■HSCCについて詳しくは、こちらから➡|HSCCという奇跡のバンドを知っていますか?
今回の『僕の勝手なCover Selection』の楽曲は・・・
今回紹介するのは1980年のAir Supplyのヒット曲「I’m All Out Of Love」です。
「I’m All Out Of Love」は、Air Supplyの膨大なヒット曲の中でも、“後悔”という普遍テーマを最も明確に言語化した楽曲です。
そして今回取り上げるHSCC版は、原曲が持つ繊細さに、ライブ解釈ならではの緊張と推進力を加えた演奏になっています。
原曲の美しさと、HSCCの再構成力──この2つが交差したとき、バラードというジャンルの魅力がどのように新しく立ち上がるのか。
その過程を、一つの作品として掘り下げていきます。
歌詞:超約
恋人を失い、いまさら気づく“自分の間違い”。
その後悔を胸に、戻ってきてほしいと願い続ける主人公の独白。
「君が正しかった」という認めざるを得ない事実と、変わらない思いが交錯する、終わりのない気持ちを描きます。
まずはYoutubeの公式動画からご覧ください。
まずは、HSCCバージョンから・・・
✅ 公式動画クレジット(公式カバー音源)
動画タイトル: ‘I'm All Out Of Love’ (AIR SUPPLY) Cover by The HSCC
アーティスト: The Hindley Street Country Club(HSCC)
ボーカル: Danny Lopresto、Jordan Lennon
プロデュース: The HSCC
公開チャンネル: The Hindley Street Country Club(認証済)
公開日: 2023/07/28
💬 2行解説
Air Supplyの名バラードを、HSCCがライブならではの推進力と厚いコーラスで再構成した公式カバー動画です。原曲のメロディを尊重しながら、現代的な音の分離とエネルギーが加わり、聴き応えのある仕上がりになっています。
次は原曲のAIR SUPPLYの公式動画をお聴きください
🎬 公式動画クレジット(公式音源)
動画タイトル: Air Supply – All Out Of Love (Official HD Video)
アーティスト: Air Supply
プロデュース: Clive Davis(Executive Producer)、Harry Maslin ほか
収録アルバム: Lost In Love(Arista Records / A&M Records)
公開元: Air Supply 公式YouTubeチャンネル(認証済)
2行解説
Air Supplyが発表した公式HD映像で、AORバラードの代表曲として現在まで高い評価を受けています。
柔らかいストリングスと繊細なボーカルが、楽曲の切なさをまっすぐに伝える仕上がりです。
1980年、Air Supply が放った本作は、AOR黄金期の象徴とも言えるバラード。
アルバム『Lost in Love』からシングルカットされ、世界60か国以上でヒットしました。

特筆すべきは、メロディそのものの完成度。
分散和音で始まる静かなAメロ、半音階を含んだ切ない上昇フレーズ、そして流れるように始まるサビ──構造的な美しさが、ほぼ“教科書的”と言える一曲です。
また、Air Supply特有のデュオボーカルが生む柔らかさは、「悲しみを押しつけない哀愁」として多くのリスナーに届きました。
イントロダクション
本作がリリースされた1980年は、AORとソフトロックが成熟期に入ったタイミングでした。
ディスコブームが下火になり、リスナーは「派手さ」よりも「旋律の美しさ」や「心情描写」へと嗜好を移しつつあった時期です。
その流れの中、Air Supplyはメロディ重視の楽曲で世界的成功を収めました。
彼らが提示した“静かな感情の描写”は、同時代のアーティストにも強い影響を与えました。
一方、HSCCは40年以上後の現代に、この曲を“ライブアンサンブルとして再発掘する”というアプローチを選択しています。
原曲を壊さず、しかし懐古にも留まらず、「現在の音としてこの曲をどう成立させるか」
そこに彼らの美学があります。
原曲の世界観──失った愛、遅すぎた後悔
Air Supply の最大の特徴は、悲しみを誇張しすぎないこと。
この曲もまさにその典型で、サビの強い言葉とは裏腹に、メロディラインとアレンジはどこまでも穏やかです。

その穏やかさこそが、この曲の強さでもあります。
“後悔”という重いテーマを扱いながら、過剰な演出に頼らず、あくまで 「人が失った瞬間に抱く、静かな混乱」 を描いているからです。
テンポを急がず、呼吸の隙間を多く残したアレンジは、主人公の迷いや未練をより鮮明にしています。
時代背景とサウンドの特徴(1980 AOR)
1980年の音楽シーンは、アナログ録音の最終黄金期であり、デジタル導入の直前に生まれた作品は独特の“温度”を持っています。
◇この時代のAORの特徴
- ストリングスやエレピを中心とした柔らかい音像
- 不必要な装飾を避けるミックス設計
- ベースの粒感を抑えた丸い音色
- スネアは鋭さよりも“包むような響き”が重視

「I’m All Out Of Love」もこの潮流のど真ん中に位置し、いま聴いても古くならない“普遍的サウンド”を実現しています。
HSCC版の魅力──ライブで甦る正統派バラード
HSCCは 原曲を壊さない という前提を守りながらも、ライブとして成立する“再活性化”を行います。
アレンジ、テンポ、音の配置──どれも慎重に調整されており、原曲への敬意が感じられます。
イントロ/冒頭の印象
HSCC版は、原曲よりわずかに前へ進む感覚があります。
この“ほんの少しの推進力”が、ライブ演奏では非常に効果的です。
キーボードの音色は、ストリングスよりも硬質で、その結果、メロディの輪郭がよりクリアに浮かび上がります。

また、最初の1フレーズ目の入り方が非常に自然で、ボーカルの息遣いが曲の入り口として大きな役割を果たしています。
リズムセクション(ドラム・ベース)
HSCC版を語るうえで欠かせないのが、ドラムとベースの“推進力”です。
原曲のAir Supplyは、感情の揺れを穏やかに包み込む方向でリズムを配置していました。
それに対し、HSCCは“曲を持ち上げる力”を担うようにリズムを微調整し、ライブとしての強度を創り出しています。
● ドラムのアプローチ
- 叩き方は控えめでも、打点が前に寄るためテンポ感が自然に前へ進む。
- スネアを強く張らず、アタックを軽めにし、バラードに適した丸さを保つ。
- シンバルは必要最小限で、音数で盛り上げるのではなく“空気を押し広げる”役割に徹している。
ライブでありがちな“鳴らしすぎ”を避け、曲のセンチメンタルな空気を壊さないことを最優先にしたアプローチが光っています。
● ベースのアプローチ
- 中域の存在感が高く、輪郭ははっきりしているが音の切り際が短い。
- 原曲より前へ押し出すライン取りで、曲に安定した重心を与えている。
- サビ前のフィルインが控えめで、必要以上に感情を煽らない。

“歌の支柱としてのベース”という最適解に収まっており、ライブでここまでサポートに徹した演奏はむしろ珍しいほどです。
ボーカルとコーラスワーク
HSCC版の中心は、当然ながらボーカルです。
原曲のAir Supplyは極めて柔らかい声質が特徴で、聴く人を包むようなアプローチを軸にしています。
一方でHSCCのボーカルは、やや硬質で明瞭な声を持つタイプ。
声が前へ飛ぶため、後悔の言葉に“実感”が乗る のが特徴です。

● リードボーカルの魅力
- 息の混ぜ方が控えめで、輪郭が立つため語気に説得力がある。
- Aメロは抑えめ、サビで一気に声を開く構造で曲の緩急を明確にしている。
- 英語の母音の伸ばし方が綺麗で、音楽的な滑らかさに寄与している。
「I’m so lost without you」の一言に漂う“迷い”のニュアンスは、原曲の柔らかさとは別種の説得力を生んでいます。

● コーラスの立体感
- 原曲より声の層が厚い
- 3声〜4声で重ね、サビの空気を一段広げる
- 主旋律の邪魔をせず、メロディの流れを補強する配置
特に「I’m all out of love」のコーラスが広がる瞬間は、ライブ録音ならではの“空間の膨らみ”があり、演奏のクライマックスを形づくります。

アレンジの構造と音の配置
原曲のアレンジは、ストリングスの比重が大きく、“悲しみを静かに支える”設計になっています。
対してHSCCは 音の数を絞り、配置を整理する 方向で再構成しています。
● 原曲を踏襲したポイント
- メロディとコード進行の骨格は完全に尊重
- 曲の展開(Aメロ→Bメロ→サビ)は原曲どおり
- ラインの動きに余計な装飾を加えない
● HSCCが変化させたポイント
- ストリングス的役割をキーボードが分散して担当
- ドラムとベースをやや前に置き、ライブの推進力を加える
- コーラスを厚くし、現代的な立体感を作る
- ギターは“隙間を作るように”控えめに配置
これにより、原曲よりも音の整理が進み、主旋律がより前に浮き上がる 結果となっています。

ライブという環境では、この整理が非常に効果的です。
楽器の数は減っていないにもかかわらず、“スッキリしているのに豊か”という絶妙なバランスが成立しています。
映像・ステージングの特徴
HSCCの映像は、楽曲分析と同じくらい重要な要素です。
彼らは 「個々の演奏を見せる」 と 「バンド全体の空気を伝える」 のバランスに優れています。
- サビでボーカルへ寄るカメラ
- コーラス部分で全景へ切り替え、声の広がりを映像で表現
- ソロ演奏を過度にクローズアップせず、曲の流れを優先
- メンバー同士の視線交換が自然で、バンドとしての一体感が伝わる

これらの要素により、視聴者は“演奏の温度”を感じ取ることができます。
原曲との対話──リスペクトと更新の両立
HSCCはAir Supplyの音楽に深い敬意を払っていることが、演奏の細部に現れています。
単にコピーするのではなく、原曲の意図を読み取ったうえで、いまの自分たちがやる意味を持たせたアレンジ に落とし込む。
これが彼らの美学です。
原曲の時代では、“ストリングス主体で柔らかく包む”ことが最適解だったかもしれません。
しかし現代のライブ環境では、“音の輪郭を整理し、推進力を加える”ことが最適解になります。
HSCCはその違いを理解し、「2020年代に最適化された“I’m All Out Of Love”」を提示しているのです。
終章──「I’m all out of love」が持つ意味
“I’m all out of love” という言葉は、単なる失恋ソングの一節を超え、後悔と受容の境界線に立つ人間の心情 を端的に表したフレーズです。
Air Supplyが残したこの象徴的な言葉を、HSCCは現代のライブとして再提示しました。
その結果、曲の普遍性がより鮮明に浮かび上がり、40年以上前の楽曲がいまなお新しく響きます。
名曲が時代を超えて生き続ける理由──
その一端を、HSCCは演奏という形で示してくれています。



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