『僕の勝手なBest15:【ユーミン】編-第10位『リフレインが叫んでる』〜喪失の痛みを刻みつける、究極の「後悔」の調べ〜



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第10位は『リフレインが叫んでる』です

第10位に選んだのは、1988年に発表され、今なお多くの人の心に深い爪痕を残し続けている名曲、『リフレインが叫んでる』です。
音楽には、聴いた瞬間に当時の空気、匂い、そして胸を締め付けるような感情を一気に引き戻す力があります。

この曲を語る時、避けては通れないのが「どうして どうして」という、あまりにも切実なリフレイン(繰り返し)です。

僕たちが歩んできた道は、決して平坦なものばかりではありませんでした。仕事においても、プライベートにおいても、選ばなかった選択肢や、救えなかった言葉、取り返しのつかない決別――。そんな、心の奥底に沈めていた「後悔」という名の澱(おり)を、この曲は容赦なく、それでいて寄り添うようにすくい上げます。

超訳

なぜだろう、どうして私たちは出会ってしまったのだろう。
壊れるほど強く抱きしめ合った、あの春の夕日はもう戻らない。
「もっとやさしくしていれば」という後悔が、波のように押し寄せては心を切り裂く。すり切れた思い出を何度再生しても、もうあなたの声は聞こえない。

まずは公式音源でお聞きください

イントロの鋭いドラムの音階と、どこか冷ややかで都会的なキーボードの旋律。そこから一気に加速するドラマチックな展開に注目してください。

■ 日本語クレジット
曲名:リフレインが叫んでる
アーティスト:松任谷由実
作詞・作曲:松任谷由実 / 編曲:松任谷正隆
リリース:1988年

■ 2行解説
アルバム『Delight Slight Light KISS』のリード曲。三菱・ミラージュのCMソングとしても有名で、80年代後半の日本のポップスシーンを代表する「失恋ソング」の金字塔。

答えのない問いを繰り返す、心の深淵

「どうして」という言葉が持つ重み

この曲の最大の特徴は、歌詞の中で何度も繰り返される「どうして どうして」という問いかけです。

大人になれば、理屈では分かっていることが増えていきます。「縁がなかったんだ」「仕方なかったんだ」と自分を納得させる術を身につけていくのが、僕たちの歩んできた「現役時代」の処世術でもありました。

しかし、この曲はそんな大人の仮面を剥ぎ取ります。

理屈では説明できない喪失の痛み、答えが出ないと分かっていても問い続けずにはいられない心の叫び。ユーミンは、誰もが経験したことのある「あの時の後悔」を、極めてシンプルで、かつ逃げ場のない言葉で突きつけてくるのです。

記憶を逆回転させるサウンド・デザイン

歌詞の冒頭、「ひき返してみるわ ひとつ前のカーブまで」というフレーズがあります。

これは単なる物理的なドライブの風景描写ではありません。幸せだった時間の直前まで時間を戻したいという、人間の切実な願望の象徴です。

大学時代を過ごした世田谷の街角や、かつて通い詰めた海沿いの景色。僕自身の記憶の中にも、この曲を聴くたびに「あのカーブ」を曲がる直前に引き戻される場所があります。当時は気づかなかった相手の寂しさや、自分の身勝手さ。すり切れたカセットテープをかけ直すように記憶を再生する行為は、時に苦痛を伴いますが、それもまた、その人が真剣に生きた証なのかもしれません。

風景描写が描き出す、やり場のない孤独

ボンネットに消えていった夕陽の残像

ユーミンの歌詞の素晴らしさは、視覚的なイメージが鮮烈な点にあります。

「最後の春に見た夕陽」が「ボンネットに消えていった」という描写。ここには、二人の関係が静かに、しかし決定的に終わっていく様子が見事に投影されています。沈みゆく夕陽を追いかけることもできず、ただそれを見送るしかない無力感。

こうした情景描写が重なることで、単なる「悲しい曲」を超えて、聴き手一人ひとりの心の中に、自分だけの「後悔の物語」が上映されるのです。


後悔を抱えたまま、生きていくということ

「やさしくできなかった」という普遍の痛み

後半の歌詞で、さらに私たちの胸を打つのは「どうしてできるだけ やさしくしなかったのだろう」という独白です。

若さゆえの傲慢さ、あるいは日常の忙しさに感けて、一番大切にすべき人への配慮を後回しにしてしまった経験は、誰の心にもあるのではないでしょうか。現役時代、責任ある立場に身を置いていた頃の僕は、どこかで「強さ」こそが正義だと信じ、身近な人が発していた静かなサインを見落としていたのかもしれません。

二度と会えなくなってから、人は初めてその存在の大きさに気づきます。ユーミンは、その「取り返しのつかなさ」を美化することなく、そのまま提示します。しかし、それは決して突き放しているのではなく、「後悔してもいいんだよ」という逆説的な救いのように、今の僕には響くのです。

「忘れられぬ景色」が浄化に変わる時

「人は忘れられぬ景色を いくどかさまよううちに 後悔しなくなれるの」

この一節こそが、この曲が単なる悲恋歌に留まらない、人生の哲学書たる所以だと僕は確信しています。

一度失ったものは二度と戻りません。しかし、その記憶の中の「景色」を何度も反芻し、痛みと共に生きる時間そのものが、いつしかその経験を自分の一部として受け入れるプロセスになる。

60代を迎え、振り返る過去は「輝き」ばかりではありません。むしろ、この曲が歌うような「影」の部分こそが、今の自分を形作っている。そう思えた時、叫んでいたリフレインは、静かな凪(なぎ)へと変わっていくのかもしれません。

時代を象徴するサウンドの奥行き

1988年、あの喧騒の中で鳴っていた音

この曲が収録されたアルバム『Delight Slight Light KISS』が発売された1988年は、まさにバブルの絶頂期でした。誰もが前だけを向き、上昇し続ける数字と華やかなネオンに目を奪われていた時代です。

そんな狂乱の時代に、ユーミンはあえて「深い喪失」をテーマにしたこの曲を、これほどまでにスタイリッシュなサウンドで世に送り出しました。松任谷正隆さんの編曲による、都会的な洗練を極めた音像が、かえって孤独の輪郭を鮮明に浮き上がらせます。

当時の僕たちは、この曲をドライブのBGMとして消費していたかもしれません。しかし、あれから数十年の時を経て、人生の「夕映え」の時刻を走る今の僕たちにとって、この音は当時よりもずっと深く、リアリティを持って身体に染み渡ります。

編集後記:リフレインの先にあるもの

第10位に『リフレインが叫んでる』を選ばせていただきました。

皆さんの心の中にも、今なおリフレインし続けている「どうして」があるでしょうか。

もしあるのなら、無理にそれを消そうとする必要はないのかもしれません。その叫びに耳を澄ませ、忘れられぬ景色をさまよう時間は、私たちが「人間」として豊かに成熟していくために必要な、大切な旅路なのだと思うからです。

次にこの曲を耳にする時、あなたの後悔が、ほんの少しだけやさしい思い出に変わっていることを願っています。

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