五輪真弓の歴史は、こちらから!
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第5位は『煙草のけむり』です。
『煙草のけむり』は、1973年7月に発表された五輪真弓のセカンドアルバム『風のない世界』に収録された楽曲です。作詞・作曲は五輪真弓。同年後期にはパイロット万年筆のCMに使用され、アルバムから2枚目のシングルとしても発売されました。

デビューは前年の1972年10月。五輪真弓はファーストアルバムとシングル『少女』をCBSソニーから発表しています。その制作のため6月に渡米し、L.A.のクリスタルサウンドスタジオで録音。キャロル・キングもピアノで参加するなど、最初からアメリカの音楽シーンと接点を持った出発でした。
その翌年に生まれた『煙草のけむり』には、後年の『恋人よ』とは異なる若々しい感触があります。抑えた演奏の中でピアノが輪郭を作り、五輪真弓の少し硬質な声が煙の漂う情景を浮かび上がらせる。大きな劇的展開を用いず、一つの場面から人が去ったあとの寂しさまで描く初期の秀作です。
超訳
煙の向こうにいたあなたは、いつも私の心に火を灯してくれた
その顔を見たかったのに、最後まで煙に隠れたまま
やがて煙が消えたとき、あなたまで私の前から消えていた
残ったのは、暗い心を照らした赤いマッチの記憶だけ
💡 あわせて読みたい: 公式の原曲歌詞はこちら (外部サイトへ移動します)
まずは、YouTube動画(公式)をお聴きください。
クレジット 動画:五輪真弓「煙草のけむり」 提供:Sony Music Direct (Japan) Inc. ℗ 1973 Sony Music Entertainment (Japan) Inc. 2行解説 1973年のアルバム『風のない世界』に収録され、のちにシングルカットされた五輪真弓初期の代表曲です。 煙草の煙と赤いマッチを印象的なモチーフに、見えそうで見えない相手との距離と、やがて訪れる別れを静かに描いています。
煙が作る、見えそうで見えない風景
題名から始まっている仕掛け
この曲でまず目を引くのは、「煙草」ではなく『煙草のけむり』が題名になっていることです。煙草には形がありますが、煙はそこに存在していても、同じ姿を保ちません。
歌の中の「あなた」も、主人公の近くにいるのに表情がよく見えません。顔を確かめたいと思っても、二人の間を煙が遮っている。物語の出発点から、相手は近くて遠い存在として描かれています。
赤いマッチだけが鮮明に残る
その曖昧な景色の中で、はっきりした色を持つのが赤いマッチです。煙が視界をぼかす一方、マッチの火には色と温度がある。見えない相手と、目に焼きつく赤い火。この対照が曲の視覚的な核になっています。

しかも、火を貸すという行為はほんの一瞬です。それが主人公にとっては、暗かった心に灯りがともる出来事になる。大掛かりな出来事を置かず、小さな仕草一つで二人の関係を示すところに、この作品の巧みさがあります。
1973年の音が風景を形にする
ピアノと歌が作る乾いた感触
『煙草のけむり』を聴くと、ピアノの響きが耳に残ります。華麗なフレーズで前へ出るのではなく、歌の周囲に音を置きながら場面を形作っていく。演奏にも過剰な装飾がなく、薄暗い室内を思わせる落ち着いた質感があります。
リズムも急ぎません。そのため聴き手は、煙の中にいる二人を眺めるように歌を追うことができます。歌詞に書かれた視界の悪さと、演奏の抑えた感触が自然につながっています。
若い五輪真弓の声
ここで聴ける五輪真弓の声も、後年の代表曲とは少し違います。『恋人よ』で知られる重厚な歌唱へ至る前の、鋭さと素朴さが同居した声です。

感情を大きく膨らませるのではなく、目の前にある光景を確かめるように言葉を運んでいく。「あなた」がいなくなったあとも、悲しみを強調するより、何が起きたのか分からない戸惑いを、そのまま声に残しているように聞こえます。
古い録音だから魅力的なのではありません。歌詞が描く煙、ピアノを軸とした演奏、若い五輪真弓の歌声が同じ方向を向いているからこそ、1973年に録音された音そのものが曲の風景になっています。
二度目のアメリカ録音から生まれた一曲
デビューから半年ほどで再び渡米
『煙草のけむり』が作られた背景には、五輪真弓のデビュー期ならではの制作環境があります。ファーストアルバム『少女』をアメリカで録音した翌1973年4月、彼女は再び渡米しました。
録音場所は、前年と同じL.A.のクリスタルサウンドスタジオ。そのセッションから生まれ、7月に発表されたのがセカンドアルバム『風のない世界』です。デビューからまだ一年も経たない時期に、すでに二度目のアメリカ録音を経験していたことになります。

当時の五輪真弓は、後年の大ヒットによって完成されたイメージとは違い、自作曲を自分の声でどう響かせるかを探っていた時期でした。『煙草のけむり』には、その初期ならではの緊張感と、シンガーソングライターとしての個性が刻まれています。
アルバム収録曲からシングルへ
この曲は、最初からシングルとして世に出た作品ではありません。『風のない世界』に収録されたあと、同年後期にパイロット万年筆のCMに使用され、アルバムから2枚目のシングルとして発売されました。
題名を聞いただけで煙、火、二人の人物が浮かび、短い場面の中に物語がある。CMという限られた時間にもなじむ印象の強さが、この曲には備わっていたのでしょう。
「なぜいなくなったのか」を説明しない
理由ではなく、残された側を見る
曲の終盤で、「あなた」はいつの間にかいなくなります。しかし、なぜ去ったのかは説明されません。二人が恋人だったのか、どの程度親しかったのか、その後どこへ行ったのかも示されていません。
事情を書き込めば、一組の男女についての具体的な物語になります。しかし五輪真弓は原因を追わず、相手がいなくなったという事実だけを主人公の前に置きます。
人が去ったあとに残る記憶は、必ずしも重要な会話や特別な出来事とは限りません。何気ない仕草や、その場の光、匂いのような断片だけが、不思議なほど鮮明に残ることがあります。
『煙草のけむり』が見ているのは、別れの理由ではなく、いなくなった人を思い出すときに残っている光景です。だからこの曲は、事情を説明し尽くす失恋歌とは違う感触を持っています。
限られたモチーフで一曲を描き切る
すでに見えていた作家としての個性
この曲に登場するものを数えると、驚くほど少ないことに気づきます。煙草の煙、相手の顔、暗い心、赤いマッチ。そして、いなくなった人です。
それだけで、出会いから別れまでの時間と、主人公の戸惑いが見えてきます。感情を長く説明せず、目に見えるものや小さな動作を配置して、聴き手に二人の関係を想像させています。

五輪真弓は、この時まだデビューから間もない時期でした。それでも、日常の一場面を切り取り、そこから人間の内面を描く作家としての個性は、すでに『煙草のけむり』にはっきり現れています。
第5位に選んだ理由
五輪真弓には、もっと大きなスケールで愛や別れを描いた作品があります。それでも僕が『煙草のけむり』を第5位に選んだのは、この曲にしかない音と映像の結びつきがあるからです。
煙によって顔が見えない二人。その中で赤いマッチだけが強い色を持つ。そして、主人公が相手の姿を確かめたいと願ったときには、もうその人はいない。この流れに余計な説明はありません。

そこへ1973年の若い五輪真弓の声と、抑えた演奏が重なります。歌詞が描く光景を、音そのものが支えている。僕にとって、この一体感こそが『煙草のけむり』を上位に置きたい最大の理由です。
終わりに
『煙草のけむり』は、五輪真弓がデビューした翌年、二度目のアメリカ録音から生まれました。アルバム『風のない世界』に収録されたあと、CMへの起用を経てシングルとしても発売された、初期を代表する一曲です。
けれど、半世紀を経た今も聴きたくなる理由は、その経歴だけではありません。形を保てない煙と、一瞬だけ鮮明に光る赤いマッチ。その二つだけで、人との出会いと別れを描いた発想が今も新鮮です。
姿は見えなくなっても、あの日の小さな光景だけは記憶に残る。『煙草のけむり』には、後年の大作とは違う、若い五輪真弓だからこそ生み出せた鋭さがあります。

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