🎹【5月16日】はロバート・フリップの誕生日です。
今日5月16日。プログレッシブ・ロックの開拓者として知られるギタリスト、ロバート・フリップの誕生日です。1946年、イングランド南西部のドーセット州ウィムボーン・ミンスターで生まれた彼は、1969年にロンドンでキング・クリムゾンを立ち上げ、以降、革新的な音楽活動を半世紀以上にわたって続けてきました。
クラシックやジャズの素養を持ち、数学的な構造と即興性を融合させたフリップのギタースタイルは、ロックの表現の可能性を根本から拡張したと評されています。なかでも、1969年に発表されたデビューアルバム『クリムゾン・キングの宮殿』に収録された『Epitaph(エピタフ)』は、彼の音楽理念が結晶した象徴的な作品です。
本日は、フリップの誕生日にちなんで、この重厚で詩的な一曲『エピタフ』をご紹介します。
まずはYoutubeで King Crimsonの公式動画をご覧ください。
🎼 クレジット(作曲・作詞)
作曲/演奏:
Robert Fripp(ギター)
Greg Lake(ボーカル/ベース)
Ian McDonald(メロトロン/フルートなど)
Michael Giles(ドラム)
作詞:Peter Sinfield
✍️ 2行解説:
1969年の名盤『In the Court of the Crimson King』に収録された叙情的かつ重厚なバラード。人類の破滅と知識の危うさを詩的に描いた歌詞とメロトロンの荘厳な響きが深い余韻を残します。
🎼 クレジット(Liveメンバー/演奏者)
📍公演日:2015年11月20日
📍会場:Queen Elizabeth Theatre(カナダ・トロント)
✍️ 2行解説:
1969年の名曲「Epitaph」が、2015年のトロント公演で荘厳かつ重厚に再演。3人のドラマー体制による厚みのあるサウンドと、ジャッコ・ジャクスジクの抑制された歌唱が新たな生命を吹き込んでいます。
僕がこの曲を初めて聴いたのは
My Age | 小学校 | 中学校 | 高校 | 大学 | 20代 | 30代 | 40代 | 50代 | 60才~ |
曲のリリース年 | 1969 | ||||||||
僕が聴いた時期 | ● |
リリースは僕が小学校5年生頃ですので、当時は聴いていません。
間違いなく、大学時代あの東松原のアパートの自室で聴きました。
でも、どういう経緯で聴いたのかは思い出せません。でもアルバムは持っていました。
恐らく『クリムゾン・キングの宮殿』を聴きたくて購入したと思います。この曲もぜひ聴いていただきたいお勧めの一曲ですが、やはりオッたまげたのは「エピタフ」ですね。
イントロの➡どこまで行くのか??と思うくらい際限ない増音。このエピタフを小音で聴くのはもったいないとしかいいようがありません。どうか音量を可能な限り最大限まで上げて聴いてほしいですね。とにかくその迫力たるや、オッたまげです!! (;”∀”)
後、「ムーンチャイルド – Moonchild 」も良いのですが、長尺です。( 12:13!!!)
アーティストの背景と時代
キング・クリムゾンという革新
1968年11月、ロンドンで立ち上げられたキング・クリムゾンは、1969年1月に本格的な活動を開始します。ギタリストのロバート・フリップを中心に、グレッグ・レイク(ボーカル/ベース)、マイケル・ジャイルズ(ドラム)、イアン・マクドナルド(キーボード/管楽器)、ピーター・シンフィールド(作詞)という、ロックの域を超えた音楽家と詩人が集い、前例のない音楽世界を築いていきます。

彼らはデビュー作にして、のちに“プログレッシブ・ロック”と呼ばれるジャンルの基礎を築きました。複雑な楽曲構成、文学的な詞、重厚なメロトロンの響き、クラシック音楽やジャズの影響などを融合させた音楽は、当時のロックシーンに異彩を放ちました。
1969年~世界と音楽が交差した年
1969年は文化的にも社会的にも大きな転換点でした。アメリカではベトナム戦争の汚水化が続く中、反戦運動が広がり、7月には人類初の月面着陽が実現しました。ウッドストック・フェスティバルの熱狂が世界中に広がり、ロックが社会変革の象徴として機能しはじめていた時期でもあります。
イギリスでは、ビートルズがラストアルバム『アビイ・ロード』をリリースし、ロックの黄金時代が幕を閉じつつありました。そこへ登場したキング・クリムゾンは、サイケデリックから知性と構築性を重視した“新しいロック”へと、潮流を変える存在となります。
メロトロンの重厚さが放つ世界の終末感
『エピタフ』が収録されたアルバムは1969年10月10日にリリースされました。まだ録音技術が現在ほど発達していない時代にもかかわらず、同作は荘厳かつ鮮烈な音像で聴く者に衝撃を与えました。
とくに『エピタフ』は、メロトロンによる重層的な和音、ティンパニとギターが繵む張り迫った空気、レイクの低く深い歌声などが混然一体となり、冷戦下の不安と内省的な哲学を音に映し出しました。

若き音楽家たちの一点突破
30歳前後のフリップを始め、従同のメンバー全員が20代前半という若さで、この作品を創造しあげたことも特等に値します。アルバム制作後、短期間で多くのメンバーが脱退しますが、その短命ささえも伝説を形づくる要素となり、後続のアーティストに計り知れない影響を与えました。
『エピタフ』は単なる音楽作品ではなく、“世界の終わり”というテーマを詩と音で描き切った英術的ドキュメントであり、当時の空気を生きた者たちの魂の痕跡といえるでしょう。
エピタフのリリース背景と構成
1969年10月10日、キング・クリムゾンのデビュー・アルバム『In the Court of the Crimson King』がアイランド・レコードよりイギリスでリリースされました。『Epitaph(エピタフ)』は、そのA面の最後、アルバム全体の中核を担う位置に配置された約8分50秒の楽曲です。作詞はピーター・シンフィールド、作曲はバンドメンバー全員による共作とされ、ロバート・フリップ、イアン・マクドナルド、マイケル・ジャイルズ、グレッグ・レイクが名を連ねています。
アルバム全体は5曲構成ですが、そのなかでも『エピタフ』は最もシリアスで重厚な楽曲です。録音はロンドンのウェンブリーにあるWessex Sound Studiosで行われ、アナログ機材による慎重なマルチトラック録音が施されました。

楽曲の構成は序盤・中盤・終盤と三部形式に近く、嬰ハ短調(C♯m)を基調に、循環するコード進行と情感豊かな旋律が展開されます。特にメロトロンの和声的な使い方は当時としては革新的で、クラシック音楽的な構築美をロックに持ち込んだ一例として、のちのプログレッシブ・ロック・バンドの手本となりました。テンポはおおよそBPM60前後、ゆったりとした進行が全編に静かな緊張感を漂わせています。
中間部では、マクドナルドによる木管楽器とメロトロンが重なる印象的なパートがあり、後半ではテーマが再提示されて静かに幕を閉じる構造。この「起伏は抑えながらも深く揺さぶる」スタイルは、後年の映画音楽やアンビエントにも大きな影響を与えました。

歌詞やサウンドの魅力
詩的世界が映す“終末”のイメージ
『エピタフ』の最大の魅力は、その深い詩世界と、それを支える重厚なサウンドスケープにあります。作詞を手掛けたピーター・シンフィールドは、冷戦下の不安や人類の行き先に対する絶望感を、寓話的かつ暗示的な言葉で描いています。
冒頭の一節──
“The wall on which the prophets wrote is cracking at the seams”
(預言者たちが記した壁は綻び始めている)
という象徴的なイメージは、理想が崩壊しつつある世界の終焉を示唆しています。
そしてサビに繰り返される
“Confusion will be my epitaph”
(混乱こそが私の墓碑銘となる)
という一節は、自己喪失と時代の不確かさに対する静かな叫びであり、聴き手に強烈な余韻を残します。

『エピタフ』──崩れゆく時代と向き合った詩
若者たちの心を映した1969年の叫び
1969年に発表されたキング・クリムゾンの『エピタフ』は、当時の社会不安や若者の閉塞感と深く共鳴した楽曲です。未来への恐れと諦念が交差するその詩世界は、リスナーに「これは自分の歌だ」と感じさせる力を持っていました。
音による終末の描写と構成の革新
グレッグ・レイクの抑制されたボーカル、イアン・マクドナルドのメロトロンや木管楽器が描く厚みのある音空間、そしてマイケル・ジャイルズの静けさを活かすドラムが重なり、楽曲全体に終末的な荘厳さを与えています。
ロックの常識を覆した静かな革命
このような作風は、当時のロックの形式や演出を再定義し、後のプログレッシブ・ロックや映画音楽にまで影響を与えました。派手なギターや盛り上がりに頼らず、構造そのものがメッセージとなっています。

再評価と現代への浸透
9分近い長尺でラジオ向きではなかったものの、1997年のライブ盤『Epitaph』のリリースや配信時代の到来を契機に、再評価の波が広がります。ストリーミングを通じて若い世代にも届き、今ではYouTubeなどでも多く語られる存在となりました。
ポストアポカリプス的世界観との親和性
近年では、その終末的な美しさから、文明崩壊後を描く映像作品との親和性にも注目が集まっています。『エピタフ』に込められた「時代の終焉」という主題は、現代においても強い共鳴を呼び起こしているのです。
『エピタフ』―King Crimson・・・意訳
かつて預言者たちが未来を託して記した言葉は、今やひび割れ、崩壊の兆しを見せている。
人々の手に握られた死の道具が光を反射し、その光の中で、人間の心は夢と悪夢のはざまで引き裂かれていく。
栄光の冠を誰も掲げることなく、静寂が叫び声を呑み込み、世界は音もなく壊れていく。この混沌こそが、私自身の「墓碑銘」なのだ。
傷ついた道を這い進みながら、もしも私たちがこの時代を生き延びたとしても、その先に待っているのは笑いではなく、涙かもしれない。
明日になれば、私はまた泣いているだろう――そう思わずにはいられない。運命という名の鉄の門の下に蒔かれた時間の種は、かつて知恵ある者たちの行いによって育まれてきた。
だが今、知識は裏切りの刃となり、人類の未来は、無知と傲慢に支配された者たちの手に委ねられている。
誰もルールを定めようとはせず、その結果、すべての人間の運命は漂流する舟のように揺れ動いている。私はただ、何度も、何度も泣く。
静かに、声にならぬ嘆きとともに。
そして明日もまた、私は泣いているかもしれない。
そう――“希望の不在”こそが、この歌の核心なのだ。
by ken
番外編:プログレッシブロックとは?
定義(簡潔版):
1960年代後半にイギリスで誕生した、高度な構成・技巧・哲学性を特徴とするロック音楽。クラシックやジャズ、電子音楽などの要素を取り入れ、長尺曲やコンセプト・アルバムを通じて「芸術としてのロック」を志向したジャンル。
特徴:
- 長い曲(10分超)や組曲形式
- 変拍子・多楽章・即興要素
- メロトロン、シンセなどの導入
- SF、文学、哲学をテーマにした歌詞
- ステージ演出やアートワークも重視
🎼 プログレッシブ・ロック主要アーティスト・作品年表(簡易版)
年代 | 主なアーティスト | 代表作・動き | 備考 |
---|---|---|---|
1967年 | ピンク・フロイド | 『The Piper at the Gates of Dawn』 | サイケからの始動 |
1969年 | キング・クリムゾン | 『In the Court of the Crimson King』 | プログレの夜明けとされる金字塔 |
1970年 | ELP(エマーソン・レイク&パーマー) | 『Emerson, Lake & Palmer』 | クラシックとの融合を展開 |
1971年 | イエス | 『Fragile』 | 「Roundabout」収録 |
1972年 | ジェネシス | 『Foxtrot』 | 「Supper’s Ready」収録 |
1973年 | ピンク・フロイド | 『The Dark Side of the Moon』 | 世界的メガヒット、概念アルバムの完成形 |
1974年 | キング・クリムゾン | 『Red』 | よりハードでミニマルな方向へ |
1975年 | ルネッサンス | 『Scheherazade and Other Stories』 | クラシカルで叙情的な女性ボーカル中心 |
1976年 | キャメル | 『Moonmadness』 | 叙情派プログレの代表作 |
1977年 | ジェントル・ジャイアント | 『The Missing Piece』 | 頭脳派・実験的アンサンブルの終盤期 |
1979年 | ピンク・フロイド | 『The Wall』 | ロックオペラ形式で社会批判を展開 |
1983年 | マリリオン | 『Script for a Jester’s Tear』 | ネオ・プログレの幕開け |
1992年 | ドリーム・シアター | 『Images and Words』 | メタル+プログレの融合、現代プログレの象徴 |
1999年 | ポーキュパイン・ツリー | 『Stupid Dream』 | メランコリックな現代的音像で再評価 |
2000年代以降 | スティーヴン・ウィルソン(ソロ)、Tool、The Mars Volta | 現代プログレの多様化 | ポスト・ロック、オルタナとの接続も |
💡補足
- 中心的時代は1970年代前半(いわゆる“黄金期”)
- 1980年代以降はネオ・プログレ/ポスト・プログレとして再構築
- 再評価の波は1990年代末以降の配信・ライブ盤・再結成により加速
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