7月30日:ショーン・ムーアの誕生日に捧ぐ
ショーン・ムーア ― バンドの静かな屋台骨
Manic Street Preachersのドラマー、ショーン・ムーアは、華やかさよりも堅実さでバンドを支えてきた存在です。1968年7月28日生まれ。ウェールズ出身で、ジェームズ・ディーン・ブラッドフィールドのいとことして、結成当初からバンドに在籍し続けています。
複雑なフィルではなく、リズムで感情の輪郭をなぞるようなアプローチが、かえって深い余韻を残します。『Your Love Alone Is Not Enough』でも、その安定したリズムが曲の世界観を静かに支えています。リッチー・エドワーズ失踪後も動じることなく演奏を続け、マニックスの“背骨”としての役割を果たし続けている人物です。

今日の紹介曲:『Your Love Alone Is Not Enough』
まずはYoutube動画(公式動画)からどうぞ!!
🎥 公式動画クレジット(リマスター版)
曲名:Your Love Alone Is Not Enough (Remastered)
アーティスト:Manic Street Preachers feat. Nina Persson
提供元:Sony Music CG(公式ライセンス)
動画公開日:2017年5月11日
📖 2行解説
2007年に発表されたデュエット曲で、The Cardigansのニーナ・ペルソンを迎えた再起作の象徴。
感情を交わすことなく届かない想いを描いた、Manicsらしい冷静かつ鋭い一曲です。
次の動画は公式ではありません。画像をクリックしてください。リンクを貼っています。理由はわかりませんが、もともとはこの曲のMVの映像だと思います。 👇画像をクリック!

🎬 クレジット情報(参考扱い)
タイトル:Manic Street Preachers ft. Nina Persson – Your Love Alone Is Not Enough [2007]
アップロード者:Raul Parez Roldan(※公式ではない個人チャンネル)
動画公開日:2023年3月17日
📖 2行解説(MVの視覚的意図)
バンドとニーナ・ペルソンが同じ画面に一切登場せず、分離された空間で演奏/歌唱することで、
関係の断絶と“伝わらなかった想い”を象徴する構成が施された印象的な映像です。(解説で出てくる、MVです)
※公式チャンネルではありませんが、実際のミュージックビデオと同一内容を確認済みです。
僕がこの曲を初めて聴いたのは・・・♫
My Age | 小学校 | 中学校 | 高校 | 大学 | 20代 | 30代 | 40代 | 50代 | 60才~ |
曲のリリース年 | 2007 | ||||||||
僕が聴いた時期 | ● |
この曲がリリースされたのは2007年。僕が49才の時です。
その年だったか、翌年だったかの記憶はないですが、この曲を初めて聴いたときのことはよく覚えています。
この頃は東京出張にたびたび行っていた時期で、全日空の大分―東京便の中で聴きました。(僕は大の全日空派なので間違いなく、全日空機です。―どうでもいですね?!)
ラジオ番組『JET STREAM』ではないですが、出張するサラリーマンにとっては飛行機が唯一くつろげる時間です。この曲に大空で初めて出会い、往復便とも何度も何度も聴いた覚えがあります。
その後、CDを買いに行ったのは勿論です。一言でこの曲を表現すると、歯切れが良くて、カッコいい。
MVでのニーナ・ペルソンのボーカルが、ハスキーでパワー全開の所が僕のお気に入り、大好きでした。是非お聴きください。
Not Enough、Not Enough、Not Enoughのリフレインが頭に残ります。
マニックスの“声”が重なる特別な1曲
『Your Love Alone Is Not Enough』のリリース日は、2007年4月23日(UK)です。
Manic Street Preachersがシーンに戻ってきた――そう感じたファンは多かったはずです。
これは、Manic Street Preachersの8枚目のスタジオ・アルバム『Send Away the Tigers』に先駆けて発表された先行シングルで、The Cardigansのニーナ・ペルソンとのデュエット曲として注目を集めました。
冒頭から特徴的なギターが響き、ブラッドフィールドの力強い歌声が続きます。そして、数小節後にはニーナの柔らかな声が静かに重なっていきます。

この曲は、ラブソングに見えて、実は「壊れてしまった関係」を淡々と振り返るような構成になっています。怒りや悲しみを爆発させるのではなく、冷静に事実を並べていくようなスタイルです。
音楽の転換点にリリースされたタイミング
iPhoneとYouTubeが生んだ音楽の地殻変動
この曲がリリースされた2007年は、音楽の聴かれ方そのものが変わり始めた年でした。iPhoneの初代モデルが発表され、YouTubeは音楽の発見ツールとして急速に広まりました。(自慢ではないのですが、Macファンの僕としては、iphone初代モデルから愛用しています。)

「CDを買って聴く」から「リンクを共有して聴く」へ――リスナーと楽曲との関係が、根本的に変わっていく時代の入り口だったのです。
『Send Away the Tigers』という回帰のアルバム
ファンが「帰ってきた」と感じたサウンド
前作『Lifeblood』では、洗練されたシンセの響きを取り入れた一方で、「らしさが消えた」との声も多くありました。
それに対して『Send Away the Tigers』は、ロックバンドとしての本能を取り戻したような仕上がりでした。ギターリフが鋭く、ドラムは骨太で、ヴォーカルは叫びすぎずにまっすぐ届く。アルバム全体が、“これが俺たちだ”と語っているようでした。

その象徴的な一曲が『Your Love Alone Is Not Enough』です。
ニーナ・ペルソンとの掛け合いが描く関係性
音としての対話、記憶の断片のような言葉
この曲は、ブラッドフィールドとニーナのボーカルが交互に応答する構成になっています。

どちらかが強く主張するわけでもなく、ただ一言ずつ、相手の言葉に静かに応じるように進んでいきます。そのやり取りは、まるで過去のやりとりを回想しているようにも感じられます。
Your love alone is not enough
(君の愛だけじゃ足りなかった)
このフレーズが曲全体で何度も繰り返されますが、そのたびに意味合いが変化していきます。最初は冷静な指摘として響き、やがて後悔、さらにはある種の諦めへと移り変わっていきます。
ミュージックビデオが映す“すれ違い”
別々の空間で歌うふたりの象徴的な演出
公式MV(リンクを貼った動画の方です)は、工場のような無機質な空間で演奏するバンドの姿と、柔らかい光に包まれたニーナ・ペルソンが別の部屋で歌う場面が交互に映し出されます。

彼らは決して同じ空間に立ちません。それでも、映像を見ていると、互いに視線を向けているように感じられます。すでに終わってしまった関係が、記憶の中ではまだどこか繋がっている――その構造が、楽曲の雰囲気と見事に一致しています。
歌詞は短く、だからこそ深く響く
この曲の歌詞は、全体としてはとてもシンプルです。短いフレーズを繰り返しながら、少しずつニュアンスを変えていきます。
You said the sky would fall on you
(空が落ちてくるって、君は言ったよね)

こうした断片的な言葉がいくつも重ねられ、1つの物語を形作っていきます。明確な説明を避けているからこそ、聴く側の想像が自由に入り込む余地が生まれています。
揺らぎの余地が生む“記憶の音楽”
明確な主張を避けることで残るもの
この曲に特徴的なのは、感情を断定的に語らないところです。メッセージは絞り込まず、聞き手の中に様々な解釈を呼び起こす構成になっています。

あるリスナーにとっては、失敗した恋愛を思い出すかもしれませんし、また別の人には、何も伝えられずに終わった関係を振り返る契機になるかもしれません。
この“余地のある語り”が、『Your Love Alone Is Not Enough』という曲を、「過去と向き合うためのもの」として成り立たせています。
マニックスが貫く“美学としてのリアル”
感情を飾らず、でも誠実に表現する
Manic Street Preachersは、結成当初から「怒り」「政治」「信念」などをテーマに、極めてパーソナルかつ社会的な楽曲を発表してきたバンドです。

『Your Love Alone Is Not Enough』では、そうした思想的な要素は抑えめになっていますが、それでも「人生における真実」から目をそらしていない点が、彼ららしさだといえるでしょう。
ショーン・ムーアのドラムがつくる感情の地盤
静と動のバランスを支えるビート
ショーン・ムーアのドラムは、派手なプレイこそ少ないですが、この曲では全体の呼吸を整える役割を果たしています。Aメロではタイトに抑え、サビではスネアとバスドラムで厚みを出す。
特に曲の終盤、ボーカルが重なっていく場面でのビートは、混沌とした感情の中に一本の軸を通してくれます。
この曲が“節目の音楽”として機能する理由
再出発を告げる音ではなく、“再出発の前に聴く音”
『Send Away the Tigers』はマニックスにとって「再起動」のアルバムでしたが、『Your Love Alone Is Not Enough』は「すべてをやり直す前に、過去を見つめ直す」ための楽曲です。

誰かとの決定的なすれ違いのあと、心に残る言葉が何度も頭をよぎる――そんな時間の中で、この曲はリスナーと共にあります。
終わりに ― 消えない音、変わらない感情
『Your Love Alone Is Not Enough』は、派手さや爆発力のある曲ではありません。
けれど、何年経っても、ふとした拍子に蘇る感情を呼び起こすような、記憶のスイッチを備えた音楽です。それは、過去の言葉が残した小さな傷跡のような存在です。
『Julia Dream』―(Pink Floyd):意訳
まどろむ朝、光が枕元にやさしく差し込む
しだれ柳は静かに枝を揺らし、夢へ誘う
毎夜、灯りを消すと彼女を待つ——
ビロードの花嫁、ジュリアの幻影を
僕は気配に怯え、隠れようとするが
その声がどこまでも追ってくる
霧の中で鍵を探し、記憶がほどけていく
誰かが近づき、問いかける——
「おまえはもう死にかけているのか」と
そのたびにジュリアの声が響く
夢の船に乗った女王
僕のすべての夢の中の女王
現実から逃れるための、最後の祈りのように
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