスやピアノの響きも控えめながら印象深いものです。

ボーカルには過剰なエフェクトがかけられておらず、むしろ息遣いやブレスの余韻が残されており、まさに“近くで語りかけてくる声”を感じさせます。録音はアナログ時代ならではの温かみのある音質で、雨上がりの湿度と冷たさ、その中にあるわずかなぬくもりまでが感じられるような、実に丁寧な仕上がりです。
加えて、旋律の静けさには、さだまさし特有の“ためらい”が含まれています。ピッチの揺れ、音と音の間の「間」、ブレスを置く絶妙なタイミング。それらがすべて「喋るように歌う」ことを可能にしており、聴き手はあたかも詩を一編一編手渡されるような感覚を味わうのです。
卒業という寓話に託された別れ
この曲の核心は、別れの場面を“卒業式”に置き換えた比喩的な世界観です。歌い出しの「一人歩きを始める 今日は君の卒業式」には、恋人や友人との離別を、晴れやかな門出として描こうとする試みが込められています。
「折からの風に少し 心のかわりに髪揺らして」という一節は、言葉にできない思いを自然現象に仮託する、さだらしい詩的技巧の冴えです。そして「倖せでしたと一言 ありがとうと一言」という簡潔な言葉に、愛情の記憶をそっとたたみ込むその姿勢には、余計な装飾を排した誠実さがにじみます。

終盤の「トパーズ色の風」という表現は、視覚的な鮮やかさと感情の混濁を見事に融合させています。宝石のような語彙が、感情の断片に輪郭を与え、聴く人の想像力に訴えかけてくるのです。
ラジオが育てた静かな名曲
メディアに背を向けながら届いた旋律
「つゆのあとさき」は、シングルリリースされず、テレビ出演もほとんどない楽曲でした。しかし、FM放送や深夜ラジオ、有線放送などを通じて、じわじわと人気を高めていきました。
当時のリスナーにとって、夜の静けさの中で流れる音楽は、他のどんなメディアよりも親密で、個人的な体験そのものでした。誰にも話せなかった思い、言葉にならなかった感情が、この歌とともに呼び起こされたという証言も少なくありません。

名曲は時を越えて共鳴する
その証左として、この曲は1970年代を知る世代だけでなく、いま再び若い世代にも聴かれ始めています。ストリーミング時代の今、さだの作品がSpotifyやYouTubeで静かな人気を集めていることも、この歌の力の証明にほかなりません。
「つゆのあとさき」は1998年3月25日に、さだのシングル「風のおはなし」のカップリングとして初めてシングル化されました。そして2003年には森山良子がカバーアルバム『さとうきび畑〜童神』にて取り上げ、この曲は再び注目を集めることになります。
2024年には「さだまさし50周年記念コンサート」にて披露され、その模様がSNSなどを通じて広まりました。「言葉が心に沁みる」「時代を超えて届く歌」といった反応が多く見られ、まさに“新しい世代の愛唱歌”となりつつあるのです。
卒業シーズンや梅雨の終わりには、SNSで歌詞が引用されるなど、1977年の風を現代に吹き込むような存在感も宿しています。
ひとしずくの別れに寄り添う歌
「つゆのあとさき」は、別れを“悲しみ”だけでなく“慈しみ”として捉え直した、さだまさしの詩的感性が光る作品です。過剰な感情表現や演出を避けたその手法は、だからこそ聴く人に深く染み入ります。
雨が上がったあとの空気が、一瞬だけ世界を変えるように、この歌もまた、聴く人の心にそっと手を添えてくれるのです。すべての「ありがとう」を伝えきれなかった人たちへ、この旋律が届きますように。

◆歌詞はこちらのページからどうぞ➡
【歌ネット(Uta-Net)】 URL例:https://www.uta-net.com/song/41316/
コメント