僕の勝手なBest15:【さだまさし】編-第6位『ほうずき』―夏の終わりに響く一曲をご紹介!

さだまさし」の歴史はこちら語り続けて50年――さだまさしという生き方

【さだまさし】編―第6位は・・・『ほうずき』です。

さだまさしの長いキャリアの中でも、夏の終わりに聴きたくなる名曲としてファンの間で高い人気を誇るのが『ほうずき』です。赤く実るほおずきの姿に託された別れと記憶。その情景を、さだ独特の語り口と繊細な音作りで描いた一曲は、静かな余韻と深い感情を残してくれます。

大学時代に、浅草寺のほうずき市に行ったのを、つい昨日のように懐かしく思い出します。

まずはYoutube公式動画でお聴きください。

【クレジット】
曲名:hoozuki(ほおずき)
アーティスト:グレープ(Grape)
アルバム:Grape Best Collection 1973 – 1978
リリース年:1975年
提供元:WM Japan(Warner Music Japan Inc.)
バイオリン:さだまさし
編曲:服部克久

【2行解説】
グレープ時代のさだまさしが描く、儚くも美しい恋の記憶を綴った叙情歌。
服部克久の繊細な編曲と、さだ自身のバイオリンが切なさを際立たせる名曲ですわかる貴重な公式映像をチェックしてみてください。

『ほうずき』の成り立ちと時代背景

制作の背景とアーティストの転機

『ほうずき』はもともと1975年7月10日に、グレープのシングルとしてリリースされた楽曲です。さだまさしがソロに転向後、1981年のアルバム『私花集(アンソロジー)』にてセルフカバーの形で再録されました。作詞・作曲はさだまさし、編曲は武部聡志。さだはこの時期、『関白宣言』や『道化師のソネット』といったヒット曲を経て、より表現の幅を広げていました。

フォークデュオ・グレープ解散後、ソロ活動を本格化させた彼は、歌詞の文学性と語りの巧みさを強みに、コンサートでも強い支持を得ていました。

1981年という時代の空気

日本は高度経済成長の余韻を残しつつ、バブル経済の兆しが見え始めた頃。音楽シーンでは松田聖子がアイドルのトップに立ち、YMOや中島みゆき、松任谷由実らがそれぞれ異なる進化を遂げていました。『ほうずき』はそうした華やかな潮流とは一線を画し、静けさと内省に満ちた作品として位置づけられます。

さだ自身、「夏の終わりに感じる切なさを、子どものころから親しんできた“ほうずき”というモチーフで形にしたかった」と語っています。レコーディングでは、極力シンプルに仕上げることを心がけたといいます。

また、この時期の楽曲制作においては、演奏のミスすらも情緒の一部として取り込む姿勢が見られ、レコーディング現場では一音ごとの温度や空気感が重要視されたと伝えられています。


音楽的アプローチと詩の構造

サウンドの設計と演奏構成

この曲は、静かなアコースティックギターのアルペジオから始まります。コードはE、A、B7を中心に進み、やさしくストリングスが重なって、落ち着いた雰囲気をつくり出します。ドラムやベースは控えめに演奏されていて、メロディの邪魔をせず、さだまさしの歌声と歌詞の世界をやさしく引き立てています。

また、武部聡志による編曲は、空間を活かした残響や間の取り方に細心の注意が払われ、まるで夜風にそよぐ木々の葉音のような優しさを醸し出しています。こうした音の扱いは、スタジオ録音でありながら、どこか野外の情景を思わせるような臨場感をもたらしています。

ボーカル表現と語り口の妙

さだの歌唱は語るように進み、声量を抑えた静かな表現で聴き手の感情を導きます。とくに、「僕の肩にすがり うつむいたきみは/おびえるように 涙をこぼした」といった一節では、細やかな息遣いや声の揺れがリアルに切なさを伝え、聴く者の感情を呼び起こします。

過剰な装飾を排し、“間”や沈黙の使い方に情感を込めるスタイルは、さだ特有の“語りと旋律の融合”の完成形ともいえるでしょう。抑制された感情表現が、むしろ深い余韻として胸に残ります。

歌詞構造とモチーフの効果

歌詞は記憶をめぐるように進行し、「君と歩いた夏の夕暮れ」といった描写が、失われた時間を浮かび上がらせます。”ほうずき”は視覚的に印象的な赤が、涙や想いの象徴として機能し、聴き手に深い情緒を残します。

特にラストの「誰かが忘れた ほおずきをひとつ」という一節は、残された思い出と喪失感を象徴する名行であり、別れを受け止めながらも日常に戻る主人公の姿が鮮やかに浮かび上がります。


世間的評価と位置づけ

リリース当時の反応と成績

『ほうずき』はオリコンTOP20入りを果たし、約18万枚を売り上げました。『関白宣言』ほどの爆発力はなかったものの、当時の音楽メディアでは「詩的感性が光る名曲」として高評価を受けています。

また、ラジオでは「深夜番組向きの情緒豊かな曲」として紹介されることが多く、若いリスナー層から年配者まで幅広く支持を集めたことが特筆されます。

ライブでの存在感とファンの支持

以後、さだのライブでも頻繁に歌われ、特に夏のコンサートでは定番曲となっています。2024年の全国ツアーでは、涙を拭う観客が多く見られ、SNS上でも「やっぱり『ほうずき』は泣ける」と話題になりました。

さらに『風に立つライオン』などと並んで、「しっとり系名曲ランキング」や「失恋ソング特集」などの企画で取り上げられることも多く、長年にわたって記憶に残る楽曲として定着しています。


他作品との比較と文学性

『ほうずき』は同じ『私花集』収録の『秋桜』と並び称されますが、後者が母娘の関係を描いた私的叙情詩であるのに対し、『ほうずき』はより抽象的・普遍的な“別れと記憶”を描きます。

同時代の中島みゆき『ひとり上手』が現実の孤独に対する抗いを描いたのに比し、『ほうずき』は静かな肯定を通じて感情に寄り添う構造。詩的な想像力に満ちた一編として、文学性の高さが際立ちます。

また、さだの他作品『主人公』や『案山子』と比較しても、『ほうずき』はより季節感と色彩感覚に訴える点で異彩を放っており、視覚的な詩の要素がより濃密に織り込まれています。

『飛梅』のような和的情緒や、『親父の一番長い日』のようなストーリーテリングとも異なり、『ほうずき』は余白と象徴性を最大限に活かした抒情詩的作品として際立っています。


制作秘話と再評価の兆し

スタジオでのこだわりと演出

録音では、さだ本人がギターを弾きながら歌う手法が採られ、情感と演奏が融合した生々しいテイクが完成しました。エンジニアはその自然さを「音の呼吸」と称したとも言われています。

マイクの位置や空調の音にまで気を配り、ノイズすらも情景の一部として生かす考えがあったという証言も残されています。こうした制作姿勢が、曲に宿る“生きた空気”を支えているのです。

テレビ出演と近年の再注目

1981年のテレビ出演ではステージにほおずきを装飾し、楽曲の世界観を視覚的にも演出。さらに、2021年のカバー企画や、若手アーティストの歌唱によって、『ほうずき』は新たなファンを獲得。2025年現在も、再評価の動きが続いています。


現代に響く『ほうずき』の意義

忙しない日々の中で、ふと立ち止まり過去に想いを巡らせる。そんな“静かな時間”の必要性を、この曲は思い出させてくれます。SNSやデジタル表現が主流の今だからこそ、語られすぎない感情が持つ力に耳を澄ませることの意味を噛みしめたいものです。

ほうずきの赤は、記憶の中に宿る光であり、次の季節へと向かう私たちに寄り添ってくれるのです。

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