第4位は、【片想い】です。
第4位は、「片思い」です。
リリースは1978年。僕が大学2年生の頃です。僕はこのころ大人としての恋愛を経験することになります。
片思いではなかったものの、最終的には卒業を機に分かれてしまったので、いまでもこの曲のイメージと当時の思い出が重なってしまします。懐かしくもあり、少しセンチな気分にもなってしまいます。
超約
届かぬ恋と知りながら、心はその人を求めてしまう。
優しさだけでよかったのに、愛を望んでしまった切なさ。
もし一度だけ抱きしめられたなら、それで終わらせられたのに――。
夜明けのように静かに、忘れられない想いだけが残っている。
まずは公式動画をご覧ください。
✅ 公式動画クレジット
浜田省吾 Official YouTube Channel
🎵『片想い (ON THE ROAD "FILMS")』
Provided to YouTube by Sony Music Labels Inc.
© 1989 Sony Music Entertainment (Japan) Inc.
💬 2行解説
1989年発表のライブ映像作品『ON THE ROAD "FILMS"』からの「片想い」。
静かな情熱を秘めたバラードで、浜田省吾の繊細な歌声と映像の親密な空気感が印象的です。
次に紹介する動画は公式ではないので下の画像にリンクを張っておきます。

🎧 浜田省吾『片想い』(1978年)
この曲はアルバム『Illumination』に収録された名バラードです。
なおリンク先の動画はファンによって作成された歌詞付き映像です。
著作権への配慮のため、動画は直接埋め込まずリンク形式でご紹介します。
👉 (青の時間チャンネル)より
序章──“静かな情熱”が宿る一曲
浜田省吾の作品群には、派手さの裏に「人生の断片」を切り取るような静かな情熱が流れています。
その中でも『片想い』は、恋が実らなかったという一点に立ち止まりながら、そこから抜け出そうとする人の姿を、淡々と、そして痛切に描いた名曲です。
リリースと背景──静寂の中に光る名曲
発表時期と収録作品
『片想い』は、1978年のアルバム『Illumination』で初収録され、その後1989年のライブ映像作品『ON THE ROAD “FILMS”』でも披露されたバラードです。本作(ライブ映像作品)は、ツアー「ON THE ROAD 1988~1989」を収録した映像ドキュメントで、浜田省吾の繊細な表情や息づかいまで感じ取ることができます。
シングルカットではありませんが、ファンの間では“知る人ぞ知る失恋歌”として特別な位置を占めており、ライブでも時折リクエストに応えて歌われる名曲です。

浜田省吾の音楽における位置づけ
この曲がユニークなのは、ヒットチャートを意識した派手な構成とは無縁であることです。
ピアノとストリングスを中心としたアレンジに、彼の声が静かに乗る。
そこには、「叫ばないことで届く感情」を信じる浜田省吾の哲学が表れています。
『もうひとつの土曜日』のような普遍的ラブソングとは異なり、『片想い』は“恋の記憶を自分の内側で整理する歌”として存在しているのです。
歌の情景──忘れたいのに、まだ残る想い
「もう忘れたいよ」に込められた自己防衛
歌い出しの
「あの人のことなど もう忘れたいよ」

という一節が、この曲の全てを象徴しています。
忘れたいという言葉は、裏を返せば“まだ忘れられない”という告白。
理屈では整理がついても、心は追いつかない。浜田省吾はその心のねじれを、決して誇張せず、まるで自分に言い聞かせるような口調で歌います。
叶わぬ恋のリアリティ
続く「だって どんなに想いを寄せても 遠く叶わぬ恋なら」という言葉は、恋の行方を冷静に受け止めようとする姿勢を示しています。
多くの恋愛歌が「まだ望みを捨てない」方向に進むのに対し、この曲では最初から結末が決まっている。
それでもなお、胸の奥で消えない想いがある。その潔さが、この曲の深さです。
愛の気づきと後悔──“あの時もっと早く”
ターニングポイントの一節
「気がついた時には もう愛していた」
この短い言葉に、主人公のすべてが凝縮されています。
好きになる瞬間を覚えていない。気づいた時には、もう引き返せないほど心を奪われていた。
それは“恋のはじまり”ではなく、“恋の終わりが決まった瞬間”の告白なのです。

届かなかった言葉の痛み
「もっと早く『さよなら』言えたなら こんなに辛くはなかったのに」
この部分には、単なる後悔ではなく、“自分自身への優しさ”がにじみます。
早く離れるべきだと分かっていながら、踏み出せなかった。
それを責めるのではなく、「そうするしかなかった」と受け入れようとする――そんな成熟した痛みが、この歌を大人のラブソングにしています。
ささやかな願い──「一度だけでも抱かれたかった」
一瞬の願いが永遠になる
中盤で描かれるのは、もう叶わない恋に対しての、たった一度の願いです。
「あゝせめて一度だけでも その愛しい腕の中で」
「このまま 傍に居て 夜が明けるまで」と泣けたなら…
この“夜が明けるまで”というフレーズは、限られた時間を象徴しています。
永遠を求めるのではなく、終わりが来ることを知りながら、その瞬間だけに身を委ねたい。
浜田省吾のバラードが持つ最大の魅力は、この「期限付きの愛の切なさ」にあります。

静かな映像が見える歌
ステージでこの曲を歌う浜田省吾は、ほとんど動きません。
ただ静かにマイクを握り、淡い照明の中で目を閉じる。
その静寂の中に、聴く側はそれぞれの“誰か”を思い出す。
感情を抑えることで、逆に想いが滲み出てくる――それが『片想い』という作品の構造です。
視点の転換──街角でよみがえる過去
現在の自分と、すれ違う恋人たち
後半で舞台が変わります。
「肩寄せ歩く恋人たち すれ違う帰り道」
という描写は、もう恋を終えた人の“日常”に戻った視点を示しています。
街の風景のなかに、かつて自分が望んだ幸せの形がちらりと映る。
その瞬間、時間が巻き戻ったように記憶が疼くのです。

寂しさを「風」として描く詩の巧みさ
「寂しさ風のように いやされぬ心を もて遊ぶ」
という比喩も秀逸です。
浜田省吾は、感情を説明するのではなく、自然現象に置き換えることで普遍性を生み出します。
風は見えない。触れられない。けれど確かに感じる。
恋の終わりも同じです。形はなくても、確かにそこに吹いていた。
愛を求めた「片想い」──終わりの中に残る温度
知っていたのに、心が動いてしまった
物語の終盤では、主人公がようやく真実を口にします。
「あの人の微笑み やさしさだけだと 知っていたのに」
この一節は、恋の出発点が“誤解”ではなかったことを示しています。
相手は特別な言葉をかけたわけでもなく、ただ優しかっただけ。
それを「愛」と取り違えたのは、自分の心がすでに求めていたから。
浜田省吾の歌は、ここで“人間の弱さ”を責めることをしません。
むしろ「そう感じてしまうほど孤独だったのだ」と、温かく見つめています。

「それだけでいいはずなのに」という矛盾
「それだけでいいはずなのに」という言葉が、この歌の最も人間的な部分です。
“ただ優しさを感じられたら、それで十分”――そう思っていたのに、
いつの間にか「もっと近くにいたい」「触れたい」と願ってしまう。
この矛盾こそが、恋の根源です。
浜田省吾はその矛盾を解消しようとせず、“誰もが抱える不完全な愛の形”として描き切ります。
浜田省吾が描く「愛のリアリティ」
優しさは時に残酷である
『片想い』のもうひとつの深さは、優しさそのものが時に刃になるという点です。
相手の優しさが、自分への特別な想いではないと気づいた瞬間――
心に残るのは怒りではなく、むしろ静かな無力感です。
「悪いのは誰でもない」という構図がこの歌を悲劇ではなく、“人生の一場面”として成立させています。
「求めたのは愛ではなく救い」
最後のフレーズで示される「愛を求めた片想い」という言葉には、恋愛の形を超えた「癒しへの願い」が含まれています。
つまりこの歌は、単なる失恋ソングではありません。
自分の心の中にあった“誰かに触れてほしかった孤独”を描いた作品です。
浜田省吾のバラードの多くは、外へ向かう愛よりも、“内へ戻る優しさ”を探す旅のような構成になっています。『片想い』はその代表例といえるでしょう。

同時代の作品と比較して見えること
『もうひとつの土曜日』との対照
『片想い』と最もよく比較されるのが『もうひとつの土曜日』です。
どちらも失恋をテーマにしていますが、前者が「終わった恋を受け入れる物語」なのに対し、『片想い』は「終わる前から終わっていた恋」です。
“始まることのなかった関係”を歌う点で、より内省的であり、聴き手自身の過去と自然に重なっていくよう設計されています。
聴く人の数だけ“誰か”がいる
この曲が長く愛される理由は、誰もが心に「片想いの記憶」を持っているからです。
それは学生時代の淡い憧れかもしれないし、大人になってからの叶わぬ想いかもしれない。
浜田省吾は“個人の物語”を描きながら、そこに普遍性を宿すことに成功しています。
終章──“忘れたい”と“忘れられない”のあいだで
『片想い』というタイトルは、単なる恋の片側を指しているのではありません。
それは、「心の片側がまだ誰かを向いている」状態を示しています。
つまり、もう半分は前を向こうとしている。
その矛盾を受け入れながら歩く姿こそ、浜田省吾が描く“生きる人間”です。
聴き終えたあとに残るのは、痛みではなく、静かな感謝。
「誰かを想った時間が確かにあった」という事実だけが、少し温かく胸に残る――それが『片想い』という歌の真価です。

※歌詞引用部分は、浜田省吾『片想い』(Sony Music Labels Inc.)より引用。
  
  
  
  
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