僕の勝手なCover Selection:『Everywhere』(Fleetwood Mac)──HSCCが描く軽やかな再構成

■HSCCについて詳しくは、こちらから➡|HSCCという奇跡のバンドを知っていますか?

今回の『僕の勝手なCover Selection』の楽曲は・・・

Fleetwood Mac が1987年に発表した『Everywhere』。です。

HSCC がこの曲を取り上げたとき、原曲の透明感にほんの少し“人の温度”を加えて、ライブアンサンブルとして再構築してみせました。
その変化が、この曲の魅力を新しい角度から浮かび上がらせています。

このブログで私は以前、『僕の勝手なBest10【Fleetwood Mac編】企画を作成しました。
その中でこの『Everywhere』は3位にランクインしています。

これまで和洋併せて20以上のBest○○を作ってきましたが、れそれらの大半はYoutubeのプレイリストにしているので、皆さんにご覧いただくことができます。
その中でも、バランスと出来の面で、一番はFleetwood Mac編だと思っています。ぜひこの機会にご覧ください。
今でも自信をもっておすすめできるセットリストになっています。

まずはHSCCのYoutubeの公式動画からご覧ください。

✅ 公式動画クレジット
『Everywhere(Fleetwood Mac)』
演奏:The Hindley Street Country Club(HSCC)
フィーチャリング:Pina Del Re
プロデュース:The HSCC
アレンジ:Constantine Delo
ライブ録音:Monty Ruggiero
(場所:House Of Bamboo Recording Studio/オーストラリア・アデレード)

💬 2行解説
HSCCならではの“生演奏の密度”と“現代的な軽さ”が同時に味わえる仕上がりで、原曲の柔らかな80’sサウンドを爽やかにアップデートしたカヴァーです。
Pina Del Re のボーカルは、クリスティン・マクヴィーの親しみやすさを受け継ぎつつも、よりシャープな輪郭で曲の躍動感を引き出しています。

超訳

歌詞で描かれている主人公は、恋が始まる瞬間の浮ついた気持ちと、それに伴う焦りの狭間にいます。気持ちが高ぶりすぎて言葉にできず、まわりから「最近様子が違うね」と気づかれてしまうほど心が揺れている。それでも好きな相手とは一緒にいたくてたまらず、その想いが胸の内で溢れ、うまく整理できないまま膨れ上がっているのです。
本当は伝えたいことがたくさんあるのに言葉にならず、このままだと自分の心が押しつぶされてしまいそうになる。だからこそ「早く気づいてほしい」と願わずにはいられない。シンプルな言葉で書かれた歌詞ですが、誰しもが経験したことのある普遍的で切実な心情が丁寧に表現されています。

原曲『Everywhere』の立ち位置

バンドにとっての位置づけ

Fleetwood Mac は『Rumours』で大成功を収めたあと、80年代後半はバンドの方向性が落ち着きを取り戻した時期でもありました。
『Everywhere』が収録された『Tango in the Night』(1987年)は、その“新しい均衡”が形になった象徴的な作品として位置づけられます。

クリスティン・マクヴィーの曲としての魅力

『Everywhere』の中心にあるのは、クリスティン・マクヴィーらしい、やわらかく甘いメロディです。技巧を前に押し出すのではなく、必要な要素だけを丁寧に並べていくような作り方が特徴で、彼女の自然体のポップセンスがそのまま輪郭として浮かび上がります。
穏やかな落ち着きをまとった曲調でありながら、テンポやメロディの小さな跳ね方には軽やかさがあり、そのバランスが聴き手に心地よい流れを生み出しています。クリスティンが得意とする“自然に進んでいく旋律”という魅力が、特に鮮やかに表れた一曲だと言えるでしょう。

80年代後期の空気とサウンドの特徴

『Everywhere』が作られた当時は、デジタル技術が一気に広まりはじめた時期でした。ただし、完全な“デジタル全盛”に突入する直前の過渡期でもあり、アナログ的な温度感もまだ色濃く残っていました。


この曲はまさにその空気を映していて、本来なら硬くなりがちなシンセサウンドをまろやかに整え、そこへクリーンギターや控えめなコーラスを重ねることで、耳に馴染みやすい“丸みのあるポップス”に仕上げています。最先端の技術を取り入れながらも、どこか手触りのある温かさを保っている点に、この年代ならではの魅力が感じられます。

冒頭で生まれる心地よいスピード感

HSCCの『Everywhere』は、原曲が持つ柔らかさをしっかり保ちながら、ほんの少し前へ進んでいくような推進力が加わっています。

演奏が始まった瞬間、ギターのカッティングがくっきりと響き、キーボードは音を支える役割に徹して余計な主張を控えています。そこにドラムが素直な力強さを加え、曲全体の流れを軽やかに押し出していく。この序盤の印象だけでも、HSCC版が“ライブならではの心地よい速度感”を持っていることが伝わります。


リズムセクションの機能と推進力

ドラム:跳ねずに押す、現代的なビート

HSCCのドラムは、プログラム的な均一さではなく、人の手で刻まれる質感を重視しています。スネアの締まり具合はほどよく、ハイハットの粒感は明瞭で、丁寧に刻むビートが曲全体を前へ押し出していきます。派手に振り切るわけではなく、必要なところだけしっかり支える。この落ち着いたアプローチが、曲に自然なスピードをもたらしています。

ベース:低域の密度で曲を支える

ベースは膨らませすぎない音作りで、芯の部分をぶらさず曲を支えています。低域が重くならないため全体が軽やかなまま進みますし、中域の存在感がしっかりしていることで、音の輪郭が崩れずに維持されている。原曲がもつ浮遊感とは方向性が違うものの、前へと進んでいく軽快さが際立つ仕上がりになっています。


ボーカルとコーラスの構造

リードボーカルの特徴

HSCCのボーカルは、クリスティン・マクヴィーの澄んだ声とは違う質感を持っています。語尾をすっと短くまとめることでフレーズ全体が引き締まり、ミドル域にしっかりした厚みがあるため、優しさを保ちながらも輪郭のはっきりした表現になります。難しい技術を押し出すのではなく、流れが自然に耳へ届くよう設計された歌い方が印象的で、メロディがより素直に入ってくる仕上がりです。

コーラスワークの組み立て

コーラスは人数が多くなくても空間を大きく広げるように構成されています。声を重ねる帯域を丁寧に整理し、強く押したいところではユニゾンで力を出し、広がりを作りたいところではさりげないハーモニーを加える。その配置が的確で、特に “I want to be with you everywhere” のサビでは、原曲の浮遊するような存在感とは違い、より鮮明に響く余韻が生まれています。

アレンジの構造と音の配置

HSCCは、原曲の骨格を大切にしています。コード進行やメロディの動きはほとんど変えず、ギターとキーボードの役割も基本的には原曲に沿ったつくりです。ただし、細部では現代のライブバンドらしい調整が施されています。
ドラムのアタックを少しだけタイトに整え、コーラスは必要な部分にだけ厚みを残し、ギターカッティングは前へ出しすぎない絶妙なバランスで置かれている。その結果、音数を増やさずに爽やかさが際立つ、HSCC特有のクリアなアレンジが形になります。

楽器同士の空間配置

映像と音が一致して感じられるのも、このバンドの面白さです。ギターはわずかに左へ広がり、キーボードは右寄りに控えめに配置され、ベースは中央でどっしりと重心を作る。そしてボーカルは中央上部へ向かって抜けていくように響く。
こうした定位の見せ方が自然に行われているため、映像を見ながら聴くと「その位置に本当に演奏者がいる」ような感覚が生まれます。ライブ会場で音の位置を感じるあの感覚を、画面越しでも再現できている点が大きな特徴です。

映像の質感とステージングの特徴

HSCCの映像には、単に演奏を記録した以上の“温度”があります。手元の動きをしっかり映す寄りのショット、コーラス全体の空気を捉える横方向のスライド、そして会場全体を見渡せる引きの映像。それぞれが目立ちすぎることなく、曲に沿って自然に切り替わっていきます。
視聴者が“どこから曲に入り込むか”を自分で選べるような余裕があり、押しつけがましさのない映像構成になっています。

メンバー同士の視線

映像の中で交わされる目線やちょっとした仕草は、単なる合図というより、同じ空気を分け合うための自然なコミュニケーションに見えます。演奏の呼吸がそろっているからこそ生まれるさりげない視線の交換で、バンドとしての“まとまり”が画面越しにも伝わってきます。

原曲との対話──リスペクトと更新

HSCCは、Fleetwood Mac の音楽が持つ“しなやかさ”を損なわないように、慎重なバランスで演奏を再構築しています。原曲に宿る雰囲気を尊重しつつ、現代のライブバンドとして成立させるための軽い推進力を加える。そのうえで、音の配置をすっきり整え、コーラスやギターに小さな現代的アレンジを施すことで、曲の魅力を別の角度から浮かび上がらせています。
過度な装飾を避け、“その曲が本来持っている美しさ”を丁寧に再提示する。そんな姿勢が、原曲への敬意と更新の両立を可能にしています。

HSCCが示すカバーの意義

HSCCは、名曲を過去のものとして扱いません。原曲の魅力を残しつつ、現代の耳に自然に届くサウンドへと整え直し、現在進行形の音楽として送り届けています。
その結果、Fleetwood Macの楽曲は若いリスナーには“新しい音楽”として響き、当時を知る世代には“別の角度からの再発見”として届く。どちらにも無理なく馴染む形で音楽をつないでいる点に、このバンドの大きな価値があります。
名曲を“今の音”として再生し続けることで、音楽は世代を越えて受け継がれていく──HSCCはまさにその役割を担っていると言えるでしょう。

終章──“I want to be with you everywhere” が持つ意味

このフレーズが何十年も歌われ続けてきたのは、恋の場面に限らず、人が誰かを想うときに自然と浮かぶ願いを端的に示しているからだと感じます。

HSCCの演奏は、その言葉が持つ核をすくい上げ、必要以上に飾らず、ライブとしての素直な息づかいを乗せて届けています。

Fleetwood Mac が残した多くの楽曲が今も聴かれ続けている理由の一部には、こうした“つなぎ手”の存在があります。今回の『Everywhere』も、確かにその役割を果たす演奏でした。


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