【7月7日】は、ジェイムズ・ロッドフォードの誕生日『A Rock ‘n’ Roll Fantasy 』-(The Kinks)-をご紹介!

今日7月7日は、ジェイムズ・ロッドフォードの誕生日

ジェイムズ・ロッドフォードという男

1941年7月7日生まれのジェイムズ・ロッドフォード(James Rodford)は、イギリス出身のベーシストであり、ザ・ゾンビーズ(The Zombies)やアージェント(Argent)など名門バンドでの活動を経て、1978年から1996年までザ・キンクス(The Kinks)に在籍しました。

強烈な個性を放つデイヴィス兄弟の間で、彼は常に音楽的な屋台骨を担い、ライブ・レコーディング両面で安定したサウンドを支え続けました。派手なフロントマンではないものの、その“揺るぎないベースライン”は、バンドの後期サウンドを内側から引き締めた静かな主役といえる存在です。

そんな彼の誕生日にあわせ、今回はキンクス加入直前に発表された『A Rock ‘n’ Roll Fantasy』を取り上げます。


※この曲のレコーディングにはまだ参加していなかったロッドフォードですが、本作のリリース直後にキンクスへ加入し、以後のステージでこの楽曲を支え続けました。まさに、彼の“キンクス人生”の幕開けを象徴する一曲といえます。

『A Rock ‘n’ Roll Fantasy』-(The Kinks)-をご紹介!

まずはYoutube動画の(公式動画)からどうぞ!!

🎧 公式動画クレジット
The Kinks – A Rock 'n' Roll Fantasy(1978年)
© The Kinks / Sony Music Entertainment, Official Audio via YouTube

✍ 2行紹介文
1978年にリリースされた名曲『A Rock 'n' Roll Fantasy』。公式チャンネルで公開されたオーディオ音源がこちらです。

僕がこの曲を初めて聴いたのは・・・♫

僕がこの曲を初めて聴いたのは・・・♫
 小学校中学校高校大学20代30代40代50代60代
曲のリリース    1978    
聴いた時期       

僕がこの曲を初めて聴いたのは大学2年生~3年生の頃です。

キンクスは、1964年、デビュー3作目にして全英1位となり、ハードロックの原型ともされる名曲『You Really Got Me』を始め、それまでに数曲ですが聴いていました。

特に、プリテンダーズ1979年1月にカバーした、同じ1964年リリースの「Stop Your Sobbing 」が大好きだったことからも、その頃聴いたのは間違いないです。

解説にもあるように、キンクス後期の解散寸前の状況を反映したロックファンへのラブレター的意味合いも強く、強烈に刺さる楽曲です。(メロディーは穏やかですが!)


時代と格闘した1978年という年

ロックが揺れた分岐点――2つの大波に挟まれて

1978年――それは、音楽史において多様化と断絶が同時に進行していた、極めて特異な一年でした。

前年に巻き起こったパンク・ロックの嵐は、既存のロック様式を一掃するような勢いで若者たちを席巻。セックス・ピストルズが短くも鮮烈な活動を終えたのも、この年の1月です。その反骨精神は、ザ・クラッシュエルヴィス・コステロブロンディといったニューウェーブ勢に継承され、より鋭く、より知的な音楽表現として進化していきました。

その一方で、ポップチャートではディスコミュージックが全盛を迎えていました。映画『サタデー・ナイト・フィーバー』の影響で、ビージーズのファルセットが世界中に流れ、ディスコサウンドがファッションやライフスタイルにも影響を与える時代へと突入します。

こうした“攻撃的なパンク”と“華やかなディスコ”という全く異質な二大潮流に挟まれ、旧来のロックバンドたちは生き残りをかけた再構築を迫られていました。


キンクスの選択――回帰か、再生か

そんな状況の中で、ザ・キンクスがどう応じたのか――それは、“ロックの原点への回帰”という選択でした。

キンクスは1960年代、“ブリティッシュ・インヴェイジョン”の一角として、『You Really Got Me』『All Day and All of the Night』などのヒットを飛ばし、一時代を築いたバンドです。

しかし1970年代に入ると、レイ・デイヴィスの劇的な構成やコンセプト志向が前面に出た作品群が続き、商業的には苦戦を強いられます。バンドはコンセプト・アルバム期へと移行し、やや複雑すぎる世界観がリスナーとの距離を生んでいた時期でもありました。

この流れを変えたのが、1977年のアリスタ・レコードへの移籍です。
ここでリリースされたアルバム『Sleepwalker』は、よりストレートなロック路線への回帰を打ち出し、特にアメリカ市場では好意的に受け入れられました。


そして、『A Rock ‘n’ Roll Fantasy』へ

そして翌1978年、キンクスはアルバム『Misfits』(邦題:『ミスフィッツ―はみだし者―』)を発表します。
この作品には、時代のうねりと真正面から向き合おうとする意志が込められており、その中心に置かれた楽曲が『A Rock ‘n’ Roll Fantasy』でした。

この一曲には、“自分たちはいま、どこにいるのか?”という問いが色濃く刻まれています。
ただノスタルジーに浸るわけでもなく、パンクのように過去を全否定するのでもない。
幻想と現実の狭間で揺れるベテランバンドの痛みと希望――それこそが、この楽曲の核にあるテーマなのです。


幻想と現実の狭間で鳴り響くメロディー

静かな導入から始まる、内省のロック

『A Rock ‘n’ Roll Fantasy』は、物悲しげなアコースティック・ギターのアルペジオによって静かに幕を開けます。まるで独り言のような語りかけが、聴き手の心にそっと入り込むような導入です。

レイ・デイヴィスの声には、倦怠と優しさ、そしてわずかな期待が共存しており、そのバランス感覚が冒頭から楽曲全体のトーンを決定づけています。


サビで広がる現実逃避と理想の対比

楽曲が進むにつれて、エレキギターとリズムセクションが加わり、徐々にスケールを拡大させていきます。特にサビでは、夢のような世界に生きる姿と、現実の縁に立たされる心理とが交差します。

このコントラストが、曲全体に普遍的な切実さと共感性を与えており、ベテランバンドであるキンクスだからこそ描けた領域といえるでしょう。


「他人の話」のふりをした自己告白

架空のキャラクターの背後にある実像

一見すると、この楽曲はロックに没頭する誰かを描いた“他人の物語”のように聞こえます。
しかし歌詞全体の構成や語り口からは、“自分自身”に向けた鏡のような視点が滲み出ています。

その人物は部屋にこもって音楽に没頭し、現実から距離を取りながら生きている――
その描写は、1970年代末の若者たちに共通する姿であると同時に、レイ・デイヴィス自身が抱える孤独や焦燥を投影したものと受け取ることもできるのです。


ロックは終わったのか?という問い

楽曲の中盤には、「ロックは終わった」ともとれる皮肉めいた表現が登場します。
それは、前年に亡くなったエルヴィス・プレスリーや、パンクによる旧世代への批判に対する皮肉と決意が交差する一節でもあります。

このような複雑な心理の吐露を、過剰に重くせず、あくまでポップな構成に乗せて表現するあたりに、レイ・デイヴィスの作家としての成熟が見て取れます。
彼は決して音楽的な過去を否定せず、その痛みと誇りを受け止めながら、前を向こうとする姿勢を崩していません。


ロックスターの“ふち”を歩く日々

観客の喝采と、自室の静寂

この楽曲には一貫して、「ロックンロールという幻想」と「日常という現実」の対比が描かれています。
ステージの上では何万人を熱狂させる存在が、舞台を降りた瞬間にただの孤独な人間に戻る――
この落差こそが、楽曲の核心にあるテーマです。

幻想の中に自分を置くことで生きてきた人間が、その先に何を求めるのか、どこへ向かうのか
その問いをあえて明確に答えることなく、余白のある語り口で描いた点も、本楽曲の魅力のひとつです。


終盤ににじむ切実な願い

曲のラストに向かうにつれて、語り手はある種の“決意”のような言葉を口にします。
それは、ロックという幻想の中にとどまり続けるのではなく、現実の世界で生き直すという意思とも受け取れる表現です。

音楽そのものを否定するわけではなく、音楽に救われながらも、そこに逃げ込むだけの自分を終わらせたい――そのようなレイ・デイヴィスの内面が、静かに、しかし深く滲み出ているのです。


1978年の日本とキンクスの歌――交差した“ファンタジー”

若者が夢にすがった年、日本の片隅で

1978年、日本でも社会と文化が大きくうねった年でした。5月には新東京国際空港(現・成田空港)が開港し、国際的な接続が強化。8月には日中平和友好条約が締結され、外交の新たな局面が拓かれます。

その一方で、街の喫茶店やゲームセンターでは、スペースインベーダーが空前のブーム(まさに僕もドはまりしました!!)となり、若者たちは画面のドットに熱狂し、時間を費やしました。現実から一歩引いた場所で、“何かに夢中になれる世界”が必要とされていた時代とも言えるでしょう。


日本の音楽シーンも転換期に

この年の日本の音楽界もまた、激しく揺れていました。
矢沢永吉が日本人ソロアーティストとして初めて後楽園球場で単独公演を成功させ、日本のロックが大規模会場を制圧できることを証明。

さらに6月には、サザンオールスターズが「勝手にシンドバッド」でデビュー。それまでのニューミュージックとは一線を画した、その斬新な歌詞とスタイルは、多くの若者の心を瞬時につかみました。

この年はまた、ツイスト「燃えろいい女」ピンク・レディー「UFO」「サウスポー」がチャートを賑わし、ポップスと歌謡曲、ロックと演歌の境界線が曖昧になっていく兆しも見られました。


洋楽シーンにおける“逆輸入現象”とキンクスの立ち位置

海外アーティストの動きも、日本に大きな影響を与えました。
チープ・トリックの武道館公演が伝説的成功を収め、ライブ盤がアメリカで逆輸入ヒットとなる異例の展開も。

この時代、日本のリスナーは本格的なロックの生演奏を体感し始めており、単なる“洋楽ファン”から、文化を受け入れる“共鳴者”へと変化していたといえるでしょう。僕が何十年もモヤモヤしていた単なる洋楽ファンとは違う何か、がこれでした。

そんな中でキンクスの『A Rock ‘n’ Roll Fantasy』がどう響いたか。
矢沢永吉が掲げた“成りあがりの夢”に対し、キンクスが提示した“幻想と現実の間で揺れる心情”は、
より内面的で、英国的な翳りを帯びた視点でした。


ロッドフォードという“現実”が支えたファンタジ

屋台骨としての貢献

ロッドフォードのベースは、派手さこそありませんが、アンサンブル全体を支える柔軟で堅実なグルーヴに満ちていました。

レイとデイヴのデイヴィス兄弟がぶつかり合い、時に爆発しそうになる瞬間でも、彼の演奏は常に冷静にバンドの“呼吸”を整えていました。まるで、幻想に生きるキンクスの音楽に、“現実”という重力を与える存在だったかのようです。

それは、表舞台には決して立たないけれど、音楽の「説得力」を保つうえで欠かせない役割でした。


終わりに――ファンタジーの裏側に立つ者たちへ

『A Rock ‘n’ Roll Fantasy』は、ロックの幻想を生き抜くことの尊さと、その危うさを見つめた一曲でした。

そこには、レイ・デイヴィスの詩的な視点と、バンドの立ち位置を見つめ直す自省、そして観客に熱狂を与える裏で、音楽そのものに救われようとする姿が込められています。

そして、そんな幻想を現実に引き戻すように支えていたのが、ジェイムズ・ロッドフォードという静かなベーシストでした。

彼が加入することで、キンクスは再び歩き出すことができました。彼が演奏することで、『A Rock ‘n’ Roll Fantasy』はライブで新たな厚みと説得力を持って響いたのです。


『Rock N' Roll Fantasy』(The Kinks)意訳

かつての僕らに「やあ」と呼びかけるように、
何も変わらないまま、今日まで歩いてきた。
終わらせる? やり直す?
でもまだ、どこかに道があると信じてる。

隣のブロックの男は、レコードと共に生きてる。
音楽があれば、沈んだ心も浮かび上がる。
夢と現実のはざまで、彼はロックの幻想にすべてを託す。

バンドを辞めたいと言う君に、
僕は静かに伝える――まだ終わってない、と。
誰かのための音楽が、僕ら自身を支えているから。

ステージの上で、僕はただ叫ぶ。
「もう充分だ」と言う前に、聞いてほしい。
この世界に、僕らの歌がまだ必要だってことを。

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