僕の勝手なBest15:【さだまさし】編-第3位『主人公』をご紹介!

さだまさし」の歴史はこちら語り続けて50年――さだまさしという生き方

さだまさし:僕の勝手なBest15ー第3位は「主人公」です。

あっという間に、残り3曲、Best3に突入です。
第3位に選んだのは、「主人公」です。1987年にリリースされたこの楽曲は、旅、別れ、そして人生そのものを穏やかに、しかし深く描き出した名曲として知られています。初めて聴く人にも、長年のファンにも、どこか懐かしく、胸に染み入る響きを届けてくれます。詩情とメロディが交差する世界に、あなたもぜひ足を踏み入れてみてください。この作品がなぜ第3位にふさわしいのか、丁寧にひも解いていきます。

♪まずはいつものように公式動画(音源)からご覧ください。

【クレジット】
曲名:Shujinko(主人公)[2016 Remaster]
歌唱:さだまさし
編曲:ジミー・ハスケル(Jimmie Haskell)
収録アルバム:『Anthology』
著作権表記:©1978, 2016 WARNER MUSIC JAPAN INC.
提供元:WM Japan(YouTubeによる自動生成)
公開日:2017年1月26日
【2行解説】
1978年発表の代表曲「主人公」が、2016年のリマスター音源で蘇る決定版。
繊細なアレンジとさだの語りかけるような歌声が、時を超えて胸に響きます。
【クレジット】
曲名:主人公(『1000回記念コンサート・ライヴ』バージョン)
歌唱・作詞・作曲:さだまさし
収録アルバム:『1000回記念コンサート・ライヴ Vol.3』
発売日:1985年9月25日
提供元:Space Shower FUGA(YouTube自動生成)
著作権表記:©1985 UCAN
【2行解説】
1985年に開催された「1000回記念コンサート」の熱気を収めた名演。
さだの語りと歌が一体となり、観客との一体感を感じさせる感動のライブ音源です。
【クレジット】
曲名:主人公(東大寺コンサート2010)
歌唱:さだまさし
作詞・作曲:さだまさし
収録:『さだまさし 東大寺コンサート2010』(2010年10月16日/東大寺大仏殿前特設ステージにて)
提供元:さだまさしオフィシャルチャンネル(YouTube)
【2行解説】
30年ぶりに東大寺で行われた感動の野外コンサートから、代表曲「主人公」の貴重なライブ映像。
厳かな大仏殿の前で響くさだの歌声が、人生の深みと温もりを静かに伝える名演です。

心の奥に響く、静かな旅の歌―1987年、円熟の境地から生まれた歌

「主人公」は、1987年3月21日にシングルとして発売され、同年のアルバム『夢の轍』に収録されています。作詞・作曲はさだまさし自身、編曲は武部聡志が担当しました。1970年代にグレープとして活動し、「精霊流し」で一世を風靡したさだは、ソロ転向後も語りと音楽の融合という独自の世界観を築きました。

この時期のさだは、30代後半を迎え、家族や社会との関わり、自身の人生の選択など、より内省的な視点で音楽と向き合うようになっていました。「主人公」は、そうした内面的な成熟が結実した作品のひとつであり、自身の人生をどう受け止めるかというテーマに真正面から向き合っています。

時代背景:1987年の社会と音楽

日本社会:転換期の空気

1987年の日本は、バブル景気の幕開けともいえる時代でした。経済は好調で、都市では地価の上昇が続き、株価は日経平均が初めて2万6000円を突破しました。しかし、浮かれた空気の裏で、社会のひずみも次第に表れつつありました。

たとえば、東海道新幹線の脱線事故(1987年4月)や、国鉄民営化に伴うJRの発足など、移動や生活に関する環境も大きく変化していきました。また生活者の価値観も物質的な豊かさから精神的な充足へとゆっくりとシフトしていた時期でもありました。「主人公」のように心の内面を見つめる楽曲は、こうした社会の空気と呼応していたとも言えるでしょう。

音楽の潮流:多様化の時代に

音楽シーンでは、BOØWYや中森明菜、TM NETWORK、長渕剛などがヒットチャートを賑わせ、シンセサイザーを多用したサウンドや、映像演出を重視した楽曲が増えていました。洋楽ではマイケル・ジャクソンやU2が圧倒的な存在感を放ち、ミュージックビデオが音楽体験に欠かせない時代が到来していました。

その中にあって、さだまさしのアコースティックなアプローチと語りかけるような歌唱は、あえて流行に背を向けるように見えたかもしれません。しかし、「主人公」のような曲は、表現が静かであるがゆえに逆に深く心に残り、時間を経てから再発見されるタイプの作品といえるでしょう。

誕生の背景:移動と出会いが紡いだ詩

「主人公」の背景には、さだの旅にまつわる数々の経験が影響しています。彼は年間100本を超える全国ツアーを行っていた時期があり、列車での移動やホテルでの宿泊、各地の風景や出会いが創作の源になっていました。

歌詞には「旅行案内書」「昔通り」「62番のバス」「鈴懸並木」といった具体的な場所や情景が登場し、かつての日々の記憶をたどる一種の“記憶の旅”として構成されています。過去の恋人との思い出、学生時代の街の雰囲気、交差する時間軸の描写など、情景描写と心理描写が見事に絡み合っています。

また、「或いは」「もしも」という語の選び方にも、言葉への繊細な感覚が宿っています。「人生の分かれ道で、あの時別の選択をしていたら…」という普遍的な思いを、さだは決して断定せず、優しい問いかけとしてリスナーに託しています。

音楽的特徴と表現の魅力

ボーカルと歌詞:静かな決意と再確認

さだの歌唱は、語りかけるような親密さと、抑えた感情の中に滲む確かな意志を感じさせます。とくに印象的なのは、歌詞後半の以下の一節です:

「あなたは教えてくれた 小さな物語でも/自分の人生の中では 誰もがみな主人公」

このフレーズは、曲全体のメッセージを集約した核ともいえる部分であり、「私の人生の中では私が主人公だと」という最後のリフレインにつながります。人生の選択に迷いながらも、過去を肯定し、前を向く決意が静かに伝わってきます。

「勿論 今の私を悲しむつもりはない/確かに自分で選んだ以上精一杯生きる」

こうした言葉の選び方には、さだの哲学的な側面がにじみ出ています。聴くたびに、聴き手が自身の「過去」と「今」を見つめ直すきっかけになる楽曲です。(年齢を重ねるにつけ、だんだんとこの心境になて行きます!)

表現者としての個性:物語を生きる力

「主人公」は、さだまさしが語りと音楽を融合させた作風の真骨頂といえます。彼のコンサートでは、曲の前に語られるエピソードが聴衆の想像力を刺激し、その後の歌がより深く心に染み込むという構成が定番となっています。

この曲は、「関白宣言」のような社会的皮肉とは異なり、きわめて内面的な物語に徹しています。自己肯定と再出発というテーマは、1987年当時だけでなく、現代にも普遍的な価値を持っています。

また、「小さな物語でも人生の主人公である」という歌詞は、自己肯定感や生きづらさを感じやすい現代人にも大きな共感を与えてます。

J-POPへの影響と意義

「主人公」は、J-POPに叙情性と文学的要素を強くもたらした楽曲のひとつです。過度に飾らず、それでいて情感豊かに人生を歌うスタイルは、その後のシンガーソングライターたちにも影響を与えました。

たとえば、スピッツ山崎まさよし、森山直太朗といったアーティストたちは、さだが切り開いた“語りのある歌”という系譜を現代に引き継いでいる存在だといえるでしょう。静けさや余白を大切にした表現が、J-POPに多様性をもたらしました。

ライブと再評価:時代を越える共感

「主人公」はコンサートでも定番の楽曲となっており、曲に入る前にはさだの語りが加えられることが多く、その語りと歌の一体感が観客の感情を大きく揺さぶります。実際、さだ本人が「この曲だけは毎回泣きそうになる」と語ったこともあり、ライブでは涙する観客の姿もよく見られます。

さらに、2020年代に入り、SNSを通じて若い世代にも広まりつつあります。とくに「私の人生の中では私が主人公だと」というメッセージは、現代の孤独や選択の難しさを生きる人々にとって、大きな励ましとなっているのです。

YouTubeなどでアップされているライブ映像やカバー演奏にも高評価が寄せられており、時代を超えた普遍性がこの曲の魅力を裏付けています。

総括:人生に寄り添う静かな名曲

「主人公」は、人生に迷うすべての人に向けて贈られた、さだまさしからの優しいエールです。1987年という時代背景とさだの個人的成熟が重なって生まれたこの曲は、単なる“昔の名曲”ではなく、今なお生き続ける作品として私たちに語りかけてきます。

喧騒の時代を静かに見つめるまなざしと、自分自身の歩みを信じる力。その両方を内包したこの楽曲は、これからも多くのリスナーの心を照らし続けることでしょう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました