■【エリック・クラプトン】について、詳しくはこちらをご覧ください。・・・・
➡エリック・クラプトン物語 ― 栄光と試練のギターレジェンド!
🎸【エリック・クラプトン編】第17位『cocaine』です。
第17位は、『cocaine』です。正直、もう少しランクを下げてもよいと考えていましたが、彼の人生にとって大大きく立ちはだかった障害物(酒や、薬!)との戦いを独白したという意味合いにおいてこの位置にしました。
超約
人は落ち込むときも、気分を上げたいときも、同じものに手を伸ばしてしまう。
それは一瞬の救いを与えるが、決して嘘をつかない——代償もまた確実に訪れる。
「She don’t lie」という繰り返しは、誘惑の甘さではなく現実の冷たさを示す。
快楽と破滅、その境界を静かに描いた“冷たい警鐘の歌”。
🎥まずはいつものように、Youtubeの公式動画をご覧ください。
🎬 公式動画クレジット(公式音源)
タイトル:「Cocaine」
Eric Clapton
© 1977 Universal International Music B.V. / アルバム The Cream Of Clapton より
2行解説
J.J. Cale作の名曲をクラプトンがカバーし、1977年のアルバム『Slowhand』で広く知られるようになりました。ロックとブルースの境界を越えた代表曲で、ライブでも必ず演奏されるクラプトンの定番ナンバーです。
ライヴでの進化(公式音源です)
1979年「Just One Night」
テンポを速め、ギターも荒々しく。若さの勢いがそのまま音に現れています。
✅ 公式クレジット(YouTubeより)
Cocaine (Live) · Eric Clapton
Album: Just One Night
℗ 1980 Universal International Music B.V.
Released on: 1980-01-01
Mixing Engineer / Producer: Jon Astley
Composer / Lyricist: J.J. Cale
🎸 2行解説
エリック・クラプトンが1980年ロンドン公演で披露したライブ版「Cocaine」。
原曲の鋭さを保ちながら、熟練のグルーヴと緊張感が生きる代表的ライブテイク。
2001年ロサンゼルス・ステイプルズセンターで披露した「Cocaine」の迫力あるライブ映像
🎬 公式動画クレジット(ライブ音源)
「Cocaine (Live Video Version)」
Eric Clapton
© 2007 WMG / Live at Staples Center, Los Angeles, CA, 8/18–19/2001
2行解説
クラプトンが2001年ロサンゼルス・ステイプルズセンターで披露した「Cocaine」の迫力あるライブ映像です。
彼のブルースロック・ギターとバンドのグルーヴが際立つ、公式チャンネル配信のライブ版です。
リリースと基本情報
『Cocaine』はアメリカのシンガーソングライター、J.J.ケイルが1976年に発表した楽曲のカバーです。クラプトンは翌1977年、自身の代表作『Slowhand』に収録し、世に広めました。アルバムは「Wonderful Tonight」や「Lay Down Sally」と並ぶヒットを収め、クラプトンの中期キャリアを決定づけた一枚です。その中でも『Cocaine』は、リフとフレーズの反復で観客を惹きつけるライヴ定番曲となり、今日まで演奏され続けています。
評価ポイント
この曲は、「少ない言葉で最大の意味を刻む」んでいます。クラプトンは華麗なギタリストであるにもかかわらず、この曲では必要最低限のフレーズしか使いません。逆にその“引き算”の美学が、聴き手の中で大きな余韻を生み出すのです。『Slowhand』全体のバランスを考えると、甘いバラードやカントリーテイストの楽曲に挟まれた本作は、アルバムのスパイスとして機能しているとも言えます。

J.J.ケイルからの継承
クラプトンはかねてからケイルのファンで、「After Midnight」に続き、この『Cocaine』でも彼の美学を紹介しました。ケイルのオリジナルはより淡々としていて、聴き手の解釈に委ねる余白があります。クラプトン版はそこに若干の骨太さを加え、バンドのリズムでリスナーを引き込みますが、基本的なミニマリズムは踏襲しています。余計な装飾を削ぎ落とすことで、逆に普遍性を帯びたのです。
歌詞の要点と分析
歌詞は終始、軽い会話のような口調で進みます。冒頭の
“If you want to hang out, you’ve gotta take her out, cocaine”
は「遊びに出たいなら、彼女(コカイン)を連れていけ」という比喩的な誘いです。ここには楽しさを約束するようでいて、同時に不気味な冷たさがあります。

そして繰り返される
“She don’t lie, she don’t lie, she don’t lie”
は、コカインは“嘘をつかない”という皮肉です。効き目は確かに訪れるが、代償も同じように避けられない。短いフレーズだからこそ、その冷酷なリアリズムが際立ちます。
さらに歌詞中盤の
“Don’t forget this fact, you can’t get it back”
という一節は、薬物が奪うものは取り戻せないという冷徹な警句です。親しげな誘いの言葉の裏に、破滅の影がくっきりと浮かび上がるのです。

ライヴでの「dirty」バージョン
クラプトンはライヴで「that dirty cocaine」と歌い換えることがあります。この“dirty”の一言が大きな意味を持ちます。賛美と受け取られる危険性を避け、あくまで反ドラッグの立場を示すための工夫です。彼自身がアルコールやドラッグ依存と闘い、それを克服した経験を持つからこそ、歌い続ける責任を意識したのでしょう。演奏をやめることもできたはずですが、曲を更新しながら提示し続けた点に、クラプトンの誠実さが見えます。
サウンドの骨格と魅力
『Cocaine』は、たった一つのリフで全体を支配する稀有な楽曲です。派手なソロもなく、シンプルなビートの中に緊張感を刻み込みます。
リズムの「引き算」
ドラムとベースは余計な音を削ぎ落とし、沈黙の間に緊張を生みます。クラプトンのヴォーカルが冷たく浮かび上がるのは、この“空白”の力ゆえです。

ソロに潜む間合い
短いギター・ソロの中で「切り込んで、すぐ引く」間合いが繰り返されます。誘惑と後悔の往復を音で描いたような構成です。
聴きどころを深掘り
イントロのリフ
冒頭の2小節でテーマを提示し、次の2小節で空白を置く。その“待たせる感覚”がリスナーを支配します。
サビの反復効果
「She don’t lie, she don’t lie, she don’t lie」の反復は無表情に歌われ、不安と冷酷さを際立たせます。

声とリズムのずれ
スネアがわずかに前に出ることで、声とのタイム感にズレが生じます。この小さな違和感が曲全体の冷気を強めています。
エンディングの余韻
フェードアウト気味の終結は、「まだ続いているかもしれない」と錯覚させ、余韻を残します。これはJ.J.ケイル譲りの設計です。
『Slowhand』における役割
977年のアルバム『Slowhand』は、クラプトンの節度ある表現を象徴する作品。その中で『Cocaine』は、柔らかな楽曲を引き締める辛口の存在です。

光と影の対比
「Wonderful Tonight」が愛の温もりを描いたのに対し、『Cocaine』は冷たい現実を映す。両曲が並ぶことで、クラプトンの人間像が立体的に浮かび上がります。
歌詞に込められた警告
表面と裏側
一見、楽しげに誘う歌詞。しかし実際には「忘れるな、戻れない」という冷たい現実を突きつけています。
“Don’t forget this fact, you can’t get it back”
繰り返される“Cocaine”
タイトルの反復は賛美ではなく、中毒のループを象徴。最後まで抜け出せない現実を暗示します。

社会的背景と本人の葛藤
1970年代ロックとドラッグ文化
当時、ドラッグは音楽シーンと切り離せないテーマでした。クラプトン自身も依存に苦しみ、『Cocaine』は彼にとって自分自身への問いでもありました。
演奏を続ける選択
曲を封印せずに演奏を続けたのは、過去を否定せず「意味を更新」するため。音楽を通して再生の姿勢を示したのです。
関連曲との対比
『After Midnight』が夜の高揚を描くなら、『Cocaine』はその反動と冷却を描きます。二曲を続けて聴くと、クラプトンが「夜の始まり」と「夜の終わり」を表現していることが分かります。

静かな警鐘としてのブルース
『Cocaine』は、最小限の音と言葉で最大の意味を残す曲です。
ライヴで“dirty”を添えたのは、自らの過去と正面から向き合うため。演奏を止めず、意味を更新し続けることで曲は生き延びました。
誘惑・後悔・再生という普遍的テーマを、クラプトンは冷静な音で刻み込んだのです。

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