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🎸【エリック・カルメン編】第2位『Let’s Pretend』を深掘り!
僕にとって「Let’s Pretend」は、ラズベリーズの中では圧倒的に1位、エリック・カルメン全体の楽曲でも2位に挙げたいほどの特別な存在です。1972年の2ndアルバム『Fresh』の冒頭に収録されたこの曲は、バンドとしての成熟が感じられる一作でもあります。
初めて聴いたとき、この曲は“普通の洋楽”とは何かが違っていて、メロディの運びにも独特の雰囲気が漂っていました。エリック・カルメンのかすれた声、心地よく流れる旋律、印象的な始まり方——すべてが僕の心をとらえました。
作詞作曲はエリック・カルメン本人。全米チャートでは35位という控えめな結果ながら、その後も多くのアーティストに影響を与え続けています。
本稿では、この楽曲の構造や歌詞の深層、時代背景に触れながら、エリック・カルメンという表現者の本質に迫っていきます。
🎥まずはいつものように、Youtubeの公式動画をご覧ください。
🎬 公式動画クレジット(公式音源) 曲名: Let’s Pretend アーティスト: Raspberries 提供元: Provided to YouTube by Universal Music Group 動画公開: チャンネル「RaspberriesOnline」によりアップロード 📖 2行解説 エリック・カルメンが手がけた、儚さと希望を織り交ぜたラブソングの名曲。 70年代のパワーポップの代表格、Raspberriesによる甘く切ないバラード。
🎬 公式動画クレジット(ライブ音源)
曲名: Let’s Pretend (Live)
アーティスト: Raspberries
提供元: Provided to YouTube by Omnivore Recordings
動画公開日: 2017年8月17日(自動生成)
収録アルバム: Pop Art Live
作曲者: Eric Carmen
レーベル: ©2017 Raspberries, under exclusive license to Omnivore Recordings
📖 2行解説
再結成後のライブ盤『Pop Art Live』より、名バラード「Let’s Pretend」の力強い演奏を収録。
エリック・カルメンのボーカルが、円熟した深みを加えて響くライブテイク。
音楽的構造:穏やかさの中に秘められた緊張
シンプルなコード進行と、感情に触れる導入
「Let’s Pretend」は、イントロらしい“ため”をほとんど置かず、アコースティックギターの素朴なコードが鳴った直後、すぐにエリック・カルメンの歌声が入り込みます。前置きのないこの始まりは、場面の空気を一瞬で切り替え、聴く者をためらいなく楽曲の核心へと引き込んでいきます。

コード進行は極めてシンプルで、転調や装飾的な仕掛けは見られず、全体として“歌”そのものが主役として据えられています。カルメンのボーカルも感情を大きく波立たせるのではなく、落ち着いた声色を保ちながら、静かな語りのように進行します。
この簡潔で抑制された構成が、曲全体に流れる「どうにもならない願い」の存在を、いっそう際立たせているのです。
サビに集約される抑えきれない願望
以下は、代表的なフレーズの一節です:
Baby, let’s pretend
That tonight could live forever
If we close our eyes
And believe it might come true
(ねえ、ちょっとの間だけでも、今夜が永遠に続くって思い込もうよ。目を閉じて、願いが叶うと信じれば――)

メロディの流れと共に、このフレーズが繰り返されることで、聴き手の中に「止まっていてほしい時間」の存在が明確に刻まれていきます。
歌詞の世界観:儚さと願望のあいだで揺れる夜
一瞬の幻想が心の救いになる
歌詞の語り手は、満たされない日常のなかで、恋人とのひとときを心から求めています。
I can’t sleep nights
Wishing you were here beside me
Can’t help feeling
That’s the way it ought to be
(夜が眠れないんだ。君が隣にいてくれたらいいのにって願ってる。どうしてもそうあるべきだと思えてしまうんだ)

ここにあるのは、“恋人がいない寂しさ”というありふれた感情ではありません。むしろ、「本当は一緒にいるべきなのに、それが許されていない」という葛藤と自己欺瞞が描かれています。
1972年という時代:若者の内面を描いた優しいレジスタンス
ロックの多様化とバラードの台頭
1972年は、アメリカの音楽シーンが多様化し始めた時期でした。ベトナム戦争終結の兆しとともに、社会全体の“揺らぎ”がサウンドに反映されていた時代です。

The Raspberriesは、明確な政治的メッセージは打ち出していませんでしたが、この曲にはその時代における「若者の静かな反発」が漂っています。
Somehow, someday
Things are gonna be so different
Don’t cry
(いつかきっと、何もかも変わっていくさ。泣かないで)
これは、状況を“破壊する”のではなく、“いつか変えられる”と信じる姿勢です。そのため、攻撃的なプロテストソングとは異なり、個人の内側から湧き上がる“信じたい”という願いが、中心に据えられています。
物語としての構成:ラブソングの域を超えた描写力
「Pretend=ごまかし」ではない、感情の最終手段
タイトルにもある「Let’s Pretend(思い込もう)」は、「嘘をつく」「逃げる」という意味では使われていません。むしろ、“真実を願う手段”として機能しています。
So now that we’re all alone
I couldn’t bear
To ever take you home
Oh no
この場面には、肉体的な欲望以上に、「この時間だけは終わってほしくない」という心理が込められています。物理的な距離や現実の制約のなかで、せめて一夜だけでも“理想の形”で過ごしたいという感情が表現されています。

カルメンの作家性:直接語らずに、感情を封じ込める方法
“情緒”の設計者としてのエリック・カルメン
エリック・カルメンの作詞作曲は、感情を直接叫ぶのではなく、“配置”によって伝える手法が特徴です。この曲では、フレーズそのものが抑えられ、語尾に至るまで計算されたような繊細さがあります。
So take me now
My love can’t wait
We’re almost there now darlin’
Darlin’, hold me, hold me
Hold me

繰り返される「Hold me」は、単なる肉体的な接触の要求ではありません。今ここでしか生まれ得ない感情の揺らぎを、そのまま閉じ込めようとする必死の言葉です。「愛している」や「必要だ」とは一度も明言されていませんが、それ以上に“どうしようもなく求めている”ことが、行間から伝わります。
再評価とカバー:失われた名曲の静かな再浮上
批評家の反応とファン層の分断
当時の音楽メディアは、本作を「抒情的だがインパクトに欠ける」と評する一方で、「ラズベリーズの新たな可能性を示した作品」とも指摘していました。
一部のファンからは、「もっと派手なロックが聴きたかった」との声もあったようですが、静かな層(僕はこっち派です!)からは「この曲こそがRaspberriesの本質」という評価が根強く残っています。
後年の再評価:Eric Carmen自身もカバー
1975年、エリック・カルメンは自身のソロデビューアルバム『Eric Carmen』で「Let’s Pretend」を再録音しました。オーケストラによるアレンジで表現が豊かになり、彼自身のこの曲への強い思い入れがうかがえます。これはヒット狙いではなく、彼の音楽観の中心に位置づけられた作品だったと言えます。
今だからこそ響く「Let’s Pretend」の本質
予定調和ではない“未完成”の魅力
この楽曲が今なお共感を集める理由の一つに、「決着をつけないまま終わる物語」であることが挙げられます。
明確なハッピーエンドも、悲劇的な結末も描かれず、ただ“今だけ”を願っている――そんな未完の感情が、多くの聴き手に自由な想像を許しています。
Baby, let’s pretend
We could always live together
(ねえ、ふたりがずっと一緒にいられるって思い込もう)
この願いが叶うのか、叶わないのか。答えはどこにも示されません。しかしその“不確かさ”こそが、人生のどこかで誰もが抱く感情と重なるのです。

結び:Raspberriesの陰影としての「Let’s Pretend」
『Let’s Pretend』は、『Go All The Way』のような爆発力を持つ楽曲とは異なり、ラズベリーズの中でも異彩を放つ“静の代表作”です。
明確なフックやラジオ向きの展開は少ないものの、聴けば聴くほど味わい深く、時間が経ってからこそ本質が見えてくるような作品です。エリック・カルメンがこの曲をソロアルバムに再録したのは、それがヒット性ゆえではなく、「自分の核にある感情」を刻んでおきたかったからでしょう。
“Pretend”という言葉にすべてを託しながら、伝えすぎずに想像を開いたこの曲は、時代を超えてリスナーの心に残り続けています。
『 Let’s Pretend』―Raspberries:意訳!
眠れない夜 君がそばにいればと願い続け
夢のような現実を ふたりで描ける気がした
もし今夜が永遠なら 目を閉じて信じてみよう
愛がすべてを変えてくれると
明日を約束できなくても
今だけはこの腕の中にいてほしい
不安も痛みも 全部忘れられるから
いつかは違う日々が待っていると
何度も信じて 涙をこらえてきた
だけど今夜だけは ただ君を抱きしめたい
未来を夢見るふたりが
この瞬間にすべてを賭けた夜
“さあ、もう帰さない”
その想いだけが真実だった
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