LOVE PSYCHEDELICO(ラブ・サイケデリコ)の25年の歴史!
第4位『Might Fall In Love』をご紹介!
LOVE PSYCHEDELICOの名曲を巡る「僕の勝手なBest10」、いよいよランキングも最終コーナー直前まで来ました。第4位に選出したのは、2004年リリースの3rdアルバム『LOVE PSYCHEDELICO III』に収録されている『Might Fall In Love』です。
この曲は、MVを是非観ながら聞いてください。それぞれの解釈でよいと思いますが、歌詞の内容は意識せずに、僕は見てるだけで泣けてきましたね。悲しいのではなく、逆に胸が熱くなる感じの”涙”。
🎥まずはいつものように、Youtubeの公式動画をご覧ください。
🎬 公式動画クレジット(公式音源)
アーティスト:LOVE PSYCHEDELICO
曲名:Might Fall In Love
リリース:2004年『LOVE PSYCHEDELICO III』収録
配信元:Victor Entertainment / LOVE PSYCHEDELICO Official YouTube Channel
公開日:2020年6月3日(YouTube公式動画)
📖 2行解説
『LOVE PSYCHEDELICO III』収録の人気曲で、アコースティックな温かみと都会的な洗練を兼ね備えたナンバー。公式MVはシンプルながらも音の広がりを際立たせ、デリコらしい世界観を映像化しています。
バンドとしてさらなる円熟と深化
1st、2ndアルバムで見せた鮮烈なデビューの勢いをそのままに、バンドとしてさらなる円熟と深化を遂げた時期に生み出されたこの楽曲。派手なシングルカット曲ではありませんが、聴く者の心の柔らかな部分に、じんわりと、しかし確実に染み込んでくるような不思議な力を持っています。
この曲が描き出すのは、きらびやかな恋愛のワンシーンではありません。むしろ、その手前にある、どうしようもない孤独感と、だからこそ切実に求めてしまう誰かの温もり。今回は、そんな人間の根源的な感情の揺らぎを、歌詞の言葉一つひとつを丁寧に読み解きながら、皆さんと一緒に味わっていきたいと思います。

この曲を支配する「孤独」という名の夜
LOVE PSYCHEDELICOの楽曲には、夜を舞台にしたものが数多く存在しますが、この『Might Fall In Love』で描かれる夜は、特に深く、そして静かです。それは、パーティーの喧騒が過ぎ去った後、あるいは眠りにつけないまま一人で朝を待つ時のような、濃密な「孤独」の気配に満ちています。

「会えない日の let it be」- 強がりの裏に滲む本音
この物語は、どこか諦めに似た静かな独白から始まります。
会えない日の let it be
踊って夜毎 weep
「let it be」というフレーズは、ビートルズの有名な楽曲タイトルを引くまでもなく、「あるがままに」「仕方ないさ」といった、状況を受け入れるニュアンスを持つ言葉です。会えない日々が続いている。でも、それはもうどうしようもないことなのだと、主人公は自分自身に言い聞かせているかのようです。

しかし、その直後に続く「踊って夜毎 weep (泣く)」という言葉が、その強がりをいとも簡単に見透かしてしまいます。平気なふりをして日常をこなし、夜になれば一人、その寂しさに涙している。このAメロのわずか2行だけで、主人公が抱える心の乾きと、その裏腹な態度のいじらしさが見事に描き出されています。ここには、単純な失恋の歌とは異なる、もっと構造的で、出口の見えない孤独感が漂っています。
「Don’t wanna feel alone」- 魂からの根源的な叫び
そして、この楽曲の核心を突くのが、サビで何度も繰り返されるこのフレーズです。
Don’t wanna feel alone, alone
「独りだと感じたくない」。これ以上ないほどストレートで、飾り気のない言葉です。しかし、KUMIの少し気だるさを帯びた声でこのフレーズが繰り返される時、それは単なる「寂しい」という感情を超えて、人間の魂からの根源的な叫びのように響きます。
面白いのは、この「lonely」ではなく「alone」という単語の選択です。「lonely」が「寂しい」という内面的な感情を表すのに対し、「alone」は「一人きりである」という物理的な状態を示します。つまり主人公は、「寂しいという感情が嫌だ」と歌う以前に、「物理的に一人でいる、この状況そのものが耐え難い」と訴えているのです。これは、より切実で、フィジカルな感覚を伴う孤独の表明と言えるでしょう。

「I hate that I miss you」- 恋しさを憎むという矛盾
ラブソングにおいて、相手を恋しく思う気持ちは、通常、美しく、肯定的に描かれるものです。しかし、この曲の主人公は、その感情に対して驚くべき言葉を口にします。
弱さの証明としての「miss you」
I hate that I miss you
直訳すれば、「君を恋しく思う、そんな自分が嫌いだ」。これは、極めて複雑で、屈折した感情の表出です。なぜ、主人公は「恋しい」という感情を「憎む」のでしょうか。
ここから透けて見えるのは、彼女(彼)の強いプライドと、それ故の脆さです。誰かを「恋しい」と思ってしまうことは、すなわち、自分一人の力では心が満たされない、不完全な存在であることを認めることに繋がります。その「弱さ」を、主人公は許すことができないのです。
「あなたがいなくても私は平気」。そうありたいと願っているのに、心の奥底から湧き上がってくる「会いたい」という気持ちを抑えられない。その自分自身のコントロールの効かなさ、意のままにならない感情への苛立ちが、「I hate」という強い拒絶の言葉になっているのではないでしょうか。
このアンビバレント(両価的)な感情の吐露こそが、この楽曲に驚くほどのリアリティを与えています。私たちは、恋愛において常に素直でいられるわけではありません。好きだからこそ相手を突き放してしまったり、会いたいのに会えないふりをしてしまったりする。そんな人間の不器用で、愛おしい矛盾を、この一文は見事に切り取っているのです。

孤独の夜の処方箋 – 「Cover me tight」に込めた願い
これまで見てきたように、この曲の主人公は、どうしようもない孤独感と、素直になれない自身のプライドとの間で引き裂かれています。そんな複雑な心の状態に対する処方箋として、彼女(彼)が求めるのは、驚くほどシンプルで、フィジカルなものでした。
精神(マインド)ではなく、身体(ボディ)で求める救い
あれこれと考え、心をこじらせてしまった主人公が、サビで繰り返し口にするのは、理屈抜きのシンプルな願いです。
Cover me tight
If you don’t mind hold me tight
「きつく私を包んで」「もしよかったら、きつく抱きしめて」。
分析した「Don’t wanna feel alone(物理的に一人でいたくない)」という叫びに対する、これ以上ないほど直接的なアンサーです。

もう、言葉はいらない。小難しい理屈も、愛の駆け引きも必要ない。ただ、あなたの腕の中で、その温もりを感じることで、この凍てついた心を溶かしてほしい。そこには、思考がもたらす苦悩から逃れ、身体的な感覚にすべてを委ねてしまいたいという、切実な渇望が表れています。
それを裏付けるのが、この一節です。
君のその胸で溶かしてよ my mind
注目すべきは、「my heart」ではなく「my mind」を溶かしてほしいと歌っている点です。「心(heart)」ではなく「思考・理性(mind)」を溶かす。これは、考えすぎてがんじがらめになった頭の中を、あなたの体温という絶対的な熱量で、一度空っぽにしてほしいという願いに他なりません。
人間が極限の孤独に陥った時、最終的に救いを求めるのは、理屈ではなく、人肌の温もりなのだという真理を、この短いフレーズは的確に射抜いています。

「抱き合うより cheek to cheek」が示す絶妙な距離感
主人公が求めるのは、単に性急な身体の結びつきだけではありません。そこに、この曲ならではの繊細なニュアンスを加えているのが、この言葉選びの妙です。
愛なんて夢の leak
誘いから触れて seek
抱き合うより cheek to cheek
「愛なんて、所詮は夢がこぼれ出るようなものだ」と、どこかシニカルに呟きながらも、「それでもあなたに触れることから何かを探したい」と願う。そして、その触れ合いの形として提示されるのが、「抱き合うより cheek to cheek(頬と頬を寄せ合う)」なのです。

全身で激しく抱き合うという行為よりも、もっと限定的で、静かで、しかし親密な「cheek to cheek」。そこには、相手の呼吸や、肌の質感、微かな匂いといった、よりパーソナルな感覚を確かめたいという心理が働いています。それは、孤独を埋めるための刹那的な行為の中にも、確かな「体温」と「存在」を感じ取りたいという、主人公の繊細な心の表れと言えるでしょう。この絶妙な距離感の指定が、この楽曲の持つ独特の湿度と体温を生み出しているのです。
「今夜、恋に落ちるかもしれない」- 曖昧さの中に灯る希望
この楽曲のタイトルであり、物語を貫く重要なキーワードが Might fall in love です。このフレーズが持つ「曖昧さ」こそが、この曲のリアリティの源泉となっています。
“Might” が持つ、か弱くも美しい可能性
I might fall in love tonight
(今夜、恋に落ちるかもしれない)
ここで使われている助動詞 “Might” は、”May” よりもさらに可能性が低い、不確かな推量を表します。つまり、「恋に落ちるだろう」という確信や、「恋に落ちたい」という強い意志表示ですらありません。そこにあるのは、「もしかしたら、そうなれたらいいな」という、か細く、ほとんど期待に近い願望です。

この不確かさが、極めてリアルです。主人公は、目の前にいる相手と本気の恋をしようと決めているわけではない。ただ、このどうしようもない孤独を埋めてくれるのなら、その結果として恋に落ちることになるかもしれない。そんな、成り行きに身を任せるような危うさと、それでも微かな光を信じたいという純粋さが同居しています。この「Might」という一語に、大人の恋愛が内包する打算と希望のすべてが凝縮されていると言っても、過言ではないでしょう。

自分自身への言い訳としての「愛」と「嘘」
この恋の不確かさは、主人公自身が最もよく理解しています。だからこそ、彼女(彼)は自分に言い訳をするように、こう呟きます。
少しだけならいいさ love
(後の歌詞では)
まだ譲れない way I am
少しだけならいいさ lie
「本気の愛じゃなくても、少しだけならいい」「本当の自分はまだ譲れないけど、少しだけなら嘘をついてもいい」。
この関係が、完全な真実の愛ではないかもしれないという自覚。そして、この孤独から逃れるためならば、一時的な「嘘」も厭わないという、一種の割り切り。それが人間なんです。(That’s what humans are!!)

これは、現代を生きる私たちの心象風景そのものではないでしょうか。傷つくことを恐れるあまり、100%の自分をさらけ出すことができない。それでも、人との繋がりを求めずにはいられない。そんな矛盾を抱えながら、私たちは「少しだけなら」と自分に言い聞かせ、不器用な一歩を踏み出すのです。この楽曲は、そんな現代人の心の機微を、優しく掬い取って見せてくれます。
まとめ – なぜこの曲が心に深く刺さるのか
この曲は、彼らの代名詞である乾いたギターサウンドや、サイケデリックな浮遊感とは少し趣が異なり、この曲には都会の夜の湿った空気と、人肌の生々しい温度感が充満しています。それは、人間の誰もが心の奥底に抱えている「孤独」という名の痛みと、そこから逃れたいと願う「弱さ」を、一切ごまかすことなく、ありのままに描いているからでしょう。

完璧な人間なんてどこにもいない。誰もが矛盾を抱え、プライドと寂しさの間で揺れ動き、時には自分に小さな嘘をつきながら、それでも誰かの温もりを求めて生きている。『Might Fall In Love』は、そんな不器用で、だからこそ愛おしい私たちの姿を、美しいメロディに乗せて肯定してくれる、極めて誠実な一曲です。
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