僕の勝手なBest15:【ユーミン】編-第3位『卒業写真』〜美しき誤解と、変わりゆく「私」への鎮魂歌〜


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第3位は『卒業写真』です

日本人のDNAに刻まれていると言っても過言ではない聖域のような一曲。それが今回第3位に選んだ1975年リリースの『卒業写真』です。卒業シーズンの定番曲として、あるいは淡い初恋を回想するノスタルジーの象徴として、僕たちはこの曲をあまりにも「知ったつもり」でいます。

しかし、改めてこの曲を僕の今の視点で見つめ直すと、そこには単なる「過去への感傷」以上の、もっと残酷で、それでいて救いに満ちた「自己対峙」の物語が浮かび上がってきます。なぜこの曲が、時代を超えてもなお、僕たちの心を締め付けるのか。今回は、世田谷の街並みに身を置いていたかつての自分を重ね合わせながら、この名曲が持つ「真の横顔」を紐解いてみたいと思います。

まずは公式音源でお聞きください

日本語クレジット
楽曲名:卒業写真(Sotsugyou Shashin)
アーティスト:松任谷由実(Yumi Arai)
収録アルバム:40th Anniversary Best Album「日本の恋と、ユーミンと。」
作詞・作曲:荒井由実
原盤権表記:℗1975 EMI Records Japan(UNIVERSAL MUSIC LLC)
YouTube提供元:Universal Music Group

2行解説
1975年発表の名曲で、卒業という節目における別れと追憶を繊細に描いた松任谷由実の代表作。
時代を超えて歌い継がれ、多くのアーティストにカバーされている日本ポップス史に残るスタンダードナンバー。


青春の「答え合わせ」としての卒業写真

ページをめくる行為、それは自己への問いかけ

歌の冒頭、主人公は「悲しいことがあると」古いアルバムを開きます。ここで重要なのは、彼女が求めているのは「思い出の共有」ではなく、「自己の修復」であるという点だと僕は思うのです。

僕たちは日々の生活の中で、望むと望まざるとにかかわらず、社会の波に揉まれ、角が取れ、時に自分でも気づかないうちに「かつての自分」とは似ても似つかない姿に変貌してしまいます。

ふとした瞬間に訪れる「自分への違和感」。その修復のために、彼女は皮の表紙をめくるのです。
そこに写る「あの人」の優しい目。それは初恋の相手という具体的な存在であると同時に、純粋だった頃の自分を映し出す「鏡」のような役割を果たしています。

世田谷・東松原の風景に重ねて

かつて僕が学生時代を過ごした東京での景色を思い浮かべます。あの頃の街並み、商店街の喧騒、そしてどこにでもあった柳の木。ユーミンの描く風景は、具体的な地名を出さずとも、僕たちの記憶にある「あの頃の道」を喚起させる魔力があります。

「話しかけるように揺れる柳の下」という描写一つとっても、それは単なる風景描写ではありません。風に揺れる柳は、まるで迷いの中にいる主人公を優しく諭すような、生きた存在として描かれています。しかし、今の彼女はその道を「電車から見るだけ」の存在になってしまった。この「物理的な距離」こそが、大人になってしまったことの切ない証明なのです。

聖域としての「あの頃」と、現代を生きる僕らの乖離

世田谷・東松原の空気を吸っていた、かつての僕へ

僕がかつて学生時代を過ごした世田谷の街。明大前の駅を降りて、何気なく歩いていたあの頃の道。当時は、自分が将来どのような道に進み、どのような責任を背負って生きていくのか、想像もつきませんでした。ただ、目の前にある「今」という時間に全力で、時に不器用に向き合っていたことだけは確かです。

『卒業写真』を聴くたびに、その頃の湿り気を帯びた空気や、夕暮れ時の街灯の明かりが鮮明に蘇ります。ユーミンが描く「揺れる柳の下」という風景は、僕にとっての「あの頃の通学路」であり、そこにはまだ何者でもなかった、純粋な好奇心に満ちた僕が立っています。

しかし、今の自分はどうでしょうか。「人ごみに流されて」という歌詞が、これほどまでに重く響く時期を、僕たちは皆、通り過ぎてきたはずです。組織の中での立ち居振る舞い、社会的な役割、守るべきもの……。それらを得る代わりに、僕たちは少しずつ、あの頃の自分が持っていた「透明な何か」を削り落としてきたのかもしれません。

「遠くでしかって」という祈りの構造

この曲のクライマックスとも言える「あなたはときどき 遠くでしかって」というフレーズ。ここには、大人の孤独が凝縮されています。

大人になればなるほど、本気で自分を「叱って」くれる存在は少なくなります。間違いを指摘されることはあっても、魂の根源的な部分に対して「今の生き方でいいのか」と問いかけてくれる人は、そうそう現れません。だからこそ、主人公は卒業写真の中の「あの人」に、その役割を託すのです。

「あの頃の生き方を あなたは忘れないで」

この言葉は、相手に対する願いであると同時に、自分自身への最後通牒でもあります。あなたがそのままでいてくれる限り、僕はまだ「本当の自分」を完全に失わずにいられる。そんな、縋るような、けれど気高い決意が、この短い一行には込められているのです。

シリーズ内での『卒業写真』の立ち位置

なぜ「第3位」なのか

今回の「ユーミン編 Best15」において、この曲を第3位に据えたのには理由があります。別に3位に固執しているのではありませんが、もしこの曲がなければ、ユーミンの描く都会的な華やかさは、単なる上辺だけの虚飾に終わっていたかもしれません。

この曲が持つ「内省的な深み」と「自己への厳格な視線」があるからこそ、僕たちは彼女の描くどんなに煌びやかな世界の中にも、リアリティを感じることができるのです。

いわば、この曲は「帰るべき場所」としての第3位。派手さはないけれど、人生の節目節目で必ず立ち寄り、自分自身の立ち位置を確認するための「マイルストーン」のような存在なのです。

まとめ:いつまでも色褪せない「心の鏡」として

『卒業写真』は、単なる懐旧の歌ではありません。それは、現在進行形で迷い、悩み、それでも懸命に生きている僕らの背中を、静かに、そして厳しく押し出してくれる「再生の歌」です。

悲しいことがあったとき、あるいは自分が自分を見失いそうになったとき。ぜひ、ヘッドフォンをしてこの曲に耳を傾けてみてください。そこには、あの頃と変わらない「優しい目」をしたあなたが、今のあなたを見守ってくれているはずです。


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