🎸僕の勝手なBest15【ビリー・ジョエル編】- 第6位『Movin’ Out (Anthony’s Song)』をご紹介!

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🎸【ビリー・ジョエル編】第6位『Movin’ Out (Anthony’s Song)』

ビリー・ジョエル編の第6位は、Movin’ Out (Anthony’s Song)』です。

本作は、生活者のリアルをたった3分強に凝縮した短編映画のようです。比喩の鋭さ、物語のテンポ、皮肉と共感のバランス——どれも極めて高い完成度です。
『The Stranger』の中でも特に「社会と個人の距離」を描いた楽曲であり、シリーズ全体の中でも物語性の多様性を担う一曲として選びました。

🎥まずはいつものように、Youtubeの公式動画をご覧ください。

🎬 公式動画クレジット(公式音源)
曲名:Movin’ Out (Anthony’s Song)
アーティスト:Billy Joel(ビリー・ジョエル)
リリース年:1977年
収録アルバム:The Stranger(ザ・ストレンジャー)
レーベル:Columbia Records / Sony Music Entertainment
作詞・作曲:Billy Joel

📖 2行解説
1977年発表のアルバム『The Stranger』収録曲で、米国中産階級の若者が都会を離れていく様を描いた社会風刺的なロックナンバー。鋭いピアノリフと語りかけるような歌唱が特徴で、ライブでも定番として演奏され続けている名曲です。
🎬 公式動画クレジット
Billy Joel – Movin’ Out (Anthony’s Song)(from Old Grey Whistle Test)
📺 1978年頃にBBCの音楽番組 Old Grey Whistle Test で収録されたライブパフォーマンス映像
© Billy Joel / Columbia Records / Sony Music Entertainment
提供:Billy Joel Official YouTube Channel(登録者数 215万人)

📖 2行解説
イギリスBBCの伝説的音楽番組で披露された、初期の貴重なライブ演奏。
鋭いピアノリフと熱量あるボーカルが、スタジオ版以上に楽曲の疾走感を際立たせています。

リリース情報と概要

1977年にリリースされたアルバム『The Stranger』に収録され、翌1978年にシングルとして発表された『Movin’ Out (Anthony’s Song)』は、全米チャート17位を記録しました。副題に“Anthony’s Song”とあるとおり、主人公アンソニーを中心に描く物語的な楽曲です。ブロードウェイ・ミュージカル『Movin’ Out』(2002年)の題名にもなり、ビリー・ジョエルの物語性を象徴する代表曲のひとつです。

物語の超約

この曲は、働きづめで郊外に家を構えるよりも、心身を壊さず暮らすことこそ大切だと気づいた若者アンソニーが、「この街を出る」と決める物語です。親世代の価値観に縛られず、自分自身の豊かさを選ぶ決意の歌でもあります。


街角の人物たちが語る“人生の分かれ道”

アンソニーと「ママ・レオーネ」

歌は、雑貨店で働くアンソニーから始まります。

Anthony works in the grocery store(アンソニーは食料品店で働いている)
Savin’ his pennies for someday(いつかのためにペニーを貯めている)

母親代わりのママ・レオーネは「田舎に引っ越しなさい」と書き置きを残します。しかしアンソニーは、過労で心臓発作になる未来を恐れています。

Ah, but workin’ too hard can give you a heart attack(でも働きすぎれば心臓発作になるさ)

警官オレアリーと終わりなき副業

次に登場するのは、昼は巡査、夜はバーテンダーとして働くサージェント・オレアリーです。

Sergeant O’Leary is walkin’ the beat(オレアリー巡査は昼はパトロール)
At night he becomes a bartender(夜はバーテンダーになる)

医療センターの向かいの食堂で働き、シボレーをキャデラックに買い替える彼の姿は、地位と見栄を象徴しています。

価値観からの離脱

最終的に語り手(=アンソニー)はこう結論づけます。

Who needs a house out in Hackensack(ハッケンサックに家なんて誰が欲しい?)
Is that all you get for your money?(それが金を稼いだ見返りなのか?)

ここに、“成功とは何か”という核心的な問いが表れます。


固有名詞がつくるリアリティ

Hackensack(ハッケンサック)

ニュージャージー州の郊外都市で、NYに通う人々のベッドタウンとして知られます。高額な住宅ローンと長距離通勤は、1970年代の典型的「成功の象徴」でした。

Sullivan Street(サリバン・ストリート)

マンハッタン南部。医療センターや食堂が並ぶエリアで、ビリー自身も若い頃に住んでいた地域です。生活と労働、病と隣り合わせの日常感が滲みます。

Uncle Sam(アンクル・サム)

米国政府を指す隠喩です。

You can pay Uncle Sam with the overtime(残業代は結局アンクル・サムに払う羽目になる)
税金に持っていかれる虚しさを、軽妙に皮肉っています。


メッセージ:脱「上方移動」への決断

当時、郊外に家を買い、車を乗り換え、昇進して収入を上げることが“成功”とされていました。しかしこの曲は、上へではなく「横へ」移動する勇気を肯定します。アンソニーは地位競争から降りることで、自分の暮らしを守る道を選びました。

この価値観は、SNSで見栄や過剰労働が称賛される現代にも通じます。「勝ち続ける」より「燃え尽きない」ことが、実は本当の意味での“成功”なのだと教えてくれます。


音楽的特徴とライブでの魅力

この曲は、跳ねるピアノと硬質なリズムでテンポよく進みます。サビで繰り返される「ack-ack-ack」は心臓発作を擬音化したユーモアであり、同時に痛烈な風刺です。終盤にはオートバイのエンジン音が入り、主人公が街を飛び出す瞬間を象徴します。

ライブでは観客の手拍子が自然に入り、ラストのエンジン音と同時に照明が走る演出が定番です。ビリーのコンサートでこの曲が人気なのは、批評性と娯楽性のバランスが絶妙だからでしょう。


価値観の転換を生んだ街と人々のリアル

イタリア系移民の家庭文化と若者たち

『Movin’ Out』に登場するアンソニーやママ・レオーネは、いずれもビリーが育ったニューヨーク郊外(ロングアイランド周辺)で実際に目にしてきた人々を投影しています。
1970年代のNYでは、イタリア系やアイルランド系移民の二世・三世が多く、「両親はブルーカラー(肉体労働)、子どもはホワイトカラーへ」という出世神話が強く信じられていました。
しかし、現実は過酷でした。郊外に家を買うために長時間労働し、税金と通勤時間に追われ、週末は疲労で倒れる。豊かになるどころか、心も体もすり減っていく人が多かったのです。

アンソニーはその真ん中にいて、“出世”という幻想と“生活”という現実の狭間でもがく若者でした。


支配的価値観に抗う決意

物語の鍵は、アンソニーが「成功の記号」を否定する場面です。

Who needs a house out in Hackensack(ハッケンサックに家なんて誰が欲しい?)
Is that all you get for your money?(それが金を稼いだ見返りなのか?)

ここには「持つこと」より「生きること」へと重心を移す価値観の転換があります。
1970年代後半、NYではガソリン価格高騰や住宅価格の上昇、犯罪増加などにより、郊外=安住の地という価値観が崩れつつありました。
アンソニーはその転換期に、「この街を出る」=“脱・上方移動”という選択をしたのです。


サージェント・オレアリーと虚栄の象徴

物語中盤に登場するオレアリー巡査は、昼は警官、夜はバーで働く副業人間です。彼はついに中古のシボレーをキャデラックに買い替えます。

この場面は単なる車の買い替えではなく、「見栄えのために無理を重ねる」象徴です。
オレアリーは社会的には成功者かもしれませんが、過労と背中の故障で運転もできないという皮肉な結末を迎えます。

And if he can’t drive with a broken back / At least he can polish the fenders(背中を壊して運転できなくても、せめて車体を磨けるさ)

これは、地位や贅沢を手に入れても心身が壊れてしまえば意味がない、という痛烈な風刺です。


ブロードウェイで再生した『Movin’ Out』

2002年、振付師トワイラ・サープは、ビリー・ジョエルの楽曲だけで構成する**ジュークボックス・ミュージカル『Movin’ Out』を制作しました。
この作品では、『Movin’ Out (Anthony’s Song)』が物語全体の導入曲として使用され、アンソニーたちの青春と挫折、戦争と帰還を描きます。セリフは一切なく、歌詞とダンスだけで進む構成は画期的でした。
ビリー本人は舞台には立ちませんでしたが、
「この曲に登場する人々の人生を舞台で完結させたかった」**と語っています。

つまりこの曲は、**単なるヒット曲ではなく、後年ビリーの物語世界全体を支える“起点”**となったのです。


まとめ

『Movin’ Out (Anthony’s Song)』は、若者が親や社会の価値観から離れ、自分自身の幸福を再定義する歌です。働きすぎの警告、身近な人物像、地名や生活感のリアルさ、そして最後に響くエンジン音——すべてが「決断」の一瞬に向かっています。
派手さではなく等身大の勇気を描いた名曲。日々の選択に迷ったとき、そっと視界を広げてくれる一曲です。

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