僕の勝手なBest10:【小椋佳】編-第7位『揺れるまなざし』をご紹介!

小椋佳」について詳しくは➡こちらのWikipediaでどうぞ!


そよ風が運んだ旋律 ― 小椋佳「揺れるまなざし」

「僕の勝手なBest10:【小椋佳】編-第7位は『揺れるまなざし』です。

1976年7月21日、小椋佳の16枚目のシングル「揺れるまなざし」がポリドール・レコードから発売されました。
この曲は、資生堂が展開した1976年秋のキャンペーン「ゆれる、まなざし」のイメージソングに起用され、CMソングの枠を超えた芸術的な評価を受けます。

シングルは、当時の一般的な仕様である直径7インチのレコードとしてリリースされました。
また、後にアルバム『遠ざかる風景』にも収録され、作品としての広がりを見せていきます。

B面には「雨の露草に似て」が収められており、淡いピアノの響きが印象的な静かな楽曲です。
A面である「揺れるまなざし」のやわらかく抒情的な世界とは対照的に、内省的な美しさを湛えたこの曲が加わることで、シングル全体に奥行きが生まれています。

Youtube動画でご覧ください

資生堂のかつてのテレビCM映像には、今見ても心を打つ詩的な美しさがあります。
下記リンク先の動画は、その中でも特に印象深い作品です:
👉 YouTubeで見る(昔の資生堂CM) もしくは画像をクリックしてください。
※出典:YouTube(投稿者名:Still living in my swinging dream.)
※本動画はYouTubeへのリンクとして紹介しています。
 著作権は映像・音楽の権利者に帰属します。

リリース背景とCM起用

シングルリリースの概要

表題曲「揺れるまなざし」は発売日からラジオやテレビで継続的にオンエアされ、オリコンチャートでは最高5位を記録。また、28週にわたりランキング入りを果たし、長期的な支持を獲得しました。歌詞カードには小椋自身が書き下ろした直筆のイラストがあしらわれており、アナログの質感を生かしたアートワークもファンの心をつかみました。

資生堂キャンペーンとの結びつき

当時16歳のモデル・真行寺君枝が出演したCM映像は、室内での静謐な演出とアートディレクター鬼澤邦のセンスが光ります。少女らしい無垢さと大人の憂いを同時にまとった彼女のまなざしは、十文字美信の手による写真で切り取られ、資生堂の宣伝部門が求めた“一瞬の詩情”を具現化しました。テレビCMはモノクロとカラーを織り交ぜ、曲の叙情性をより際立たせています。

16歳の瞳が紡ぐ詩情

オーディションから本格デビューへ

真行寺君枝は東京都大田区出身。バレエ教室を経て高校生モデルとして活動していたが、資生堂秋のキャンペーンモデル選考では数百人をしのぎ抜擢されました。オーディション会場で際立っていたのは、縫いぐるみのリュックと装いに合わない切れ長の瞳。資生堂では“表情だけで語る”新しい広告スタイルに挑戦しました。

写真家・アートディレクション

光と影を駆使する十文字美信が演出した撮影セットでは、背景に漂う煙草の煙がまなざしの揺らぎを象徴。淡い光が差し込む室内は、当時の華やかな屋外広告と一線を画し、物語性を前面に押し出す手法として高く評価されました。

1976年という季節 — 社会と文化の狭間

政治と流行語

1976年2月、ロッキード事件の国会証人喚問で「記憶にございません」が流行語に。政治不信のただ中にあって、人びとは日常の安らぎを求め、心に寄り添う音楽に耳を傾けました。

明るい話題と生活の変化

同年1月31日、鹿児島市立病院で日本初の五つ子が誕生。男児2人・女児3人の無事を知り、全国が祝福ムードに包まれました。また、学校給食には米飯が導入され、家庭の味を学校でも楽しめるように。郵便料金の改定(はがき20円、封書50円)やテレビ番組の多様化など、生活の隅々に変化が訪れた年でもあります。

音楽シーンの躍動

1976年は子門真人「およげ!たいやきくん」がオリコン1位を獲得し、中島みゆきの「時代」太田裕美の「木綿のハンカチーフ」などが人気を博しました。グループ・サウンズの余波を受けつつ、フォークからニューミュージックへの移行期にあり、多様な音楽ジャンルが共存していました。

銀行員から叙情派へ — 小椋佳の軌跡

異色の経歴

1944年1月18日生まれの小椋佳は、東京大学法学部を卒業後、日本勧業銀行に入行。銀行員のかたわら音楽活動を始め、「シクラメンのかほり」で日本レコード大賞を受賞。会社と創作の両立を貫くスタイルは、当時としては異例のものでした。

楽曲提供の数々

自作のほか、堀内孝雄「夢芝居」、布施明「シクラメンのかほり」、美空ひばり「愛燦燦」などへの提供曲で知られ、歌謡曲・演歌ファンからも支持を得ました。CMソングやドラマ挿入歌など、ジャンルを超えた活躍が天下に広まりました。

メロディと言葉の共鳴

心を揺さぶる旋律

「揺れるまなざし」のメロディは、冒頭の静かな語り口からサビへと波状的に高まります。心地よいコード進行とアコースティックギターの調べが、恋心の緩やかな揺れ動きを音で表現しています。

控えめな編曲

編曲を手掛けた星勝は、ストリングスを繊細に配置し、歌声を邪魔しないシンプルなリズムを採用。80年代以降の派手なサウンドとは一線を画す、歌い手の感情を際立たせる伴奏です。

文学的な歌詞

めぐり逢ったのは言葉では尽せぬ人」「驚きにとまどう僕」などの一文には、知的な視座が感じられます。抽象的な表現と具体的な描写が交錯し、聴く者の想像力をかき立てます。

CMと歌が織りなす余韻

資生堂の映像と「揺れるまなざし」が紡ぎ出す世界は、広告と音楽の真摯なコラボレーションの証。視覚と聴覚が交差することで、一つの芸術作品として完成度を高めました。

カバーアーティストの取り組み

リリースから数十年を経た今、多くのアーティストが「揺れるまなざし」をカバー。弾き語り、ジャズ風、女性ボーカルによる再解釈など、多様なスタイルで新たな生命が吹き込まれています。

映画・ドラマでの使用例

1970年代を舞台にしたドラマや映画での使用もあり、若者の恋愛描写や再会シーンなどで使われると、より一層のノスタルジーを演出する効果を発揮します。

リリース後の歩み

アルバム収録と再発、リマスター盤と配信対応

オリジナルアルバム『遠ざかる風景』のほか、ベスト盤やライブ盤にも多数収録。1991年にはキティレコードから再シングル化され、リスナー層をさらに広げました。

2014年のデジタルリマスター版では音質が格段に向上。ストリーミングサービスでも配信され、現代の音楽リスナーにもアプローチしています。

音楽文化史における位置づけ

「揺れるまなざし」は、CMと楽曲の融合が生んだ日本の広告音楽史に残る代表作のひとつ。時代の空気と個人の情感が交錯する美学の結晶として、今も研究対象として取り上げられています。

リリースから半世紀を経ても、「揺れるまなざし」はその詩情とメロディで私たちの心を揺さぶり続けます。

【僕の勝手なBest10:小椋佳編】へのリンクです。

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