【4月26日】はジョニ・ミッチェルの誕生日:『 Both Sides Now』-雲の彼方へ-をご紹介!

今日ジョニ・ミッチェルの誕生日!

1943年11月7日、カナダ・アルバータ州生まれ。
1960年代後半からシンガー・ソングライターとして活躍し、フォーク、ロック、ジャズを自由に行き来する独自の音楽世界を築きました。

代表作『Both Sides Now』『Big Yellow Taxi』『A Case of You』などで知られ、1971年のアルバム『Blue』は歴史的名盤とされています。繊細な歌声と詩的な歌詞、自由な精神は、今も多くのアーティストに影響を与え続けています。

はじめに──時代を越えて響く普遍のバラード

1969年、ジョニ・ミッチェルはアルバム『Clouds』に、自作の名曲「Both Sides Now(邦題:青春の光と影)」を収録しました。この楽曲は、それに先立つ1967年、ジュディ・コリンズがアルバム『Wildflowers』でカバーしたことにより広く知られるようになった経緯を持ちます。
「Both Sides Now」は、雲、愛、人生という普遍的テーマを軸に、人間の視点や感情の変容を瑞々しく、かつ哲学的に捉えた作品です。そのシンプルな構成と深遠な内容は、リリースから半世紀以上が経過した今なお、多くの人々の心に響き続けています。

まずは、Youtube公式動画で楽曲紹介です。

クレジット:
動画提供:YouTubeチャンネル「Joni Mitchell」
楽曲:「Both Sides Now」
アーティスト:Joni Mitchell
著作権:© 2000 Reprise Records
クレジット:
動画提供:YouTubeチャンネル「Joni Mitchell」
楽曲:「Both Sides Now(2021リマスター)」
アーティスト:Joni Mitchell
著作権:© 2021 Reprise Records

この動画は、ジョニ・ミッチェルの代表曲「Both Sides Now」の2021年リマスター版公式音源です。

僕がこの曲を初めて聴いたのは

この曲を始めて聴いたのは、学生時代のいつもの世田谷の小さなアパートだったと思います。
リリース時(僕は小学5年生)はおろか、20歳前後まで聴いたことがありませんでした。

耳にした経緯は覚えてませんが、毎日音楽の洪水の中で暮らしているような時期だったので、どこかで入ってきたのでしょう。

優しくも儚く、しんみり聴けるそんな一曲でしたね。心に残る楽曲です。


1960年代アメリカ──変革のうねりの中で

1960年代後半、アメリカ社会は激動の真っただ中にありました。

  • ベトナム戦争泥沼化による反戦運動の高まり
  • 公民権運動の新たな局面
  • カウンターカルチャーの台頭

音楽界では、ボブ・ディランやジョーン・バエズがフォークソングを武器に社会に訴えかけビートルズは『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』で音楽革命を巻き起こしていました。
サイケデリック・ロックやブルースロックが華やかに台頭するなかで、ジョニ・ミッチェルはアコースティックギターと内省的な詩情で、静かにしかし確かな存在感を放っていきます。


作品構造──三つのテーマに託した両面の世界

「Both Sides Now」は、三つの連(ヴァース)で構成されています。
それぞれが、「雲」「愛」「人生」という抽象的なテーマを異なる角度から照らし出しています。

雲(Clouds)──空と地上からの視点

初めて飛行機に乗ったとき、ミッチェルは雲を見下ろし、地上から見上げていたそれとは異なる姿に気づきます。
この体験から、視点によって世界の見え方が大きく異なるという気づきが生まれ、それが詩となって結晶しました。

愛(Love)──喜びと痛みの交錯

次のヴァースでは、愛がもたらす喜びと痛みを描きます。
I really don’t know love at all(私は愛について本当には何も知らない)」というリフレインは、愛に対する素朴な疑問と、経験から得た謙虚な認識を静かに語りかけます。

人生(Life)──勝敗を超えて

最後のヴァースでは、成功と失敗、希望と失望といった人生の両面性を描きます。
それでも「I really don’t know life at all」という告白に至るこの流れは、若き日のミッチェルにして既に達観した深い洞察を感じさせます。


ジョニ・ミッチェルの革新──オープンチューニングと詩的感性

ギター奏法の革命

ミッチェルは10代のころポリオに罹患した影響から、独自のギター奏法――オープンチューニングを確立しました。
これにより、通常のコード進行にとらわれない、自由で豊かなハーモニーが生み出され、「Both Sides Now」の抒情性を支えています。

詩と音楽の融合

また、幼少期から親しんだ詩作と絵画の素養により、ミッチェルの楽曲は純粋な音楽作品であると同時に、一編の詩のような美しさを持っています。
彼女の作品群は、個人的な体験を通じて普遍的な人間の感情へと昇華する独自性を確立し、後続のシンガーソングライターたちに多大な影響を与えました。


誕生秘話──飛行機と詩人の影

「Both Sides Now」が生まれるきっかけは、飛行機から見下ろした雲に対する新鮮な驚きでした。
加えて、ミッチェルが影響を受けた詩人、ウィリアム・ブレイクの「世界は両義的である」という思想もまた、楽曲の根底に流れています。
この両面性への意識が、単なる自然描写を超えた哲学的な深みを作品に与えているのです。


広がるカバー──ジュディ・コリンズの成功とその後

初めてリスナーに届いた歌声

「Both Sides Now」は、1967年にジュディ・コリンズによって初めて広く知られることとなりました。コリンズのクリスタルのように澄んだ歌声は、1968年、ビルボードチャートでベスト10入りを果たし、グラミー賞も受賞。
この成功をきっかけに、ジョニ・ミッチェルの作家としての名声も確立されました。


時代を越える再解釈──2000年オーケストラ版

成熟した歌声と重厚なアレンジ

2000年、ミッチェルは『Both Sides Now』というタイトルのアルバムを発表し、自らの人生を振り返る形で同曲を再録音しました。
ロンドン交響楽団による荘厳なアレンジと、円熟した深みのある歌声が融合し、若き日の無垢な世界観に、老練な諦観と愛着が重ねられています。
この再解釈は、オリジナルとはまた異なる感動をもたらしました。


映像作品と「Both Sides Now」──心に残る使われ方

この楽曲は、多くの映像作品で印象的に使われています。

映画での印象的な使用例

  • 『ラブ・アクチュアリー』では、愛の形の複雑さと喪失感を描き出すシーンで
  • 『CODA あいのうた』では、家族の絆と成長の物語に優しく寄り添う形で

時代や世代を超えて、人生の複雑さを抱えながら歩む人々の物語に、そっと寄り添う楽曲として生き続けています。


おわりに──変容を受け入れることの美しさ

「Both Sides Now」は、人生を単なる成功や失敗の物語としてではなく、移ろい続けるもの、理解しきれないものとして優しく肯定します。
私たちは何かを理解したと思っても、また新たな側面に出会い、迷い、そして見つめ直す。
雲の流れのように絶えず変化し続ける人生を、「Both Sides Now」はそっと、しかし力強く歌いかけているのです。

『Both Sides Now』全体意訳

雲を見上げていた幼い頃、天使の髪や氷の城に夢を重ねた。
けれど今、雲は太陽を遮り、雨や雪をもたらす存在に変わった。
夢に満ちた目で世界を見ていたはずが、現実の影がその眩しさを曇らせてゆく。

恋もまた、かつては魔法のようだった。
フェリスホイールに乗るような胸の高鳴り、童話のような奇跡を信じた。
だがやがて、愛はすれ違い、別れ、静かに傷跡を残すものとなった。
求めても届かず、与えても報われず、それでも愛を知らないとは言えない自分がいる。

生きることも同じだった。
未来は希望に満ち、どんな夢も掴める気がした。
けれど時を重ねるうちに、失うもの、変わるものの重みを知った。
それでも、失った先に得たものがあり、日々を生きることの尊さに気づく。

私は雲も、愛も、人生も、両側から見てきた。
けれど結局のところ、何一つ本当には理解できたとは言えない。
それでもなお、見上げる空に、歩んだ道に、愛した日々に、確かな思いを重ねている。 by Ken


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