僕の勝手なBest15:【風/kaze】編-第8位『雨の物語』をご紹介!


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🎸【風/kaze】編・第8位『雨の物語』です。

第8位は『雨の物語』です。

この曲は、伊勢正三が作詞作曲を担当し、1977年6月25日発売のアルバム『古都』に“風として”収録された作品です。同じ年にイルカがシングルとして発表したことでも知られますが、作者本人が歌う風バージョンは、言葉の置き方や情景の出し方に独特の静けさがあり、聴き進めるほど人物の心の輪郭がはっきりしていきます。雨の描写を背景に、二人の距離がどのように変化していったのかが淡々と浮かび上がる構造になっており、風作品の中でも“物語性の強い一曲”といえます。

超約

この曲の主人公は、過去に大切だった相手を思い返しています。二人の関係ははっきりした形で終わったわけではないものの、気づけば距離ができていた。そのとき見た相手の背中や、雨の降る外の景色が、今になって記憶として浮かび上がってくる。主人公は、自分が何を失い、どこで気持ちが途切れたのかを、情景を辿ることで確かめようとしている。曲は、その一連の“記憶の再生”を静かに追う構成になっている。

まずは公式動画をご覧ください。

✅ 公式動画クレジット
曲名:雨の物語(2021 Remaster)
アーティスト:風(Kaze)
レーベル:PANAM/クラウンレコード
作詞・作曲:伊勢正三
© Nippon Crown Co., Ltd.
YouTube 配信形態:Official Audio(PANAM 公式チャンネル)

📝 2行解説
1977年発売アルバム『古都』に収録された、風によるオリジナル音源をもとにした最新リマスター版です。
伊勢正三の筆致が最も明確に表れる“風バージョン”が、クリアな音質で楽しめる公式配信です。

曲の基本情報

リリース/収録アルバム

『雨の物語』は 1977年6月25日発売『古都』 に収録された、風としての正式音源です。
作詞作曲は伊勢正三。
同年にイルカのシングルがヒットしたため、そちらの印象が強い人も多いですが、作者本人が歌う風バージョンは、言葉の選び方や声の置き方がより繊細で、人物像がより近い距離で伝わってきます。

公式動画クレジット(日本語)
曲名:雨の物語(シングルバージョン)
アーティスト:イルカ(Iruka)
レーベル:PANAM/クラウンレコード
作詞・作曲:伊勢正三
© Nippon Crown Co., Ltd.
YouTube 配信形態:Official Audio(PANAM公式)

★2行解説
1977年にシングルとして発表され、多くのリスナーに広まった“最も知られるバージョン”。
伊勢正三の楽曲に、イルカならではの柔らかな歌声が重なり、国民的ヒットとなった代表作です。

『古都』というアルバムは、派手さよりも“人の気持ちの揺れ”を描く曲が多く、『雨の物語』はその中でも特に 「場面の具体性」 が際立つ一曲です。

たとえば、扉に書かれた一文を見たときの主人公の反応といった細かな描写が、アルバムの世界観全体とつながっています。

  • 背中が小さく見えた理由 
  • 雨が降っている日の湿っぽい空気

曲の基本情報

チャートと時代背景

1977年当時は、恋愛の“気持ちの起伏”より“日常の一場面”を切り取る曲が多く発表された時期でした。
テレビよりラジオの比重がまだ高かったため、深夜に静かな語り口の曲がよく流れ、それが若いリスナーの生活に溶け込んでいった時代でもあります。

『雨の物語』もその流れの中で聴かれた楽曲で、
“ドラマチックではない別れの歌” が珍しくない時代背景があったからこそ、多くの人の心に入り込めたのだと思います。

曲のテーマと世界観

主人公の背景

主人公が見つめているのは、相手の“背中”です。
これは単なる情景ではありません。相手の気持ちが見えないとき、人は正面ではなく背中の記憶を思い出します。

僕がこの曲で最もリアルだと感じるのは、主人公が相手の顔ではなく 背中を具体的に思い返している ところです。その背中が“なぜ小さく見えたのか”──
主人公はその理由を曲の中で語っていませんが、聴き手は自然に「気持ちが離れかけていたからだろう」と理解できます。

つまりこの曲は“相手の変化を後ろ姿で理解してしまった場面”を核にして物語を展開しているのです。

物語の導入

そして雨。
雨の日というより、“わざわざ雨の日を思い出している” というところがポイントです。

曇天の光、傘に当たる音、濡れた肩、閉めた扉の重さ。
雨は、この曲では気分を象徴する記号ではなく、“そのときの情景を正確に呼び戻すスイッチ” として機能しています。

主人公は、関係が終わりかけていた日の出来事を、

  • 誰がどこに立っていたか
  • どんな姿勢だったか
  • どんな雨の降り方だったか
    といったレベルで再生している。

その具体性が、曲の抒情性を支えていると僕は感じています。
情景を具体的に描くことで、感情を直接語らなくても温度が伝わってくる構造になっているのです。

歌詞の核心部分と解釈

1つの場面が曲全体を動かしている

『雨の物語』の核心は、主人公が思い出す場面の「順番」にあります。
まず相手の背中が浮かび、そのあとに雨の外の景色が重なり、最後に扉の場面へと記憶がすべっていく。

この順番がとても現実的なんです。

人は、忘れられない別れを振り返るとき、その瞬間の音楽でもなく、言葉でもなく、「あの日に何を見ていたか」を先に思い出します。

この曲では、主人公が最初に見たのが“背中”だった。
そのあとに“雨の様子”が続いた。
そして“扉の前に立っていた相手”の記憶が最後に浮かぶ。

この順番が、僕にはとてもリアルに感じられます。
思い出せるのは表情ではなく、立ち姿や動きの少ない風景。
その記憶だけがいつまでも抜けない、という感覚が曲全体を支えています。

雨の役割──気持ちの説明ではなく「事実の記録」

一般的に “雨の歌” というと、感傷や別れの象徴として使われることが多いですが、この曲は違います。
雨は“象徴”というより “その日の天気の記録” として扱われています。

雨の日だったからこそ、
・肩が濡れたこと
・光が少し鈍かったこと
・部屋の空気がしっとりしていたこと
・扉の向こうの景色がぼやけていたこと

そうした細部が、その後の人生でずっと残ってしまう。

風景の細かさが主人公の気持ちを説明してしまう。
だから、歌詞が感情を強く語らなくても、聴く側は自然に主人公の位置へたどり着けるのだと思います。

扉の前に立つ相手──“最後の距離”の描写

扉の前に立つ場面は、曲の中で最も具体的なシーンです。
この描写だけで、二人の距離がすでに戻れないところまで来ていたことがわかります。

扉は象徴ではなく、物理的な境界 です。
その向こうに立つ相手を見て、主人公は“もう今までのようには向き合えない”と感じている。
その理解が言葉になる前に、雨の静かな音がその場を支配していたのだと思います。

僕自身、この曲を聴くたびに「扉の前に立つ相手の姿」だけで胸が締めつけられるような感覚を覚えます。
説明はいらない。
立ち位置と、濡れた肩と、少しだけ下を向く仕草。
それだけで状況がすべて伝わってしまう──そんな曲です。


サウンド/歌唱の魅力

伊勢正三の声が持つ「距離の感覚」

風バージョンの『雨の物語』を聴くと、まず感じるのは 声が前に出すぎていない 点です。
録音としては決して派手ではありませんが、距離がとても自然です。
主人公が記憶をなぞるような歌い方をしているため、声量よりも“声の置き場所”が重要になっています。

抑制ではなく、「記憶を扱う曲だからこその声のトーン」だと僕は感じています。

アコースティックギターの輪郭も鮮明ですが、飾りではなく、場面を支える背景として機能している。
歌詞に余計な演出をつけず、主人公の視線が曲の中心に残るように作られています。

アレンジの“控えめさ”が物語を支える

この曲のアレンジを聴くと、「ここを盛り上げよう」「ここで泣かせよう」という意図が一切ありません。

むしろ、「この日の記憶をそのまま置いておくための音作り」という印象があります。

余計な音がないので、
・背中を見る瞬間
・雨を眺める時間
・扉の前の沈黙
など、細かい動きがそのまま耳に残る。

抒情的だと言われる理由は、この控えめな設計にあると思います。
歌詞と音がぶつからず、互いに静かに存在している。
だからこそ、小さな情景の意味が強く伝わるのです。


Best8に入る理由

僕がこの曲を選ぶ理由

僕が『雨の物語』を第8位に入れたのは、単なる別れの歌ではなく、「別れた理由を説明せずに、逆に“その日の細部”だけで感情を語る」という構造がとてもユニークだからです。

背中、雨、扉、濡れた肩──
この4つだけで物語が完結する曲は、他にそう多くありません。

それらの描写が具体的だからこそ、聴く側は「自分にも同じような日があった」と自然に重ねてしまう。

説明の少なさではなく、具体的な場面を並べることで“心の変化が見える曲”これが僕にとっての『雨の物語』の魅力です。

読者への一言

この曲を聴き直すときは、ぜひ「どの情景が主人公の記憶の中心になっているか」に注目してほしいです。

背中なのか、雨なのか、扉なのか。
人によって、どこに心が動くかが違います。
その違いこそが、この曲の抒情性を形づくっているのだと思います。


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