さあ、『僕の勝手なBest10:【】編』
【C&K】編の第6位は『Tabibito』です。
『なんもないのは最初から』・・・って、その通りですよね!!
欲が出るのは、何かを手にした後から・・・日々煩悩との戦いは続きます!
超約
「Tabibito」は、人生を“旅”にたとえ、出会いと別れを繰り返しながら歩み続ける姿を描いた歌です。
確かな答えや形はなくても、経験や時代の色を抱えて一人旅を続ける心情が込められています。
孤独や喪失を抱えながらも、導かれるように進んでいく“旅人”の生き様を表現しています。
まずは公式動画をご覧ください。
🎬 公式動画クレジット
C&K – Tabibito (Official Audio / Provided to YouTube)
チャンネル:C&K(登録者数 約24.3万人)
配信:© 2024 UNIVERSAL MUSIC LLC|アルバム Heart Beat 収録|リリース日:2024年5月10日
✍️ 2行解説
旅を人生のメタファーとして描き、出会いと別れを通して進む道を歌うC&Kの楽曲。
温かみのあるメロディとリリックで、歩み続けることの意味を聴く人に問いかけています。
リリース情報と基本データ
C&Kの『Tabibito』は、デジタル・シングル「Heart Beat – Single」に収められた楽曲として、2024年5月10日に配信リリースされました。レーベルはUNIVERSAL MUSIC、作詞・作曲はCLIEVY、編曲は小松一也が担当。カップリングには表題曲「Heart Beat」が収録され、同時期に放送されたNHK夜ドラ『VRおじさんの初恋』の挿入歌としても起用されました。

ドラマの主人公を演じたのは俳優・野間口徹さん。物語は現実とVRを行き来しながら“不器用な恋”を描く内容で、その空気感を支える音楽として『Tabibito』は選ばれました。C&Kがこれまで得意としてきた「会場を沸かせるライブ曲」とは一線を画し、落ち着いたテンポと抑制された響きで物語に寄り添う姿勢を示しています。
この楽曲はリリース直後からドラマ視聴者の間で注目され、「静かに心を支える歌」としてSNSでもシェアされました。C&Kのキャリアの中で“静”に振り切った曲の一つとして位置づけられます。
歌詞が描く“旅”の核心
不確実さのただ中に立つ
冒頭の〈不思議なことばかり起こるよ/経験は砂の城〉という一行は、この曲全体のトーンを決定づけています。砂の城という比喩は「せっかく積み上げたものが簡単に崩れる」という脆さを示しますが、ここで重要なのは、それを“悲劇”としてではなく“現実”として淡々と提示している点です。

過去の成功体験や経験則が、翌日には通用しない——そんな状況は現代社会では珍しくありません。AIやデジタル技術の進化で環境が急速に変化する中、「昨日までのやり方が今日も正しいとは限らない」という事実は、多くの人に実感を持って受け止められるでしょう。『Tabibito』は、その不確実さを誇張せずに描き、聴き手に「自分も同じだ」と共感させる入口を作っています。
欠如を抱えたままの歩み
続く〈なんもないのは 最初から/なんもないが 旅に出るか〉は、この曲のメッセージの中核部分です。満たされてから動き出すのではなく、不足を抱えたまま動くことに意味がある——そんな順序の逆転が提示されています。

これは「何かを成し遂げるには十分な準備が必要だ」という常識へのアンチテーゼとも言えます。実際、人生において「十分に準備が整う」瞬間はほとんど訪れません。進学、就職、独立、結婚など、あらゆる局面はどこか未完成のまま始まるものです。C&Kはそのリアルを、言葉を強調せず、自然体で差し出しています。聴く人は「自分も動いていいんだ」と肩の力を抜くことができるのです。
群衆と個の交差点
サビで歌われる〈誰も彼も路を歩く/1人の旅人〉は、集合と個が共存する構造を表しています。大勢が同じ道を歩いているように見えても、意思決定の瞬間は必ず一人きり。孤独と群れを対立的に描かず、同時に成り立つものとして提示している点が特徴です。
現代社会では、SNSやコミュニティによって「群れ」の感覚は強まる一方ですが、最終的に自分の人生を選ぶのは自分だけです。この矛盾を矛盾として描かず、自然に併置する歌詞は、聴き手に安心感すら与えます。「孤独=悪」でもなく「群れ=絶対の安心」でもない。その中間の距離感こそ、今の時代に合ったリアリティなのです。

ドラマとの結びつき
物語世界と音楽の役割
NHK夜ドラ『VRおじさんの初恋』は、現実世界とVR空間を行き来しながら、人間関係の揺らぎを描く作品です。主題歌の「Heart Beat」がドラマ全体をエモーショナルに包み込む役割を担ったのに対し、『Tabibito』は現実に足をつけた歩みを象徴するように配置されました。
劇中でこの曲が流れると、登場人物の一歩と視聴者自身の歩みが重なり合うように設計されており、音楽が単なる背景ではなく物語の一部として機能していました。
制作コメントから見える意図
CLIEVYはインタビューで「主人公の立場に立って、どんな曲が流れているかを想像した」と語っています。つまり、『Tabibito』は最初から「物語と共に響く」ことを前提に制作されたのです。単独で聴いても成立しますが、映像と重なった瞬間に別の色彩を帯びる。この二層構造こそ、C&Kの柔軟な楽曲制作の象徴です。
置いていかれる一場面
歌詞の中盤には〈バスに追いていかれた〉という描写があります。これは大事件ではなく、誰もが経験する小さな失敗です。しかし、この何気ない一場面こそが聴き手の心に残ります。人生では「計画通りに進まない」ことが頻繁に起こりますが、それを大げさに扱わず、ただ一つの風景として提示する。この控えめなリアリティが、楽曲全体に説得力を与えているのです。

歌詞引用と解釈の続き
「誰も彼も路を歩く/1人の旅人」
この一節は、集団と個人が同居する感覚を端的に示しています。人は社会の中で他者と並んで生きていきますが、決断の瞬間には必ず一人で立ち向かわなければなりません。孤独と群れを矛盾として描かず、両方を自然に共存させている点に、この歌詞の新しさがあります。
さらにこの表現は、「孤独を否定せず、群れにも安易に依存しない」という生き方を肯定します。現代社会ではSNSによって常に“誰かと一緒”という感覚が強まりがちですが、最終的には自分の足で一歩を踏み出さなければならない。この現実を押し付けがましくなく描き出している点が、『Tabibito』を普遍的な楽曲にしています。

「こんなもんか 決めつけずに/どんなもんか 知るとこから」
このフレーズは、「早く答えを決めつけるのではなく、試して確かめることから始めよう」という態度を肯定しています。迷いを抱えたまま進んでも構わないという姿勢は、日常生活のさまざまな場面に当てはまります。
たとえば転職や進学といった大きな選択は、どれだけ準備しても不安は残ります。完璧な確証がないまま一歩を踏み出すしかない。『Tabibito』はその感覚を代弁してくれるため、聴き手は「自分の迷いも肯定されている」と感じることができるのです。
「だから語れば嘘みたいで」
説明すればするほど軽く聞こえてしまう体験の重さを、この一節は鮮やかに表現しています。誰にでも「言葉にできないが確かに胸に残っている瞬間」があります。歌は、その説明できない瞬間を思い出させる媒介となり、聴き手は自分自身の人生をこの曲に重ねていきます。『Tabibito』は、語り尽くせない体験を抱えた人々に“そのままでいい”と語りかける歌なのです。

C&Kの制作姿勢との関係
“観客参加型”との対比
C&Kといえば「観客を巻き込むライブの熱量」で知られています。大合唱や手拍子で一体感を生む曲が多いのですが、『Tabibito』はその逆をいく存在です。舞台上から観客に指示を飛ばすこともなければ、サビで声を張り上げることもありません。
この曲が演奏されると、会場は静まり返り、聴衆はそれぞれの思考に沈み込みます。盛り上がりを共有するのではなく、沈黙を共有する——この雰囲気の変化自体が、C&Kの音楽性の幅を物語っています。彼らが“騒がせるための存在”にとどまらず、“聴かせる存在”でもあることを証明する瞬間なのです。

ドラマタイアップがもたらした深み
『VRおじさんの初恋』の挿入歌としての採用は、『Tabibito』の持つリアリティをいっそう強めました。CLIEVYが「主人公の立場に立って作った」と語るように、物語と音楽が相互に影響し合う関係が成立していました。
物語を補強するだけでなく、曲自体が「一歩を踏み出す生き方」を具体的に示す役割を持つ。この二重の役割を果たしたことで、『Tabibito』はタイアップ曲の枠を超えて“物語を背負った歌”として存在感を増したのです。
『Tabibito』が伝える現実的な希望
『Tabibito』は、背中を力強く押す応援歌ではありません。むしろ、迷いや不安を抱える聴き手のそばに立ち、同じ速度で歩んでくれるような歌です。
注目すべきは、この曲が“答え”を示さないことです。砂の城、乗り遅れたバス、歩く群衆といった描写は、どれも人生の断片をそのまま切り取ったもの。そこから「こうすべきだ」という結論は提示されません。その控えめさこそが、聴き手に解釈の余地を残し、人生のさまざまな局面に重ね合わせることを可能にしています。

実際、SNSやブログには「転職活動の最中に支えられた」「親しい人を失ったときに聴いて心が和らいだ」といった声が数多く寄せられています。具体的なストーリーを提示しないからこそ、聴き手一人ひとりが自分の物語を重ねることができる。『Tabibito』は、一つの物語を語るのではなく、聴き手の数だけ新しい物語を生み出す楽曲なのです。
リスナーの日常に残る余韻
生活に溶け込む歌
『Tabibito』には、派手なサビや劇的な転調はありません。そのため、強烈に印象づけるタイプの曲ではないかもしれません。しかしその素朴さこそが魅力であり、日常生活に自然に溶け込みます。通勤や帰宅の道すがら、あるいは静かな夜のひとときに耳にすれば、自分自身の歩みを見つめ直すきっかけになります。

世代を超える普遍性
この曲のテーマは、特定の世代に限定されません。若い世代にとっては「準備不足でも歩き出せる」という勇気を与え、中高年にとっては「まだ歩み続けられる」という再確認となる。人生のどの段階であっても、自分の歩みを肯定できる歌なのです。
まとめ
『Tabibito』は、C&Kの作品群の中でも異彩を放つ楽曲です。ライブの熱狂を誘うのではなく、静けさと余白の中に力を宿しています。淡々とした言葉と素朴な旋律が、人の歩みを肯定し、聴き手の日常に寄り添います。
この曲の真価は、スローガン的な力強さではなく、共感の静けさにあります。応援歌というより人生の伴走者。聴き手の数だけ物語を生み出す『Tabibito』は、これからも多くの人の記憶に残り続けるでしょう。
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