高橋真梨子さんについて詳しくはこちらから➡『ウィキペディア(Wikipedia)』
はじめに:夏の夜に聴きたい情熱のバラード
【僕の勝手なBest10:高橋真梨子編】の第9位に選出したのは『はがゆい唇』です。
1977年7月5日にリリースされたこのシングルは、恋の切なさと情熱を絶妙に融合させた作品。高橋真梨子のハスキーな歌声と、網倉一也による情感豊かなメロディーが重なり合い、聴く者の感情を優しく揺さぶります。
この記事では、この名曲の背景や歌詞、編曲の工夫、そして時代性までを丁寧に紐解いていきます。音楽とともに、あの時代の空気を少しだけ感じていただけたら幸いです。
まずは公式動画から紹介しましょう。
🎥 公式クレジット(音源提供)
楽曲名:はがゆい唇
アーティスト:高橋真梨子
作詞:阿木燿子
作曲:羽田一郎
収録アルバム:Lady Coast
発売日:1992年8月26日
レーベル:ビクターエンタテインメント
提供元:JVCKENWOOD Victor Entertainment Corp.
📝 2行解説
愛のもどかしさをしっとりと歌い上げた、90年代を代表する女性ボーカルバラード。羽田一郎の流麗な旋律と阿木燿子の情感あふれる歌詞が絶妙に融合した一曲です。
🎥 公式クレジット(ライブ映像)
高橋真梨子「はがゆい唇」ライブ映像
© Victor Entertainment / Mariko Takahashi Official
提供元:高橋真梨子 公式YouTubeチャンネル
収録:1993年開催ライブ『CARNEGIE HALL N.Y. COMPLETE LIVE』より
公開日:2022年1月25日
映像出典:アルバム『our Days tour 2022』(2022年1月26日リリース)
📝 2行解説
1993年のカーネギー・ホール公演から、高橋真梨子の名唱「はがゆい唇」を厳選公開。円熟の歌唱力が胸に沁みる、ラストツアー記念ライブ映像です。
『はがゆい唇』の誕生背景と基本情報
制作陣とリリース情報
『はがゆい唇』は、高橋真梨子の5枚目のシングルとして1977年にトーラスレコードから発表されました。作詞:阿木燿子、作曲:網倉一也、編曲:竜崎孝路という鉄壁の布陣。
オリコンチャートでは最高8位、売上枚数は約18万枚と、決して派手ではないものの、息の長いヒットとなりました。高橋の歌唱力が本格的に評価され始めたのもこの頃です。
1977年という時代:音楽と社会の空気
国内の動きと文化
1977年の日本は、オイルショック後の不安定な経済から立ち直りつつある時期でした。インフレが緩和し、輸出企業の業績が回復。テレビドラマでは『Gメン’75』が人気を博し、家庭の団らんがテレビ中心であった時代。
音楽シーンでは、アイドルブームの終焉とともに、ニューミュージックや実力派アーティストの台頭が進みつつありました。松任谷由実、中島みゆきといった個性派が登場し、歌謡曲に新たな表現が求められ始めていたのです。
海外との対比
一方で世界では、ジミー・カーターがアメリカ大統領に就任し、ディスコ・カルチャーが全盛期。ビージーズの『How Deep Is Your Love』がチャートを賑わせ、パンクロックも台頭。クラッシュの反体制的なサウンドが話題を集め、日本の若者たちにも影響を与えました。

こうした文化の多様化と成熟が交錯する中、『はがゆい唇』は恋愛の葛藤を正面から描いた作品として、静かな共感を呼びました。
曲の魅力:構成・メロディー・歌詞分析
メロディー:感情を揺さぶる構造
イントロはストリングスがゆるやかに旋律を奏で、聴く者の感情を静かに包みます。Aメロではピアノが寄り添い、サビで感情が一気に開放される構成が特徴です。

特に「はがゆい唇 愛を叫ぶ」の部分では、高橋の声が一段と情熱的に響き、抑えきれない恋心を見事に表現しています。
メロディーラインは一見シンプルに思えますが、そこに宿る感情の緩急と余白が、聴き手に深い余韻を残します。転調は控えめながらも、微細な音の上昇と下降が巧みに配置され、感情の「揺らぎ」が丁寧に表現されています。
歌詞:阿木燿子による女性心理の精緻な描写
阿木燿子の作詞は、常に女性の内面を繊細に描いてきました。この曲では「もう我慢できない」「あなたの唇が欲しい」といった直接的な表現が使われながらも、決して俗っぽくはならず、恋に翻弄される女性の誠実な感情として昇華されています。

さらに注目したいのは、タイトルにもなっている「唇」というモチーフの選び方です。「言葉を発する器官」である唇が、ここでは愛を叫び、同時に感情を堪える象徴としても機能しており、歌詞全体の核心を成しています。
この詞の真髄は、「言えない想い」が「声」ではなく「唇」からあふれ出すという構図にあります。感情を言葉にできないからこそ、音楽という形で放たれる。その姿勢が、聴く者の胸を深く打つのです。
編曲と演奏の工夫
編曲を担当した竜崎孝路は、サウンドに品格を与えることで知られた存在。この曲でも、ストリングスとリズムセクションを効果的に配し、メロディーの浮き沈みを支えています。ドラムやベースは控えめながらも安定感があり、歌詞とメロディーを引き立てています。

ギターはあえて輪郭をぼかした音色で演奏され、女性的な柔らかさを際立たせる役割を果たしています。また、間奏においてはストリングスが感情の「うねり」を表現し、聴き手に言葉にならない想いを想起させる構造となっています。
高橋真梨子というアーティストの本質
ハスキーボイスの真骨頂
高橋真梨子のボーカルは、声量や技巧に頼らず、情感で聴かせるスタイル。(まさにこれが彼女の一番の魅力です) 『はがゆい唇』では、その持ち味が最大限に生かされています。特にライブでは、目を閉じて全身で歌う姿が印象的で、観客の感情を巻き込む力がありました。

ライブ音源では、スタジオ音源にはない息遣いやブレスのニュアンスが聴き取れ、恋に揺れる心の「今まさに」の息吹が生々しく伝わってきます。まさに、言葉と音の間に宿る情感の演出です。
時代を超える共感力
2024年には、レトロブームの影響でこの曲が再評価され、配信チャートにも再登場。X(旧Twitter)では「恋のじれったさがリアル」と共感の投稿が相次ぎました。高橋の音楽は、時代や世代を越えて、多くの人の心に寄り添っているのです。
また、近年では若いアーティストによるカバーも生まれており、原曲の魅力を再発見する動きも活発になっています。楽曲の世界観を尊重しながら現代風の解釈を加えることで、新しいリスナー層との接点が生まれているのも特筆すべき現象です。
『はがゆい唇』を今聴くということ
恋愛の在り方や表現が大きく変わった現代においても、この曲の普遍的なテーマは色あせません。「思うように愛を伝えられない」「でも気持ちはあふれている」——そんな経験は、今の世代にも確かに存在します。

ストリーミングで再生されるこの曲は、当時のアナログな空気感を纏いながら、今の耳にもまっすぐ届きます。音源のリマスター化によって、声の艶やストリングスの柔らかさが際立ち、1977年の空気が蘇るような感覚をもたらしてくれるのです。
この楽曲を通じて、高橋真梨子が描いた「恋の本質」が、時代を越えて息づいていることを改めて感じさせられます。
まとめ:恋愛ソングの金字塔
『はがゆい唇』は、1977年の社会や音楽の潮流と響き合いながら、聴く者の心の奥にある切なさを鮮明に描いた楽曲です。
恋に悩んだ夜、誰かに想いを伝えたかった日、あるいは今夜のように静かにひとり時間を過ごしたいとき。そんな瞬間に、ふとこの曲が心に浮かぶ——それこそが、この楽曲が名曲と呼ばれる理由です。

今こそもう一度、『はがゆい唇』を耳にしてみてください。恋の余韻が、夜を少しだけやさしくしてくれることでしょう。
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