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僕の勝手なminiBest7-第7位は『レッツ・スティック・トゥゲザー』です。
軽快なロックンロールに隠された切実な願い
1976年、ブライアン・フェリーはソロ・シングル『レッツ・スティック・トゥゲザー(Let’s Stick Together)』を発表しました。同年9月には、この曲をタイトルに掲げた3枚目のソロアルバム『レッツ・スティック・トゥゲザー』が発売されています。
このアルバムは、既発表のシングルやB面曲、LP収録曲などをまとめた作品で、カヴァー曲とロキシー・ミュージック時代の自作曲の再録音が収められています。タイトル曲はイギリスのシングルチャートで最高4位を記録し、10週間にわたってチャートに登場しました。

陽気なロックンロールを聴いているはずなのに、歌詞の主人公は決して幸福な境遇にいるわけではありません。離れかけた相手の心を、何とかつなぎ止めようとしています。
その切実な願いを、フェリーは悲しげなバラードではなく、身体が自然に動き出すような音楽に乗せて歌います。この明るさと内容との食い違いが、曲を単純なラヴソングでは終わらせません。
超訳
あの日、永遠を誓ったふたりは、どこへ行ってしまったのだろう。 いつしか愛は当たり前になり、寄り添う温もりさえ忘れていた。 失ってからでは遅いんだ。ふたりで築いた幸せも、守るべき小さな命もある。 もう一度、出会った頃の気持ちを思い出してほしい。 人生の続きを、やっぱり君と歩いていきたい。
まずは、YouTube公式動画でお聴きください。
クレジット ブライアン・フェリー『レッツ・スティック・トゥゲザー(Let's Stick Together)』 発表:1976年 作詞・作曲:ウィルバート・ハリスン 歌唱:ブライアン・フェリー 映像:公式ミュージックビデオ 出典:ブライアン・フェリー公式YouTubeチャンネル 2行解説 1976年に発表され、全英4位を記録したブライアン・フェリーの代表的なソロ・ヒット曲。R&Bを基調とした軽快な演奏と、フェリー独特の艶を帯びた歌声が鮮やかに交差します。 映像には当時交際していたジェリー・ホールも登場。音楽だけでなく、ファッションや映像まで含めたフェリーの美意識が伝わる作品です。
1962年の原曲――アメリカのR&Bから生まれた一曲
ウィルバート・ハリスンが生んだ『レッツ・スティック・トゥゲザー』
この曲は、ブライアン・フェリーのオリジナルではありません。1962年、アメリカのR&Bシンガー、ウィルバート・ハリスンが発表した楽曲です。
ハリスンは1959年、『カンザス・シティ』を全米1位に送り込んだことで知られています。ブルースやR&Bを土台にした、飾り気のない力強い歌唱を持ち味とするシンガーでした。
1962年の『レッツ・スティック・トゥゲザー』も、簡潔なリズムと反復されるフレーズを軸に進みます。凝った構成で聴かせるのではなく、演奏そのものが持つ推進力で引っ張っていく曲です。
『レッツ・ワーク・トゥゲザー』へ姿を変えた原曲
この曲には、その後もう一つの姿が生まれました。1969年、ハリスンは歌詞を改め、『レッツ・ワーク・トゥゲザー』という題名で再録音します。
夫婦の関係をつなぎ止めようとする内容から、人々に協力を呼びかける歌へと主題が変わりました。翌1970年には、アメリカのブルース・ロックバンド、キャンド・ヒートがこの曲をカヴァーし、広く知られるようになります。
ブライアン・フェリーが1976年に取り上げたのは、結婚の誓いを主題とする1962年の『レッツ・スティック・トゥゲザー』でした。
カヴァー曲を自分の音楽に変える
フェリーは1973年の最初のソロアルバム『愚かなり、わが恋』以来、他のアーティストの楽曲を積極的に取り上げてきました。
ただし、原曲を忠実になぞるタイプではありません。曲の骨格を残しながら、編曲と歌唱によって、自分に似合う音楽へと組み替えていきます。
『レッツ・スティック・トゥゲザー』でも、アメリカのR&Bが持つ素朴な力強さに、1970年代の英国ロックらしい華やかさが加わりました。

アルバム『レッツ・スティック・トゥゲザー』にはカヴァー曲だけでなく、ロキシー・ミュージック時代の自作曲を録音し直した作品も含まれています。既存の曲を別の角度から見直し、自分の現在地へ引き寄せることは、当時のフェリーのソロ活動を知るうえで重要な要素です。
サックスが煽り、ギターが走る――1976年のサウンド
ロックンロールの躍動感を支える演奏
この曲を聴いて最初に飛び込んでくるのは、演奏全体の勢いです。ドラムが歯切れのよいビートを刻み、ベースが低音を押し出す。そこへギターと管楽器が絡み、曲は冒頭から一気に走り始めます。
アルバムには、クリス・スペディング、フィル・マンザネラ、ポール・トンプソン、ジョン・ウェットンら、多彩なミュージシャンが参加しています。ロキシー・ミュージックと関わりの深い顔ぶれと、外部の演奏者が交わることで、ソロ作品ならではの音像が形作られています。

僕がロキシー・ミュージックを強く意識したのは、1982年の『アヴァロン』でした。そのため、この1976年の演奏を聴くと、同じフェリーを中心としながら、音の手触りが大きく違うことに驚かされます。
『アヴァロン』が滑らかなリズムと緻密な音作りを特徴としていたのに対し、この曲では楽器同士が競い合うように前へ出てきます。それでもフェリーの声が埋もれないところに、彼のヴォーカリストとしての個性があります。
サックスがもたらす高揚感
特に耳を引くのがサックスです。アルバムの参加ミュージシャンには、ソプラノサックスのメル・コリンズ、テナーサックスのクリス・マーサーの名が記されています。
管楽器の鋭い響きは、ロックンロールにR&Bの匂いを持ち込み、ヴォーカルの周囲を駆け回ります。ギターだけでは生まれない猥雑さと高揚感が、曲全体を活気づけています。
古いダンスホールを思わせる響き
僕には、この管楽器の音が、かつてのダンスホールやR&Bのライブ会場を思わせます。どこか懐かしいのに、懐古趣味には聞こえません。
1950年代から60年代へと受け継がれたリズムの感触と、1970年代のロックの力強さが一つの演奏に同居しています。フェリーが古い曲を選びながら、単なる再現に終わらせなかったことがよく分かります。

「一緒にいよう」――結婚の誓いを問い直す歌詞
失われかけた関係を取り戻すために
『レッツ・スティック・トゥゲザー』を日本語にすれば、「一緒にいよう」「これからも離れずにいよう」という意味になります。
一見すると、恋人同士が未来を誓う歌のようにも思えます。しかし、歌詞の中心にあるのは、すでに結婚している二人の関係です。
主人公は、かつて交わした結婚の誓いを相手に思い出させようとします。二人が築いた家庭を守り、別れる前にもう一度考えてほしいと呼びかけているのです。

その訴えには、子どもの存在も含まれています。つまり、この曲が描いているのは恋愛の始まりではなく、壊れかけた結婚生活をどうするのかという場面なのです。
愛情だけでは済まされない現実
興味深いのは、主人公が「愛している」と訴えるだけではなく、結婚の約束や子どものことまで持ち出して、相手を説得しようとしている点です。
恋愛の始まりには、理由など必要ないことがあります。しかし、長く暮らしを共にすれば、互いの気持ちだけでは片づけられない問題も生まれてきます。
夫婦の間には、言葉にしなくても分かり合えることがある一方で、言葉にしなかったために生まれる誤解もあります。相手の存在が日常の一部になるほど、感謝や思いやりを伝える機会は減ってしまうのかもしれません。

主人公が過去の誓いまで持ち出す姿には、格好のよさだけでは済まない切迫感があります。理屈と感情が入り混じるところに、この歌の人間臭さがあるのでしょう。
悲しい歌を悲しく歌わない
こうした内容を考えると、フェリーの歌い方は実に独特です。感情をむき出しにして懇願するのではなく、少し気取った調子を崩しません。声には艶があり、切羽詰まった内容とは裏腹に、どこか余裕さえ感じられます。
僕には、その歌い方が、弱さを見せたくない男の振る舞いにも聞こえます。本当は離れてほしくない。それでも、取り乱した姿だけは見せたくない。その矛盾をフェリーの声が巧みに引き受けています。
愛を取り戻そうとする男が、最後まで洒落た男であろうとする。そこに、この曲ならではの可笑しさと哀しさが同時に浮かんできます。

ジェリー・ホールとの共演――映像に刻まれた1970年代
当時の恋人が登場する公式ミュージックビデオ
今回掲載した公式ミュージックビデオには、モデルのジェリー・ホールが登場します。彼女は当時、ブライアン・フェリーと交際していました。
1970年代のファッション界で活躍したジェリー・ホールは、その後ミック・ジャガーのパートナーとしても広く知られるようになります。映像では、スーツ姿で歌うフェリーと彼女の存在が、楽曲とは別の華やかさを作り出しています。
音楽とファッションを結びつける美意識
ブライアン・フェリーは、ニューカッスル大学で美術を学び、1968年に卒業しています。音楽家になる以前から培われた視覚表現への関心は、その後のロキシー・ミュージックのアルバムジャケットや衣装、写真にも色濃く表れました。
彼にとって、歌手の姿は音楽から切り離されたものではなかったのでしょう。服装、立ち居振る舞い、ジャケット、映像まで含めて、自分の世界を作り上げています。

僕は、こうした姿勢にデヴィッド・ボウイとの共通点を感じます。ただし、二人の見せ方はかなり違います。ボウイが架空の人物を生み出し、自らを大胆に変身させていったのに対し、フェリーは現実の自分を土台に、洗練された男性像を磨き続けたように見えます。
少しキザなくらいが、ちょうどいい
フェリーの振る舞いには、どこかキザなところがあります。けれども、そのキザさまで自分の表現として成立させてしまうところが、彼の面白さです。
同じスーツを着て、同じように身をくねらせても、誰もがブライアン・フェリーにはなれません。声、表情、身のこなし、そして服装。そのすべてが揃って初めて、あの独特な佇まいが生まれるのでしょう。
終わりに――粋な男が歌う、不器用な愛の願い
『レッツ・スティック・トゥゲザー』には、僕が後に『アヴァロン』で知ったブライアン・フェリーとは、かなり違う顔があります。

こちらにあるのは、もっと荒々しく、身体的なロックンロールです。それでも、少し癖のある発声、独特の節回し、感情を露骨にさらけ出さない歌い方には、後年へつながるフェリーらしさがすでに刻まれています。
今回のminiBest7では、ロキシー・ミュージックとソロ作品を区別せず、僕自身が好きな7曲を選びました。その入口となる第7位に、この曲を置きました。
1962年のR&Bを1976年の自分の音楽へと変えてしまうセンス。陽気な演奏の奥に潜む、壊れかけた夫婦の物語。そして、そんな内容さえ洒落たロックンロールとして歌ってしまうブライアン・フェリー。
『レッツ・スティック・トゥゲザー』は、彼の音楽と美意識が気持ちよく一つになった曲です。

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