クレイグ・フラーの誕生日に贈る:時代を超える名曲『Annabella』
本日7月18日は、シンガーソングライターのクレイグ・フラーの誕生日です。1949年生まれの彼は、「Amie」で知られるピュア・プレイリー・リーグの創設メンバーとして注目され、その後アメリカン・フライヤーやリトル・フィートでも活躍しました。温かく誠実な音楽性で、アメリカン・ロックの本道を歩み続けてきた存在です。
今日の紹介曲:『Annabella』-(クレイグ・フラー&エリック・カズ)!
まずはYoutube動画(公式動画)からどうぞ!!
🎧 公式動画クレジット 🎵 Annabella – Craig Fuller & Eric Kaz Provided to YouTube by Columbia/Legacy (Sony Music Entertainment) 💬 解説(2行): 1978年に発表された隠れた名盤『Craig Fuller / Eric Kaz』に収録された1曲。 Eric Kazの繊細な詞世界とFullerの歌声が美しく溶け合うバラードです。
僕がこの曲を初めて聴いたのは・・・♫
My Age | 小学校 | 中学校 | 高校 | 大学 | 20代 | 30代 | 40代 | 50代 | 60才~ |
曲のリリース年 | 1978 | ||||||||
僕が聴いた時期 | ● |
この曲を初めて聴いたのは大学時代。当時付き合っていた彼女が、僕のアパートに持ってきたアルバムの中に入っていたもので、僕が特に気に入ったのがこの『Annabella』でした。
メロディーは40年経ってもはっきり覚えていたのに、曲名もアーティスト名も思い出せず、長らく再会を諦めていました。
ところがある日、「アナベラ」というタイトルをふと思い出し、さらにYouTubeのおすすめ機能で偶然ジャケットを目にしたときは、本当に涙が出そうなほど嬉しかったです。
そんな経緯があり、今日こうしてこの曲をご紹介できることが、何よりも感無量です。
“奇跡のデュオ” フラー&カズの出会い
クレイグ・フラーの豊かなキャリアの中でも、音楽ファンの間で「奇跡の共演」として語り継がれているのが、1978年にリリースされたエリック・カズ(Eric Kaz)との連名アルバム『Craig Fuller / Eric Kaz』です。

このアルバムは、フラーとカズという異なる個性を持つソングライター同士が、お互いの強みを引き出しながら制作した1枚です。華やかなセールスや派手な演出とは無縁ですが、聴くたびに深い味わいをもたらす作品として、多くの音楽ファンの心に静かに残り続けています。
そのなかでも特に高い評価を受けているのが、『Annabella(アナベラ)』というバラードです。アルバム『Craig Fuller / Eric Kaz』のリリースは、1978年。『Annabella』シングル:1979年1月(7インチ)という流れです。
本稿では、この楽曲が放つ魅力について、当時の音楽状況やフラー&カズの背景とともに丁寧にひもといていきたいと思います。
ウェストコーストとAORのはざまで生まれた名盤
音楽シーンが多層化していった1978年
1978年のアメリカは、音楽の価値観が大きく揺れ動いた時期でした。イーグルス、ジャクソン・ブラウン、リンダ・ロンシュタットらによって育まれた「ウェストコースト・サウンド」は完成の域に達し、次なる段階としてAOR(アダルト・オリエンテッド・ロック)という形に発展していきました。
ボズ・スキャッグスの『Silk Degrees』(1976年)の成功が流れを決定づけ、スティーリー・ダンやTOTOがジャズの要素も取り入れた洗練されたアレンジで人気を博します。成熟した大人のリスナーに響く音楽が、メインストリームに定着した瞬間でした。

一方、ロンドンやニューヨークでは、真逆の動きとしてパンクやニューウェーブが勢力を拡大。ラモーンズやクラッシュ、トーキング・ヘッズといったアーティストたちが、既成の音楽に反旗を翻していくなか、音楽界は激動の只中にありました。
そんな状況のなか、フラー&カズのアルバムは、いわば“時流から離れた場所”に立ち現れた作品だったと言えます。騒がしさやトレンドとは一線を画し、人間らしさや私的な感情を中心に据えたその音楽は、静かにしかし確かな手触りをもってリリースされました。
フラーとカズ、それぞれの道のり
クレイグ・フラー:バンドマンから吟遊詩人へ
クレイグ・フラーはピュア・プレイリー・リーグ脱退後、ダグ・ユールらとアメリカン・フライヤーを結成し、ジョージ・マーティンのプロデュースによって高い評価を得ました。その後はグループから離れ、より感情的な表現を追求する中で、繊細な感性を持つエリック・カズと出会うことになります。

エリック・カズ:言葉と旋律の造形作家
エリック・カズはガレージバンド「ブルース・マグース」出身ですが、真価を発揮したのはソングライターとしてでした。リンダ・ロンシュタットに取り上げられた「Love Has No Pride」で名声を得た後は、洗練されたコード進行と緻密なリリックで高い評価を受けました。
そんな彼とフラーが互いの個性を尊重しながら制作したのが、アルバム『Craig Fuller / Eric Kaz』です。
『Annabella』が描く情景と心の残響
しずくのように始まる旋律
『Annabella』は、アルバムの中でも特に印象に残る楽曲です。冒頭、アコースティックギターの繊細なアルペジオが、まるで雨のしずくが静かに地面を打つかのような音色で始まります。耳を澄ませば、自然の気配と感情が交差するような感覚が広がっていきます。

続いて聴こえてくるクレイグ・フラーの歌声は、言葉を大切に紡ぎながら、静かに心の深部へと届いていきます。その声音には、切なさと温もりが同居しており、時間の流れすらゆっくりとしたものに感じさせます。
ひとり語りの手紙としての『Annabella』
Annabella please listen(アナベラ、どうか聞いてほしい)
It's raining hard and I'm sure missing you(激しい雨が降っていて、君がいなくて本当に寂しい)
冒頭のこの歌詞は、聴き手を一気に物語の中心へと引き込みます。雨の音を背景に、「アナベラ、聞いてほしい。激しい雨の中で、君がいなくて本当に寂しいんだ」と語りかけるような一節。
この率直な表現は、むしろ飾らないからこそ真実味を持ちます。押しつけがましさのない、心の底から溢れる想い。そこには、過剰な装飾を排した誠実さがあります。
続くフレーズでは、さらに心象風景が深まっていきます。
Could it be the wind that calls your name(君の名前を呼んでいるのは、風の音なのだろうか)
Reminding me of the pain(その音が、胸の痛みを呼び覚ます)
Of having you so far away again(また君が遠くへ行ってしまったことへの、やるせなさを)
ここでは、「風の音に、君の名前が聞こえるような気がして……」という独白が展開されます。かつて大切だった人を思い出すとき、自然の音や光景が引き金になることがあります。この一節には、心の中に刻まれた記憶が、不意に現実へと滲み出す瞬間が詩的に描かれています。

誰の記憶にも通じる普遍的な感情
個感情の記憶にそっと触れる音楽
『Annabella』が長く支持される理由は、多くの人が抱える記憶や感情と自然に重なり合うからです。大切な人をふと思い出すような、静かな哀しみがこの曲には宿っています。
歌声やアレンジは決して強く訴えかけるものではありませんが、その控えめな表現だからこそ、聴き手自身の記憶や想いと静かに響き合うのです。まるで、自分の人生の一場面を静かに映し出す、優しい背景音のように感じられる瞬間があります。
音楽がそばにあるという感覚
『Annabella』は、聴き手に語りかけるのではなく、静かにそっと傍にいるような存在です。
音楽の魅力は、技巧だけでなく、どれだけ日常に馴染み、心の奥に残るかという点にもあります。その意味でこの曲は、まさに時を超えて愛され続ける“静かな名曲”と言えるでしょう。

1978年の日本と『Annabella』の静かな共振
ニューミュージックとAORの胎動
1978年の日本では、サザンオールスターズのデビューや矢沢永吉の快挙などが話題となり、ニューミュージックも台頭。松任谷由実や山下達郎らは、AORに影響を受けた洗練されたサウンドで新たな音楽の潮流を築き始めていました。
『Annabella』が“通好み”として静かに愛された理由
1978年当時、Craig Fuller & Eric Kazのアルバムは一般的な注目は集めなかったものの、音楽関係者や熱心なリスナーの間では高く評価されていました。(じゃあ、僕もその一人です( ;∀;))『Annabella』は、派手な流行とは異なる本質的な魅力を持ち、アメリカ音楽への憧れと深い共感を呼び起こす特別な一曲として静かに支持されていたのです。
二人の音楽家が重ねた感性の軌跡
対照的な個性が融合した奇跡
クレイグ・フラーは、カントリーに根ざした素朴な感性と、静かに情景を描き出すようなメロディ構成力を持つ表現者です。その歌声は、華やかさを抑えた語り手としての深みを感じさせます。一方、エリック・カズは言葉と旋律を繊細に組み上げるソングライターで、感情を抑制しながらも力強く描くスタイルが特徴です。

もしどちらか一方だけで『Annabella』を手がけていたら、やや偏った作風になっていたかもしれません。しかし、二人が組んだことで、温かみと構築美が美しく交差し、時代を超える楽曲が生まれたのです。
いま改めて『Annabella』を聴くということ
40年後も変わらぬ共鳴と音楽がくれる“確かな静けさ”
『Annabella』は、40年以上経った今も色あせることなく、人の記憶や想いに静かに触れてきます。過去の誰かを思い出すきっかけとなるこの曲は、時代や言葉を超えて、変わらぬ共鳴を生み出し続けています。

『Annabella』(クレイグ・フラー&エリック・カズ):意訳
アナベラ
雨音が 君の名前を連れてくる
あの微笑みが 僕の記憶を揺らす
過ぎた季節の向こうで
君はまだ あの日のまま
言葉では届かなかった想いを
今なら きっと伝えられるのに
手を伸ばせば 消えていく
まるで夢のように 優しかった人
戻れないことはわかってる
だけど心だけは 君の隣にいる
アナベラ
もしもこの風が君に触れたら
僕の想いもそっと運んでくれるだろうか
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