🎸僕の勝手なBest10【スティング(Sting)編】第2位『Englishman In New York』をご紹介!

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僕の勝手なBest10【スティング編】第10にもプロフィールを記載してます。

🎸僕の勝手なBest10【スティング(Sting)編】第2位『Englishman In New York』

ニューヨークの喧騒。黄色いタクシーの波、立ち昇る蒸気、さまざまな人種の言葉が飛び交うストリート。そんなコンクリートジャングルの中を、背筋を伸ばしてゆったりと歩く英国紳士の姿が浮かびます。スティングが1987年に発表したアルバム『…Nothing Like the Sun』に収録されたこの楽曲は、単なる洒落たジャズ・ポップソングではありません。むしろ、異文化の海を孤高に、それでいて優雅に生き抜く魂の在り方を描いた、深い人間賛歌なのです。

僕の勝手なスティングBest10、堂々の第2位は、この『Englishman In New York』。なぜこの曲が、発表から35年以上経った今もなお、私たちの心を掴んで離さないのか。洗練されたサウンドの奥に潜む哲学や矜持、そして普遍的なメッセージを、今回はじっくりと紐解いていきます。(毎回ほぼ同じくだり、許してつかーさい!!)

🎥まずはいつものように、Youtubeの公式動画をご覧ください。

🎬 公式動画クレジット
曲名: Englishman In New York(The Ben Liebrand Mix / Edit)
アーティスト: Sting
提供元: A&M Records / Universal Music Group(VEVOチャンネル)
公開日: 2011年1月12日(YouTube)

📖 2行解説
1987年発表の名曲『Englishman In New York』をHDリマスター化した公式MV。都会的で洗練された世界観が鮮やかに蘇る、スティングの代表作のひとつです。
🎬 公式動画クレジット( 公式ライブ映像)
曲名: Englishman In New York (Live In Berlin / 2010)
アーティスト: Sting(with Branford Marsalis, Royal Philharmonic Concert Orchestra)
提供元: Universal Music Group(UMG)
公開日: 2018年10月30日(YouTube)

📖 2行解説
2010年ベルリン公演でのライブ音源。荘厳なオーケストラとサックスが融合した、成熟した大人の“Englishman”が響く名演です。

異邦人の肖像:クエンティン・クリスプという実在のモデル

この楽曲の本質を理解するには、モデルとなった人物、クエンティン・クリスプ(Quentin Crisp)の存在を知ることが不可欠です。彼を知らずして、この曲の真の深みに触れることはできません。

孤高のアイコン、クエンティン・クリスプの生涯

クエンティン・クリスプ(1908–1999)は英国出身の作家であり俳優、そして何よりも比類なき個性の持ち主でした。20世紀前半の保守的な英国社会において、彼は早くから同性愛を公言し、メイクを施し、染めた髪で堂々と街を歩いていました。それは、現代の価値観からは想像もつかないほどの勇気を要する行動でした。

彼は日常的に嘲笑や暴力に晒されながらも、自らの美学を崩すことは一度もありませんでした。その哲学は、自伝『裸の公務員(The Naked Civil Servant)』に端的に表れています。

“Be yourself no matter what they say”
(他人が何と言おうと、自分らしくあれ)

この一節こそが、後に『Englishman In New York』の最も象徴的なフレーズとなるのです。

70歳を過ぎてから、クリスプはロンドンを離れ、ニューヨークのイースト・ヴィレッジに移住します。彼にとってニューヨークは、誰もが「エイリアン(異邦人)」として受け入れられる自由な都市に映っていたのでしょう。スティングは、そんなクリスプと親交を深め、その人生と哲学に心から感銘を受け、この曲を書き上げました。つまり、この曲はスティング自身の歌であると同時に、クエンティン・クリスプという「真の異邦人」への最大の敬意を表した肖像詩なのです。

なぜ「ニューヨーク」という舞台なのか

「Englishman in London」では、この楽曲は成立しなかったでしょう。ニューヨークという舞台こそが、この物語の核心にあります。もしロンドンにいれば、彼は周囲と同じ文化に属する「多数派」の一員。しかし、文化も価値観も異なるニューヨークでは、彼の「英国的な作法」が際立ち、時に奇異の目で見られる「異分子(alien)」としての側面が強調されます。

紅茶を飲む、トーストは片面だけ焼く――そうした些細な習慣は、異国においてアイデンティティを守るための、ささやかで重要な儀式になります。多民族・多文化が交差するニューヨークに身を置いたとき、はじめて「自分とは何者か」という問いが鋭く突きつけられる。その問いに対し、胸を張って「私は英国人だ」と答える。その姿勢が、この曲の真の主人公の在り方です。

歌詞の深層を読む:洗練された言葉に宿る哲学

スティングの歌詞には、常に知性と多層性が漂っています。表面上は軽やかに響く言葉の一つひとつに、深い意味が丁寧に折り重なっているのです。

“I’m an alien, I’m a legal alien”――エイリアンという言葉の二重性

この曲のコーラスで繰り返される「エイリアン」という言葉は非常に象徴的です。まず第一義的には、「外国人」、すなわち「合法的に滞在している他国の人」という法的意味合いがあります。ニューヨークに暮らす英国人であるスティングにとって、それは客観的な事実でもあります。

しかし「エイリアン」には、もう一つの意味が重なります。つまり、「異質な存在」「疎外された者」という感情的・社会的ニュアンスです。この感覚こそ、かつて英国社会で同性愛者として生きてきたクエンティン・クリスプが感じていた孤独そのものだったのではないでしょうか。

スティングはこの「alien(異邦人)」という言葉に、「物理的な外国人」と「社会的マイノリティ」の二重性を持たせ、すべての“見えない境界”に生きる人々の心を代弁しています。誰しもが何らかの文脈においては「異邦人」になり得る。この普遍的な孤独感に、この曲は静かに寄り添ってくれるのです。

“Manners maketh man”――逆境における品格

楽曲に二度登場する “Manners maketh man as someone said” というフレーズ。これは英国で古くから伝わる格言であり、映画『キングスマン』のセリフでも知られるようになりました。

ここで歌われている「マナー」は、単なる形式的な礼儀作法ではありません。そのすぐ後に続く歌詞が重要です。

“He’s the hero of the day”彼はその日の英雄だ)
“It takes a man to suffer ignorance and smile”(無知に耐え、微笑むことができてこそ真の男だ)

無知や偏見に晒されても、怒らず笑顔でやり過ごす。それこそが「真の紳士」であり、社会に抗う強さなのです。クエンティン・クリスプが人生を通じて実践した哲学が、このわずかなフレーズの中に凝縮されています。

サウンドの魔法:ジャズとポップスの奇跡的な融合

この曲の魅力は、哲学的な歌詞だけでなく、サウンドプロダクションの完成度にもあります。ジャンルの垣根を越えたアレンジと演奏が、楽曲全体をより深く、豊かなものにしています。

ソプラノ・サックスが描く都市の詩情

冒頭から印象的に鳴り響くソプラノ・サックスは、ただの装飾ではなく、この曲のもう一人の語り手とも言える存在です。都会の喧騒や孤独、そして主人公の心象風景を音で描写するその音色には、言葉以上に強い感情が宿っています。

この楽器の響きは、クエンティン・クリスプのような「異邦人」が、ニューヨークという大都会の中で感じる一抹の寂しさや、孤独の中にある誇りを、静かに代弁しているかのようです。まるで映画のワンシーンのように、聴く者の目の前に物語が広がる感覚。それが、この曲に息づく音の魔法なのです。

都会のリズムと洗練されたコード感

この楽曲には、ポリス時代からスティングが得意としていたレゲエ調のリズムが根底に流れていますが、それは単なる模倣ではなく、ジャズやフュージョンのエッセンスを取り入れることで、より洗練されたスタイルへと昇華されています。

ドラムの繊細なニュアンス、ベースの柔らかくも芯のあるグルーヴ、そして和声的に複雑ながらも美しいコード進行。それらが有機的に絡み合い、楽曲に都会的な知性と余裕を与えています。このような構造は、聴けば聴くほど味わいが増す、まさに「大人の音楽」と呼ぶにふさわしい完成度です。

時代を超えるメッセージ:自分らしさを貫くということ

1987年にこの曲がリリースされた当時と比べて、現代はより一層「他人の目」が可視化された時代になったと言えるでしょう。SNSや評価経済の普及によって、人々は常に誰かに見られていることを意識しながら生きています。

そのような時代にあって、「他人が何と言おうと、自分らしくあれ」というメッセージは、より強い意味を持つようになっています。これは単なる自己肯定のスローガンではありません。むしろ、周囲からの無理解や孤立、時には批判を受けながらも、自分を信じる強さを持てるかという、本質的な問いかけなのです。

この曲が響かせているのは、「個性を主張せよ」という表面的な呼びかけではなく、「どんな状況でも自分の美学を保ち続けることの大切さ」です。それは、言い換えれば「弱さを隠す強さ」ではなく、「弱さごと引き受ける強さ」とも言えるのではないでしょうか。

終わりに:静かなる反骨の歌として

『Englishman In New York』は、美しいメロディと洗練されたサウンドに包まれながらも、その芯には強い意志と優雅な反骨精神が宿っています。スティングはこの曲を通して、「異なることを恐れず、自分を貫け」と私たちに語りかけているのです。

たとえ誰も見ていなくても、胸を張って背筋を伸ばして歩くこと。たとえ少数派でも、礼節と誇りをもって生きること。それこそが「紳士(または淑女)」の流儀であり、私たち一人ひとりがこの世界で迷わずに進むための指針なのかもしれません。


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