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🎸第6位『Starting Over』─ラズベリーズが遺した、再生のロックバラード
第6位は、エリック・カルメンのキャリアにおいて、バンド時代の終焉を象徴する楽曲『Starting Over』です。
この曲は1974年、ラズベリーズのラストアルバム『Starting Over』のタイトル曲として発表され、歌詞に込められた再生のメッセージと、当時すでに解散が囁かれていたバンドの状況が重なり合うことで、バンドの幕引きを飾るにふさわしい一曲とされています。バンドとしての集大成でもありました。
🎥まずはいつものように、Youtubeの公式動画をご覧ください。
🎬 公式動画クレジット
曲名:Starting Over (Remastered)
アーティスト:Raspberries
提供元:Universal Music Group / Capitol Records, LLC
動画公開日:2017年2月9日
音源リリース日:2005年1月1日(リマスター盤)
チャンネル名:RaspberriesOnline
📖 2行解説
ラズベリーズ晩年の代表曲。再出発をテーマに、エリック・カルメンのソングライティングが円熟味を増したパワーポップの傑作です。
🎬 公式動画クレジット( 公式ライブ音源)
曲名:Starting Over (Live)
アーティスト:Raspberries
提供元:Omnivore Recordings(YouTube経由)
チャンネル名:RaspberriesOnline
公開日:2017年8月17日
📖 2行解説
2000年代に再結成されたラズベリーズによる貴重なライブ音源。スタジオ版とは異なる生々しさと熱量が、楽曲の本質を新たに浮かび上がらせます。
解散寸前の空気感を映す作品
当時、ラズベリーズはすでにメンバー間の摩擦や方向性の違いから活動が限界に来ており、バンドとしての最後の輝きをこのアルバムに込めたとも言われています。
その中で表題曲『Starting Over』は、エリック・カルメンが書き下ろした“心の再起”を象徴する一曲として、今もなおファンの間で根強い人気を誇ります。
傷だらけの決意──歌詞が描く喪失と希望
愛の終わりと再出発のあいだで
この曲の冒頭では、過去の傷を赤裸々に吐露するような言葉で始まります。
恋人に去られた喪失感、自らを閉ざしながらも、新たな出会いに心を動かされていく揺れ動く感情──たとえば、「All I want is friends, but when we met I felt it all again(もう友達だけでいいと思っていたのに、君と出会ってすべての感情が戻ってきた)」という一節は、その心の変化を象徴的に表しています。そうした感情の機微が、過度に脚色されることなく、率直な言葉で描かれています。

希望を語る静かな決意
「曇り空の下で再出発する」「愛にもう一度こんにちはと告げる」といった表現が象徴するように、主人公は決して順風満帆な状態で人生をやり直しているわけではありません。
しかし、それでも“もし願いが一つだけ叶うとしたら、君ともう一度始めたい”と歌うその心情には、かすかな希望と覚悟が込められています。

これらの言葉からは、恋愛の再燃というよりも、「人間としてもう一度誰かと向き合いたい」という願望が滲んでおり、同じ痛みを経験した者にとっては深い共感を呼ぶ内容となっています。
音の厚みが語るバンドの進化
ラズベリーズの初期は、60年代のブリティッシュ・インヴェイジョンに影響を受けた、爽やかで甘酸っぱいポップロックが主流でした。
代表的な楽曲としては『Go All the Way』や『I Wanna Be with You』が挙げられ、キャッチーなメロディと明快なビートが若者の心をつかみました。
しかし、この『Starting Over』では、よりハードで骨太なロックサウンドが導入されています。エリック・カルメンのピアノを軸に、ギターやドラムが重層的に絡み合い、楽曲全体に分厚い質感を与えています。

新メンバーの効果と音楽的深化
加えて、当時の新メンバーだったマイケル・マクブライドとスコット・マッカールがリズム隊に加わったことにより、グルーヴ感や演奏の安定感も格段に向上。ラズベリーズの音楽が、単なるティーン向けのポップロックから、より成熟した表現へと移行していたことが明確に示されています。
このように、歌詞の内容だけでなく、音楽的な質感そのものも「やり直し=進化」を体現していたのです。
なぜ今もこの曲が心に残るのか
再出発というテーマの普遍性
『Starting Over』が時代を超えて心に響き続けるのは、「人生における再出発」という普遍的なテーマを内包しているからです。

失敗、別れ、喪失。誰しもが人生の中で何度か立ち止まり、「すべてを終わらせたい」と感じる瞬間を経験します。そんなときに、「それでももう一度やり直そう」と語りかけてくれる音楽は、心の奥底に届く力を持っています。
この曲はそうした心情に、静かにどこかで背中を押してくれるような力を持っており、聴き手の状況や人生の節目に応じて、まったく違った色合いを見せてくれるのです。
他のエリック作品との違い
エリック・カルメンがソロとしてヒットさせた『All by Myself』や『Never Gonna Fall in Love Again』がピアノバラードの美しさを前面に出していたのに対し、『Starting Over』はよりバンドサウンドの熱量を保ったまま、個人の感情を投影しています。

感傷に流されすぎず、かといってクールに突き放すわけでもない。その絶妙なバランス感覚が、この曲をエリック・カルメンの表現者としてのひとつの頂点に押し上げているのではないでしょうか。
同名曲との比較の面白さ
“Starting Over”というタイトルはジョン・レノンの楽曲でもよく知られています。ジョンのバージョンは、ヨーコ・オノとの関係性を穏やかに再確認するような優しい愛の再出発を描いています。

一方、ラズベリーズ版の『Starting Over』は、もっと切実で、感情の波に飲まれながらも立ち上がろうとする姿勢が描かれています。
同じタイトルでも、そこに込められた体温も緊張感もまるで違います。二曲を並べて聴いてみると、その違いがくっきりと浮かび上がってくるはずです。
歌い方や録音のディテールが伝えるリアル
注目すべきは、エリック・カルメンのボーカル表現です。声が震える瞬間や、あえて弱く語りかけるようなニュアンスが録音の中に残されており、完成されたポップ作品というより、むしろ生々しさを感じさせます。
マルチトラックに過度に依存せず、楽器の一つひとつにも“余計な加工”がほとんど施されていない。だからこそ、音と感情が一体になったような説得力が生まれているのです。
曇り空の向こうに見える光
現代のリスナーにとっての意義
『Starting Over』は1970年代に生まれた楽曲ですが、そのメッセージは今を生きる私たちにも有効です。
日々の暮らしの中で思い通りにいかない出来事に直面し、自信を失いそうなとき。この曲は決して無理に背中を押そうとせず、「立ち止まってもいい、少しずつでも進めばいい」と静かに示してくれます。

表現に古さを感じさせないのは、流行の言葉ではなく人間の“根源的な感情”に語りかけているからでしょう。
再出発とは、過去を否定するのではなく、まず自分を認めること。
そして、あらためて歩き始めること。
その場面にすっと重なるような音楽として、この作品は今なお多くの人の胸に響き続けています。
『Starting Over』―Raspberries:意訳!
かつては未来に夢を抱いていた
別れの一言がすべてを変えた
あの愛が終わるとは思いもしなかった
もう二度と誰も愛さないと誓ったのに
君と出会った瞬間、心がまた動き出した
曇り空の下で、もう一度始めようとする
今度は愛に微笑みかけ
新しい視点で世界を見つめる
もし願いがひとつ叶うなら
迷わず君との再出発を選ぶだろう
夕暮れに心を沈め
夜の静けさに過去の痛みを流し
埋もれていた想いが再び息を吹き返す
過去にすがる理由はもうない
今の君となら、すべてがもっと輝く
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