" /> 僕の勝手なBest15:【ユーミン】編-第1位『翳りゆく部屋』〜夕陽とパイプオルガンが響き渡る永遠に色褪せない別れの気配

僕の勝手なBest15:【ユーミン】編-第1位『翳りゆく部屋』〜夕陽とパイプオルガンが響き渡る、永遠に色褪せない別れの気配〜


🎧 この記事を音声で楽しむ

🎵 日本語ナレーション

再生ボタンを押すと、この記事の内容を日本語音声で聞くことができます。

🎶 英語ナレーション

この記事の英語ナレーションを聞くことができます。

※ 先に音声を聞いてから本文を読むと、楽曲の背景や評価のポイントをより立体的に理解できます。

🌐 日本語版 🌐 English

第1位は『翳りゆく部屋』です

いよいよこのシリーズも、ついに第1位の発表となりました。「僕の勝手なBest15:【ユーミン】編」、栄えあるトップを飾るのは、1976年にリリースされた荒井由実時代のラストシングル『翳りゆく部屋』です。

ユーミンといえば、都会的で洗練されたポップス、あるいは季節の移ろいを鮮やかに切り取った情景描写が魅力的ですが、この曲だけは少し次元が違う場所に存在しているような気がしてなりません。厳かで、それでいて恐ろしいほどの熱量を持ったバラード。私がこの曲を1位に選んだ理由は、単に「メロディが美しいから」といった言葉では片付けられない、音楽そのものが持つ「圧倒的な引力」と、そこに集結した才能たちのぶつかり合いにあります。

まずは公式音源でお聞きください

日本語クレジット
楽曲名:翳りゆく部屋(The Paled Room)[2022 Mix]
アーティスト:松任谷由実(Yumi Arai / Yuming)
作詞・作曲:荒井由実
編曲:松任谷正隆
初出アルバム:『MISSLIM』(1974年)
音源:『YUMING BANZAI! ~Yumi Matsutoya 50th Anniversary Best Album~』(2022年版ミックス)
レーベル:ユニバーサル ミュージック合同会社
2行解説
1970年代ニュー・ミュージックを代表する名曲で、静謐なピアノと叙情的なメロディが孤独と記憶の情景を描く代表作。2022 Mixは50周年ベスト用に音像を再調整した公式リマスター音源。

圧倒的な音像と、集結した「そうそうたるミュージシャン」たち

この『翳りゆく部屋』を語る上で絶対に外せないのが、バッキングを務めたミュージシャンたちの凄まじさです。当時、いや日本の音楽史を俯瞰してみても、これほどまでに「そうそうたる顔ぶれ」が一堂に会した楽曲はそう多くありません。70年代中盤の日本のポップス黎明期において、最も先鋭的だった才能たちがこの一曲のために結集しているのです。

伝説の布陣が作り上げた重厚な世界

まず、曲の冒頭から僕たちの心を鷲掴みにする荘厳なパイプオルガン。これを演奏し、全体の編曲を手がけたのが松任谷正隆氏です。教会の静寂を切り裂くようなあの響きは、一度聴いたら決して耳から離れることはありません。

そして、その重厚なオルガンに負けない、いや、それ以上のグルーヴを生み出しているリズム隊。ベースは、ティン・パン・アレーの中心人物であり、のちにYMOで世界を席巻する細野晴臣氏。地を這うような深く重いベースラインは、別れへと向かう二人の逃れられない運命の足音を暗示しているかのようです。

ドラムスには、日本を代表する名ドラマー、村上“ポンタ”秀一氏。さらにギターは大村憲司氏という、当時の日本音楽界における最高峰のプレイヤーたちが強靭なアンサンブルを構築しています。

さらに驚くべきはコーラス陣です。ハイ・ファイ・セットに加え、なんと若き日の山下達郎氏や吉田美奈子氏までもが参加しています。今となってはそれぞれが日本の音楽シーンの頂点に立つレジェンドたち。彼らが、荒井由実という稀代の才能の周りに集い、一つの楽曲を完成させるために全精力を注ぎ込んだ。その奇跡的なエネルギーの交差点こそが、この『翳りゆく部屋』という作品が持つ、底知れぬ迫力の正体なのかもしれません。

大学時代の風景と重なる記憶

僕がこの曲を深く聴き込むようになったのは、学生時代のことでした。当時、僕は東京で一人暮らしをしていました。京王井の頭線がガタゴトと通り過ぎる音、夕暮れ時になると少し寂しげな色を帯びる商店街。四畳半の小さな部屋で、よくこの曲に耳を傾けていました。

歌詞が描く「なげやりな別れの気配」と深層

窓辺に置いた椅子にもたれ、夕陽をただ黙って見つめる相手。その横顔には、もう関係を修復しようとする意思すら失われた「なげやりな別れの気配」が漂っています。二人は何かを語り合うわけでもなく、ただあてもなく過ぎ去った日々を心のなかでさまよっているだけです。

この冒頭の情景描写だけで、二人の関係がもう後戻りできない限界点に達していることが痛いほど伝わってきます。ふりむけば、ドアの隙間から宵闇が忍び込んでくる。それは単なる時間の経過としての夜の訪れではなく、二人の間に広がる埋めようのない冷たい暗闇のメタファーに他なりません。

大学時代のあの頃、東松原の部屋の小さな窓から見える空がオレンジ色から深い藍色へと変わっていくのを眺めながら、僕はこの「宵闇がしのび込む」という感覚を、身をもって味わっていたような気がします。

誰かと決定的な別れを経験したわけではなかったかもしれませんが、大人になるにつれて青春の時間が少しずつ手の中からこぼれ落ちていくような、そんな漠然とした喪失感が、この曲の持つ冷たさと美しく共鳴していたのです。

曲が進行するにつれ、孤独はさらに色濃くなります。部屋のランプを灯せば、外の世界である街の景色は沈み、代わりに窓ガラスには自分のいる孤独な部屋だけが映し出される。そして、冷たい壁に耳をあてて、遠ざかっていく靴音を追いかける。視覚的な「夕陽」から、聴覚的な「靴音」へと喪失の感覚が移行していく描写の鮮やかさは、まさにユーミンの真骨頂です。

どんな運命が愛を遠ざけたのか、もう二度と輝きは戻らない。「わたしが今死んでも」という究極のフレーズの反復は、決して安っぽい感傷や自己憐憫ではありません。それは、すべてを失った者が最後に放つ、静かで、しかし狂おしいほどの祈りにも似た叫びなのです。

凄腕ミュージシャンたちが奏でる「喪失」の重厚なアンサンブル

前半の終わりでも触れた「わたしが今死んでも」という、すべてを失った者の祈りにも似た叫び。この狂おしいほどの感情を根底で支え、曲全体を単なるポップスの枠から大きくはみ出させているのは、間違いなく参加ミュージシャンたちの神がかった演奏です。この曲を語る上で、彼らが織りなす「音の引力」を避けて通ることはできません。

個の才能がぶつかり合う、奇跡のセッション

細野晴臣氏のベースは、単にリズムの土台を作るという役割を超越しています。地を這うような重低音は、別れを受け入れざるを得ない主人公の重い心臓の鼓動であり、逃れられない運命の足音のようです。そして、村上“ポンタ”秀一氏のドラムス。静寂を縫うような繊細なタッチから始まり、サビに向かって感情の堰を切ったように激しく打ち鳴らされるそのプレイは、聴く者の心を容赦なく揺さぶります。

さらに、大村憲司氏の奏でるエレキギターの存在感も圧倒的です。間奏や随所で聴かれるむせび泣くようなギターフレーズは、言葉にならない主人公の悲鳴や、後悔の念を代弁しているかのようです。

加えて、ハイ・ファイ・セット、山下達郎氏、吉田美奈子氏らによる分厚くも透明感のあるコーラスワーク。彼らの声が重なることで、この四畳半サイズの個人的な悲劇が、まるで教会で奏でられる神話の一片のように、荘厳で普遍的なスケールへと引き上げられています。のちに日本のポップス・ロック界を牽引していく天才たちが、それぞれの持ち味を極限まで発揮しながらも、決して荒井由実のボーカルを邪魔することなく、一つの「巨大な喪失の風景」を描き出している。この奇跡的なバランスこそが、この楽曲が放つ尋常ではないオーラの正体です。

「荒井由実」という時代の終焉と、永遠のモニュメント

1976年という年は、彼女が結婚を控え、「荒井由実」としての活動の集大成を迎えていた時期にあたります。この曲は、荒井由実名義での最後のシングルとして世に放たれました。

20代前半で到達した、底知れぬ深淵

当時の彼女はまだ20代前半でした。それにもかかわらず、ここまでの絶対的な絶望と、ある種の諦念、そして「輝きはもどらない」という残酷な真実を、これほどまでに完成された音楽として表現した才能には、ただただ驚嘆するしかありません。

目白の東京カテドラル聖マリア大聖堂で録音されたという本物のパイプオルガンを使用する、松任谷正隆氏の大胆かつ計算し尽くされたアレンジ。それは、ユーミンが持つミステリアスで底知れぬ魅力を見事に引き出しました。この『翳りゆく部屋』は、単なる失恋ソングという枠を大きく超え、「荒井由実」という一人の稀代のシンガーソングライターが、自身のひとつの時代に自ら幕を下ろすために書き上げた、壮大なレクイエム(鎮魂歌)だったのではないでしょうか。

人生の厚みとともに響き続けるメロディ

大学時代、この曲を聴いていた頃は、メロディの美しさや、どこか大人びた別れのシチュエーションに対する「憧れ」のような感情が先行していたのかもしれません。

現役時代を駆け抜け、今改めて聴く『翳りゆく部屋』

しかし、そこから社会へ出て、現役時代として無我夢中で駆け抜けてきた長い年月の中で、僕「本当の喪失」や「二度と取り戻せない時間」というものを少しずつ理解するようになりました。

それは誰かとの決定的な別離であったり、情熱に溢れていた若き日の自分との決別であったり、あるいは、どうしても手が届かなかった夢の終わりであったりします。そうした人生における様々な「翳り」を経験し、自分自身の歴史に厚みが備わった今だからこそ、この曲の持つ研ぎ澄まされた冷たさと底なしの深さが、より一層胸に迫ってくるのです。

「どんな運命が愛を遠ざけたのか」。この問いに、明確な答えは用意されていません。しかし、その答えのない問いや喪失感を抱えたまま、それでも日々を歩んでいくこと。それこそが、私たちが生きていくということなのかもしれません。

おわりに:「ユーミン」は永遠に

全15回にわたってお届けしてきた「僕の勝手なBest15:【ユーミン】編」、いかがだったでしょうか。

明るくポップな魔法、情景が鮮やかに目に浮かぶリゾート感、そして心を深くえぐるようなバラード。ユーミンの楽曲は、いつの時代も僕たちの人生のサウンドトラックとして、その時々の風景や感情に寄り添い続けてくれました。私が第1位に『翳りゆく部屋』を選んだのは、僕自身が音楽に対して求める「圧倒的な引力」と、人生の深淵に触れる「芸術性」が、この一曲に最も純粋な形で結晶化していると感じたからです。


さて、この長大なシリーズにお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

これまでの15曲を通じて、ご自身の記憶と重なる曲や、改めて聴き直したくなった曲はありましたか?
今回紹介した楽曲だけが聞けるYouTube動画ページをご紹介して終わりたいと思います。

URL➡
https://www.youtube.com/playlist?list=PLKx8CZ00mUMzAdcMrMt_3FeSynHmTcIqL

コメント

タイトルとURLをコピーしました