🎸僕の勝手なBest20【エリック・クラプトン編】- 第15位『Born in Time』をご紹介!

【エリック・クラプトン】について、詳しくはこちらをご覧ください。・・・・
エリック・クラプトン物語 ― 栄光と試練のギターレジェンド!

🎸【エリック・クラプトン編】第15位『Born in Time』です。

第15位は、『Born in Time』です。もとはボブ・ディランお作品ですが、クラプトンらしく、より上品に、かつより切なく仕上げています。

超約

夜の静寂、淡い月光。
かつての恋人の記憶が、そっと甦る。
離れ、また出会い、そしてようやく理解する――。
「私たちは時間の中に生まれた」。
愛は永遠ではなく、時間の一部として息づく。
その受け入れこそ、この曲の核です。

🎥まずはいつものように、Youtubeの公式動画をご覧ください。

🎬 公式動画クレジット(公式音源)
🎵 Born in Time – Eric Clapton(作詞作曲:Bob Dylan)
© 1998 EPC Enterprises, LLP. Under exclusive license to Surfdog Records
Released on: 1998-03-10(Album: Pilgrim)

2行解説
ボブ・ディランの原曲を、クラプトンが静謐なトーンで再構築した珠玉のバラード。
夢と現実、過去と現在が交錯する“時間の中の愛”を穏やかに描いた名カバーです。

次の動画は、ボブ・ディランの楽曲です。聴き比べてみてください。

🎬 公式動画クレジット
🎵 Born in Time – Bob Dylan
© 1990 Columbia Records, a division of Sony Music Entertainment
収録アルバム:Under the Red Sky
Released on: 1990-09-11

📖 2行解説
淡い回想と現実の狭間を描いた、ボブ・ディラン1990年代の隠れた名曲。
繊細な比喩と寡黙な歌声が、時の流れと愛の儚さを静かに照らしています

リリース情報と基本概要

『Born in Time』はボブ・ディランが1990年に発表したアルバム『Under the Red Sky』に収録された楽曲です。
ディラン独特の比喩と夢のような語りが散りばめられた作品で、後に複数のテイクが公開されています。
エリック・クラプトンは1998年のアルバム『Pilgrim』でこの曲を取り上げ、ディランの“ざらついた詩”を、彼らしい温度感と音の余白で包み直しました。

『Pilgrim』はクラプトンが長い沈黙のあとに出した、いわば“内省のアルバム”です。
過去の痛みを抱えながらも、感情を静かに整えていくような作品群の中で、この『Born in Time』は異彩を放っています。
それは、悲しみを語るのではなく、「時間の中でしか癒えないもの」を受け入れる歌だからです。


超約 ― 「夢の中で生きていた二人が、今は時間の中で生まれ変わる」

夜の静寂、淡い月光。
かつての恋人の記憶が、そっと甦る。
離れ、また出会い、そしてようやく理解する――。
「私たちは時間の中に生まれた」。
愛は永遠ではなく、時間の一部として息づく。
その受け入れこそ、この曲の核です。

歌詞が映し出す「時間」と「記憶」

In the lonely night,
In the stardust of a pale moonlight,
I think of you in black and white
When we were made of dreams.

(孤独な夜に 淡い月のほこりの中で モノクロームの君を思い出す あの頃、僕らは夢でできていた)

曲は“現在”ではなく“記憶”から始まります。
「black and white(白と黒)」という言葉は、過去を映画のように再生していることを示します。
クラプトンの声は、感情を抑えながらも、音の粒をゆっくりと置く。
その発声の間合いに“夢の残像”が浮かびます。

I walked alone through the shaky streets,
Listening to my heart beat
In the record-breaking heat
When we were born in time.

(揺れる街をひとり歩きながら 心臓の鼓動を聞いていた 記録的な暑さの中で 僕らは時の中に生まれた)

ディランの詩らしい現実的な情景。
「shaky streets(揺れる街)」と「record-breaking heat(記録的な熱)」は、ただの比喩ではなく、“現実に戻る瞬間”の象徴です。
夢と現実の境が曖昧なまま、語り手は再び時間の流れに戻っていく。
クラプトンの歌唱はここで微妙に息を詰め、まるで「現実と記憶が交わる刹那」を聴かせているかのようです。


再会と未完の問い

Just when I thought you were gone, you came back
Just when I was ready to receive you.

(君がもう去ったと思ったその時に 君は戻ってきた 僕が受け入れる準備をしたその瞬間に)

愛する人との関係が、完全に終わることはない。
行ってしまったと思えば、また戻ってくる。
この“揺れ”が、この曲の中心にあります。
クラプトンはこの部分を少しだけテンポを前に置き、感情が理性を追い越すようなニュアンスで歌います。

You were smooth, you were rough,
You were more than enough.

(君は穏やかで、そして荒々しかった でも、僕には十分すぎるほどの存在だった)

短い対句の繰り返しが、愛の複雑さを映します。
優しさと激しさ、安らぎと不安。
それらが矛盾ではなく、すべて「君」という存在の一部。
クラプトンのボーカルはそのニュアンスを語るようにではなく、あくまで“置く”ようにして発します。
ギターもここでは主張を抑え、ピアノの透明な音が彼の声の隙間をやさしく満たします。

Ah babe, why did I ever leave you
Or believe you?

(ああ、なぜ君を離れてしまったのか なぜ信じてしまったのか)

この一行には、クラプトン自身の人生の影が透けて見えます
愛と喪失を何度も経験してきた彼だからこそ、この短いフレーズが“説明ではなく体験”として響くのです。
語り手は悔いているわけでも、恨んでいるわけでもない。
ただ、あの瞬間にあの選択をしたという事実だけが残る。
それを“時間の中の出来事”として受け入れる姿勢。ここにクラプトン版『Born in Time』の核心があります。


音が語る「平静の中の熱」

『Pilgrim』のサウンドは全体的にデジタルで、打ち込みやプログラミングによる律動が多く見られます。
しかし、この曲ではそれが目立ちません。
音はあくまで「語りのための空気」として配置されています。

特に印象的なのは、ギターが“泣かない”こと。ソロらしい展開もなく、音数は極端に少ない。
その代わり、クラプトンの声がわずかに震え、その震えをピアノが追うように流れる。
かつての彼がギターで叫んだ感情を、この曲では“呼吸”で表現しているのです。


「時間の中に生まれた」ことの意味

“Born in Time”という表現は、直訳すると「時間の中に生まれた」。
一見不思議な言葉ですが、クラプトンの歌い方からは、「すべての出会いと別れは、時間という流れの中に位置づけられている」という静かな悟りが感じられます。

この曲の語り手は、かつての恋を振り返りながらも、決して過去に戻ろうとしません。
むしろ“過去があって今がある”という事実を、穏やかに肯定している。
それがクラプトンの円熟です。


消えていくものを見つめる静かな視線

Just when I knew who to thank, you went blank
Just as the firelight was gleaming.

(ようやく感謝を伝えようとしたその時 君は心を閉ざした 焚き火の明かりがまだ揺れていたのに)

この一節に漂うのは、ほんの一瞬の温もりとその消失です。
「firelight(焚き火の光)」は温かさの象徴ですが、その光が消えるのと同時に、相手の心も見えなくなる。
クラプトンの歌声はここでほとんど囁きに近く、まるで“言葉の届かなかった記憶”をなぞるように響きます。

You were snow, you were rain,
You were stripes and you were plain.

(君は雪であり、雨でもあった 模様のある日もあれば、何もない日もあった)

この「対句の連打」はディラン詩の象徴的な手法ですが、クラプトンはそれを“比喩の説明”としてではなく、
“感情のリズム”として処理しています。
雪は儚く、雨は続く。どちらも消えるもの。人の関係も、永続より変化に意味がある。
その視点こそ、『Born in Time』が他のラブソングと異なる理由です。


「夢」と「現実」の境界で立ち止まる

Oh babe, can it be you’ve been scheming
Or was I dreaming?

(ねえ、君がずっと計画していたのかな それとも僕が夢を見ていただけなのか)

ここで初めて、語り手は“疑念”を口にします。
しかしその疑いは責めではなく、自分の中にある「理解できなさ」への自問。
クラプトンはこの一行を柔らかく歌い、聴き手に“真実の不明確さ”をそのまま残します。

この“答えを出さない構成”が、この曲を普遍的にしています。愛の記憶は「真実」よりも「体験」として残る。彼の声はそのことを、説明せず、ただ提示する。


結末 ― 残るのは「内側の静けさ」

In the hills of mystery,
In the foggy web of destiny,
You’re still so deep inside of me
When we were born in time.

(謎めいた丘の上で 運命という霧の網の中で 君はいまも僕の奥深くにいる あの頃、僕らは時間の中に生まれた)

終盤では、視点が「自分の内側」に戻ります。
「foggy web of destiny(運命という霧の網)」という詩は、未来を明確に描くのではなく、
人生そのものを“濃淡のある霧”として描いています。
クラプトンはここで声をやや落とし、余韻を伸ばしたままフェードアウト。
解決も宣言もなく、ただ“今も君はここにいる”とだけ残す。この静けさが、彼の晩年の音楽を象徴しています。


クラプトンとディラン ― 二人の「時間を歌う男」

エリック・クラプトンがボブ・ディランの曲を取り上げたのは、これが初めてではありません。
1975年の「Knockin’ on Heaven’s Door」、1976年『No Reason to Cry』ではディラン作の「Sign Language」を収録し、さらに1992年のディラン30周年記念コンサートでは「Don’t Think Twice, It’s All Right」を披露しました。

二人は直接的な“師弟関係”ではありませんが、互いに「時間」という主題を終生追い続けた点で深く共鳴しています。
ディランが“時間を詩にする”人だとすれば、クラプトンは“時間を音にする”人。
『Born in Time』はその交差点に生まれた作品です。

ディラン版は荒削りで、言葉が鋭く突き刺さります。
一方、クラプトン版は角を落とし、余白を増やす。
どちらが優れているという比較ではなく、同じ詩が別の“時の呼吸”で語られているのです。


“Born in Time”という悟り

この曲の核心は、“時間を敵にしない”という姿勢です。
かつてのクラプトンは、愛も痛みも音で爆発させてきました。
しかし『Born in Time』では、それをすべて“時間の一部”として受け止めています。
恋人とのすれ違いも、誤解も、喪失も、「それも含めて自分を形づくる要素だった」と認める穏やかさ。

時間の中で出会い、時間の中で別れ、そのどちらも否定しない。
これほど成熟したラブソングは、クラプトンの長いキャリアの中でも稀です。


終章 ― “時間に生まれた”音楽

『Born in Time』を聴くたびに思うのは、過去と現在がまるで同じ呼吸でつながっているという感覚です。
悲しみは癒えなくても、形を変えて存在し続ける。
その優しい持続こそ、クラプトンの晩年のテーマでした。

「寄り添う」でも「語りかける」でもなく、ただ同じ時間を静かに共有する。
それが“Born in Time”の本質です。


コメント

タイトルとURLをコピーしました