🎧 この記事を音声で楽しむ
この記事の要点を、ナレーションで手軽に確認できます。
本文を読む前に、10cc『恋人たちのこと』の魅力や、グレアム・グールドマンについての記事全体の流れをつかみたい方におすすめです。
🎵 日本語ナレーション
この記事の内容を日本語で紹介する音声です。
🎶 英語ナレーション
この記事の内容を英語で紹介する音声です。
音声を先に聴くことで、『恋人たちのこと』の甘さの奥にある切なさと、この記事の要点をよりつかみやすくなります。
今日は、グレアム・グールドマンの誕生日
グレアム・グールドマンは1946年5月10日、イングランド・マンチェスター生まれ。
10ccの中心人物として知られる一方、彼のキャリアはバンド結成よりずっと前から始まっています。
1960年代には、ヤードバーズの「For Your Love」、ホリーズの「Bus Stop」などを手がけ、若くしてソングライターとして頭角を現しました。そして1972年、エリック・スチュワート、ケヴィン・ゴドリー、ロル・クレームとともに10ccとして本格的な活動を開始します。
ひねりの利いたポップ、緻密なスタジオワーク、そして一筋縄ではいかないユーモア。そんな10ccの音楽の中で、僕がとりわけ好きなのが「People in Love(恋人たちのこと)」です。
まずはYouTubeの公式音源をお聴きください。
🎵 クレジット情報(公式音源)
曲名:People In Love(恋人たちのこと)
アーティスト:10cc
作詞・作曲:Eric Stewart, Graham Gouldman
プロデューサー:10cc
収録アルバム:『Deceptive Bends』(1977年)
レーベル:Mercury Records
初出音源リリース年:1977年
僕がこの曲を初めて聴いたのは
| My Age | 小学校 | 中学校 | 高校 | 大学 | 20代 | 30代 | 40代 | 50代 | 60才~ |
| 曲のリリース年 | 1977 | ||||||||
| 僕が聴いた時期 | ● |
僕がこの曲を初めて聴いたのは、大学1年生の頃。世田谷区東松原のアパートで暮らしていた時代です。
どこで耳にしたのかは、もう覚えていません。テレビの音楽番組だったのか、ラジオだったのか。
しかし、曲を聴いたときの感触だけは残っています。
柔らかい。でも、ただ甘いだけではない。
穏やかなメロディーの奥に、どこか醒めた視線がある。その微妙な距離感が、当時の僕にはぴたりとはまりました。
10ccには、ほかのロックバンドとは少し違う独特の世界があります。皮肉や遊び心を前面に出した曲がある一方で、「I’m Not in Love」のように、スタジオそのものを楽器にしてしまったようなバラードもある。
「People in Love」は、そのどちらとも少し違います。
華麗な仕掛けで圧倒するのではなく、メロディーと歌の美しさを前に出した一曲です。
4人の10ccから、2人を軸とする10ccへ
「People in Love」が収録された『Deceptive Bends』は、10ccにとって大きな転換点となったアルバムでした。

初期10ccは、エリック・スチュワート、グレアム・グールドマン、ケヴィン・ゴドリー、ロル・クレームという4人の個性がぶつかり合うことで、ほかにはない音楽を生み出していました。
「Rubber Bullets」で全英1位を獲得し、1975年には「I’m Not in Love」も全英1位。奇抜さとポップ性を同時に成立させるバンドとして、10ccは独自の位置を築いていきます。
ところが1976年、ゴドリーとクレームがバンドを離れます。
残ったスチュワートとグールドマンは、ドラマーのポール・バージェスらの力を借りながら10ccを継続。その最初のスタジオアルバムが、1977年の『Deceptive Bends』でした。
そこには「The Things We Do for Love」「Good Morning Judge」、そして今回取り上げる「People in Love」が収録されています。
4人時代の実験精神をそのまま再現するのではなく、スチュワートとグールドマンが得意とするメロディーの強さを前面に出した作品。その意味でも、『Deceptive Bends』は新しい10ccの出発点だったと思います。
「Voodoo Boogie」から生まれ変わった一曲
「People in Love」には、少し興味深い制作の経緯があります。
『Deceptive Bends』へ向かう初期セッションでは、この曲は「Voodoo Boogie」と呼ばれる形で制作されていました。
この段階では、まだゴドリーとクレームも10ccに在籍していました。しかし、そのアレンジは最終的に採用されず、2人の脱退後、スチュワートとグールドマンを中心として改めて作り直されます。
現在『Deceptive Bends』で聴ける「People in Love」は、その再構築を経た完成形です。

結果として生まれたのは、奇抜なアイデアを前面に出す曲ではありませんでした。
むしろ余計なものを削ぎ落とし、歌そのものが持つ力を際立たせたバラードです。
1977年――音楽がいくつもの方向へ走り始めた年
「People in Love」が発表された1977年は、ロックの歴史を振り返っても実に面白い一年でした。
フリートウッド・マックは『Rumours』を発表。ピンク・フロイドは『Animals』を送り出し、その一方ではセックス・ピストルズを象徴とするパンクが大きな存在感を示します。
同じ「ロック」という言葉の中で、洗練されたポップ、プログレッシブ・ロック、パンク、ディスコなど、まったく異なる方向の音楽が同時進行していました。
さらに5月には映画『スター・ウォーズ』がアメリカで公開され、8月にはエルヴィス・プレスリーが42歳でこの世を去ります。
音楽だけでなく、大衆文化そのものが新しい時代へ移っていく途中でした。
日本では歌謡曲が圧倒的な存在感を放っていた
1977年の日本では、沢田研二の「勝手にしやがれ」、ピンク・レディーの「渚のシンドバッド」「ウォンテッド(指名手配)」などが大ヒットしました。
僕が大学生活を送っていた頃、日本の街にはこうした歌謡曲があふれていました。
その同じ時代に、海の向こうから10ccの「People in Love」が届いていた。
今振り返ると、その対比も面白く感じます。
派手ではないからこそ残るサウンド
「People in Love」を久しぶりに聴くと、まず感じるのは音数の多さではなく、空間の使い方です。
エリック・スチュワートのヴォーカルは力で押してきません。語りかけるように入り、メロディーの起伏に合わせて少しずつ感情を深めていきます。
そこへギター、ピアノ、ベース、ドラム、コーラスが重なりますが、どの音も主張しすぎない。

「I’m Not in Love」のような巨大な音響空間を作り上げた曲と比べれば、ずっと素朴に聞こえます。
しかし、その控えめな作りこそが、この曲の強さなのでしょう。
聴かせようとしすぎないから、何度でも聴ける。
大学時代に耳にしたときには、そこまで分析して聴いていたはずもありません。それでも好きになったということは、理屈より先にメロディーと声が届いていたのだと思います。
甘いラヴソングだけでは終わらない
タイトルだけを見れば、「People in Love」は典型的なラヴソングのように思えます。
しかし、歌詞を追っていくと、それほど単純ではありません。
People in love do funny things
恋をしている人間は、おかしなことをする。
出発点からして、恋愛を美しく飾り立てる視点ではありません。
恋に夢中になる人間を少し離れた場所から眺め、その幸福と滑稽さを同時に描いている。ここには、10ccらしい知性と皮肉があります。

そして曲が進むにつれて、二人だけの夢のような時間にも終わりがあることが見えてきます。
だから、この曲を聴いたあとには単純な幸福感だけが残らない。
美しいメロディーの中に、時間が過ぎていく寂しさが混じっています。
10ccが変わっても、グールドマンのメロディーは残った
『Deceptive Bends』は、ゴドリーとクレームが去った後の10ccに対して向けられた疑問への、一つの回答だったのだと思います。
4人時代と同じことをする必要はない。スチュワートとグールドマンには、二人だから作れる音楽がある。
翌1978年、10ccは「Dreadlock Holiday」で再び全英1位を獲得します。
そしてグールドマンは、その後も長く10ccの名前と楽曲を受け継いできました。
「For Your Love」や「Bus Stop」を書いた1960年代から、10ccの黄金期を経て、その音楽を現在へつなぐまで。
そう考えると、グレアム・グールドマンという人のキャリアは、英国ポップミュージックの歴史そのものと重なる部分があります。
今聴いても、あの頃の空気が戻ってくる
僕にとって「People in Love」は、大ヒットしたから記憶に残っている曲ではありません。
大学1年生。世田谷区東松原のアパート。
1977年という時代の中で、たまたま耳にした一曲です。
ところが半世紀近くたって聴き直しても、最初に感じたあの柔らかさはほとんど変わりません。
むしろ年齢を重ねた今だからこそ、そのメロディーの奥にある少し醒めた視線や、時間が過ぎていく切なさの方がよく分かる気がします。
若い頃に好きだった曲が、年齢を重ねることで別の表情を見せる。
長く音楽を聴き続けている楽しさの一つは、そんなところにもあるのでしょう。
今日はグレアム・グールドマンの誕生日。
10ccの華やかな代表曲とは少し離れた場所で静かに輝く「People in Love」を、改めて聴いてみたいと思います。


音楽ファン同士の交流・リクエストはこちら / Connect & Request Songs Here