🎧 『3号線を左に折れ』を音声で楽しむ (Listen to this article)
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※ 音声を聞き終えてから本文を読み進めると、より立体的に『3号線を左に折れ』の世界を味わえます。
🎸【風/kaze】編・第15位『3号線を左に折れ』です。
今日からまた新シリーズの開始です。その名も「僕の勝手なBest15【風/kaze】編です。
ご存じの方も多いと思いますが、風の伊勢正三は、もと「かぐや姫」のメンバーです。
僕としては「かぐや姫」を中学・高校時代によく聴いていました。
そして風は大学時代に主に聴いた記憶があります。なので、心象風景としては、やはり違うものがあります。
若い学生時代に聴いた「かぐや姫」とちょっと大人になりかけの大学時代に聴いた「風」。
風の歴史について今回は記事にしていません。風といっても、特にメロディメーカーの伊勢正三に目が行きますが、彼の歴史については「かぐや姫」編で詳しく書いています。なんといっても、僕とおなじ大分県の津久見市生まれ。小学校、中学校の先輩で、とても誇れる人なのです。
では早速本題に行きましょう。第15位は『3号線を左に折れ』です。しみじみとしたバラードです。
都会での生活に追われる日々の中で、ふと海へ向かいたくなる瞬間があります。この曲は、そんな “帰りたくなる感情” を鮮やかに描きながら、かつての記憶や揺れ動く心を静かにたどる作品です。風ならではの柔らかなメロディと、伊勢正三の視点で紡がれた情景描写が、聴き手に自然な懐かしさを思い起こさせます。

超約
この曲の主人公は、都会の生活から距離を置きたくなり、昔よく訪れた海へ車を走らせます。道中でふと、かつて一緒に過ごした人との記憶がよみがえります。海で撮った写真や、相手の表情が静かに思い出され、時間の流れを感じながら、季節が変わる前に “自分の暮らしへ戻らなければならない” という現実も意識しています。
物語は終始落ち着いた調子で進み、過去と現在の距離感が淡く交差するように描かれます。
まずは公式動画をご覧ください。
✅ 公式動画クレジット
曲名:3号線を左に折れ(2021 Remaster)
アーティスト:風
提供元:Nippon Crown Co. Ltd
作詞:作曲:伊勢正三
© NIPPON CROWN CO., LTD.
リリース日:2021-09-22(Auto-generated by YouTube)
✅【2行解説】
1970年代フォークを代表する “風” の人気曲を、2021年リマスター音源で公式配信したものです。
レーベルが YouTube に正式提供したため、安心してブログや記事内で「公式音源」として扱えます。
曲の基本情報
リリース/収録アルバム
『3号線を左に折れ』は、1970年代後半の風の活動期に発表された楽曲で、伊勢正三らしい繊細な物語性が特徴です。作品は後年リマスターされ、2021年には「2021 Remaster」として公式に再リリースされました。
この時期の風は、フォークの枠を超えてアレンジの幅を広げており、当時の音楽シーンの変化を受け止めながら、自分たちのサウンドをより明確にしていった段階でもあります。
チャートと時代背景
本作が大ヒットチャートの中心にいたわけではありませんが、風のファンの間では長く親しまれている楽曲です。1970年代後半は、フォークからニューミュージックへの移行期にあり、都市と地方の距離、生活と記憶のゆらぎを扱った作品が多く生まれました。
その潮流の中で、本曲は“日常の延長にある旅”を描くことで、派手さはなくとも深く染み込む存在として評価されてきました。

曲のテーマと世界観
主人公の背景
主人公は、都会で忙しく生活する中で、ふいに海へ向かいたい衝動に駆られます。これは逃避ではなく、自分を取り戻すための行動に近いものです。都市生活のテンポの速さと、自然のゆるやかさ。その対比が物語の導入として機能し、曲全体に“心を整えるための旅”という輪郭が浮かび上がります。
物語の導入
歌の前半では、3号線を左に折れ、海へ向かう道を進むという非常に具体的な情景が示されます。風が吹きつける気配や、季節の変わり目の空気が感じられ、リスナーはまるで運転席に座っているかのように状況を思い描けます。
ここで重要なのは、主人公が海そのものを目的としているだけではなく、過去の記憶と向き合うきっかけを求めているという点です。この段階ではまだ具体的に語られていませんが、かつて誰かと共有した時間が再び心に浮かぶ準備が整っていく様子が自然に描かれています。

歌詞の核心部分と解釈
象徴的なフレーズ
曲の中盤では、主人公が“昔の写真”を手に取りながら、かつて共に過ごした相手の表情を思い返します。歌詞では最小限の言葉で描かれていますが、その裏側には「なぜ二人は今、同じ場所にいないのか」「なぜ記憶として残っているのか」という余白が静かに広がっています。
特に、相手が写真の中で目を閉じているという描写は、当時の気持ちや関係性を暗示する手がかりでもあります。無邪気さなのか、照れなのか、それとも別の感情なのか。明確に語られない分、聴き手はそれぞれの経験や記憶と重ね合わせやすくなります。

ここで1か所だけ短い引用を扱います。
「きれいなものだけを見てたかったんだね」
この一節は、主人公が当時の相手の気持ちを時間越しに汲み取ろうとする“解釈”として置かれています。
直接的な説明を避けつつ、相手が見つめていた景色や心の向きが、主人公の視線と必ずしも同じではなかったことがにじみます。曲全体の物語を踏まえると、この言葉が“現在の距離感”を象徴しているようにも感じられます。
主人公の心理変化
物語が進むにつれ、主人公は“懐かしい場所への旅”から、“今の自分を確かめる旅”へと静かに移行していきます。
海は単なる目的地ではなく、過去との境界線に立つ場所として描かれています。写真を見つめながら、相手の表情を思い返し、自分の中にある整理しきれない感情と向き合う。曲の後半は、外の景色よりも内面の動きが中心となります。

そしてラストでは「季節が変わる前に戻らなければならない」という現実が示されます。
ここには、思い出に浸り続けることはできないという冷静さと、それでも一度だけ立ち止まりたかった主人公の気持ちが同時に存在しています。この“揺れ”が、曲全体の魅力を支えています。
サウンド/歌唱の魅力
アレンジの特徴
『3号線を左に折れ』のサウンドは、風の作品の中でも特に“風景がそのまま音になった”と感じられる構成です。
アコースティックギターの柔らかいストロークが道のりの長さを思わせ、控えめなリズムが車の速度を暗示します。瀬尾一三のアレンジは、場面の移ろいが音の変化に自然に寄り添うよう設計されており、海へ向かう道中の空気をそのまま閉じ込めたような仕上がりです。

旋律は過度に感情を強調せず、むしろ淡々とした進行のなかに心の揺れを落とし込んでいます。伊勢正三のボーカルもその意図を汲むように、平静さを保ちながら温度のある声で物語を進めます。
メロディと語り口の距離感が非常に繊細で、曲の情景描写をより立体的にしています。
Best15に入る理由
他曲との差別化
風の楽曲には、恋愛・旅・季節の移ろいを扱った名曲が多数あります。その中にあって『3号線を左に折れ』は、感情を直接的に描かず、主人公の視点だけで物語を静かに進める点が他曲と大きく異なります。
誰もが経験する“ふと過去に立ち戻りたくなる瞬間”を、過度な演出なしで捉えているため、聴くたびに新しい理解が生まれるタイプの楽曲です。
また、写真という小さな道具を軸にして、記憶の温度や距離を丁寧に描く構成も独特です。過去の描写は最小限でありながら、情景と感情の輪郭が鮮明に伝わります。風の他の曲と並べたとき、目立つタイプではないものの、内省的な魅力が光る“通好みの一曲”として確かな存在感があります。
読者が聴き直したくなる一言
この曲の良さは、一度聴いただけでは掴みきれない静かな深さにあります。都会の生活に戻る前、ほんの少しだけ立ち止まって気持ちを整えるような時間。そんな瞬間を思い返したくなったとき、『3号線を左に折れ』はきっとそっと寄り添ってくれます。


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