5月24日はスティーヴ・アプトンの誕生日!
スティーヴ・アプトン(Steve Upton)は、1946年5月24日、イギリス・サリー州のウェスト・ドレイトンに生まれたドラマーです。
彼は1970年に結成された英国のプログレッシブ/ハード・ロックバンド「ウィッシュボーン・アッシュ(Wishbone Ash)」の創設メンバーであり、20年にわたりバンドの屋台骨を支えるドラマーとして活躍しました。
そのプレイはテクニカルでありながらも楽曲の構成に寄り添った堅実なスタイルが特徴で、ツイン・リード・ギターと並ぶバンドの重要要素とされました。1990年に音楽業界から引退していますが、クラシック・ロックファンの間で今なお高く評価されています。
まずはYoutubeの公式動画をご覧ください。
【クレジット】
曲名: Front Page News
アーティスト: Wishbone Ash
作詞・作曲: Steve Upton / Laurie Wisefield / Martin Turner / Andy Powell
プロデューサー: Howard Albert / Ron Albert
リリース年: 1977年(UMG Recordings, Inc.)
【2行解説】
ツイン・リード・ギターで知られるウィッシュボーン・アッシュの中期を代表するナンバー。
柔らかなアメリカン・ロックの響きに乗せて、静かな抒情と余韻が胸に広がる佳曲です。
僕がこの曲を初めて聴いたのは
My Age | 小学校 | 中学校 | 高校 | 大学 | 20代 | 30代 | 40代 | 50代 | 60才~ |
曲のリリース年 | 1977 | ||||||||
僕が聴いた時期 | ● |
僕がこの曲を初めて聴いたのは、大学時代に間違いありませんが、その間のいつだったかは覚えていません。ただ、大分県の臼杵市にいる従妹が「Kenちゃん、ウィッシュボーン・アッシュって知ってる?いいんよ!」といったのがきっかけで、彼らを知ることになります。

何枚かのアルバムを聴いてみましたが、あまり僕のタイプではなかった気もします。しかしツインリードギターの空間的な広がりは素晴らしく、音がとにかくきれいでしたね。
ただ、今日ご紹介する「Front Page News」だけは、大好きでこれまで何回リピートさせたかわかりません。重ねますが、ボーカルも演奏も本当にきれいな音です。
はじめに パンクの時代に鳴らされた穏やかな声
1977年、イギリスのロックバンドWishbone Ashはアルバム『Front Page News』を発表し、その表題曲である「Front Page News」は、当時の音楽潮流に逆行するような静けさをまとっていました。
この年のイギリスは、セックス・ピストルズやクラッシュといったパンク勢の勃興により、怒りやスピード感に満ちた楽曲が主流を占めていました。
しかし、Wishbone Ashが奏でたのは、内省的で抒情的なメロディライン、そして穏やかな語り口。
ギターの絡み合いと優しいボーカルで聴き手の心に静かに語りかける本曲は、派手さではなく“深さ”で評価される一曲となりました。
アメリカ南部で収録された英国ロック
「Front Page News」は、アメリカ・フロリダ州セントピーターズバーグのCriteria Studiosで録音されました。
ブリティッシュ・ロックのバンドが、南国の湿気と陽光に包まれながらレコーディングを行ったことは、作品全体に漂う開放的な空気感に少なからず影響を与えています。

プロデュースを手がけたアルバート兄弟の力量
本作のプロデュースは、ロン・アルバートとハワード・アルバートの兄弟が担当しました。
彼らは、デレク・アンド・ザ・ドミノス(クラプトンのLAYLAアルバムですね!)やオールマン・ブラザーズ・バンドなど、アメリカ南部の重鎮たちの作品にも関与してきた経験豊富なエンジニア/プロデューサーです。
この兄弟の手により、「Front Page News」には英国的な叙情性と、アメリカーナに通じる音の広がりが共存する仕上がりが生まれました。

Wishbone Ashの繊細な演奏が、南部的な温かみと空間性を得て、より一層心地よいものへと昇華しています。
音の構造と演奏に宿る抒情
この曲では、Wishbone Ashの代名詞ともいえるツインリードギターが美しい調和を奏でています。
加えて、アンディ・パウエルによるマンドリンのプレイが冒頭に挿入され、楽曲全体に穏やかな空気を吹き込んでいます。
ツインリードギターの空間的な広がり
左右に配置されたギターの旋律は、単なる重ね合わせではなく、対話をするかのような繊細なアンサンブルを展開します。一方がリードを取れば、もう一方は包み込むように補完し、まるで風景を描く筆致のように空間に旋律が浮かび上がります。
ステレオ再生によってその立体感は一層明瞭になり、聴き手はまるで演奏の中心に座っているかのような臨場感を味わえます。

シンプルなコードに宿る表現の妙
使用されているコード進行はEm–D–C–Gという非常に親しみやすいパターンです。
しかし、演奏の表情付けや“間”の取り方によって、単純な構成が奥行きと抑揚をもって展開されていきます。

ギターは歪みを抑えたセミクリーントーンで、柔らかく透明感のある音を響かせます。
ベースは低域をしっかり支えながらも、時おりメロディに寄り添うような動きで表情を加え、ドラムは音数を絞ったプレイで、空間を引き締めています。
演奏と詩が対話する構造
この曲のアレンジは、単に美しい演奏を聴かせるためだけではなく、歌詞の内容を自然に際立たせる構成となっています。
サビへの盛り上がりや間奏の挿入は、言葉の余韻を受け止め、次の感情へと橋渡しをする重要な役割を担っています。
歌詞が描くのは再生と優しさ
「Front Page News」の歌詞には、大きな社会的メッセージや明確な抗議の姿勢はありません。
むしろ、個人的な再会や心の癒しといった、ささやかだけれども重要な感情が丁寧に描かれています。
見出しになるのは、誰かの小さな物語
「Everybody’s talkin’, front page news」と繰り返されるサビは、単なるニュースの喧騒を皮肉るものではなく、一人の人間の再生の瞬間が、世界にとって大きな意味を持ちうることを、優しく肯定しているように響きます。
かつての恋人、あるいは友人との再会、もしくは自分自身との和解。
そういった内面的なテーマが、センセーショナルではない言葉と穏やかな旋律で語られていきます。

ライブ演奏における深化と呼応
ライブでは、曲の冒頭でマンドリンの音が響いた瞬間、会場に心地よい緊張と期待が生まれます。
観客は静かに耳を澄まし、音の一つひとつを受け取ろうとする。その空間全体が、演奏の一部となっていくような感覚があります。

即興が生む一期一会の演奏
ライブでは、ギターソロや間奏に即興性が加わることも多く、楽曲はそのたびに新しい表情を見せます。その場の空気を受け取って展開されるアンサンブルは、まさに“音の対話”と呼ぶにふさわしいものです。
ツインリードの自由なやりとりが、曲の内面をさらに深く掘り下げ、聴くたびに違う感情を引き出してくれます。
時代を越えて再評価される名曲
アルバム『Front Page News』は、1977年当時のUKチャートで31位にランクインしました。
時代の風潮とはやや異なるスタイルだったためか、大ヒットには至りませんでしたが、楽曲の完成度は高く、一部のリスナーや評論家からは「異色の秀作」として高く評価されていました。

デジタル時代にこそ響く静けさ
近年ではSpotifyやApple Musicなどのストリーミングサービスで「クラシック・ロック」や「隠れた名曲」プレイリストに選ばれ、若年層を中心に再び注目を集めつつあります。
TikTokではこの楽曲の一節に映像を組み合わせた投稿が行われることもあり、その優しい語り口が、時代を越えて共鳴し始めています。
おわりに “心の見出し”を届ける音楽
「Front Page News」は、Wishbone Ashの音楽が持つ繊細さと誠実さを象徴する一曲です。
ツインリードギターとマンドリンが織り成す音、深く静かなボーカル、そして何よりも歌詞に込められた思い。
誰かにとっての“ニュース”は、新聞の一面ではなく、日常の中にひっそりと咲く感情にある――この曲は、それを音楽としてそっと伝えてくれます。
今この瞬間も、どこかの誰かにとって「Front Page News」が、その人だけの見出しとして届いているかもしれません。
『 Front Page News』― Wishbone Ash』:意訳
旅長い旅を終えてようやく戻ってきたその瞬間、眩い光と誰かの手が、かつての記憶と温もりを呼び起こす。
名前が掲げられ、心の奥の不安が和らいでいく。
人々は皆、目新しいニュースに騒ぎ立てるけれど、本当に大切なのは、ブルースを脱ぎ捨てて、自分を立ち上がらせてくれる声や存在なのだ。
選ぶ道が何であれ、たとえ何も持っていないと思っても、人は誰しも失うものを抱えている。
甘い夢の中で時を費やすわけにはいかないし、時間さえあれば答えは見つかる。
でも、気づけば一夜の幻想に流されることもある――そんな自分を抱きしめながらも、
雲の中に見た面影、太陽を辿って辿り着いた愛のもとで、やっと本当の場所に帰ってきたという実感が胸に満ちる。
すべてがニュースになるこの世界で、自分の真実だけは、自分の中にある。
by ken
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