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🎸【風/kaze】編・第12位『古都』です。
第12位は『古都』です。
この曲は、風が描く“都市の静けさ”と“別れの後に訪れる心の空洞”を、都会の情景と結び合わせて表現した作品です。京都という舞台が象徴として機能し、過去を受け止める難しさや、人が環境の中でどう心を整理していくのかが淡々と語られます。控えめなアレンジと伊勢正三の声が、物語のリアリティをそっと支えています。

超約
この曲では、主人公がかつての恋人との別れを受け止めようとしながら、古都の街並みと向き合っていきます。街の景色は彼に記憶を呼び戻し、偶然思い出す場面が次々と浮かびます。人の流れは止まらないのに、自分だけが取り残されたような感覚を抱え、静かな街角で心の整理がつかずにいる様子が描かれます。物語は、変わらない景色と変わってしまった関係の対比によって進んでいきます。
まずは公式動画をご覧ください。
✅ 公式動画クレジット
曲名:古都
アーティスト:風(Kaze)
レーベル:NIPPON CROWN CO., LTD.
作詞:伊勢正三
作曲:大久保一
© NIPPON CROWN CO., LTD.
YouTube 掲載情報:Provided to YouTube by Nippon Crown Co. Ltd
リリース日:1976年1月25日
収録アルバム:『時は流れて…』(1976年)
📝 2行解説
1976年アルバム『時は流れて…』に収録された、風の初期世界観を象徴する静かなフォーク作品です。
伊勢正三の叙情的な詞と大久保一のメロディが重なり、都市の喧騒と心の距離感を丁寧に描き出しています。
曲の基本情報
リリース/収録アルバム
『古都』は 1976年1月25日発売のアルバム『時は流れて…』 に収録された楽曲です。
風の初期を代表する作品群の中に位置しており、伊勢正三の詞世界が一段と濃く表れた時期の楽曲でもあります。
アルバム『時は流れて…』は、都会的なテーマと日常の感情を丁寧に描いた作品が多く、フォークからポップスへ変化していく時代の空気を含んでいます。その中で『古都』は、場所性を前面に打ち出した曲として重要な役割を持ちます。

チャートと時代背景
『古都』自体はシングル曲ではありませんが、当時の風は全国的に人気が広がり始めた時期で、アルバム全体の評価も高く、ライブでも支持される選曲となっていました。
1970年代半ばは“都会への移動”や“地方から都市へ出ていくライフスタイル”が一般化した時代で、曲が扱う「都市と個人の関係」は多くのリスナーが共感しやすいテーマでした。
曲のテーマと世界観
主人公の背景
主人公は、別れた相手との思い出が残る街を歩きながら、自分がどの地点に立っているのかを静かに見つめています。歌詞にも、京都の地名や街並みが登場し、物語が具体的な場所と強く結びついていることがわかります。

木屋町通り、四条通り、嵯峨野——いずれも生活の匂いと歴史が同居する地域であり、それらを舞台に“過去を再確認する旅”が描かれています。主人公は刺激的な大事件を語るわけではなく、小さな記憶の断片を丁寧にすくい上げながら前へ進もうとしています。
物語の導入
曲の導入では、かつての恋人が「京都のほうが似合う」と思っていたことに主人公が気づき、過去の会話を思い出す場面が描かれています。この“何気ない気づき”が物語の入口となり、彼は街の景色と記憶を結びつけながら、自分の内側を探っていきます。
情景描写は穏やかでありながら、主人公の心は落ち着いていません。街並みが変わらず存在している一方で、自分の生活だけが急に動き出したり止まったりするような、居心地の悪さが丁寧に描かれています。
歌詞の核心部分と解釈
象徴的なフレーズ
『古都』の歌詞には、京都の具体的な地名が散りばめられています。木屋町通りや四条通りは人の流れが絶えない場所ですが、主人公はその中で“自分だけ歩幅が合わない”感覚を抱いています。
引用するとすればごく短く、たとえば「四条通り」という固有名詞だけに留めるべきですが、それらの場所は単に地理情報ではなく、主人公の内面を照らす装置として機能しています。

街が変わらない表情で存在するからこそ、変わってしまった人間関係が強調される。歌詞はその対比を静かに積み上げています。
主人公の心理変化
物語の中で主人公は、大きな感情を叫ぶわけではありません。むしろ、街を歩くうちに少しずつ思考が整理されていくタイプの人物として描かれています。
人混みをすり抜けていくときに抱く孤立感や、夕陽の沈む情景を見るときに感じる焦りのような気分は、誰もが人生のどこかで経験する普遍的な感覚です。
歌詞が描くのは、悲しみそのものよりも、別れを“事実として飲み込むまでの過程”。現実がゆっくり形を変えながら心の中に定着していく様子が、丁寧な語り口で描かれています。

サウンド/歌唱の魅力
アレンジの特徴
『古都』は、風の楽曲の中でもアレンジが控えめで、語りに寄り添う構造になっています。
ギターのストロークは柔らかく、リズムの主張は最小限に抑えられています。そのため、歌詞の情景を邪魔せず、曲全体が“歩く速度”のような自然なテンポで進みます。
伊勢正三の声は、過剰な表現に頼らず、言葉の意味をそのまま伝える方向性です。どの部分でも声色の変化が穏やかで、情景描写が曲の中心に位置づけられています。

Best12に入る理由
他曲との差別化
風の楽曲には、恋愛をテーマにした作品がいくつもありますが、『古都』は“都市と心”を結びつけた作品として独特の位置にあります。
舞台となる京都の街並みが主人公の心情を反射する鏡のような役割を果たし、感情だけでなく“場所の記憶”が物語に深く根づいています。この構造は風の作品全体の中でも比較的珍しく、曲の個性として強く残ります。
同じ伊勢正三作品でも、『海風』や『北国列車』などは旅情や移動が中心テーマですが、『古都』は“移動せずに街に立ち止まる”ところに特徴があります。この静止感が曲全体のトーンを決め、Best12に選ぶ大きな理由になっています。
読者が聴き直したくなる一言
『古都』は派手な展開がない曲ですが、その静けさの中に、別れを受け止める人間の姿が丁寧に描かれています。特定の感情を押しつけない構成になっているため、聴く時期や年齢によって印象が変わる作品でもあります。
もし久しぶりに風のアルバムを聴き返すなら、まずこの曲を選んでみると、当時とは違う捉え方がきっと見えてくるはずです。


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