7月26日。 サー・ミック・ジャガーの誕生日に寄せて
ミック・ジャガー――ロックンロールの象徴ともいえる存在です。1943年7月26日にイギリス南東部にあるケント州の町、ダートフォードで生まれました。ザ・ローリング・ストーンズのフロントマンとして60年以上、音楽史の中心に立ち続けてきました。
刺激的なパフォーマンス、鋭い社会性、時に挑発的な姿勢。彼は常に“反逆のカリスマ”として語られてきましたが、そんな彼にも、時折見せる繊細で内省的な表情があります。
それを象徴する1曲が、今回取り上げる『Streets Of Love』です。
今日の紹介曲:『Streets Of Love』!
まずはYoutube動画(公式動画)からどうぞ!!
🎥 公式動画クレジット
The Rolling Stones - Streets Of Love (Studio Version) - OFFICIAL PROMO
配信元:The Rolling Stones公式チャンネル
💬 解説(2行):
2005年リリースのバラード曲で、恋愛の苦しみや孤独を切なく歌い上げた一曲。
ミック・ジャガーのエモーショナルなボーカルとメロディアスな展開が心に残る名バラードです。
🎧 公式動画クレジット
🎥 公式クレジット:
The Rolling Stones - Streets Of Love - Circo Massimo - Official
配信元:The Rolling Stones公式チャンネル(登録者数347万人)
📝 2行解説:
イタリア・ローマの遺跡「チルコ・マッシモ」でのライブパフォーマンス映像。
スタジオ版とは異なる臨場感と感情の揺れが生々しく伝わる珠玉のバラードです。
🎥 公式クレジット:
The Rolling Stones - Streets Of Love - Live - OFFICIAL
配信元:The Rolling Stones公式チャンネル(登録者数347万人)
📝 簡潔な2行解説:
壮麗な照明と演出の中で披露される「Streets Of Love」のライブバージョン。
ミック・ジャガーの繊細なボーカルがバンドの真骨頂として心を打ちます。
僕がこの曲を初めて聴いたのは・・・♫
My Age | 小学校 | 中学校 | 高校 | 大学 | 20代 | 30代 | 40代 | 50代 | 60才~ |
曲のリリース年 | 2005 | ||||||||
僕が聴いた時期 | ● |
僕がこの曲を初めて聴いたのはリリース当時で47才の頃だと思います。
ストーンズというと古いバンドのイメージがありますが、今回紹介する曲は最近(といっても20前ですが( ;∀;))の曲なので、知らないオールドファンもいるかもしれません。
僕はストーンズファンではありません。かといって嫌いでもないです。ただ何となく聴いてこなかったというだけのバンドです。その圧倒的な存在感は承知しています。
しかし、今日紹介するこの「Streets Of Love」は大好きな一曲です。これまでに、「悲しみのアンジー」を紹介していますが、それにも劣らない楽曲だと思っています。
世界が揺れた2005年と『A Bigger Bang』
ロックの“老境”に突入したストーンズ
2005年発売のこの『Streets Of Love』が収録された『A Bigger Bang』は、ストーンズにとって実に8年ぶりとなるオリジナル・アルバム。リリース時点でメンバー全員が60代に入り、当時の音楽メディアは「過去の焼き直しではないか」と懐疑的な声を上げていました。

社会が大きく揺れた年に響いたバラード
2005年は、ロンドン同時爆破テロやハリケーン・カトリーナが世界を揺るがし、YouTubeがサービスを開始した年でもあります。
日本では「愛・地球博」や郵政選挙が話題となり、ORANGE RANGEやケツメイシがチャートを賑わせていました。

そうした時代の変化の中で登場した『Streets Of Love』は、ブルース色の濃い他の収録曲とは対照的に、静かで内省的なバラードとして異彩を放っています。
歌詞ににじむ失恋と懺悔
淡々と語られる胸の痛み
冒頭で語られるのは、別れた恋人への想いと、自分自身への悔いです。
You’re awful bright, you’re awful smart (君はとても聡明で、すごく頭がいい)
I must admit you broke my heart (君が僕の心を壊したことは、認めざるを得ない)

“awful”という語は、否定的な意味が一般的ですが、ここでは「非常に〜な」という強調の意味で使われています。 この二面性により、相手への賛辞と心の痛みが、ひとつの文の中に同居しています。
自分の過ちへの直視
I must admit I was awful bad (僕が本当にひどかったと認めざるを得ない)
The awful truth, it’s really sad (どうしようもない現実、それは本当に悲しい)
主人公は、自らの非を口に出すことで過去と向き合おうとします。
この表現は謝罪というより“懺悔”に近く、「awful」という単語の反復が、感情の層を深めていきます。
街の光と心の暗闇の対比
愛の通りに取り残された男
舞台は、恋人たちが笑い合い、音楽が流れる通り。その中を、ただひとり孤独に歩く男の姿が描かれます。
While lovers laugh and music plays (恋人たちは笑い、音楽が流れている)
I stumble by and I hide my pain (僕はよろけながら歩き、痛みを隠している)
幸福な人々の中にあって、彼はすでに“居場所のない存在”。喜びの景色が、かえって彼の孤独を際立たせています。

象徴的な光と影の演出
The lamps are lit, the moon is gone (街灯は灯っているが、月は消えてしまった)
灯る街灯は「社会的な明るさ」、消えた月は「心の拠り所の喪失」。
わずか一行の詩が、彼の孤独を視覚的に訴えかけてきます。

一線を越えた男の自覚
決定的な後悔を暗示する一文
I think I crossed the Rubicon (僕は“ルビコン川”を渡ってしまったと思う)
「ルビコン川を渡る」とは、古代ローマのカエサルが下した“後戻りできない決断”の象徴。
この短いフレーズは、主人公が取り返しのつかない選択をしてしまったことを、静かに伝えています。

それが浮気だったのか、何気ない一言だったのか、明かされることはありません。
けれども、聴く者はそれぞれの人生経験と重ねながら、その“不可逆な痛み”を想像することができます。
愛の街路に残された皮肉と光
幸せのなかで取り残されるという苦味
I walk the streets of love (僕は“愛の通り”を歩く)
And they’re full of tears (だけどそこは涙であふれている)
“Streets of love”というフレーズは、本来ロマンティックに響くはずの言葉です。
しかしこの曲ではその名とは裏腹に、失恋の痛みを抱えた男が歩く“涙の街路”を意味しています。

喜びに満ちた世界のなかで、自分だけが弾き出されているような感覚――それは、誰もが一度は経験する心の孤独です。
音楽さえも容赦なく響く
A band just played the wedding march (バンドが結婚行進曲を奏でていた)
ここでの演出は非常に残酷です。街を歩く主人公の耳に飛び込んでくるのは、まさかの「結婚行進曲」。
人生の岐路で痛みを感じている者にとって、祝福のメロディがこれほどまでに皮肉に響くことはありません。
思いがけない「もう一度の機会」
救いか、それとも通りすがりの慰めか
And a woman asks me for a dance (ひとりの女性が僕をダンスに誘った)
Oh it’s free of charge (しかも無料で)
Just one more chance (もう一度だけ、チャンスをくれと)
物語の終盤で突然差し出される、無料のダンスと「一度だけのチャンス」。
それは現実か、幻想か、あるいは一夜限りの慰めか――はっきりとは語られません。

しかしこの曖昧さこそが、聴き手の想像力を刺激します。
“それでも人は前に進めるのかもしれない”というほのかな希望としても、“逃れられない孤独の戯れ”としても、どちらにも取れるのです。
ロックではなく、静けさで語る勇気
ストーンズにしては“異例”の楽曲構造
『Streets Of Love』は、ザ・ローリング・ストーンズの中では非常に異色な1曲です。
「Satisfaction」や「Start Me Up」のようなギターリフ主体の疾走感もなければ、社会に対する鋭い批判もありません。

それでもなお、この曲は彼らの本質を描いています。
ロックの激しさではなく、あえて“声を落として話す”ことによって、より深く心に響く真実を描こうとしているのです。
傷の輪郭をなぞるように
美化でも懺悔でもない、静かな肯定
『Streets Of Love』の魅力は、“やり直したい”という感傷ではなく、“そのまま受け入れるしかない”という諦念に近い感情にあります。
それでもなお、歌詞の中の彼は立ち止まらず、ひとり歩き続けています。そこに、“失敗のあとをどう生きるか”というテーマが滲んでいるのです。

ジェリー・ホールとの関係を思わせる影
The awful truth, it’s really sad (どうしようもない現実、それは本当に悲しい)
この曲の感情が、私生活と無縁とは言い切れません。
とくに1999年、長年のパートナーであるジェリー・ホールとの破局は、大きな転機として語られることが多い出来事です。

楽曲が彼女を直接的に描いているわけではありませんが、内省的なトーンや、愛を失った男の視点が、彼の現実と地続きの感情として受け取れるのは確かです。
キース・リチャーズの沈黙が奏でるギター
そっと支える音が生む深みと余韻
『Streets Of Love』は、ミック・ジャガーとキース・リチャーズの共作ですが、ギターが前面に出てくることはありません。
キースの演奏はあくまでミックの歌声を支えるように控えめで、主張のないアルペジオや淡いコードの連なりが、かえって楽曲の情感を際立たせています。
“語らずとも伝える”――そんなギターの在り方は、ストーンズの持つ本質的な美学と重なります。
派手なテクニックではなく、音の“間”や沈黙が心に残る。これもまた、年齢を重ねたバンドだからこそ鳴らせる音だといえるでしょう。
映像で描かれる「愛の通り」
ミック・ジャガーはそこにいて、なお遠い存在
ミュージックビデオでは、ミック・ジャガーがクラブの片隅で静かに歌う一方、フロアでは男女の出会いと別れ、再会が繰り返されています。
しかし彼は、その場にいながらも“蚊帳の外”のような存在。まるで過去にそこにいた者が、いまは別の時間軸から見つめているようです。

この映像表現は、「愛の通り(Streets of Love)」というタイトルに込められた空虚さや観察者の視点を、より強く印象づけています。
“年齢を重ねた音楽”の真価
若さの衝動ではなく、誠実さの滲む表現
2005年当時、ミック・ジャガーは62歳。全盛期をとうに過ぎたとも言われた頃です。
しかし、だからこそこの曲には価値があります。
仮面を脱ぎ捨て、傷ついた部分を隠さずに歌う。派手なパフォーマンスではなく、静かな佇まいで――。
この誠実な姿勢こそが、長く音楽を続けてきた者にしか宿らない“真のロック”なのかもしれません。

遅れてやってくる名曲としての魅力
心の痛みに触れる瞬間に
『Streets Of Love』は、最初の一聴では通り過ぎてしまうかもしれません。
けれど、ふとした夜に心のどこかが疼いたとき――
「あの一言さえ言わなければ」「もっと早く気づけていれば」そんな記憶が浮かんだとき、この曲はまるで自分のために書かれたかのように、深く沁みてくるのです。
それは、ただの失恋バラードではなく、自分の人生そのものを静かに映し返す鏡のような楽曲です。
『Streets Of Love』―(The Rolling Stones ):意訳
心の痛みを隠しながら
愛の街をひとり歩く
誰かが笑い、音楽が流れ
すれ違う恋人たちは
もう別の世界にいるようだ
胸の奥では
壊れた記憶が繰り返され
涙と不安がすれ違う道に
静かに溶けていく
かつての言葉や眼差しが
今もこの通りに残っている
たとえ千年歩き続けても
この傷は癒えないまま
愛の街を今日も
涙とともに歩いている
コメント