僕の勝手なBest15:【ユーミン/松任谷由実】編-第11位『やさしさに包まれたなら』─“奇跡”は待つものではなく、いまここにあると気づくこと


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第11位は『やさしさに包まれたなら』です

「国民的スタンダード」──そう呼ぶにふさわしい曲は、世の中に数多あるようでいて、実はそう多くはありません。

第11位に選んだのは、もはや説明不要のこの名曲、『やさしさに包まれたなら』です。

正直に申し上げますと、この曲をランキングに入れるかどうか、少し迷いがありました。あまりにも有名すぎて、今さら僕が語るべきことなど残されていないのではないか、と感じたからです。ジブリ映画『魔女の宅急便』のエンディングテーマとして、あるいはCMソングとして、僕たちの耳には常にこのメロディが寄り添っていました。

しかし、60代という年齢を迎え、現役時代の第一線から少し距離を置いた今、改めてこの曲と向き合うと、若い頃には単なる「癒やしの歌」だと思っていたものが、実はもっと力強い「哲学の歌」であることに気づかされます。

それは、僕たちが社会人として生きる中で、知らず知らずのうちに閉じてしまった「心の蓋」を、もう一度開けてみないかと静かに問いかけてくるのです。

超訳

幼い頃は、世界がやさしく味方してくれていると信じていた。
大人になった今も、その奇跡は静かに続いている。
朝の光や雨上がりの匂いの中に、そっと届くメッセージがある。
目に映るすべては、私を包む見えない愛のしるし。

まずは公式音源でお聞きください

アコースティックギターのストロークが始まった瞬間、部屋の空気がふっと緩むのを感じていただけるはずです。まずは、その温かな音像に身を委ねてみてください。

■ 日本語クレジット
曲名:やさしさに包まれたなら(2022 Mix)
英題:Embraced In Softness
アーティスト:松任谷由実
作詞・作曲:松任谷由実
編曲:松任谷正隆(原編曲)
リリース:2022年
提供:Universal Music Group

■ 2行解説
1974年発表の代表曲を2022年にリミックスした音源で、透明感のあるサウンドが現代的に再構築されている。スタジオジブリ『魔女の宅急便』主題歌として広く知られる、日本のポップス史を象徴する名曲。

大人になるにつれて、僕たちは何を手放してしまったのか

「神様」という言葉のリアリティ

この曲の歌詞には、冒頭から「小さい頃は神様がいて」という、非常に印象的なフレーズが登場します。

ここで歌われている「神様」とは、特定の宗教的な存在のことではないでしょう。それは、世界を疑うことなく信じられる心や、理屈抜きで直感的に「大丈夫だ」と思える、根源的な肯定感のようなものではないでしょうか。

子供の頃は誰しもが持っていたその感覚。しかし、僕たちは大人になる過程で、「論理」や「効率」、「損得」といった物差しを手に入れ、その代償として、目に見えないものを信じる力を少しずつ手放してきました。

過去、数字の世界に身を置いてきた僕自身、現実をシビアに見ることに慣れすぎてしまい、いつしか「不思議に夢をかなえてくれる」力など存在しないと、決めつけて生きてきたように思います。

目に映るすべてのことはメッセージ

この楽曲が時代を超えて愛され続ける理由は、単に「昔はよかった」と懐かしむ歌ではないからだと思います。ユーミンは、大人になった僕たちに向けて、こう歌いかけています。「カーテンを開いて、木漏れ日のやさしさに包まれたなら、目に映るすべてのことはメッセージになる」と。

これは非常に示唆に富んだ表現です。

世界が変わってしまったわけではありません。木漏れ日も、雨上がりの庭の香りも、昔と変わらずそこにある。変わってしまったのは、それを受け取る僕たち自身の「心の状態」の方なのです。

日々の忙しさやプレッシャーで凝り固まった心を解き放ち、穏やかな気持ち(やさしさ)に包まれた状態であれば、何気ない日常の風景すべてが、自分への肯定的なメッセージとして立ち上がってくる。

この曲は、「奇跡」とは遠くからやってくる特別なイベントではなく、自分の心の持ちよう一つで、日常の中にいくらでも見つけ出せるものなのだと教えてくれています。


色褪せないサウンド・マジック

シンプルだからこそ、嘘がつけない

この曲の魅力は、歌詞の深さもさることながら、やはりそのサウンドの「普遍性」にあると僕は思います。

イントロのアコースティックギター、軽やかなリズム、そしてユーミンの少し鼻にかかった、それでいて芯のあるボーカル。構成は驚くほどシンプルです。

当時のニューミュージックや歌謡曲は、豪華なストリングスや劇的な展開で聴かせるものが多かった中で、この曲のカントリー・テイストなアプローチは、ある意味で異質だったのかもしれません。

しかし、装飾を削ぎ落としているからこそ、時代が変わっても古臭くならない。まるで洗いざらしのコットンのシャツのように、いつ袖を通しても肌に馴染む。そんな「風通しの良さ」が、この曲にはあります。

もしこの曲が、時代に合わせた派手な電子音でアレンジされていたら、ここまで長く愛されることはなかったでしょう。本質的なメロディと歌詞の力を信じ抜いたアレンジこそが、この曲を「スタンダード」足らしめているのだと感じます。

心の奥にしまい忘れた「大切な箱」

封印を解くのは、今からでも遅くない

歌詞の中に、「心の奥にしまい忘れた大切な箱」というフレーズが出てきます。この表現に、胸を締め付けられるような感覚を覚えるのは、僕だけではないはずです。

その「箱」の中に入っているものは何でしょうか。
それはきっと、純粋な好奇心であったり、誰かを無条件に信じる気持ちであったり、あるいは「自分はこれでいいんだ」という根拠のない自信だったりするのかもしれません。

僕たちは社会という荒波を渡るために、その箱を心の奥底にしまい込み、時にはその存在さえ忘れたふりをして戦ってきました。それは、大人として生きていくための「武装」でもあったわけです。

この曲を聴く時間は、僕にとって、錆びついたその箱の鍵をそっと開ける儀式のようなものです。

「今日」という奇跡を生きる

曲の終盤、繰り返される「目に映るすべてのことはメッセージ」というフレーズ。これは、私たちへの応援歌であると同時に、ユーミンからの「生き方の提案」でもあります。
特別なことがなくても、朝起きてカーテンを開け、そこに光があること。
庭の草木が季節ごとに香り立つこと。

そんな当たり前の風景の中に「やさしさ」を見つけられるなら、人生は十分に豊かであるということ。
若い頃は刺激や達成感ばかりを追い求めていましたが、今は、この曲が教えてくれる「静かな幸福」の価値がよく分かります。

編集後記:朝の光の中で

第11位に『やさしさに包まれたなら』を選ばせていただきました。

毎朝、カーテンを開けるたびに、この曲のイントロが脳内で再生される。
そんな些細な習慣が、僕の今日という一日を、少しだけ前向きなものに変えてくれています。

もし、あなたが日常に少し疲れているなら、久しぶりにこの曲を聴いてみてください。
きっと、心の奥の「大切な箱」が、カタと音を立てて開くのを感じられるはずです。

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