🎸僕の勝手なBest10【エリック・カルメン編】- 第7位『I Saw The Light』をご紹介!

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第7位『I Saw The Light』──光を見たその瞬間、世界が変わった

幕開けにふさわしい“気づき”の物語

エリック・カルメンといえば、1970年代から80年代にかけて繊細なバラードを数多くヒットさせたシンガーソングライターですが、本作『I Saw the Light』は、彼がラズベリーズ(Raspberries)のフロントマンとして活動していた1972年に発表した作品です。今回紹介する第7位は、この曲です。シングルカットはされていないが、ベスト盤には入る曲! 特別感はなくとも、繰り返し聴きたくなる一曲です。

この曲は、ラズベリーズのデビュー・アルバム『Raspberries』(1972年)の3曲目に収録されています。アルバム内でも比較的落ち着いたトーンを持つ楽曲で、エリック・カルメンの繊細なメロディセンスと感情表現の豊かさが際立っています。派手さはありませんが、聴くたびに深く染み込んでくるような、静かな魅力を持つ作品です。

🎥まずはいつものように、Youtubeの公式動画をご覧ください。

🎬 公式動画クレジット(Remastered)
曲名:I Saw The Light(Remastered)
アーティスト:Raspberries(ラズベリーズ)
提供元:Universal Music Group(YouTube経由)
動画公開日:2017年2月9日

📖 2行解説
エリック・カルメン率いるラズベリーズによる甘く切ないパワーポップの名曲。
リマスター版では70年代サウンドがよりクリアに蘇ります。
🎬 公式動画クレジット( 公式ライブ映像)
曲名:I Saw The Light (Live)
アーティスト:Raspberries
提供元:Omnivore Recordings(YouTubeにより自動生成)
動画公開日:2017年8月17日

📖 2行解説
1973年のオリジナル曲をライブで再演した貴重な音源。エリック・カルメンとウォリー・ブライソンの共作によるRaspberriesらしいドラマチックな展開が光ります。

目覚めを告げる“光”という象徴

曲中で繰り返される「I saw the light(光が見えた)」という言葉は、単なる情景描写ではなく、心の内側で起きた小さな革命のようなものです。宗教的な啓示ではなく、恋愛における感情の転換点や、ふとした瞬間に訪れる気づきが、この一節に凝縮されています。

何気ない日常のなかで、当たり前になっていた関係の中にある“本当の想い”に、ようやく目が向いたその瞬間。そんな内面的な変化を、このタイトルは見事に捉えています。


歌詞から浮かび上がる関係の輪郭

終わりの兆しに気づく瞬間

冒頭のフレーズでは、登場人物の関係性や感情のすれ違いが、わずかな言葉で丁寧に描かれています。

Old friends, bookends(昔なじみ、まるで本棚の両端に置かれた本立てのよう)
Solitaire for two(二人だけで楽しむソリティア)
Till she was leaving(彼女が去ろうとするまで)
I never really knew(僕は何も理解していなかった)

“bookends”という表現には、単なる静物的な意味だけでなく、関係が惰性で続いてきたこと、もしくは形だけのつながりになっていた様子が象徴的に込められています。気づかぬうちにすれ違っていた二人の姿が、静かに浮かび上がってきます。

瞳の中に映ったもの

そして続くサビで、すべてを一変させる“ひとつの瞬間”が描かれます。

When I looked in her eyes(彼女の瞳を見たとき)
I saw the light(僕は光を見た)
I realized(そのとき、気づいたんだ)

この“光”が何を意味するのかは明言されていません。それが失いかけた愛の残り火だったのか、それとも自分自身の愚かさだったのか。その曖昧さこそが、聴く人それぞれの経験と自然に重なり合い、深い共感を生み出しているのだと思います。


控えめな編成が支える深い響き

音の重なりがもたらす温度感

『I Saw The Light』は、決して派手なアレンジではありません。それでも、楽曲の核には豊かな表情があります。アコースティック・ギターがやわらかく響き、冒頭から静かな導入を生み出します。

ドラムやベースはきわめてミニマルな動きで、音数を抑えることによってボーカルの透明感が際立つ設計となっています。演奏陣が前に出過ぎず、全体をさりげなく支える役割に徹しているのも印象的です。

メロディの高揚を支える重層構造

サビに入ると、背景にふわりと広がる高音域の和音が、感情の高まりをそっと持ち上げていきます。たとえば、

It was all when I looked in her eyes
(すべては彼女の瞳を見たときだった)

というラインの直後には、音の厚みが増し、心の奥が膨らんでいくような感覚を呼び起こします。過剰な盛り上げではなく、段階的に響きを重ねることで、感情の波を自然に形作っているのです。

若きカルメンの音楽観

こうした控えめで整った構成からは、エリック・カルメンの音楽的センスがすでに確立されていたことがうかがえます。後年のソロ作品で見られるような、洗練されたサウンドデザインの萌芽がこの時点ですでに存在しており、音の“間”を大切にする美意識がはっきりと現れています。


スタジオで形作られた音の風景

即興的な構成が生む空気感

この楽曲は、完成されたデモをそのまま録音したのではなく、スタジオでの試行錯誤を通じて形になっていきました。

特に、コーラスの重ね方や和音のタイミング、ピアノの響きなどは、演奏しながら調整されていったとされており、その都度エリック・カルメンが細やかに音のバランスを調整していたことが伝えられています。

彼は、リバーブの残し方や定位の微調整にまでこだわり、音そのものの“感情的な触感”を徹底して追求していたのです。

楽曲構成に宿る物語性

反復に込められた情緒の変化

この曲の構造は、Aメロとサビを繰り返し、短いブリッジが挟まれるシンプルな形です。しかし、その中には繊細な感情の変化が丁寧に織り込まれています。

2度目のサビでは、旋律は同じでも音の入り方が変化し、感情の深まりを静かに印象づけます。さらにブリッジではコード進行に一瞬の揺らぎが差し込まれ、心の“迷い”や“ためらい”を音で描いているようです。

感情の推移を描く構造

この曲は物語を語るのではなく、感情の流れを描いています。冒頭に浮かんだ曖昧な思いは、曲を進むごとに少しずつ整理され、終盤には確信へと至ります。

I realized(僕は気づいた)
I saw the light(光を見た)

この繰り返しの中にある微妙なニュアンスの変化が、聴き手自身の経験と共鳴し、聴くたびに異なる印象を残していく――その仕組みこそが、この楽曲の静かな魅力なのです。


聴く人の心に灯る“光”

静かに届いた共鳴の波

『I Saw The Light』はシングルカットこそされなかったものの、ラズベリーズのデビュー・アルバムを聴いたリスナーのあいだで、静かな反響を呼びました。
地元のFM局などでじわじわと流れ始め、目立たないながらも確実に心に届いた1曲として知られています。

当時のファンの声には、「この曲で初めて涙を流した」「過去と向き合うきっかけになった」といった、個人的で深い共感が多く寄せられており、ヒット曲ではないながらも、リスナーの“記憶”として強く残ったことがうかがえます。

ベスト盤収録という証明

後年、ラズベリーズやエリック・カルメンのベスト盤が発売されるたびに、本作はたびたび選曲に含まれるようになります。
それは単に「代表曲だから」ではなく、“聴き手にとって忘れがたい曲”として位置づけられてきた証です。


時代と文化を越えて愛される理由

日本での再評価と親和性

1970年代後半〜80年代の“洋楽ブーム”の中で、ラズベリーズは日本でも少しずつ再評価されるようになります。
当時の若者たちは、彼らの甘くメロディアスな楽曲に独特の親しみを感じ、その中でもこの曲のような静かな作品に魅了される人が増えていきました。

テレビや雑誌で取り上げられる機会は多くなかったものの、レコード店では「隠れた名曲」として密かに紹介され、FM放送や口コミを通じてファンを増やしていったのです。

世代を超えて響くメッセージ

21世紀に入ると、SpotifyやYouTubeといった音楽配信サービスの登場によって、この曲は新しい世代にも届くようになります。
SNSでは「初めて聴いたのに懐かしい気持ちになった」「涙が出た」といった感想が投稿されるなど、時代を超えて共鳴する力があることが証明されています。

再結成後のラズベリーズのライブや、カルメン本人の再評価も相まって、この曲は“今こそ聴かれるべき作品”としてあらためて注目を集めているのです。


静かな幕開けが意味するもの

タイトルに込められた両義性

『I Saw The Light』というタイトルには、「目覚め」「啓示」といった前向きなイメージがある一方で、そこには“遅すぎた理解”や“別れ際にようやく知る想い”といった切なさも含まれています。

明るさと痛みが共存しているからこそ、この曲は聴く人の心に長く残り続けるのです。
その両義的な力が、再生するたびに違う印象を与え、聴き手の人生の節目と結びついていく――まさにそれこそが、この楽曲が長く愛されている理由だと言えるでしょう。

『I Saw The Light』(Raspberries:意訳!

古い写真のような日々、
彼女が去るその時まで、
僕は本当の気持ちに気づけなかった。

でも、瞳を見つめた瞬間、
すべてがわかった。
あの光に照らされて、
初めて心が目を覚ましたんだ。

扉を叩く音が響き、
帰るべき場所ができた。
もう迷うことも、怯えることもない。

今、君がここにいる。
それだけで十分だ。
僕はやっと“光”を見たんだ。

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