🎸僕の勝手なBest10【ミッシェル・ポルナレフ編】- 第4位『ロミオとジュリエットとのように』をご紹介!

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🎸第4位『ジュリエットとロミオのように』!

第4位は、『ロミオとジュリエットとのように(Comme Juliette et Roméo)』です。これまたメロディアスで、なんともポルナレフらしい一曲だと感じています。

この曲は、古典悲劇をそっくり再演するのではなく、必要な力だけを借りて現代の恋の芯へ踏み込む一曲です。主人公は「ロミオ」を名乗りません。その代わりに、相手のために勇気を差し出すと明言します。理想の肩書やドラマの大仰さに頼らず、日常のスケールで「やるべきこと」を言い切る形をとっています。

🎥まずはいつものように、Youtubeの公式動画をご覧ください。

🎬 公式動画クレジット(公式音源)
曲名:Comme Juliette et Romeo
アーティスト: Michel Polnareff

Provided to YouTube by Universal Music Group
チャンネル:Michel Polnareff Officiel(公式)
℗ 1971 Semi / Meridian.
📖 2行解説
1971年のシングル「Allô Georgina」のB面曲で、ポルナレフらしい洒脱な語り口が光る一篇。
3拍子のやわらかな運びに、ロミオとジュリエットを借景にした恋の寓話を軽やかに重ねた小品です。

はじめに──

本稿では、経歴紹介は最小限に抑え、
①歌詞の言い回しがどのように態度=行為へつながるか、
②音の設計がそれをどう後押しするか、
③同時期曲との住み分けをどう成立させているか、の三点を軸に読み解きます。

歌詞の設計──「否定」から始まる誠実さ

出だしの「僕は君のロミオじゃない(Je ne suis pas ton Roméo)」は、夢を壊すための台詞ではありません。虚飾を先に払い落とし、続く「でも君のために英雄の勇気を持つ(mais j’aurai… le courage du héros)」を実体化するための地ならしです。名を借りて見栄えを整えるのではなく、態度で応える。ここに本作の倫理が凝縮されています。

語の重心──enlever と monde insensé

enlever は「連れ出す/救い出す」という強い動詞です。相手を取り巻く常軌を逸した世界(monde insensé)を見据え、そこから距離を取ると宣言する。抽象的な「愛している」ではなく、場を切り替える能動として言葉が配置されています。

具体へ下りる手触り

誓いは感情の強度を競うものではありません。救い出す、迎えに行く、そして一緒に踊る――いずれも、いまこの瞬間から自分の側で起こせる行為です。比喩をすべて現実に落とすのではなく、現実に届く高さで比喩を留める。そのバランスが、聴き手の生活へ橋を架けます。

借景のさじ加減──coursier と étoiles

coursier(駿馬)は英雄譚の小道具に見えますが、ここでは誇張の入口ではなく決断の速度のしるしです。ためらいを断ち切って向かう推進力を、ごく短い語で指し示す。結びの au son des étoiles(星の音に合わせて)は、視覚ではなく聴覚の静けさでふたりの場所を描きます。喝采の広場ではなく、声量を上げずに通じ合える地点へ。古典の光を必要な分だけ取り込み、現代の体温に合わせて制御するやり方が見て取れます。

小さな物語の運び(段差をつけて)

第一段:理想像の拒否と勇気の提示

肩書を名乗らず、態度で示す立場を確定します。否定から始めたことで、以後の約束が軽くなりません。

第二段:迎えに行くという移動の決断

待つのではなく、距離を縮める側に回る。ワルツの歩幅と語のアクセントがここで自然に重なります。

第三段:星の下の祝祭へ

騒がしさから離れ、ふたりの速度で踊る。大団円の喧噪を避け、共有の静けさに着地します。

音の短評──言葉を前に押し出す3拍子

本作の3拍子は、装飾のための揺れではありません。声の可聴帯域を空けるように編成が整理され、ストリングスと鍵盤が輪郭を薄く縁取る。ドラムは踏み込み過ぎず、語の区切りでそっと背中を押す程度に留まります。結果として、主役は言葉。メロディは言葉を運ぶ器に徹し、誓いの筋道を明確に浮かび上がらせます。

他曲との住み分け──シリーズの流れの中で

同時期の代表曲を横に置くと、本作の居場所がはっきりします。『誰が祖母を殺したの?』倫理の問いで世界を照射する曲、『すべての船、すべての鳥』(渚の思い出)が言葉の配置で視界を組み替える曲、『I Love You Because』反復の直言で切り込む曲だとすれば、本作は否定→補償→行為→共有という短距離走で、個の決断を結論まで運ぶ曲です。シリーズを通しで聴くときの密度調整役として、重心をふたたび二人の関係に戻す働きを担います。

B面的縮尺の効用

本作はシングルB面由来の小曲として知られます。ここで効いているのは「親密な縮尺」です。壮大な前置きや大規模な転調を置かず、必要最小限の光で言葉を照らす。結果、短い時間で核心だけが残る。ポルナレフが得意とする“最短距離の表現”が、誓いの地図を乱さず引き切っています。

聴感上の三点

1) 入口の緊張

否定から始めたことで、発話の信用が担保されます。

2) 中盤の推進

「迎えに行く」という移動の意思が、拍の揺れと噛み合って前進の感覚を生みます。

3) 終止の静けさ

星の“音”という聴覚の比喩で、過剰に持ち上げない祝祭へ着地します。

もう一歩深く──「勇気」の再定義

ここで語られる勇気は、感情の高ぶりではありません。選択の継続性です。救い出す、迎えに行く、踊る――どれも声さえあれば今すぐ始められる行為で、相手の尊厳を損なわない範囲に厳密に収まっています。誇張を退けたうえで「やり切る」ための持久力こそが、本作の勇気です。

言い換えの重複を避ける構造

テキストは、主観の吐露→意思表明→計画→共有体験へと、重複なく右肩上がりに進みます。同種の言い回しを重ねて感情を肥大させず、段差のある進行で読み手(聴き手)の意識を運ぶ。短さが説得力へ変わるのは、この冗長を排した秩序のためです。

比喩の制御と時間感覚

古典名を全面移植すれば、現代の風景から遠のきます。本作は名称だけを借り、語の温度を現実側に合わせます。coursierétoiles も、一筆書きのようにすばやく提示して引き上げる。夕景から夜へ、喧噪から静けさへ――音量を上げずに空間だけが開ける時間設計が、最後の一行をやさしく支えます。

生活へ接続する聴き方

朝夕の移動中、あるいは作業前の切り替えに向きます。3拍子の揺れは歩幅や呼吸を整え、言葉の筋は意識を一点へ集めます。記念日の高揚を大袈裟に演出せず、約束の気配だけを灯したい場面にも似合います。豪華さではなく、実行可能な希望を置く曲として。

言い回しの重心──否定と補償が作る信頼

冒頭の否定は、責任から逃げるための盾ではありません。虚勢を捨てることで、以後の「勇気」の宣言が行為に変わります。ここでの勇気は、相手を変えるのではなく、まず自分のふるまいを変えること。名を名乗らずに、やることをやる。これが本作の信頼の土台です。

フランス語のニュアンス(最小限の覚え書き)

enlever は場の切替を引き起こす能動、monde insensé は片付けるべき環境、coursier は決断の速度、au son des étoiles は聴覚で描く静けさ。いずれも、誇張に流れない高さで止められており、身の丈の高揚だけが残ります。

音と言葉の噛み合わせ──“歩幅で聴く”3拍子の設計

ことばが拍を押す瞬間

冒頭の Je ne suis pas ton Roméo(僕は君のロミオじゃない)は、否定の ne / pas が1拍目と3拍目に軽く乗り、語の骨格を立てます。ここで「否定→受け止め」の緊張が身体に入るため、続く mais j’aurai le courage du héros(でも君のために英雄の勇気を持つ)が次小節で前へ出やすい。否定で踏みしめ、勇気で一歩進むという意味と拍の一致が、聴き手の歩幅にそのまま転写されます。

子音の押し出しと母音の余韻

中盤の Je t’emmènerai danser au son des étoiles(君を連れ出して、星の音に合わせて踊らせる)は、鼻音 /n/ と流れる /ʁ/(フランス語R)が短く前を押し、語尾の母音が3拍目でほどけます。小節終止で息を置き直す設計が、次のフレーズの“迎えに行く”決断を押し出す。結果として、歌詞の段差(否定→補償→移動→共有)が聴感上の段差としても明確に感じ取れます。

具体例(必要最小限の引用)

  • Je ne suis pas ton Roméo僕は君のロミオじゃない) → 否定の拍(1拍・3拍)で骨格を作る
  • … le courage du héros英雄の勇気) → 語頭子音が1拍で“前進”を合図
  • Je t’emmènerai danser au son des étoiles星の音に合わせて踊らせる) → 語尾母音が3拍目で静かにほどけ、夜景の到達点へ自然に橋渡し

歌詞の“熱”の出し入れ──過激句をワルツで中和する

温度の急上昇と即時の縮尺調整

中盤には Je volerais pour toi et je tuerais pour toi君のためなら盗むし、君のためなら殺しさえもする)という過激な誇張が出ますが、直後に

Ah, pour un sourire, un baiser, un seul mot de toi !(ああ、君の微笑み、キス、たったひと言でいい!)と最小の報酬へ急速にスケールダウンします。

これを受け止めるのが、ストリングスが支える3拍目のクッション。言葉の温度は上下しても、拍のゆらぎが暴走を抑え、余韻へ導く役目を果たします。過激句を“言いっ放し”にしないのは、ワルツ基調の呼吸設計があるからです。

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