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さだまさし:僕の勝手なBest15ー第7位は「精霊流し」です。― 春の夜に響く鎮魂の歌
さだまさしの「勝手なBest15」第7位は、「精霊流し」です。
衝撃的という言葉は似合わない曲ですが、当時僕が聴いていたフォークソングとは世界を異にするそんな佇まいの曲でした。さだまさしの原点ともいうべき特別な楽曲です。
正直、一昨日の記事「無縁坂」をアップするまで、どちらを9位でどちらを7位にするか本当に決めかねていました。どちらも「グレープ時代」の曲ですが・・・・
何度も何度も楽曲を聴いてもなかなか決まりませんでしたが、最終的な決め手は、グレープ時代の楽曲とソロになってからの同曲の微妙な違い!でした。以下の動画を聴き比べてください。分かりにくいですが、解説を読んでいただくと理解できると思います。よぉ~~く注意して聴かないと気がつきません!(>_<)
♪まずはいつものように公式動画(音源)からご覧ください。
✅ クレジット(正式表記)
曲名:shourounagashi(single ver.)
アーティスト:Grape(グレープ)
作詞・作曲:さだまさし(Masashi Sada)
編曲:Grape
ヴァイオリン演奏:さだまさし(Violin: Masashi Sada)
提供元:WM Japan(Warner Music Japan Inc.)
著作権表記:© 1998 WARNER MUSIC JAPAN INC.
チャンネル名:Grape - トピック(自動生成公式音源チャンネル)
公開日:2015年6月5日
📝 2行解説(自然な言葉で)
さだまさしと吉田政美による伝説的フォークデュオ「グレープ」による原曲音源。
1974年の代表曲「精霊流し」の静謐な美しさが、今も心に沁みわたります。
さだまさしさんのソロバージョン「精霊流し」の非公式映像です。
著作権への配慮から、記事内への動画の直接埋め込みは避け、画像リンク付きでご紹介します。
※動画の著作権は権利者に帰属します。
👇画像をクリックすると、YouTubeで動画をご覧いただけます。

※動画は、さだまさしさんのソロバージョン「精霊流し」の非公式映像です。公式チャンネルからの公開ではありませんが、長年にわたり視聴可能な状態が続いており、楽曲の魅力を感じていただける内容となっています。
時代に咲いた鎮魂の歌──『精霊流し』誕生の背景
グレープ時代のさだまさしと音楽的転機
『精霊流し』は、グレープのセカンドシングルとして1974年にリリースされました。作詞・作曲はさだまさし自身。アレンジはグレープ名義ですが、スタジオ録音には当時の一流プレイヤーも参加し、音楽的な完成度の高さが際立ちます。前年のデビュー作『雪の朝』はセールス的に苦戦し、音楽活動を続けるか否かの瀬戸際にいたさだにとって、本作は「最後のチャンス」でもありました。

社会と音楽の交差点──1974年という時代
1974年は、第一次石油危機の影響が日本経済に深く影を落とした年でした。戦後の高度成長は終息へと向かい、人々の関心は物質から心へと移行し始めていました。政治では田中角栄首相が退陣の圧力を受け、国際的にはニクソン大統領がウォーターゲート事件で辞任し、ジェラルド・フォード政権へ移行。社会全体が「終わり」と「再構築」の狭間にあり、内省的な芸術が求められる空気が高まりました。
精霊流しという伝統行事とさだの実体験
「精霊流し」とは、長崎のお盆に行われる伝統行事で、故人の霊を送り出すための船を町中で流すというもの。爆竹や鐘の音が響き、町が一体となる壮大な「送りの儀式」です。さだは少年時代、従兄を水難事故で亡くし、その体験がこの曲の原点になっています。家族や記憶、そして死者への祈りを個人的な経験としてではなく、普遍的な心情へと昇華させた点に、この作品の強さがあります。

悲しみを包み込む音の風景──サウンドと歌詞の魅力
アコースティックとストリングスが織りなす抒情
『精霊流し』の音楽的な特長は、BPM65前後のゆったりとしたテンポと、アルペジオ主体のギター、そしてバイオリンの旋律にあります。この構成は、さだがヴァイオリン奏者としての素養を持つことにも由来し、フォークとしては異例の抒情性を持っています。第1コーラスは嬰ハ短調、第2コーラスは嬰ニ短調という構造も独特で、のちのソロ再録版ではニ短調に統一。※❶
スタジオ録音は1974年の初春に行われましたが、その着想は、福岡のホテルでの夜に思い浮かんだと言われています。

※❶について・・・くどいようですが解説します。
「音階が違う」のは、1974年のグレープ版(調が途中で変わる)と、その後のソロ版(調が統一されている)の違いを指しています。
具体的な違い
【グレープ時代(1974年発売)】
グレープ名義のオリジナルシングル。
第1コーラスが嬰ハ短調(C♯m)
第2コーラスが嬰ニ短調(D♯m)
曲の途中で調が上がることで、情感の盛り上がりや感情の波を演出。
【さだまさしソロ再録版(1976年以降)】
ソロ活動後に再録音したバージョン。
全体をニ短調(Dm)に統一。
調性を統一することで、一貫した静謐さや落ち着いた印象が強まった。・・・ということです。よくきかんとわからんですな!!
ボーカルが描き出す“別れの優しさ”
さだまさしのボーカルは、技術的な力強さではなく、言葉のひとつひとつに感情を込める繊細な語り口が魅力です。「あなたの愛した母さん 浅黄色の着物で 手を振る」といったフレーズでは、情景描写と感情の流れが完璧に一致し、聴き手に「映像が浮かぶ」ような没入感を与えます。ストリングスの控えめな包み込みも、情緒を壊すことなく、その哀しみを引き立てます。

【この一行が教えてくれること】
「ギターの弦でくすり指を切った 君がまだ好きだった」
「ギターの弦でくすり指を切った」という描写は、恋人との時間を思い出そうとしてギターを奏でた結果、さびついた弦=時の流れ・喪失の象徴に傷つけられたという詩的表現です。
とくに「くすり指」は、婚約や愛の象徴として捉えられ、この指を傷つけたことは、かつての誓いや未来が失われた痛みを象徴しています。
このように、ただの懐古や失恋ではなく、「死別」や「時の経過が癒しにならない未練」「癒えない喪失感」がこの一節には込められており、楽曲全体の“鎮魂”という主題を象徴する要所となっています。
民俗性と詩情の融合──さだフォークの完成形
この曲には、長崎という土地の記憶、精霊流しという行事、そして個人的な喪失体験という三層構造があります。それらが、フォークという形式に収まりながら、ポップでもなく演歌でもない独自のジャンルを築きました。のちの「関白宣言」「防人の詩」などにも見られる、さだの語りと歌の融合は、すでにこの時点で完成されていたのです。
世間が聴いた“精霊流し”──広がる共感と音楽的評価
チャートとメディアの反響
1974年春、『精霊流し』はラジオのリクエスト番組を中心に徐々に注目を集め、6月にはオリコンチャートで最高2位を記録。無名に近かったグレープを一躍メジャーの舞台に引き上げました。

テレビ露出は限られていたものの、『夜のヒットスタジオ』や『ミュージックフェア』での紹介を通じて、「フォークは若者だけのものではない」という認識を広げるきっかけとなりました。
音楽賞と文化的評価
同年末には第16回日本レコード大賞・作詩賞を受賞。審査員からは「詩情の豊かさ」「地域文化へのまなざし」「文学性の高さ」が高く評価され、アイドルポップ全盛の中において、“言葉の力”を再認識させた作品とされています。
同時代作品との比較
1974年には、吉田拓郎『襟裳岬』、井上陽水『心もよう』など、多くの名曲が誕生しましたが、『精霊流し』は「死」と「再生」をテーマに据えた点で際立っていました。翌年に発表されたさだのソロ曲『雨やどり』が軽妙な語り口だったことを考えると、本作がいかに“深い詩魂”をたたえていたかがよくわかります。
小さな記憶が灯す、歌の力
涙がこぼれたコンサートの夜
1975年、グレープの地方公演で『精霊流し』が披露された際、曲の終盤で客席からすすり泣きが聞こえたという逸話があります。歌い終えたさだは、「この曲には、誰かのことを思い出させてしまう力がある」と、ゆっくり語りかけたといいます。
音楽は共鳴であり、記憶の引き金となる――そんな瞬間を象徴するエピソードです。

SNS時代における再評価
近年では、SNS上で「お盆になると聴きたくなる曲」「祖父母のことを思い出す曲」として自然発生的に拡散され、若い世代にも静かな人気を集めています。2020年代以降、サブスクリプション再生数も右肩上がりとなり、季節と記憶が結びついた「聴かれるタイミングを持つ曲」として息長く愛されています。
春の深夜、ラジオから流れたあの歌
僕と『精霊流し』の出会い
初めてこの曲を聴いたのは、リリースが1974年であったことから高校1年生の時だと思います。
前述のように、『夜のヒットスタジオ』や『ミュージックフェア』あたりで聴いたのでしょう。
小さな音量で(空想です)流れたその歌は、さだまさしの柔らかな声、ひとつひとつの言葉が丁寧に語られる歌い方。そして、「ギターの弦でくすり指を切った……」という一節が、妙に心に残った記憶はあります。

音楽には目覚めていましたが、当時流行った楽曲に比べ「暗いなぁ!」とは感じたものでした。
今あらためて、この歌が響く理由
失われたものに、そっと手を伸ばす歌
時代が変わり、音楽の聴かれ方が大きく変化した今でも、『精霊流し』は多くの人に届き続けています。特に震災やパンデミックを経験した現代では、「死者へのまなざし」を含んだ楽曲への共感が広がりつつあります。
SNS、YouTube、Spotify。再生環境は変わっても、そこに込められた“心”は揺るがないのです。
音楽が記憶と結びつく瞬間
この曲を聴くと、春の夜の風、仄かに香る線香の匂い、遠い誰かの面影が心に浮かびます。それは、単にノスタルジーではなく、“いまここにいない人”と静かに語り合えるような感覚です。
さだまさしは、この楽曲を通じて、「歌で祈る」というひとつのかたちを示しました。そしてその形は、世代を超えて、これからも人々の記憶に宿っていくのでしょう。

この順位の理由と、次回の予告
なぜ第8位なのか──完成されすぎた原点
『精霊流し』は、さだまさしにとっての出発点であり、すでに多く語られ、評価されてきた名作です。だからこそ、今回はあえて第8位としました。なぜなら、この曲は“すでに多くの人の心の中に完成している”からです。
ただ、完成されていても、聴くたびに胸を揺らし、涙をにじませる。その感覚が、音楽の本質を思い出させてくれます。
次回予告
次回は第7位。
さだまさしの世界がさらに彩りを増す一曲をご紹介します。どうぞご期待ください。
◆「精霊流し」の歌詞は➡こちらのページからどうぞ!
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