僕の勝手なBest30:【ふきのとう】編-第10位『5月』をご紹介!

「ふきのとう」の歴史はこちら
歴史【前編】「出会い~デビュー〜初期成功~成長期」まで(1970〜1976)
■歴史【後編】1977年〜解散・現在までの「円熟期・終幕・再会」

僕の勝手なBest30:【ふきのとう】編

も、いよいよBestに入ってきました。
第10位は-季節の気配と人の心情を静かに映した一曲―『5月』です。

これまでに紹介してきた。ふきのとう全曲がそれは優しくも哀愁に満ちた歌ばかりですが、これもその一つ。歌詞も、歌唱もやはりとても素敵です。。

まずはYoutube動画から紹介しましょう。

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🎥 出典:YouTube「Fukino10 Chan-nel」チャンネルより  
動画タイトル:ふきのとう/5月〈MAY SONG〉  
作詩:細坪基佳/作曲:細坪基佳/編曲:瀬尾一三
挿入アルバム:『ふたり乗りの電車』(1975年6月1日発売)
動画公開年:2015/05/03  
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はじめに:初夏を彩る、ふきのとうの叙情詩

この楽曲は、1975年6月1日にリリースされたセカンドアルバム『ふたり乗りの電車』に収録されました。デビュー曲「白い冬」で注目を集めてから約1年半、ふきのとうは表現の幅を少しずつ広げながら、音楽的にも円熟を深めていく時期に入っていました。

作詞・作曲を担当したのは細坪基佳。彼が描く世界観には、さりげない言葉のなかに温度と景色が溶け込んでおり、決して派手さを狙わずとも心に残る存在感があります。『5月』もその代表といえる作品で、今も静かに愛され続けています。

本記事では、この楽曲が放つ独特の魅力について、演奏・歌声・歌詞構成の視点から掘り下げていきます。

サウンドににじむ季節の風合い

アコースティックギターが導く情感の広がり

『5月』は、アコースティックギターの素朴な音色から始まります。旋律はシンプルながらも細やかに組み立てられており、無理に目立つことなく、聴き手を自然と楽曲の風景へと連れていきます。耳を澄ませると、やわらかな初夏の空気の中に立っているような気分さえ味わえるでしょう。

細坪基佳と山木康世が奏でるギターは、互いに響きを重ねながら、歌詞のもつ印象を輪郭づけていきます。単調にならず、それでいて過剰にもならず、ことばに呼応するように音が整えられています。「甘い香り」「やさしい光」といった季語に、音の質感がそっと色を添えるような効果を生んでいます。

また、音が詰め込まれていないことで、聴く側の想像が入り込む余地もあります。音が止んだあとの残響や、静かな部分の余白が、逆に情景を広げる手助けとなっている点も見逃せません。

控えめなボーカルがもたらす説得力

この楽曲での細坪基佳の歌い方は、強く押し出すものではなく、むしろ穏やかに語りかけるようなスタイルです。フレーズごとの抑揚は控えめで、声に含まれるニュアンスが曲全体の雰囲気を支えています。

「好きなのは 五月の風」という冒頭の一節からも感じられるように、余計な感情表現を避けながらも、しっかりと気持ちが伝わってくるのが細坪の持ち味です。自然体の歌唱がかえって印象を深めており、誇張をせずとも情景がにじみ出るような表現となっています。

表現力という言葉では片づけきれない、声そのものがもつ感触の柔らかさが、この曲の世界としっくり重なっているように感じられます。

歌詞が映し出す二人の距離

「あなた」の姿に込められた情景の意味

『5月』では、「あなたは春をふりまく」「泣き虫天使」など、やや比喩的な表現が用いられています。これらの言葉が明確な人物像を示しているわけではないからこそ、聴き手の想像を引き出す力を持っています。

「緑のドレスに身をまかせて」「朝露の花束 両手に包む」といった描写からは、対象の人物が季節のなかに溶け込むような印象を受けます。現実に存在する誰かというよりは、「春」や「若さ」といった抽象的な感情そのものが擬人化されているかのようです。

そして「泣き虫天使」という言葉が加わることで、その存在が一面的ではなく、明るさの裏側にある繊細さも内包していることがほのめかされます。人物描写に奥行きを与える表現として、静かに印象を残します。

「僕」が引き受ける役割とその距離感

対する語り手である「僕」は、「春を集める」「いつものピエロ」として描かれています。この表現には、相手のように光を放つわけではなく、その様子を受け取りながら過ごす人物像が浮かびます。

「ピエロ」という表現は、どこか滑稽で、人を楽しませながらも一歩引いた存在を連想させます。ここでは、直接的な関わりを求めるのではなく、そっと傍から見つめるような距離感がにじんでおり、聴く人にさまざまな感情を呼び起こします。

もしかするとこれは、淡い憧れや報われない思い、あるいは若い日の自分自身を振り返るような感覚なのかもしれません。語り手が自らの立ち位置を意識しているからこそ、描写は誠実で、感傷に流れすぎることもありません。


フレーズの反復が形づくる物語の構造

印象を強める言葉の「巡り」

『5月』では、サビのように繰り返される印象的なフレーズ――
「あなたは春をふりまく」「泣き虫天使」「僕は春を集める」「いつものピエロ」
――が、全体の構造の中で重要な役割を果たしています。

この一連の言葉は、単なる繰り返しではありません。
1回目は、五月の風や陽光の中にいる「あなた」と「僕」の関係を初めて提示し、
2回目では、「緑のドレス」や「朝露の花束」といった具体的な描写とともに関係性が明確化されます。
そしてラストでは、その4行のみで終わることで、物語の余韻を静かに閉じています。

この構成は、聴き手に対してあえて多くを語らず、むしろ“同じ言葉を何度も提示すること”で、内面的な変化や感情の深まりを誘っています。まるで、手元に残された言葉を何度も繰り返し読んでいるかのように、聴き終えた後もそのフレーズが心の中に残るのです。

時間が止まったような終わり方

楽曲の最後において、先述の4行が単独で反復される構成は特に印象的です。通常のポップスであれば、盛り上がりや展開を経て大団円を迎える流れが一般的ですが、『5月』では終盤に入っても大きな変化はなく、むしろ「そのままの言葉」で静かに幕が閉じられます。

ストーリーに決着をつけるのではなく、思いのかけらをそっと手元に残すような余韻があり、それが聴後の静けさを生んでいると言えるでしょう。

『5月』が持つ、ふきのとうの中での意味合い

初期作品における「静かな名曲」

『5月』は、ふきのとうの全体の楽曲群のなかでも、特に初期の内省的な作風を代表する一曲です。派手なヒット曲ではありませんが、聴き手の記憶に深く残る存在であり、アルバム『ふたり乗りの電車』の中でも確かな静寂と彩りを添えています。

この曲では、山木康世が中心となって制作された「春雷」や「風来坊」とは異なり、細坪基佳の視点がストレートに表現されています。どこか物語の途中を切り取ったような世界観、個人の記憶に寄り添うような曲調は、彼の作風の大きな特徴でもあり、のちの作品へと受け継がれていきます。

ふきのとうは、雄大な自然や旅情を感じさせる楽曲が注目されることも多いですが、『5月』のように私的で、風景と感情が交錯するような曲もまた、確実にファンの支持を集めてきました

ライブ演奏と聴衆の距離感

ライブにおいても『5月』は、派手な演出を必要とせず、アコースティックな構成のまま成立する楽曲です。二人のギターと歌だけで成立するその潔さは、聴き手との間にほどよい距離感を保ちつつ、真摯に響いてきます。

アルバムの中では地味な位置づけでありながら、年月を経てなお人々の記憶に残っていることが、その証とも言えるのではないでしょうか。


おわりに:心の中に吹き抜ける「五月」という時間

『5月』という楽曲は、わずか3分にも満たない短さでありながら、風景と感情を同時に描く静かな力を持っています。

「あなた」と「僕」という構図の中に、誰もがかつて経験したような距離感や、届きそうで届かなかった想いが重なって見える。『5月』は、そうした記憶の断片にそっと光を当ててくれるような作品です。

まるで詩集の一節を拾い読みしているような、あるいは懐かしいアルバムの1ページを静かにめくるような――そんな感覚が、曲全体を包んでいます。

聴き終えたあとに残る「静かな余韻」

この曲を最後まで聴いたとき、何か明確な結論が提示されるわけではありません。
にもかかわらず、聴き手の中には穏やかさや懐かしさ、あるいは少し切ない感触が確かに残ります。

季節はめぐり、年齢を重ねても、「あのとき感じた気持ち」だけはふとよみがえる。
『5月』は、そうした感覚に静かに寄り添う音楽です。

それぞれの「5月」に映る風景とは

ふきのとうの音楽には、北海道の自然を背景にしたスケール感のある楽曲も多く存在します。けれどもこの『5月』は、空の広さや山並みではなく、「日常の小さな瞬間」に焦点を当てた楽曲です。

この歌に描かれる「5月」は、必ずしも明るく晴れた季節だけではありません。心に吹く風は、人によっては懐かしく、あるいは痛みをともなうこともあるでしょう。
それでも、『5月』はそうした感情すべてを受け止める、静かで奥行きのある作品です。

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