🎸僕の勝手なBest10【スティング(Sting) 編】第8位『Fortress Around Your Heart』をご紹介!

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🎸僕の勝手なBest10:【Sting】編 第8位『Fortress Around Your Heart』/ なぜ第8位なのか――“静かな力”を評価した理由

スティングのキャリアには、派手な代表曲や社会的メッセージを持った楽曲が数多く存在します。
しかし『Fortress Around Your Heart』は、そのどれとも異なる“静謐さ”と“誠実さ”を持った作品です。大声で叫ばない。誰かを責めない。ただ、過ちを受け止め、理解を試み、手を差し伸べる―。

それこそが、僕が勝手ながらこの曲を第8位に選んだ最大の理由です。再生や癒しの本質は、たぶんこういう“静かな力”に宿るのではないでしょうか。

🎥まずはいつものように、Youtubeの公式動画をご覧ください。

🎬 公式動画クレジット
タイトル:Sting – Fortress Around Your Heart (Option Two)
チャンネル名:Sting(公式 / 登録者数226万人)
公開日:2010年12月15日
📌 2行解説
1985年の名曲『Fortress Around Your Heart』のHDリマスター版公式MV。スティングの内省的な詞世界と静謐な演奏が映像とともに丁寧に表現されています。

ソロ初期を彩る、心を守る“要塞”の物語

スティングの真骨頂、“静かなる再生”の歌

1985年、ポリス解散後にスティングが世に放ったソロデビュー作『The Dream of the Blue Turtles』。その中で多くの人が“最初は見逃し、後から深く味わう”楽曲が、本作『Fortress Around Your Heart』です。

本作は、全米シングルチャートで8位を記録するなどヒットにも恵まれた一方で、『If You Love Somebody Set Them Free』や『Russians』のような即効性のあるメッセージ・ソングとは異なり、じわじわと胸に染み込んでくる、まさに“スルメ曲”とも呼べる逸品です。

楽曲データとリリース背景

ジャズとクラシックの香り漂う、知的で深淵な1曲

『Fortress Around Your Heart』は、アルバムの5曲目に収録され、1985年10月にシングルカットされました。チャート的には全米Billboard Hot 100で最高8位を記録。これはソロアーティストとしてのスティングにとっても大きな成果です。

ただし、この楽曲の真価は“数字”だけでは語れません。歌詞の比喩、アレンジの繊細さ、そしてブランフォード・マルサリスによる叙情的なサックス。いずれもが、この曲を「静かなる傑作」たらしめている要素です。

歌詞の核心:“心の要塞”と“地雷原”

戦場の比喩に託された愛の傷跡

この楽曲のタイトル『Fortress Around Your Heart』は直訳すると「君の心の周りに築いた要塞」。
そこには、愛する人を守ろうとする気持ちが、結果として相手を閉ざす“壁”となってしまったという、皮肉で切実な人間心理が描かれています。

“And if I built this fortress around your heart”
(もし俺が君の心を囲む要塞を築き)

“Encircled you in trenches and barbed wire…”
(塹壕と有刺鉄線で取り囲んだのなら)

塹壕(trenches)と有刺鉄線(barbed wire)という言葉は、まさに戦場を思わせるものです。
スティングは恋愛や人間関係を「心理的な戦争」として比喩的に描いており、
その中で「守るつもりが、逆に傷つけてしまう」という矛盾が丁寧に綴られていきます。

橋を架けるという発想

“Then let me build a bridge”
(だったら橋を架けさせてくれ)

“For I cannot fill the chasm”
(この深い裂け目を埋めることはできないから)

このフレーズは、破壊ではなく「修復」を目指す意志の象徴です。
過ちに気づいたとき、人は何をすべきか――答えは「壊す」ことではなく「つなぐ」こと。彼は“心の裂け目”を埋めるのではなく、「橋を架けさせてくれ」と願うのです。

この歌詞に込められた思索と誠意が、スティングの真骨頂とも言えるでしょう。

音の美学:サックスとアレンジの静けさ

ブランフォード・マルサリスが奏でる“沈黙の声”

この楽曲の大きな魅力のひとつが、サックス奏者ブランフォード・マルサリスの存在です。
彼のソロは“泣く”のではなく“黙る”ような音。語らない感情を語るかのように、
言葉の隙間を縫うように旋律が進んでいきます。

とくにコーラス後の間奏では、楽曲の情緒が一気に深まります。
まるで、“要塞”の外を旋回しながら、そっとその中に入ろうとする誰かの足音のように。

スティングとギターの間合い

ギターを担当するのは、後年長くタッグを組むドミニク・ミラーではなく、この時期は主にジャズ畑から招かれたミュージシャンによる演奏です。

特に本作では、ギターが「主張」するのではなく「場を整える」役割を担っており、ベース、ピアノ、ドラムとのアンサンブルが、あたかも室内楽のような繊細さを演出しています。その空気感の中でこそ、スティングの声が孤独と反省、そして願いを乗せて響くのです。


歌詞構成の妙と“心の地雷原”

愛の記憶に潜む“危険な過去”

この曲の中で、象徴的に繰り返されるのが「地雷(mines)」というモチーフです。

“I had to stop in my tracks for fear
Of walking on the mines I’d laid”

(自分が埋めた地雷を踏むのを恐れて 俺は思わず足を止めた)

この「地雷」は、比喩として極めて鋭いものです。
それは過去の自分が相手に与えた言葉や態度の“傷跡”であり、相手の中に残された感情の地雷原を、いつか踏んでしまうかもしれないという恐れを描いています。

このような心理は、特に親密な関係――恋人、家族、友人――の中で「過去を振り返ることが怖い」「何気ない言葉が相手を傷つけたかもしれない」と悩む多くの人に共通するものです。スティングはその微妙で繊細な感情を、戦場という比喩にのせて表現しています。


“この要塞は君の牢獄になった”

守りすぎた心が、愛を遠ざけるという逆説

後半の歌詞では、心を守るために築いた要塞が、
やがて相手の自由を奪い、まるで「牢獄」のようになってしまった様子が描かれます。

“This prison has now become your home”
(この牢獄は今や君の家となり)

“A sentence you seem prepared to pay”
(君はその刑を受け入れる覚悟があるように見える)

本来は“守るため”の行動だったものが、結果として“閉じ込める”ものになる。この矛盾は、現実の人間関係でも頻繁に起こり得ることであり、そこに気づいたときこそが、再出発への第一歩になるのだ―スティングはそう示唆しているように感じられます。


普遍的な共感を呼び起こす現代性

時代と場所を超えて響く「橋を架ける」という思想

この曲がリリースされた1985年当時、世界はまだ冷戦下にあり、相互不信や防衛的な姿勢が国際関係だけでなく、個人の心にも浸透していました。

そして現代においてもなお、SNSや多様な価値観、言葉の行き違いによって、人々の心は容易に閉ざされ、「理解よりも防衛」を選んでしまう傾向があります。

そんな時代だからこそ――

“Let me build a bridge”
(橋を架けさせてくれ)

このシンプルな一文は、政治や宗教の話ではなく、人間の根源的な関係性において“最も必要なこと”を象徴しているのです。


日本人リスナーにとっての共鳴点

“言葉にしない”文化だからこそ響く詩情

日本文化は、言外の感情や沈黙を重んじる特性があります。
「本音と建前」「空気を読む」といった習慣が深く根づいており、そのために感情の距離や心の防壁もまた、見えない形で築かれていきます。

スティングのこの曲が日本のリスナーに静かに響くのは、そうした文化的背景との“無言の共鳴”があるからかもしれません。言わなくても伝わる関係、でも言わなければ壊れてしまう関係。その狭間に立つ人々の胸に、この曲は深く入り込んでくるのです。

『Fortress Around Your Heart』―Sting:意訳

崩れた街の廃墟の下で
かつての記憶が静かに響く

この手で築いたはずの城壁は
今や君の心を閉ざす砦となり
愛は塹壕と有刺鉄線に変わった

帰る場所は
かつて歩き 遊び 笑った地
だが今 僕は
自分が埋めた地雷を恐れて立ち尽くす

戦ったのは
外の敵ではなく
自分の頭の中の戦争だった

君はきっと
僕が死んだと思ったか
そう願ったのかもしれない

だから今
この深い裂け目に
橋を架けさせてほしい

城壁に火を放ち
すべてを終わらせよう

それができるなら
もう一度 始められる気がする

by Ken

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